ガトゥの質問 3
「君達はタイムワープをしてしまった。君達が気にしなければならないのは未来を変えてしまうことだ」
『未来を変える』
祐樹と梨奈は驚いたように声を揃えた。ガトゥは丁寧に対処策を口にしていく。
「それを避ける為には、過去の出来事や人物に関わらないことだ。だが残念なことに君達はライト兄弟と出逢ってしまった」
「それは大変なことなんですか?」
祐樹が恐る恐る訊くと、ガトゥは何も気に掛けずに答える。
「ああ、小さな出来事をきっかけにして、君達のいない未来が生まれてしまうかもしれない」
「そんな!」
梨奈はそう叫んで口元を右手で覆う。ガトゥは手を一度軽く挙げると梨奈の気持ちを鎮める。
「それを防ぐ為に私達が力を尽くそう。ただし、その代わり私の言う通りに君達には動いてもらう」
「言う通りに……」
そう応えると祐樹は息を飲む。ガトゥは仄かな笑みを浮かべる。
「紫紺の羽根団の企みを阻止する為に、君達にはライト兄弟と私の仲を取り持って欲しい」
「それだけでいいんですか?」
祐樹が上目づかいに、口を少し尖らせて訊くとガトゥは優しげに答える。
「そう。私は彼らに嫌われてしまったからね。君達は彼らに好かれている。その立場を利用しない手はない。『仲立ち』。それが君達に出来ることの全てだ」
そう言い終えると、ガトゥは早々と要件を済ませるつもりなのだろう。彼は掌に収まるほどの小さなモニターを祐樹に手渡す。
「これで連絡を取り合う。肌身離さずに持ち歩いて欲しい。私の話は以上だ。何か質問は?」
祐樹は一度深呼吸をすると、ガトゥに質問する。紫紺の羽根団についてだ。
「ガトゥさん、『紫紺の羽根団』って一体どんな人達なんですか?」
ガトゥの瞳は冷たい。彼は平然と答える。
「タイムワープのスキルを野放図に使う悪童のような連中だよ」
祐樹と梨奈はガトゥの口振りに言葉を失う。祐樹と梨奈がガトゥに少し畏怖心を抱いてしまったのにも関わらず、ガトゥは構わず最後に付け加える。
「人間は過去にも未来にも干渉してはならないんだ」
ガトゥには強い決意があった。祐樹は恐怖心を抱きながらも、この人物ならば信用出来るかもしれない。そうも考えていた。
ガトゥは再び、祐樹と梨奈の手を握る。
「さぁ、とりあえずはキティホークへ君達を送り返そう。今、21世紀の日本へ戻ったとしても君達の居場所はないかもしれない」
「居場所がないって……!」
戸惑う梨奈を横目にガトゥは少し腰を屈める。
「歴史を元に戻したあと、君達が21世紀日本へ戻る手はずを整えるよ」
そうしてガトゥは再び、風を激しく「振るわせた」。祐樹と梨奈を襲う不思議な感覚。墜落事故のあった川辺の景色が遠のいていく。
一瞬、気を失ったような感覚のあと、祐樹達の心と体は20世紀初頭のキティホーク。テート夫妻にあてがわれた寝室に戻っていた。
ガトゥは艶やかな笑みを祐樹と梨奈に見せる。と同時に次の瞬間には、彼はもう一度タイムワープをして二人の前から消えた。
去り際のガトゥの言葉は、祐樹達が決して自由ではないのを物語っていた。
「また会えるよ。君達の誠実さが変わらない限り」
祐樹と梨奈は乾いた冷気の残る寝室に立ち尽くしていた。