紫紺の羽根団の指示 1
翌朝から早速、ウィルとオービルは、ラングレーへの手紙を本格的に書き始めた。手紙の中身は、祐樹達には難しすぎて分からないところだらけだった。だが彼らの文章は論文風ではなく、ロマンに溢れた詩のようだった。
ウィルとオービルが読み上げる手紙に、祐樹と梨奈は聞き惚れていた。
するとキャザリンが祐樹と梨奈を呼びつける。キャザリンは二人を洗濯場に連れて行くと腰に両手をあてて、大声で笑う。
「約束、覚えてるわね。一緒に洗いましょう!」
約束は約束だった。これも助手の仕事だ。祐樹はそう気持ちを切り替えて洗濯を始める。梨奈もそれを手伝う。
キャザリンは二人の様子に満足そうだ。水洗いを一通り終えて、洗濯物を干そうとした時、キャザリンは祐樹にこう頼んだ。
「そうだ。祐樹君。ウィルとオービルに、紅茶とお茶菓子を用意してくれない? 食器類は昨日の夜、話した通りよ」
「分かりました。キャザリンさん」
祐樹はそう元気よく応えると、早速キッチンに行き、ティーセットを用意する。祐樹も信頼されているらしい。出逢って二日も経たないのに台所仕事を任されるとは。
のどかな時間が過ぎて行き、お湯が沸いた。祐樹は熱湯をティーカップに注ぎ込む。だがその次の瞬間、風が激しく「振れた」。
祐樹は穏やかな「ライト兄弟の揺り籠」から切り離され、過酷な現実へと引き戻される。ライ兄弟宅のキッチンは瞬く間に遠のいていく。
タイムワープで祐樹は、どの時間へ、どの場所へ連れて行かれたのかは分からない。祐樹は誰かの右手で口を塞がれ、左手で目を覆われている。
その両手がゆっくり離れると祐樹は辺りを見回した。
そこは夜の街を駆け抜けるリニアモーターカーの中だった。目の前の座席にはダデュカが座り、レリュが、おそらく祐樹をタイムワープさせたであろうレリュがその傍に立っている。
祐樹達のいる車両には他に誰も乗っていなかった。ダデュカは口元で指を組み合わせ、祐樹を見つめる。
ダデュカは祐樹の立場をはっきりさせようとしているらしい。ダデュカは尋ねる。
「で、意思は固まったかね」
紫紺の羽根団。そしてガトゥ。両者を立てる方法を祐樹は探っていた。そして一つの作戦を祐樹は見つけていた。それは表向きだけは紫紺の羽根団に従う。そういうシンプルなものだった。祐樹は手すりにつかまり、体を起こす。
「もちろん」
リニアモーターカー内に吹き込む風とともに、事態は大きく進もうとしていた。




