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ラングレーへの手紙 3

 ガトゥは時間を一時も無駄にせず、すぐに次の行動に移る。一言、祐樹に「君の助けが必要だ」と伝えると祐樹の肩に触れる。そして名も知れぬ工場から瞬く間にタイムワープした。

 次の瞬間には祐樹は、円形の白い部屋に連れて行かれていた。部屋の中央には小さな円卓があり、タッチセンサーのキーボードがあった。ガトゥは円卓に祐樹を案内し、計画を手短に話す。

「ラングレーはライト兄弟からの報告書、そして君が忍ばせた偽論文を手にすると、メディアに向けてライト兄弟への批判を行う」

 ガトゥは、祐樹が忍ばせた2枚の偽論文のせいで、何が起こるのかをすでに把握しているようだった。ガトゥは円卓の前の椅子に軽く触れる。

「それはライト兄弟への敵愾心から来るものではない。学者としての良心から来るものだ」

 ガトゥにラングレーを責め立てる様子はない。むしろラングレーの心情を慮っているようだった。ガトゥは口元に手をあてがう。

「ただその根拠となる論文が偽物なのだから、彼は過ちを犯すことになる」

 祐樹はガトゥの話についていくのが精一杯だ。ガトゥはポイントを整理する。

「祐樹、君の役目はこうだ。君には、これからラングレーを告発する文書を各新聞社に送ってもらう」

 祐樹にはそれが重大なことだというのが直ぐに分かった。口元を軽く左手で拭う祐樹に、ガトゥは計画の意味を伝える。

「君が、ラングレーはライト兄弟を貶めようとしていると各新聞社に告げる。それだけで問題は解決する。未来への影響は最小限に押し留められるだろう」

 だが祐樹は少し戸惑う。「ラングレーを告発する文書」。その中身に全く見当がつかなかったからだ。祐樹はガトゥに訊く。

「どんな中身なんですか? 俺が忍ばせた偽論文は難しすぎました。どうすればラングレーさんを告発出来るんですか?」

 ガトゥは円卓の引き出しから、紫紺の羽根団が、祐樹に手渡した2枚の偽論文のコピーと、新聞の切り抜きを取り出す。

 紙面にはライト兄弟を批判するラングレー教授の記事が載っている。ガトゥは、偽論文のコピーと新聞の切り抜きを円卓に広げる。

「君にはこの二つがあれば十分だ」

 ガトゥの要求はシンプルだ。

「君は2枚の偽論文と、ラングレー教授のライト兄弟を批判する記事。この二つの文章の文の流れを掴むだけでいい」

 ガトゥは、これから祐樹が踏み出すチャレンジを前にして、笑みを浮かべる。その笑みにはガトゥに快心の思いが託されていた。

「君は、紫紺の羽根団が仕掛けた大スキャンダルを覆すんだ。ラングレーを告発する文書を書くのに自信がなければ私が手伝おう」

 ガトゥは、祐樹が物怖じせず、計画の大きさを前に怯まないように、祐樹の背中を軽く押す。

「大切なのは告発者が君自身であるのを自覚することだ。記者からは何度も告発文書の中身について確かめられるだろう」

 祐樹は気持ちを何とか鎮めて、落ち着かせようとする。それでもガトゥの要求は留まらない。

「その度に君は筋道だって答えなければならない。匿名を用いれば、表舞台に立つ必要はない」

 祐樹は、ガトゥの要求の精緻さを前にして息を飲む。ここまで来れば、ガトゥの求めるところは明らかだ。彼は祐樹に勧める。

「だが記者の質問に答えられるほどの知識は必要だ。さぁ執筆を始めよう」

 祐樹はガトゥに促されて椅子に座る。祐樹はガトゥに訊く。

「モニターは?」

 ガトゥが円卓のセンサーに触れるとモニターが現れる。祐樹もワードくらいは扱える。ガトゥは両目を大きく見開く。

「さぁ、行こうか」

 ガトゥのその一言で、祐樹は一度深呼吸をすると文章を書き始める。書き出しはこうだった。

(近い内にラングレー教授が起こすであろう過ちについて)

 祐樹とガトゥは頭を突き合わせて、文章を書き連ねていった。


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