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ギルティス―本能の楽宴―  作者: Blue NOTE(ぶるの)
第一章§夢現流浮
13/16

13 絆

 夕焼け色に染まった空は、陰りのみを室内へと差していた。

 既に夕食を済ませた二人は部屋の中央にいた。

 テーブルとベッドの間、狭いスペースには2人が寄り添っていた。腕を絡め、少女は少年の肩へと寄りかかっている。

「ねえ、慶喜よしきが作ってくれたの? あのご飯」

 少女が訊く。

 少年が答える。

「そんなわけないだろ、彰子しょうこ。あんなレトルトの味もわからなかった?」

「うん。私、あんまり人の作ったご飯食べたことないから。そんなの、病院食だけだよ」

 そっか、と少年は頷いた。

 見つめ合う。

 潤んだ瞳の中には、光る粒子が見える。それはまるで宝石のようで愛おしかった。「ねえ……いいんだよ、私……」

 俯きながら、声を低くしている。

 呟いているだけなのに、少年には、その声がやけに響いて聞こえた。まるで、自分の胸を打つように。

「で、でも……」

「お願い。私、これが本当なのか、わからないの……」

「え?」

 首を傾げる少年の顔を、彼女はまっすぐに見つめてきた。その顔は耳まで赤く、声は少し涙にくぐもっている。

「あなたと結ばれることがとても信じられなくて……夢みたいで……とても、現実とは思えなくて……。これが夢なら私、本当にどうにかなってしまいそうで……」

 瞳におさまりきらない雫が零れる。

 耐え切れなくなったか、彼女は、少年の胸に顔をうずめた。

「だから……お願い。私に、これが現実である……証をちょうだい…………」

 2人は唇を重ねた。愛しい人と触れた部分はとても熱い。それが自分の熱なのかどうかもわからない。だけれど、それがとても大切なことに思えた。

 吐息が絡まる。

 少女は少年の首元に腕を巻いた。彼もまた彼女を抱き締める。

 2人は揃ってベッドの上へと移動した。

 少女を優しく抱く彼は、ゆっくりと肩へ手を置く。

「ぅ……うっ……」

「あ、ああの……変なことッ、したかな……ッ」

 慌てて手を放そうとした少年だったが、少女はそれを制し、涙声で告げた。

「違うの。嬉しくて……凄く、嬉しくて……信じ、られなくて」

 もう一度、唇を重ねる。

 それから彼女らは、互いを求め合っていた。

 いつまでも、いつまでも……。

 2人は結ばれ、彼女は、とても温かい気持ちで彼との夜を過ごした。

 これからどんな不幸が降りかかってこようとも、彼女には乗り越えられる気がした。


 とても強く繋がったこの絆ならば――――。



 白い太陽の光。

 温かいブランケットの中で目を覚ます。

 彼女は幸せな気持ちでいっぱいだった。

 自分の姿を見る。彼女の肢体は露わになっていた。彼の感覚が今も彼女の中に根づいている。

 彼に、すべてを見られた……。

 気恥ずかしいような嬉しいような気分だ。

 顔が赤い。明らかに上気しているのが自分でもわかる。

 晒された胸元を、ブランケットを手繰り寄せることで隠した。

「慶喜……」

 近くに彼の姿を探す。

 しかし、探る手は空を掴むのみで彼の感触はない。

 彼女は上体を起こして、室内を見渡した。

「――――ッ!」

 突然、彼女の胸に鋭い感覚が突き抜けた。

 それは刺されたような、殴られたような、そんな感覚だったが……見てもそこに傷はない。

 彼女が傷ついたのは胸の内側だった。

「なん…………で…………」


 部屋の中心で。

 高崎たかさき慶喜が――死んでいた――。




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