第69話 役に立たないものなんかない(ステータス)
ステータスか。うん、そうだよね。そりゃ知りたいよね。
「遠征中は俺も警戒に集中していて、忘れていたからいいよ。でも帰ってきて未だに教えてくれないってなんだよ!?」
「にも関わらずタケさんやミライさん、拝賀君たちには教えているしね。同じパーティーメンバーの僕らが後回しっておかしいだろ!」
「別におかしくはないだろ。報酬を貰ってんだから」
三組のパーティー、全員で十四人。一人百万で総額千四百万。
マジでぼろい商売だったね。正直手が震えたわ……!
とはいえ、確かにこいつらが怒るのも分かる。普通はまず仲間からだよな。
「悪かったよ、今見てやるから。――一回百万円になります」
「金取るの!? マジで!?」
「これこそ福利厚生の一環というか、必要経費みたいなものじゃないのか!? そこまでして僕らに教えたくないのかい!?」
「ん~。実を言うと、教えない方がいいんじゃないかとは思ってる」
タケさん達には望まれたし、なにより金貰えるから引き受けたけどさ。もしかしたら、ステータスを知ってしまうデメリットもあるんじゃないかとは思うんだよな。
「チヨちゃんにステータスを教えたらさ、すぐに【守護命令】を覚えちゃっただろ? あの結果を考えるとさ、ステータスを知ることでさらにスキル習得の感度が上がりすぎることがあるんじゃないかって思ったんだよ」
少し欲しいかもと思っただけで新スキルを覚えてしまうとしたら、事故的に要らないスキルを覚えてしまうのではないか?
それなら無意識レベルの本能での習得に身を任せるほうが、本当に必要なスキルだけを覚えられるんじゃないだろうか?
それを考えたら、教えるのに躊躇したんだよな。だから正直タケさん達に教えちゃったのも、本当に良かったのかとちょっと後悔しているところもある。金に釣られてあっさり教えたけど。
俺の考えを話したら、川辺が目を瞑って数秒悩み、頷いた。
「なるほど。お前の考えは分かった。決して意地悪じゃないってこともな。――でもそれはお前が決めることじゃねぇ!」
クワッと目を開き、川辺は俺を睨み付けてきた。怖い。
「どんな結果になろうと、自分の意思で決める方が後悔しないに決まってんだろうが! つぅかチヨちゃんの【守護命令】だって必要なスキルだから覚えたんだろ!?」
「それ以前にそれは楓太の勝手な推測に過ぎないだろう! どうせそんなこと言っても僕達のステータスは確認してるんだろ!? 自分だけずるいぞ!」
「わ、分かったよ。ちゃんと教えるからそんなに怒るな。でもこれだけは誓って言うけど、お前らのステータスは本当に確認してないぞ。……自分が惨めになる可能性があると思ったからな」
「あ? 惨め? 今更何言ってんだオメー。ジョブ毎に役割があるのに、比べる必要なんかないだろ。ましてやお前は生産職なんだし」
「……ああ、なるほど。うん、理解した。そういうことなら僕は許すよ」
ポンコツな川辺はともかく、伊波は俺の思う所を分かってくれた。
ありがたい。そしてそれが分からないから川辺は駄目なんだ。
「それじゃあまずは伊波な」
「うむ。我が真の力を目にする栄誉を与えよう」
「何で俺が後回し!? 言い出しっぺは俺なんだけど!?」
臭い物には蓋をする主義なので。
それが駄目でも、少しでも嫌なことは後に回したい……。
【人物鑑定】
名称:伊波智
レベル:14
ステータス:【MP】183 【STR】38 【CON】61 【POW】102【DEX】95【INT】156
〈魔術師〉
【氷魔術】レベル3【氷耐性】レベル3【火魔術】レベル1【火耐性】レベル1【最大魔力量上昇】レベル2【魔力回復速度上昇】レベル1【魔力補填】レベル2
「ほう、なるほど。MPが楓太より低いのは気になるが、悪くない」
「いや悪くないっていうか、相当良いだろ。【INT】とか」
俺はもちろんのこと、明らかに特殊な強化が入っているピーちゃんよりも高い。そりゃあれだけ強力な【魔術】が撃てるはずだわ。
でも確かに、【最大魔力量上昇】なんてスキルを持っていながら俺よりもMPが低いのは意外だ。それだけ生産職はMPが必要だから成長しているということか。
ただ意外といえば、【氷耐性】や【火耐性】の方が意外だな。
「僕、耐性系なんて持っていたのか。回復速度は最近なんとなく早いな~とは思っていたけど。そういえば遠征の時、夜に寒いとか全く感じなかったな」
「気温の体感にも影響があるとしたら結構便利だな。だけど、よくよく考えてみると当たり前かもな。氷の【魔術】を使うなら、それに負けないような体にならないといかんわけだし」
一発【魔術】を撃つ度に自傷ダメージが入る〈魔術師〉とか、使えないにも程がある。
ああ、でもそれを利用するジョブとかスキルとかありそうだな。自傷リスクを負う代わりにダメージ増加とか。……使われても困るし黙っとこ。
「しかしこれを考えると、新しい属性の【魔術】はあまり手を出さない方がいいかもしれないね」
「そうだな。たぶん器用貧乏になると思う」
【火魔術】ですら既に【火耐性】を持っているということは、これらはセットで必ず習得することになるんだろう。その分、多くのリソースが取られることになる。
ポンポン新たな属性に手を出せば、経験値が足りなくなる。半端な〈魔術師〉になりかねない。全属性を極めた大魔法使いみたいなキャラ育成は仕組みからしてムリということだな。
二つか、多くても三つか。属性を増やすのはそれくらいまでで抑えた方が良さそうだ。
「それを踏まえると、【火魔術】を覚えたのは悪くない選択だったかもな。氷に火、真逆の属性だからこそ、どんな魔物が相手でもどっちかは通るんじゃないか?」
「ふむ。氷だけでなく【火魔術】も伸ばすことも大事か」
「いいんじゃね? なんだかんだ【火魔術】は火力高くて優秀って聞くし。火が弱点の奴も多いだろうし」
確かに川辺の言う通り、火力という点なら【火魔術】は頼りになる。スキルレベルが低い今でも充分に使えるだろう。今から育てても遅くはない。
「うん、うん。よし、決めた。僕はこのまま氷と火を極めよう。となると他に欲しいのは、火力の底上げ出来るスキルかな。あと一つか二つなら取れるだろうし、【魔力補填】に匹敵する便利なスキルを探してみよう」
「いや、俺としては火力よりも持久力とか汎用性を……ああ~、でも今はピーちゃんとマルが居るからな。いっそ本気で固定砲台を目指した方がいいのか?」
コイツはなんだかんだこの方向でパーティーを助けているからな。今までの実績を信じて、コイツのやりたいようにさせた方がいいのかもしれない。
不安だが。めちゃくちゃ不安だが。底知れない不安が潜んでいるが……!
まぁ将来問題が起きたら、将来の俺が解決するだろう。これを問題の先送りという。
「さて。それじゃあチヨちゃんは前に見た時と変わらずだから、次は七緒ちゃんね」
「だからなぜ!? お前そんなに俺を虐めて楽しいか!?」
「あの、私は後でもいいですよ? なんだったら知るのがちょっと怖いような……」
「いや、見るよ。川辺は見なくても七緒ちゃんは見る。絶対面白いことになってるから」
「面白いって言った! 見世物じゃないんですけどっ!?」
「自分から目を背けても何も解決しない。七緒ちゃんは今一度、自分を見つめ直す必要があると思う」
はい、というわけで。【鑑定】。
【人物鑑定】
名称:七海七緒
レベル:14
ステータス:【MP】125【STR】78【CON】75【POW】80【DEX】121【INT】119
〈吟遊詩人〉
【歌唱】レベル3【伴奏】レベル―【歌唱効果対象選別】レベル―【歌唱範囲拡大】レベル1【魅了(歌)】レベル3【声帯保護】レベル2【声質】レベル3
〈舞踏士〉
【剣舞】レベル1
「その、面白いことになっているとは言ったけど……これは……」
「予想以上だったね」
「これでアイドル願望が無いは嘘だろ」
「違っ……! いや、でもこれは……だけど……ッ!」
「お姉ちゃん。誤魔化すにも限度があると思うの」
七緒ちゃんは頭を抱えて悶えながら、未だに見苦しい抵抗を続けている。
素直に認めたほうが楽になると思うけど、まぁ一つ一つ考えてみようか。
とりあえずステータス。これはまぁ、普通に強いな。
流石に川辺や伊波の最大値と比べれば低いかもしれないが、全体的に穴がない。チヨちゃんをより戦闘向けにしたようなステータスだ。【DEX】に至ってはピーちゃんに次いで高いし。
たぶん、〈吟遊詩人〉と〈舞踏士〉の成長補正が重なった結果かな。意外と戦闘向きのステータスで吃驚した。
だ、け、ど。七緒ちゃんの真価はこのスキルの数々だぁ!
「七緒ちゃん。いつの間にこんなにスキルを取得していたんだい?」
「【歌唱】と【伴奏】ぐらいしか知らなかったからな。隠さなくてもよかったのによ。水臭いぜ」
「私だって知りませんよこんなの! 私が一番びっくりしてます!」
「ん~。なんだか聞いたことないスキルを持ってますね。名前でなんとなく予想は付きますけど」
「ちょっと待ってな。今詳しく見てみる」
「見るな! お願いっ! これ以上現実を突きつけないでっ!」
逃げるなぁあああああ! 現実から目を背けても何もならないぞ!
だいたいこんな面白そうなこと、見ないはずがないだろうが!
【歌唱効果対象選別】――スキル【歌唱】の効果を与える相手を選別する。
【歌唱範囲拡大】――スキル【歌唱】の効果範囲を広げる。
まぁこの辺りは名前のまんまだな。効果対象の選択と範囲の拡大だ。強いて言えば、今まで歌っていて周りの魔物が寄ってくることが無かった理由が分かったかもしれない。これのおかげで戦っている相手以外の魔物にはそもそも歌が届いてなかった可能性がある。
それを考えるとかなり重要なスキルだなこれ。バフ、デバフのミスも消えるだろうし、意外と侮れない良スキルだ。
問題なのはさ、他のスキルよ。
【魅了(歌)】――スキル【歌唱】を受けた任意の相手に魅了効果を与える。
【声帯保護】――喉に対する悪影響への耐性を付ける。封じ、病気などに効果あり。
【声質】――声がより美しく、魅力的になる。
「歌に魅了って、これ大丈夫? 俺らに悪影響とかないのかな?」
「任意だからな。敵にしか効いてないだろ。これのおかげで【歌唱】の通りも良かったんじゃねぇか? アイドル活動に使ったらとんでもないことになりそうだな……」
「まぁ何はともあれ。七緒ちゃんも自分から本気でアイドルを目指しているのがはっきりと分かって良かったよ。これなら〝アイドル七緒、二十六歳〟計画も進めていいんじゃないか?」
「よくないっ! そもそもアイドルなんて目指してないっ!」
「え? いや、それはないでしょ。【魅了(歌)】もそうだけど、【声帯保護】に【声質】だよ?」
「【声帯保護】なんてまさに、風邪から喉を守りたいという心の表れじゃないか。病気にも効果があるとハッキリと書かれている。素晴らしいプロ意識だよ」
「【声質】なんかこれ、戦闘でなんの役に立つんだ。完全に趣味スキルだろ。ふざけてんのかってキレてもいい所だぞ。まぁ俺らは七緒ちゃんを応援しているから怒るどころか、むしろ嬉しいけど」
「しかもそれが最高レベルなんですよね……。お姉ちゃん、これは流石にムリだよ」
「チヨ……! あなたまで……ッ!」
いや、これを擁護しろって言う方が無茶だよ。
いつまで自分の心を偽り続けるのか。それが君の成長を妨げている理由になっていると何故分からない?
そこから抜け出した時、君はダンジョンのアイドルとして一層輝くというのに……。
【歌唱】――スキル使用者の歌にバフ、デバフを付与する。楽曲ごとに効果は異なる。歌い手、聞き手共に曲への共感度、理解度によって効果増減。
【伴奏】――魔力により伴奏を再現する。歌唱効果50%上昇。
そしてとうとう判明したな。【歌唱】と【伴奏】よ。
「ほう。【伴奏】強いね。音楽を流すだけで常時バフデバフが五割増しは破格すぎる」
「他のバッファーもこれくらいの強化幅あんのかな? でも【歌唱】の効果がちょっと分かり辛くね? 理解に共感ってどういうこっちゃ? しかも歌い手と聞き手?」
「ああ~、なるほど。俺、分かったかも。七緒ちゃん。試しに【伴奏】付きで“聖剣の乙女~円卓の騎士に導かれ~”の主題歌を歌ってみてくれない?」
「ふざけてんですか!? この流れで歌う訳ないでしょ!」
「いや、悪いけどこれは真面目な検証だから。リーダー命令です」
「んっ……むっ、ぐっ……わっ、分かりました。本当に検証なんですね?」
失敬な。疑いの眼差しを向けてきおって。
俺がこんな状況でふざけるような男だと思っているのだろうか?
不満たらたらだった七緒ちゃんだったが、なんだかんだ歌う時はノリノリだった。一曲歌い終え拍手で褒めたたえれば、機嫌良さそうに手を振り返してくる。もう完全にアイドル気取りだよこの子。ちょろくなったなぁ。
で、【歌唱】の効果が出ている筈の皆を【鑑定】で見廻してれば。
「ああー、やっぱり予想通りだわ。俺と七緒ちゃんとチヨちゃんに比べると、川辺と伊波の強化がちょっと弱い」
「えっ? そうなのか?」
「ほう? それはまた何故だい?」
「たぶん、これが曲への理解ってことなんだろうな。お前らさ、今の歌はどういう歌だって解釈してる?」
「えっ? そりゃあ、立ち上がれだの剣を振れだのって歌詞だったし、戦いの歌なんじゃねぇの?」
「僕もそんなイメージだったね。実際興味本位でOPムービーを見たけど、そういう場面が多かった」
「は~いニワカ~。残念でした~。これは戦いの歌じゃなくて、か弱い主人公の乙女に強くなれと奮い立たせるイメージで作られた曲なんです~!」
「別にニワカでもいいんだがすっげぇムカつく。殴っていいか?」
「死ぬから止めておけ。しかしなるほど。曲の理解と共感はこういうことか。ゲームファンで歌い手の七緒ちゃんは当然として、楓太は僕よりミーハー根性があっただけだろう? チヨちゃんが同レべルの理解度があるのは?」
「その、お姉ちゃんから時々熱心に語られる時があったので、嫌でも覚えてしまったというか……」
「なるほど。オタ趣味の被害者だったか。同じ家で逃げ場もないのに、可哀そうにな……」
「被害とか言わないでください。ただの布教活動です」
「もはや信仰の域だったか。強火ファンは厄介だね……」
本当にな。趣味活動に熱心になるのはいいが、せめて他人に迷惑をかけないようにしてもらいたいものだ。
まぁともかく、これが【歌唱】の性質なのだろう。
歌い手と聞き手が楽曲に対して正しい解釈と理解をしなければならない。そして歌い手はさらに、聞き手に共感させるほどの歌を披露する必要がある、と。
それを説明すると、川辺は首を傾げながら難しそうに唸った。
「なんというか、使いづらくないか? 特に歌の理解の部分。身内なら七緒ちゃんの趣味に理解があるからいいかもだが、例えば初対面の相手と一緒に戦うとなったらどうすりゃいいんだ?」
「そんなの決まっている。事前にセトリを渡しておけばいい」
「もうそれ完全にアイドルじゃないか」
いまでも実質アイドルみたいなもんだし、別にいいだろ。
「あとはまぁシンプルに、誰もが知っている歌を選曲するとかだね」
「それが出来たら一番良いと思いますけど……例えば?」
例えば……なんだろう? 誰もが思いつく歌で、なおかつ強いバフが付きそうなもの……。
「J〇Mとかならどんな曲でも強そうだけど」
「死ぬまで戦う兵隊が生まれるのは間違いない」
「それで死ねるならむしろ本望だね」
「それ知っているの貴方達みたいな人だけですから」
「そうか。んじゃもうアンパン〇ンマーチとかでいいんじゃない?」
「適当! いや、それは誰もが知ってるでしょうけどっ! もうちょっと他に何かあるでしょ!?」
文句も多いくせに意外と注文が細かいなこの売れないアイドル。
まぁ確かに戦いの途中で気の抜けるような歌を歌われても困るか。
「この辺は各自、それとなく考えておこうか。あと七緒ちゃんは〈舞踏士〉の方ももう少し意識した方がいいかな。【剣舞】のレベルも1だし、それだけじゃもったいないでしょ」
「それは確かにそうですね。ちょっと調べてみます」
「アイドルなら歌と踊り、両方こなさないとね! 頑張れっ!」
「だからアイドルじゃ――はぁ。もういいですっ。いいわよっ。こうなったらとことんやってやるわよ……!」
おっ、おぉ……!? とうとう割り切った?
気の迷いかもしれないが、どうかそのまま行ってほしい。覚醒した七緒ちゃんがどこまで行くか、本当に楽しみだ!
「で、最後は川辺か。……はぁ」
「だからなんで俺の時はそんな嫌そうな顔すんだよ。意味分からんわ」
俺が【鑑定】をしたくなかった理由その物だからだよ。
……いや、もしかしたら俺の読み違いってこともあるかもしれないし。覚悟を決めて見るか。ふぅ、よし!
【人物鑑定】
名称:川辺健斗
レベル:14
ステータス:【MP】95 【STR】101 【CON】138 【POW】89 【DEX】69 【INT】47
〈戦士〉
【挑発】レベル3【槌補正】レベル3【革装備補正】レベル3【麻痺耐性】レベル1【守護】レベル3
ステータスは少し前に見たばかりだからあまり変わってないが、レベルが1上がっただけなのに【CON】の伸びはやっぱり凄いな。将来的にはどれだけ丈夫になるのか予想もつかない。
で、肝心のスキルなんだが。
「五個しか持ってないのか。少ないな。でも【麻痺耐性】以外のレベルが全部3まで延びてるのは凄い。スキルが少ないからこそか」
「【麻痺耐性】を覚えているのは……レッサーキメラの時の経験かな? あの時以来、マヒする状況になっていないから伸びてないんだろうね。よほど怖かったのかな?」
「いやそりゃ怖ぇよ! 敵が目の前に居るのに体が動かなくなってみろよ!」
うん、それはそうだよな。ごもっともだわ。
「でも俺、こんなスキルを持ってたんだな。【槌補正】とかまったく知らんかったわ」
「君、探索を始めたばかりの時、急にメイスが振りやすくなったとか言ってなかったかい?」
「あー、覚えがあるわ。ってことは結構最初から持っていたのか? よくよく考えてみれば、今まで戦いなんかやったことない俺がちゃんと武器を扱えるわけないよな」
戦士系はおのずと使っている武器の補正を取れるように出来ているのかもな。それならド素人が急に戦えるようになってもおかしくない。
その点で言ったら、伊波が【杖補正】とかを覚えていないのが気になるが。早く素材を見つけて作ってやるか。市販品の雑魚装備だから覚えられないのかもしれないし。
「しかし【革装備補正】を覚えちゃってるか。これはちょっとミスかもな」
「え? なんで? なんか問題あるか?」
「将来的には鉱石系を使って鎧装備も考えていたからさ」
革装備が悪い訳じゃないんだ。魔物素材も頑丈だし。ただ防御力を考えるとやっぱり鉄製の鎧かなと。この辺は相談しながらではあるが、ゆくゆくはそちらにシフトすることも考えていた。
だけど【革装備補正】を覚えちゃったなら、それ一本で行くしかなくなる。装備を切り替えたら死にスキルになっちゃうし。
それを伝えると、川辺はあ~と納得した声を出すが、逆に否定してきた。
「俺は革装備で良いと思うわ。深い層の魔物素材を使えば、鉱石系と同じぐらい頑丈な装備も作れるだろ? それに今回の遠征で思ったんだけどさ、動きやすさを考えると鉄製の鎧はちょっと。重いし疲れる」
「あー、それは確かに。長期的な遠征を考えると鉱石系の装備はむしろ向かないか」
探索に必要なのは防御力だけではないからな。本人がそれを望んでいるならなおさらだ。
総合的に見ると、探索者は自然と革装備に落ち着いてくるのかな?
この辺はちょっと聞いてみないと分からないな。タケさんや世永さんに相談してみるか。
「で、最後のこの【守護】って奴なんだけど、これはどういうスキルなんだ? まぁ明らかに防御のスキルだろうけどさ」
「ちょっと待ってろ。……あ~。防御行動に対して補正が掛かるスキルみたいだな」
「やっぱりそういうスキルか。強いスキルではあるけど、俺ちょっと守りに偏りすぎじゃねぇ? しかも【挑発】以外全部パッシブだよな? 俺も自分から攻撃するようなスキルを覚えた方がいいかな?」
「でも、川辺さんがどっしりと構えてくれるおかげで、私は安心して戦えてますよ」
「はいっ! すっごく頼りになります! 戦っている時は川辺さんが一番カッコイイですっ!」
「えっ、本当? なら無理して攻撃スキルを覚えんでもいいかなー!」
単純なおデブは、デレデレとした笑みを浮かべてあっさりと意見を変えた。
本当に扱いやすい奴だが、こういう奴だからこそ【守護】なんてスキルを覚えたのだと思うと、馬鹿にすることは出来ない。
俺が小さく笑っていると、声を潜めて伊波が尋ねてきた。
「それで? 実際の【守護】の効果は?」
「ああ、本当はな――」
【守護】――仲間を守ろうとする全ての行動に対してプラス補正。ステータス上昇。
「……なるほど。仲間ね。自分は勘定に入っていないのか。なんというか、探索者になってから川辺を見る目がグイグイ変わってくるね」
「全くだよ。【挑発】といい【守護】といい、ちょっとずるくないか?」
本当にこいつはさぁ、なんでスキルでこんな泣かせにくるの?
これじゃあもうクソデブとか馬鹿に出来なくなるだろうが。
性欲で〈錬金術師〉を取れちゃった俺の立場も考えてくれよ。惨めすぎるだろ。
だからこいつのステータスは見たくなかったんだよ!
♦ ♦
【探索のヒント! その三十】
〈【声質】〉
声がより美しく、魅力的になる。言ってしまえばただそれだけのスキル。スキル使用時だけでなく、日常から効果が表れる。
一見戦闘では役に立たない趣味スキルと思われがちだが、【歌唱】を主武器とする〈吟遊詩人〉の場合、これ以上ない実用スキルと化す。
魅力的な声による【歌唱】は、対象をより深く歌に引きずり込む。その分、【歌唱】のバフ、デバフの成功率に繋がる。
こういった趣味スキルと思われがちな物でさえ、使用者にとっては必要な物であることが多く、本当の意味で不要なスキルは存在しない。重要なのはスキルを追求し、その効果を正確に掴むことである。
高レベル【声質】所持者の声優活動、ASMR配信が待たれる。




