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束の間の休息 2

 寝室はキャザリンの勧めで灯はもう消えていた。梨奈はベッドに仰向けになると祐樹に訊く。

「ねぇ、祐樹。これからどうする?」

「どうするって……」

 祐樹は答えに詰まった。この状況から抜け出す手立てなど祐樹には思い当たらなかったからだ。

 加えて二人は、紫紺の羽根団とガトゥの監視下にある。下手には動けない。そう考えると祐樹は安易に答えなど出せなかった。

 一度神経質に爪を噛み、思い詰める祐樹を横目に梨奈は、両腕を精一杯に広げる。梨奈は一日の感想をのんびりと零す。

「何だか祐樹がライト兄弟に憧れる理由が分かった気がした。素敵よねー。二人とも」

「うん」

 気持ちが「現実」に戻った祐樹が、辛うじてそう応えると、梨奈は、祐樹の気持ちなどまるで眼中にない様子で、夢見心地にベッドを転がる。

「何か元の世界に戻らなくても、ここで普通に暮らしてもいいかなー、なんて思っちゃった」

 祐樹は、梨奈の気持ちも分からないではなかったので、黙って聴いていた。確かにライト兄弟と親しくなるのは楽しい。でも勿論いつまでも二人に頼るわけにはいかない。

 探さなければならない。21世紀日本へ戻る方法を。

 そのために祐樹は、ガトゥと紫紺の羽根団の間を上手く立ち回る必要があった。

 21世紀日本へ戻ることを保障するガトゥは頼もしい。信頼も出来るだろう。だが彼は嘘をついている。加えて紫紺の羽根団が、ガトゥの思惑通りに事を運ぶのを阻むだろう。

 紫紺の羽根団にも上手く取り合わなければ、紫紺の羽根団は祐樹と梨奈を、21世紀日本から消してしまうかもしれない。

 祐樹は明日、もう一度自分にコンタクトしてくる紫紺の羽根団にどう対するべきかを考えていた。梨奈は、もう一度心地よさそうにベッドの上で体を反転させてポツリと零す。

「でも、今のままでいいなんて私らしくないよね」

「そう……、だね」

 祐樹は上の空で返事をした。祐樹は、今後どうするべきかに今一度思いを巡らせていく。祐樹は短くカットした髪に手串を入れる。

 ガトゥと紫紺の羽根団、両方を立てる事は出来るだろうか。その上で無事未来に帰る方法があるだろうか。

 ガトゥの「正しい歴史」への執着を立てつつ、紫紺の羽根団にも反発せずに、自分達の身の安全を守れる方法。アイデア。

 そんなアイデアなど祐樹には思いつかない。どうしても成り立たない。両者は対立しているのだ。それにガトゥも紫紺の羽根団も自由にタイムワープが出来る。

 祐樹が何か思いついたとしても、祐樹の浅はかな企みなんて、彼らはいともたやすく覆してしまうだろう。

 すると梨奈が考え込む祐樹に訊いてくる。

「ねぇ、祐樹。あなた意識してタイムワープ? 出来ないんでしょ?」

「うん」

 祐樹が頷くと梨奈は無邪気に笑う。ガトゥは「善」。紫紺の羽根団は「悪」。梨奈にとって構図はシンプルだからだ。梨奈ははにかむ。

「ならガトゥさんに未来へ帰してもらうしかないわね」

「そう、だね」

 祐樹はそのアイデアが簡単には運ばないのを知っていた。祐樹と梨奈は二つの勢力の板挟みにあるからだ。梨奈は右腕でパンチする仕草を見せ、大げさにポーズを決める。

「じゃあ、あの紫紺の羽根団とか言う連中をやっつけなきゃ。そしてガトゥさんの仕事を終わらせる! そうすれば未来に帰れるのね」

「そう、なるね」

 祐樹は表向き頷くしかない。祐樹が今置かれている状況に、梨奈をも巻き込むわけにはいかないからだ。梨奈は、そんな祐樹の決意に気づきもせずに、軽くアクビをする口元を左手で覆う。

「でもライト一家と離れるのは寂しい。結局、この幸せも束の間でしかないのねー。少し……、眠い。また明日考えましょう? 祐樹、おやすみ」

 そう言うと梨奈は瞳を閉じて眠ってしまった。祐樹は震える体を毛布で覆う。答えの出ない問題を前にして祐樹は口を閉ざすしかなかった。

 部屋では、漆黒の夜を彷徨う風が行き場を失ったように窓ガラスを揺らしていた。


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