紫紺の羽根団・襲来 2
気性の激しいレリュに比べて、ダデュカと呼ばれた男は分別が付く冷静な男のようだ。ダデュカは祐樹に尋ねる。
「俺達の身元について、おおよその見当はついているだろう。どれだけ事件の全容を知っている?」
祐樹はまず手始めに、ガトゥから仕入れた知識をもとに推し量る。
「あなた達は……、紫紺の羽根団?」
ダデュカは顎を一度軽くあげて答える。
「正解だ。誰からそれを?」
「ガトゥさん」
祐樹がそう返すと、ダデュカは、ガトゥと祐樹達のやり取りの中身を知りたがった。
「彼は俺達のことを何と?」
「悪童のような連中だと」
ダデュカには、ガトゥの方法論などお見通しのようだった。ダデュカは祐樹の言葉を聴いて納得する。
「彼らの偏見からすれば妥当な評価だろう」
祐樹が、上体を乗り出し即座に訊き返す。
「違う?」
すると腕組みをしたままのレリュが口を挟む。
「当然。ガトゥ達がどれだけ横暴な組織か、私達の話を聴けば分かるはずよ」
祐樹は緊迫し、掌に汗が滲むのを感じる。この争いはガトゥが言うほどシンプルじゃない。祐樹はそう思うと先入観を一度捨てた。そしてダデュカ達の言い分を聴くことにした。ダデュカが尋ねる。
「俺達の住む未来社会については何か?」
祐樹は首を横に振り、答える。
「特別何も。紫紺の羽根団が歴史に介入しているとだけ」
祐樹の返事にダデュカはしばらく沈黙すると、レリュと視線を合わせる。二人はこれから話す内容について同意したようだ。ダデュカは足を一歩伸ばして、右手を大きく広げる。
「君の住む21世紀初頭より遥か未来、戦争が起こる」
「戦争?」
そう返した祐樹の言葉にダデュカは重ねる。
「そう。二つの勢力による。戦争の原因は君には想像も出来ないことだ。今は話す必要がない」
祐樹は不穏なイメージに心を覆われ、口をつぐむ。ダデュカは目元に人差し指の指先をあてて、横にゆっくりと滑らす。
「その戦争で、古い体制は全て覆った」
祐樹は顔を一度両手で拭うと話に聞き入る。ダデュカはややスケールの大きな話にも祐樹が対応しているのが満足げな様子だった。ダデュカは続ける。
「そして新しい指導者達によって『地球連合』が作られた」
「地球連合」
祐樹が声を重ねると、ダデュカは一言で纏める。
「地球連合が事実上たった一つの国家になったんだ」
祐樹は無意識に手が強張るのを感じ取る。ダデュカは痛ましげだ。
「だがその統治の方法が良くなかった。彼らは粛清を重ね、人々を管理した。そしてその地球連合にレジスタンスを試みたのが……」
祐樹は辛うじて話の断片を掴み取り、口にする。
「紫紺の羽根団」
「そうだ。よく分かったな。お利口な頭だ」
祐樹は、やや自分を子ども扱いしたダデュカの物言いにも動揺しなかった。今は話の中身を掴み取るのが先だと思ったからだ。ダデュカはその祐樹の態度を見て満更でもないようだった。ダデュカは話を引き継ぐ。
「そして地球連合の諜報機関、『時空警護局』の幹部の一人があの男、ガトゥ。ガトゥ・パラディンだ」
ここでガトゥの名前が出たことで、祐樹のガトゥへのイメージが大きく揺らいだ。祐樹はもう一度頭を整理しなければならなくなった。祐樹は右手で頭を支えると心を鎮める。ダデュカは刻々と事実を告げていく。
「『時空警護局』はガトゥが言うほど良識的ではない。横暴な連中だ。覚えておくといい」
祐樹は戸惑いを隠しきれない。ガトゥとダデュカの言い分がまるで正反対なのが祐樹を混乱させた。祐樹は額に手を当ててダデュカに訊く。
「レジスタンス。それがどうしてライト兄弟を襲うんです?」
ダデュカが掌を広げると彼の掌の上には小型映写機があった。小型映写機は天井にホログラムを映し出す。ホログラムは歴史の中で起こった大事件を映像で切り取ったものだった。
天井には、産業革命、大航海時代、第一次、第二次世界大戦、核の投下など、凄まじい映像が、ホログラムで繰り返し映し出されていく。ダデュカはその映像を仰ぎ見てこう答えた。




