13 絆
夕焼け色に染まった空は、陰りのみを室内へと差していた。
既に夕食を済ませた二人は部屋の中央にいた。
テーブルとベッドの間、狭いスペースには2人が寄り添っていた。腕を絡め、少女は少年の肩へと寄りかかっている。
「ねえ、慶喜が作ってくれたの? あのご飯」
少女が訊く。
少年が答える。
「そんなわけないだろ、彰子。あんなレトルトの味もわからなかった?」
「うん。私、あんまり人の作ったご飯食べたことないから。そんなの、病院食だけだよ」
そっか、と少年は頷いた。
見つめ合う。
潤んだ瞳の中には、光る粒子が見える。それはまるで宝石のようで愛おしかった。「ねえ……いいんだよ、私……」
俯きながら、声を低くしている。
呟いているだけなのに、少年には、その声がやけに響いて聞こえた。まるで、自分の胸を打つように。
「で、でも……」
「お願い。私、これが本当なのか、わからないの……」
「え?」
首を傾げる少年の顔を、彼女はまっすぐに見つめてきた。その顔は耳まで赤く、声は少し涙にくぐもっている。
「あなたと結ばれることがとても信じられなくて……夢みたいで……とても、現実とは思えなくて……。これが夢なら私、本当にどうにかなってしまいそうで……」
瞳におさまりきらない雫が零れる。
耐え切れなくなったか、彼女は、少年の胸に顔をうずめた。
「だから……お願い。私に、これが現実である……証をちょうだい…………」
2人は唇を重ねた。愛しい人と触れた部分はとても熱い。それが自分の熱なのかどうかもわからない。だけれど、それがとても大切なことに思えた。
吐息が絡まる。
少女は少年の首元に腕を巻いた。彼もまた彼女を抱き締める。
2人は揃ってベッドの上へと移動した。
少女を優しく抱く彼は、ゆっくりと肩へ手を置く。
「ぅ……うっ……」
「あ、ああの……変なことッ、したかな……ッ」
慌てて手を放そうとした少年だったが、少女はそれを制し、涙声で告げた。
「違うの。嬉しくて……凄く、嬉しくて……信じ、られなくて」
もう一度、唇を重ねる。
それから彼女らは、互いを求め合っていた。
いつまでも、いつまでも……。
2人は結ばれ、彼女は、とても温かい気持ちで彼との夜を過ごした。
これからどんな不幸が降りかかってこようとも、彼女には乗り越えられる気がした。
とても強く繋がったこの絆ならば――――。
白い太陽の光。
温かいブランケットの中で目を覚ます。
彼女は幸せな気持ちでいっぱいだった。
自分の姿を見る。彼女の肢体は露わになっていた。彼の感覚が今も彼女の中に根づいている。
彼に、すべてを見られた……。
気恥ずかしいような嬉しいような気分だ。
顔が赤い。明らかに上気しているのが自分でもわかる。
晒された胸元を、ブランケットを手繰り寄せることで隠した。
「慶喜……」
近くに彼の姿を探す。
しかし、探る手は空を掴むのみで彼の感触はない。
彼女は上体を起こして、室内を見渡した。
「――――ッ!」
突然、彼女の胸に鋭い感覚が突き抜けた。
それは刺されたような、殴られたような、そんな感覚だったが……見てもそこに傷はない。
彼女が傷ついたのは胸の内側だった。
「なん…………で…………」
部屋の中心で。
高崎慶喜が――死んでいた――。




