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ガトゥの質問 2

 そこは、どこだろうか。風の吹く音がする。場所は、祐樹と梨奈には一見しただけでは分からない。見渡すと川沿いに大勢の観衆が集まっている。

 人々の視線は川辺の飛行機に注がれている。どうやらここでも飛行実験が行われようとしているようだ。操縦士は……。祐樹は目を細めると辛うじて確認した。

 オービルだ。そしてもう一人、飛行機に乗っている。飛行機は二人乗りらしい。祐樹はライト兄弟のエピソードを瞬く間に遡り、もう一人の人物が誰なのかの答えを見つける。祐樹は思わず大きな声をあげる。

「もう一人は、セルフリッジ中尉だ。この飛行実験は失敗する。事故が起こるんだ」

 ガトゥは冷静にその光景を眺めている。梨奈が上体を祐樹に近づけて尋ねる。

「失敗って? 事故って? 祐樹。どういうこと?」

 祐樹は事故が起こるのを前にして歯がゆく思っているようだ。梨奈の質問には口をつぐんで答えなかった。

「ねぇ! どういうことよ。祐樹!」

 梨奈の痛々しい叫び声を、号砲のサインにしたのか、飛行機は上昇し、滑走路を飛び立っていく。飛行時間は極わずかな時間で終わるのを祐樹は知っていた。

 翼のバランスが不安定で、オービルが舵取りに手間取っている。オービルは懸命に機体を上昇させようとするが風の抵抗でままならない。梨奈がたまらず、不安げに祐樹の腕に触れる。

「落ちるわよ。あのままじゃ」

 祐樹は悔しげに事実を告げるしかない。

「そう。落ちるんだ。実際。これは避けられない」

 次の瞬間、機体は激しく風に煽られると、急降下して水面に凄まじいスピードで墜落した。機体のパーツが叩きつけられ、壊れる音が響き渡る。

 騒めく人々。救助隊が墜落現場に向かう。助け出されるオービルとセルフリッジ中尉。オービルは動揺しているが意識ははっきりとしている。

 ただ、セルフリッジ中尉の体はぐったりとしていて動かない。救助隊も、観覧に来た軍の高官達も何が起こったのか分からないようだ。

 梨奈は戸惑っている。彼女は祐樹の腕を揺さぶる。

「彼、気を失ってる。気絶しただけ? それとも重傷? ねぇ祐樹ってば!」

 梨奈の悲壮な問い掛けを耳にして、祐樹は真っ直ぐに墜落現場を見据える。

「セルフリッジ中尉は、事故死するんだ。これは史実なんだ。俺達は見守るしかない」

 ガトゥは落ち着き払っていた。彼の話し振りからするに、この墜落事故はただの事故ではないのが分かった。現に彼は事実をこう説明する。

「この事件、紫紺の羽根団の干渉によって引き起こされたと私達は把握している」

「干渉?」

 祐樹は驚く。セルフリッジ中尉の事故死は、変わらない史実だと祐樹は思いこんでいたからだ。祐樹の言葉に応じて、ガトゥは淡々と答える。

「言ってなかったね。紫紺の羽根団は、様々な歴史的事件に干渉する組織だと」

 祐樹は、何とか事態が飲み込もうとする。ガトゥは、そんな子供の懸命さにも一向に構わず続ける。

「何れ機会があれば、この事故にも『修正』を加えるつもりだ」

 未だ騒然としている会場の傍らにガトゥは足を少し伸ばして、祐樹と梨奈に振り返る。

「これで私の話を信じてくれたかい」

 梨奈はガトゥの目を見据えて頷く。祐樹は自分の無力さを自覚していたので、あらためてガトゥに尋ねる。

「それで僕達は何をすれば……」

 ガトゥは祐樹が協力する姿勢を見せたことに満足しているようだった。彼は流れるように話し始める。


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