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ラングレーへの手紙 2

 翌朝、ウィルはラングレー宛ての封筒を祐樹に手渡した。封筒を郵便局から送って欲しいという。

 祐樹はウィルの信頼が胸に痛かった。自分はウィルとオービルを貶める計画に加わっている。それなのに、ウィルは祐樹を信じている。

 その事実は祐樹の胸を締め付けた。

 ガトゥとコンタクト出来れば、きっと紫紺の羽根団の計画を止められる。祐樹は胸の奥でそう叫んでいた。

 祐樹はウィルから借りた自転車に乗り、郵便局へ急ぐ。デイトンの街は少し都市化が進むとともに、適度に田舎町の風景が残っている。

 祐樹は彩り鮮やかなデイトンの街の風景に身を委ねながら、辛い思いを抱いていた。

 もしライト兄弟が、自分のせいで科学界から追放されるとしたら。その時、自分はどんな顔をすればいいのだろう。

 素知らぬ顔で、彼らの悲しげな横顔を見届けるだけだろうか。ひとごとのように笑って彼らを軽く励ますだけだろうか。そう思うと祐樹は胸が締め付けられた。

 体を撫でていく風とデイトンの美しい街並みが、祐樹の心と対称を成していた。

 郵便局に着くと祐樹は配送の手続きを済ませる。局員が手続きをしている間も祐樹の心は晴れない。

 自分はウィルとオービルの体を傷つけるよりも、彼らを酷い目に遭わせようとしているのではいか。祐樹はそうも感じていた。

 祐樹は受領証を受け取ると郵便局を出る。出来るならば、早く次の手を打ちたいと、祐樹は考えていた。

 祐樹は裏通りの小道にとめていた自転車に跨る。するとその瞬間、「風が振れた」。

 郵便局とデイトン市ののどかな景色は遠ざかっていく。

 誰かが祐樹を連れてタイムワープをしたのが、祐樹には分かった。

 その「誰か」、人物は工場の跡地、時代はいつか分からない場所に祐樹を運んだ。同時に「彼」は勢い良く祐樹の胸ぐらを捕まえ、工場の壁に祐樹を押しつける。

 祐樹を壁に押しつけた人物。それはガトゥだった。彼は凄まじい形相をしている。

 祐樹はすぐにガトゥが事態を把握したのだと分かった。ガトゥの感情は鎮まらない。唸るような声で祐樹に言う。

「軽率に過ぎたな。お前のせいで新たなトラブルが生まれたぞ」

「ガトゥさん!」

 祐樹は叫ぶがガトゥは聞き入れない。

「放っておけば未来は大きく変わる。手伝え。紫紺の羽根団とどんな交渉をしたか知らないが、君は私に従う。そう約束したはずだ」

 祐樹は本当のことをガトゥに告げようとした。祐樹は喉を抑えられながらも声を挙げる。

「ガトゥさん、俺の言うことも聞いてください! 俺は言いなりになったわけじゃない。俺はガトゥさんを待ってたんですよ!」

 ガトゥは祐樹の手を捻る。

「ふざけるな。弁解がましいぞ。お前のせいでライト兄弟の業績が潰された歴史が作られた」

「だから俺は!」

 そう叫ぶ祐樹の言葉にもガトゥは耳を傾けようともしない。

「お前は歴史のキーパーソンになった自覚がないのか。慎重にも慎重を期すべきだった。彼らの言う事を聴くべきではなかった」

 ガトゥは厳しい顔つきで続ける。

「これで君には大きな責任が生じた。歴史の再修正に協力してもらうぞ」

 祐樹は喉を詰まらせながら返事をする。

「もちろんそのつもりですよ!」

 ガトゥは、激しく力のかかった右腕を祐樹の胸ぐらから離す。

「聞こう。事情は当然汲み取るべき要素があるんだろうな」

 祐樹は慎重に言葉を選んで答える。

「そう信じてますよ」

 祐樹は乱れた襟元を整えると、いきさつを話す。祐樹は、自分が紫紺の羽根団の言いなりになったのではないと伝える。

 祐樹の話の間中、ガトゥは鋭い視線を祐樹に投げ掛けながら黙って聞いていた。祐樹は慎重に話を進めて、自分の意思を伝え終えた。

 ガトゥはしばらく人指し指を口元にあてて、黙って考えている。

「分かった。君を信じよう。私を騙す理由など君には何一つないのだから。大切なのはどう彼らに抵抗するかだ」

 ガトゥはそう言うと、次の手段を考え始める。

 もちろん祐樹はガトゥに協力するつもりだった。祐樹はこの時点では、歴史を真っ直ぐに進めるガトゥが正しいと判断したのだ。

 工場に吹き込む熱を帯びた風のように、状況は大きく変わろうとしていた。

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