表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギルティス―本能の楽宴―  作者: Blue NOTE(ぶるの)
第一章§夢現流浮
3/16

03 暁烏真鶴

 扉を開ける。カラン、と涼しげな音が響いた。

 どこにでもある喫茶店だ。

 店内は随分とシックな造りになっている。内装のほとんどは木でつくられているのに温かみを感じない。おそらくはそれがすべて黒いせいだろう。どこか寒気すら感じるものだった。

 しかし対照的に、窓から入る光が明るい。相対する2つの効果が、この店の中途半端さを表している。

 札差ふださし京斗けいとは、迷うことのない足を店の奥へと運んだ。

 窓際の席に、見覚えのある後ろ姿を認める。

「ここにいたのか、真鶴まなづる

 声をかけると、真鶴と呼ばれた少年はこちらを向く。いかにも面倒だ、と言いたげな目つきだった。彼は無言のままで窓へと向き直る。

 京斗はふう、とついてから真鶴の向かいに座り、脚を組んだ。

 やってきた店員にアイスコーヒーを頼む。それから彼は目をつむった。難事件を目の前にした探偵のように、なにやら考え込んでいるようだった。

 それからしばし、無言の時間が続いた。

 離れて見ると、おかしな二人組だった。

 二人の格好は似たようなものだ。Yシャツとスラックス、真鶴の方はそこに上着を羽織っている。季節柄、二人共腕をまくってはいるが。

 それは学校の制服ブレザーにも見えたが、絶対にそうではないと断言できそうなものだった。二人の服装には装飾が多い。ところどころに金色や銀色の細工が見られた。

 京斗は目を開けた。そこには、先程から変わらず、窓を見つめながらアイスココアのストローを咥える真鶴がいる。

「……お前も物好きだな」

 辛辣な言葉。京斗のそれにも、真鶴は無関心に反応した。

「なんのことだ」

「あれだろ、お前が見ていたのは」

 腕を組みながら、京斗が顎をしゃくる。示しているのは窓の向こう側のようだ。

 そこにはある建物が見える。二人のよく知る学園だった。

 校門の門柱には『私立光奏(こうそう)学園』と文字がある。

「まだ昼間だ。こんな時間にあの子が現れるわけもないだろうに」

「お前にとやかく言われる覚えはない。誰が迷惑するわけでもないだろ」

「可愛くないねえ、どうも」

 京斗は店員が運んだアイスコーヒーを持つと、ガラスのコップに口をつけて飲む。無造作に注がれていた闇は今やその量を三分の一にしている。とても味のわかる飲み方とは思えなかった。

 豪快な飲み方をする彼の姿を、真鶴は冷えた目で見つめていた。



 ふと思う。

 この男と知り合ったのはいつのことだったか……。

 つい最近――ほんの2カ月前のことなのに、もっと昔のことのように思える。

 2か月前のあの日……彼は死んだ。

 暁烏あけう真鶴は死んだのだ。

 今はこうして、死んでいる感覚がないために生きているようなものだが、その本質は幽霊と変わらないだろう。

 彼は今、何のために生きているのか、何のために存在しているのかがわからない。

 考えても、それは永遠に浮かばない解答なのだと思った。

 暁烏真鶴は、以来、彼らと行動を共にするようになった。

 通っていた高校も辞めて、自分という痕跡も断ち……自分を消した。

 もうこの世に……自分を知る者はいない。

 だから自分が生きている意味は、もう彼らと共に歩むことしかないのだと思い知る。

 意志もなく生き、意義もなく生きることは、何も思わず死ぬことよりはましだと思えた。

 ――それでいい。俺は、死んでもおかしくないことをした。幽霊としてこの世を彷徨うのも、悪くない。

 この悪魔たちと一緒なら…………。



「で、結局何しに来たんだよお前」

「依頼だよ」

 真鶴がぶっきらぼうに言うと、京斗もつまらなそうに返した。

「昨日、事務所にある男子高校生が訪れた。あそこの生徒だったよ」

 京斗が親指を向けた先には、店先にある高校――私立光奏学園がある。

 聞くなり、真鶴は目を細める。元々鋭い彼の目は鋭利な刃物のようだった。

「それ、あやに関連しているのか……」

「それはわからない。しかし、依頼内容からすると関係ないみたいだがな」

 そうか、と言って真鶴はココアを飲み干す。心なしか安心しているようにも見える。その様子を見て、京斗は含み笑いをした。

 悪魔がわらう。

 ごく自然な不自然を見つめながら、真鶴は、胸元に提げたペンダントに触れた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ