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祐樹の決意 1

 祐樹が買い物からライト兄弟宅へ戻ると、梨奈が飛行機の仕組みをウィルから教えてもらっていた。梨奈ははにかんだ笑みを浮かべる。

「ねっ、祐樹。私達はライト兄弟の助手。仕組みくらい知らなきゃね。それエチケットかも。雑巾がけだけじゃ助手の名がすたるってね」

 ウィルが設計図を片手に穏やかに笑う。

「梨奈。僕達の実験はまだ公式には認められていない。騒動も続いてる。肩肘張る必要なんてないさ」

 梨奈は大きく両手を広げて、体を天真爛漫に一回転させる。

「実際、飛んだじゃないですか。私この目で見ましたよ。しっかりと。ウィルさん達が一番。人類で初めて! 空を飛んだんですよ。それは確実です。ね、祐樹」

 祐樹は明るい梨奈の姿を見て少しだけ緊張が解れる。ふっと祐樹はゆるんだ笑顔を見せる。

「一番。一番だよね。間違いなく。うん、そうだ」

 梨奈は祐樹のぎこちない物言いを不思議がって笑う。

「何? どうしたの? 祐樹」

「ううん。なんでもない」

 祐樹は瞼を閉じて首を横に振った。

「……そう」

 梨奈は祐樹の様子を特段気にしないようにして、あどけない表情を浮かべる。そして梨奈とウィルと、二人と一緒に祐樹は、買い物籠を持ってキッチンへ向かった。

 すると顔が油まみれになったオービルが居間に駆け込んでくる。ウィルがオービルの興奮振りを見て呆気に取られる。

「どうした。オービル」

「兄さん! 祐樹! 梨奈! もっといい翼のアイデアを閃いたぞ! これで大幅に飛行距離を伸ばせる!」

 ウィルは顔をほころばせて、諸手をあげてオービルのもとへ向かう。

「詳しく聞かせてくれ」

 ウィルを手招いたオービルは紙に図式を書き連ねていく。

「いいかい? これまで俺達は……」

 そうしてウィルとオービルは、シミュレーションに夢中になっていく。するとそこへキャザリンがやってくる。キャザリンは祐樹を心地よく出迎える。ウィルとオービルの熱気にも気づいたらしい。

「お帰り。祐樹。兄さん達、二人とも興奮してるみたいね。昔からそうだった」

 梨奈がキャザリンの話を聞いて、笑顔を見せる。キャザリンはウィルとオービルの姿を見て微笑ましげだ。そして彼女は気分を入れ替えると、少し袖を捲る。

「さて、祐樹、梨奈。晩御飯の下ごしらえするから手伝ってくれる?」

 梨奈と祐樹は元気良く応える。

「はい、キャザリンさん」

 祐樹はライト兄弟一家の家族になったような気分がしていた。それはとても穏やかでゆったりとしていた。祐樹はこの幸せが束の間であるのを知りながらも、こんな幸せな時間がずっと続くように願っていた。


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