告発文書 1
告発文書を書く祐樹にとって、何よりも難しかったのは、ラングレーが、偽論文のどこを見てライト兄弟を批判するようになったのかを把握することだった。
ガトゥは適切なアドバイスをして、祐樹の理解を進めていく。祐樹も徐々に文の流れを掴んでいく。
時間は瞬く間に過ぎて、告発文書は仕上がりを見せて行く。
ガトゥと祐樹には不思議な連帯感が芽生えていた。ガトゥが励ましの言葉をかける。
「あと少しだ。分かりやすい文章であれば、中身を魅力的にする必要はない。人々の心を動かすのは事実だけなのだから」
祐樹のキーを叩く指先はスピードを増していく。祐樹の胸は高ぶり、ガトゥと紫紺の羽根団、どちらが正しいかなどすっかり考えなくなっていた。
事実、祐樹はこの告発文がどんな歴史を作るのか思いもしなかったのだ。
やがて2時間余りも経過した頃だろうか、いよいよ告発文は最後の段落に辿り着く。祐樹はラストの文章をタイプする。
(以上、ラングレー教授の過ちをここに指摘するものとする)
文字を最後まで打ち終えると、祐樹の体から力が抜けていく。実際、祐樹自身これほど頭を使ったことはなかった。この時点では、祐樹は告発文が歴史にどう影響するかも分からなかったし、考えもしなかった。
だがこの「計画」に賭けてみよう。祐樹はそう思っていた。それがライト兄弟の助けにもなるとも考えていた。
今は物事の善悪を考えている時ではない。ライト兄弟を救わなければならない。そう考えると祐樹は目の前の「やるべき事」に集中するしかなかった。
祐樹は腰を屈め、目頭を両手で覆うと俯く。ガトゥは文章を早速印刷し添削を始める。
ガトゥは、祐樹がつまずいた部分も淀みなく読み進めていく。ガトゥの添削は簡単に済んだようだった。彼は祐樹の肩を叩く。
「上出来だ。後は記者達の質問に答えられるようにするだけだ。何、この短時間で告発文を書き終えたんだ。決して無理な話じゃない」
ガトゥは一部、コピーを祐樹に手渡す。
「新聞各社には私が送っておこう。緻密な闘いになる。私達が勝利すると信じているよ。それじゃあ……」
そう最後に一言呟くと、ガトゥは祐樹の肩に触れる。すると「風が振れた」。白い円形の広間は、祐樹の視界から遠のき、やがて祐樹は郵便局の裏道に戻っていた。




