暗転 2
祐樹がよろめきながら辿り着いたビルの隙間、陽差しがさえぎられた路地裏で、ガトゥは快く祐樹を出迎えた。
ガトゥは、祐樹がトパーズの取材を、無事乗り切ったことに満足していた。これで紫紺の羽根団の計画も止められる。そうガトゥは楽観しているようだった。
祐樹は、ダデュカ達が襲ってきたことについては何も話さなかった。まるで祐樹は、親に暴力されているのを打ち明けない子供のようだった。
ガトゥはひとしきり今後の駆け引きを予測した。彼の頭の回転は早く、次の手、次の手を考えていた。トパーズの記事、ライト兄弟の再実験など。
するとガトゥは話の最中、ふと祐樹の左頬のかすり傷に気づいた。ガトゥはその傷跡だけで何が起こったのか、理解したようだった。晴れやかだったガトゥの顔に陰が滲む。
「奴らが来たのか?」
祐樹は口を閉ざす。祐樹は紫紺の羽根団はもちろん、ガトゥをも完全には信頼していなかったからだ。どちらも手際よく自分を利用している。祐樹にはそう思えてならなかった。
祐樹が多少なりとも、ガトゥに肩入れしていたのは、ライト兄弟への愛着があったからだ。ライト兄弟への思いが祐樹のスタンスを決めていた。ガトゥは祐樹の肩を揺らして、もう一度尋ねる。
「奴らが来たんだな」
祐樹は本心を打ち明けないつもりでいた。口をつぐみ、黙り込む。ガトゥは冷静に振舞う。
「ダデュカとレリュ。彼らから、『私達』の住む未来社会について聞いているだろう。私の言葉との違いにも気付いているはずだ」
ガトゥは祐樹に何ら強制するつもりはなさそうだった。余裕をもってガトゥは祐樹に選択権を与える。
「祐樹。君には選ぶ権利がある。どちらに協力するかは君次第だ。君には自由がある。強制も、拘束もしない」
祐樹はガトゥの勧めも100%信用はしなかった。ガトゥも紫紺の羽根団と同じ。「自分」の理想を守るためには祐樹一人くらい死んでも構わない。そう考えているはず。祐樹はそう推し量ると、事実だけを並べる。
「ウィルさんとオービルさんがしっかりと評価されて欲しい。それが俺の望みです」
祐樹は、自分にタイムワープの能力が身につきつつある余裕からか、こうも付け加える。
「でも俺はどう動くか分からない。ダデュカ、レリュは梨奈を人質に取っている。展開次第では、俺は誰につくか分からない。それが本音です」
ガトゥは少し祐樹に同情する素振りを見せる。それなのに彼の人間味は厚いヴェールで覆われていた。ガトゥは祐樹を諭すようにこう口にする。




