02 悪夢
毎晩そうだ。
ここに立っている。
見下ろせばそこは寝静まった街。
自分が立っている場所は、そこから頭一つ分突き抜けている丸ビル――その屋上だった。
街の景観は見覚えがない。
どうやってここまで来たのかもわからない。
しかし、自分はここにいる。
来たくもないのに。
いたくもないのに。
ビルの谷間はとても暗くて、人通りなど確認できない。そこに底があるのかどうかも不思議だった。
いっそ底なしの暗さなら、どれだけよかったか。
だってそこはあまりにも魅力的で。
その常闇に吸い込まれそうで。
吸い込まれそうで。
自分は欲している。
闇の海に沈みたい。
気がつくと。
自分の身体は――闇に包まれていた。
気持ちいい。
なんて開放的。
なんて快感。
気がつくと。
自分の身体は……宙を舞っていた。
次の瞬間には、身体中を通り抜ける痺れるような刺激と共に……
折り紙のような自分の腕が、そこに在った。
周囲はまだ暗いままだった。
月の明かりさえない世界は酷く寂しげに見える。
「…………」
嫌な夢を見た。
いつも見る夢――。
暗い夜はまるで水鏡のように私の心を表している。底から見える鋼鉄の街はとても冷たく寒い。
――それが耐えられなくて……私は…………。
「お水飲も」
落ち着きたい。
背中を虫が這いずりまわっているような気がして気持ち悪かった。胃の中にカエルでもいるかのような不快感。
このままではどこまでも落ち込んでいきそうだ。
陰鬱な気持ちのまま、身体を起こそうとした。
が。
「いたッ!」
右手に激痛が走った。指先に力を送れない。
心臓が疼く。
頭が回らない。
嫌な予感だけがぐるぐると自分の中を駆け巡る。
左手で布団をはぐ。
ぐしゃぐしゃにねじ曲がった右手が、そこに在った。