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紫紺の羽根団・襲来 3 

「俺達は、歴史の補修工事をしているようなものだ」

「補修?」

 祐樹が訊くとダデュカは静かに目を細める。その様子からダデュカが自分達のアクトに誇りを持っていることに祐樹は気付いた。ダデュカは頷く。

「そう。二つの勢力の戦争のことを、ここでは分かりやすく『最終戦争』と呼ぼう。その最終戦争を防ぐために、俺たちは歴史へと介入している」

 ホログラムは9・11同時多発テロの光景まで映し出す。ダデュカは指をホログラムに指し示す。

「最終戦争に繋がる一つの事件が、ライト兄弟の飛行機発明だった。小さな出来事だと思うかもしれない。だがマッチ一本の火種が、『最終戦争』へと繋がる」

 祐樹は頭を軽く横に振って、考えを纏めると大きく両手を広げる。

「そんなことをすれば未来はどんどん変わってしまう。いいんですか?」

 ダデュカは少しも動揺しない。ダデュカの思想はぶれないようだ。彼ははっきりと口にする。

「どんな未来であっても地球連合の支配よりは幾分いい」

「そんな理由で人を?」

 ダデュカは冷厳な表情で答える。

「そうだ」

 祐樹はダデュカの固すぎる意志を前にして言葉を失う。ダデュカは一、二歩後退し、もう一度祐樹に振り返ると問う。

「さぁ、君は分岐点に立っている。ガトゥの嘘を受け入れるか。それとも真実を受け入れて、レジスタンスに協力するか。二つに一つだ。」

 祐樹は重すぎる課題を前に挫けそうになりながらも、気を奮い立たせる。

「もし協力しなかったら?」

 その質問をレリュが冷たく切り捨てる。

「あなたの可愛いガールフレンド、高橋梨奈。彼女が犠牲になるかもしれないわね」

 祐樹はレリュのその言葉で、彼ら、紫紺の羽根団の態度と目指す方向を把握出来た。祐樹は意を決する。

「手段は選ばないというわけですね。……少し、時間をください。俺には何が出来るかも、分からないし」

 ダデュカは一度口の中で舌を動かすと、頷く。

「分かった。明後日の早朝、君をもう一度訪ねよう。もっとも私達は今、この瞬間にタイムワープするのだから、数秒後の出来事になるのだが」

 祐樹は、ダデュカの条件に納得して首を縦に振った。そして彼らの未来に少しでもリアリティを持ちたかった祐樹は、最後にダデュカへ訊く。

「地球連合の名前は?」

「『アゼテリ』。国際言語の一つで『共有』という意味だ」

 そう答えるとダデュカは祐樹の肩に触れる。次の瞬間、祐樹の体は風を切り、風が「振れた」。

 祐樹はタイムワープをすると、テート夫妻の寝室に舞い戻っていた。時間はレリュに連れて行かれた時と一秒も違いはない。祐樹は自分に課せられた課題を前に、ただ口を閉ざすしかなかった。

 祐樹は小型モニターをポケットに仕舞い込むと、ライト兄弟と梨奈の待つ車へと駆け出す。だが祐樹の心は暗い影で覆われていた。


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