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祐樹の推理

 デイトンへ帰る車中は、祐樹の気持ちと裏腹に陽気な雰囲気だった。特にオービルは上機嫌だった。彼は、ライト兄弟を支援してくれたラングレー教授に、どう報告するかに胸を膨らませている。

 ウィルも時に笑みを浮かべ、ハミングを交える。梨奈は梨奈でラングレーの人となりを知りたがった。ウィルは心地良さそうに答える。

「教授かい? 彼は、僕達が飛行機開発を始めて以来、ずっと協力してくれた方だ」

 ウィルは心地よさげにハンドルを切る。

「ちょっとした気分屋でね。少し実験が遅れただけで帰ってしまうような方なんだ」

 オービルは車の窓越しに遠くを眺めて、興奮気味に口にする。

「手紙には何て書こう。ラングレー教授の興味を惹かないとな」

 梨奈はウィルとオービルの機嫌の良さにつられてお喋りになっている。梨奈もウィルとオービルの魅力に惹き付けられている。彼女もまるで「ライト兄弟」の揺り籠に揺られているようだった。

「ホンット、不思議な巡り合わせですよね。偶然、飛行実験に立ち会えて。こうして助手にもなれて。私もこれからジェット機に乗る時はお二人のことを思い出しますよ」

 ウィルとオービルが怪訝な顔をする。

「ジェット機?」

 梨奈は両手を振って言葉を取り消すと、慌てて取り繕う。

「いえ、SFの世界です。そんな飛行機が発明されたらいいなっていう夢物語です。はい」

「SFか」

 ウィルのポツリと零した言葉で三人は笑い合う。彼らのお喋りは終わることなく続き、喜びに満ちている。

 祐樹だけは一人、自分の板挟みの状況に思いを巡らせていた。三人の会話は祐樹から徐々に遠のいていく。

 祐樹は一つ一つ物事を整理していく。ガトゥの後ろ姿が祐樹の目に浮かぶ。

 まず一つ、ガトゥは祐樹達に嘘をついている。

 なぜか。その方が、都合がいいからだ。彼にとって大切なのは仕事をこなすことであり、事実を話すことじゃない。

 次に、紫紺の羽根団が祐樹にコンタクトを取るのを、ガトゥは予想していたかどうか。

 祐樹の脳裏で揺らめくガトゥが密かに笑っている。祐樹はしばらく考えて答えを出す。

 ……予想していたはずだ。ガトゥは祐樹がどちらになびくかを試している。

 だから簡単にばれる嘘を口にした。ガトゥにはガトゥの考えがある。

 梨奈とライト兄弟の楽しげな会話は、祐樹から遠く離れた場所で続いている。移ろいゆく景色は冬の訪れを告げている。

 下唇を噛む祐樹の推理は留まらない。

 三つ目。紫紺の羽根団は信じられるのかどうか。信じられる。彼らに嘘をつく理由がないからだ。

 だが紫紺の羽根団とガトゥ。どちらが正しいか。これは祐樹には分からない。歴史を正しく進めるガトゥか。「最終戦争」を止める為に動く紫紺の羽根団か。

 簡単には答えを出せそうにない。しばらくは様子を見た方が良さそうだ。祐樹は自分の左の頬を軽く撫でた。

 そして最後の一番重要なポイント。それは祐樹と梨奈にとって大切なのは何かだった。

 祐樹にはそれは考えるまでもなかった。未来へ無事に帰る。それだけだった。そうして祐樹の考えは纏まった。長い時間考え込んでいた祐樹に梨奈が気づく。

「祐樹。どうしたの? 暗い顔して。思いつめてるの?」

 祐樹は、お喋りで陽気な梨奈にリラックスしたのか、ふっと口にする。

「梨奈。僕は『自分の為』だけに動いてもいいのかな」

 梨奈は不思議そうに一度首を傾げて、無邪気に笑う。

「どうしたの? 急に。そんなこと考えないで、祐樹は祐樹でいなさい」

 祐樹はその言葉で一安心したようだ。今は自分の為かどうかなんて考えてる場合じゃない。シンプルに「未来へ戻る」。それだけを考えよう。そう思った祐樹は肩の荷をおろしたように笑う。

「分かった。梨奈。ありがとう」

「うん。いいよー。でも変なこと言うんだね。祐樹」

 梨奈は右目を軽く見開くと、すぐにウィルとオービルとの会話に戻っていった。祐樹は梨奈の無邪気さに救われた思いだった。

 車はライト兄弟の故郷、デイトン市へとひたすら向かう。車窓に映る七色の陽差しがとても美しかった。

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