第46話 小畑会団結!!②
「急にどうしたんですか東さん。そんな芸人みたいな反応して」
「い、いえ。頬杖をついていた所で驚いてしまったので……あの、もしかして、それが目的で小畑会を作ったんですか?」
「え? まぁ、そうですね。もともと協力体制にありますし、俺達の伝手では皆さんが一番強いですからね。どの道、これから素材収集とかも頼むことになりそうなんで、ならもう組織化して戦力にしちゃえ~、とは思っていました」
「そ、そうでしたか。ちょっと予想外だなこれは……すいません。続きをお願いします」
東さんは自分の顔をほぐすように頬を伸ばして、続きを促す。
まぁ、大丈夫そうならいいけど。
「伊波がこれを思いついたのは、タケさんからサトウさんの話を聞いたからなんですよ」
〝夢幻のサトウ〟――その力を利用しようと身柄を狙われ、自衛隊を差し向けられたものの、圧倒的な力で自衛隊を不殺で撃退し、報復として黒幕である政治家を精神崩壊させた怪物。
「よくよく考えてみれば、国から狙われるっていう点で良い見本なんですよね」
「そして暴力が全てを解決する、という完璧な解答を示した例でもあります」
そう。伊波が言ってくれるまで思い出せなかったけど、これ以上ない答えが既に示されていたんだ。
圧倒的な力こそが何よりの正義。弱肉強食こそこの世の真理だと。
クイッ、と眼鏡をずらし、伊波は続けた。
「とはいえ、サトウ氏は相当な実力者。同じことが僕らに出来るか、という疑問がありました。その為、国の最大戦力である自衛隊の事を調べてみたのです。率直に皆さんに伺いますが、〝自衛隊は強い。しかし倒せない相手ではない〟――この認識に間違いはありますか?」
伊波の問いに、皆がそれぞれ悩んだ顔を見せる。
そして、真帆さんが申し訳なさそうに答えた。
「まぁ、間違ってはないわよね。私でもある程度の数なら勝てる自信はあるし」
「自衛隊は~……というか~……〈兵士〉の強みは~……集団戦だからね~……」
アキラさんの発言に、皆が肯定する。難易度の差はあれど、数人程度なら余裕というのが皆の共通認識のようだ。
というのも、これは自衛隊員が取得する〈兵士〉の性質にある。
〈兵士〉――軍隊に所属する者が得られるジョブ。このジョブはその名の通りまさしく兵士らしい能力を持っている。
ステータス的にはバランスが良く、穴がない。習得できるスキルも万能で、あらゆる効果のスキルを覚える。そして〈兵士〉の最たる特徴は、【集団行動】と【陣形】という〈兵士〉特有のスキルの存在。
【集団行動】は、同じスキルの味方の数が増えるほど効果が上がる、ステータスバフのパッシブスキル。
【陣形】は〈兵士〉で同じ行動をする味方に特定のバフを与えるアクティブスキル。
どちらも人数が増えればその効果が上がるスキルであり、軍人に相応しい能力である。
こんな〈兵士〉の力が最も発揮するのは、大規模な集団戦。世界の各地でスタンピードという災害が起きている訳だが、ギリギリのところで踏みとどまっているのは〈兵士〉で揃えた軍隊が居るからだ。
大量の魔物が溢れるスタンピードは、どんな探索者にとっても脅威であるが、〈兵士〉にとっては自分の力が発揮できるこの上ない機会とも言える。
〈兵士〉とはまさに、軍人がスタンピードから人々を守る為に用意されたような力なのだ。
ここまで聞けば中々強そうな〈兵士〉というジョブだが、実は結構な弱点もある。
「ステータスが平均的で穴がない。その分、長所もねぇんだよな。んでスキルも色々と覚えるが、効果が低い。専門家には負ける。ぶっちゃけ個人で見れば怖くねぇんだわ」
「さらにキツイのが【集団行動】のデメリットだな。あれはスキルが発動する人数に満たなければ、自身にデバフが掛かる。おまけに〈兵士〉のステータスは恐らく【集団行動】を前提としている部分があるんだろう。そもそもの能力が低めなんだ」
「平たくて低めのステータスに、そこそこの効果しかないスキル。単独行動時のデメリット。要するに、良くも悪くも兵隊なんですよね。個の特異性より、補充の利く人材ということなんでしょう」
それぞれトシさん、世永さん、マサ君の発言である。
三人共反論がない当たり、やはり認識は共通しているのだろう。
「私だったら真っ先に敵の中心に飛び込んで、とりあえず指揮官を潰すわね。混乱しているうちにもう一人、二人。これだけでかなり弱くなるわ。あとは反撃を貰わないように慎重に仕留めていくだけよ」
ミライさんはなんでもないように言うけど、それが出来るってとんでもないんですけど。そして誰もそれを気にもしてないあたり、ここに集まっている人達の実力も伺える。全員がそれに近いことが出来るのだろうな。たとえ全然そういう風に見えなくても。
俺はなんとなく天城さんを見る。いや、特に理由はないけどね?
その視線に気づいた天城さんは、あっさり首を振った。
「俺は無理ンゴ」
「いやいや。なんでそこでそんな嘘を吐く必要があるんですか?」
貴方がムリっていうのはないでしょ。一番レベル高いんでしょうが。
疑っていたら、タケさんがあっさりと言った。
「ああ、天城の爺さんはマジでムリだぞ。そういう人だからな」
「えっ? そうなんですか? 本当に?」
「俺が嘘吐いてどうする」
「それもそうですね……。すまんな」
「ええんやで」
天城さんはこれで済むんだから謝罪が楽でいい。
しかし、高レベルなのに自衛隊員に勝てない理由はちょっと気になるな。後で教えて貰お。
皆の意見を聞き、伊波は頷いた。
「概ね考えていた通りですね。それならよかったです」
「いや、といっても俺らにサトウと同じことを要求されるのはキツイぞ? 確実になんとか出来るのは分隊までで、小隊になるともう厳しい」
「聞くところによると、サトウは中隊を一人で壊滅させたそうだからな。俺らじゃ中隊が相手になると磨り潰されてお終いだ。何も出来ん」
「ですけど、逃げ延びることは出来るでしょう?」
伊波の問いに、ハッキリと勝てないと断言したタケさんと世永さんは黙った。
顎を撫で考えつつ、引き継ぐようにトシさんが言う。
「まぁ、逃げるだけなら余裕だよな。数が多いとどうしても小回りが利かんからな。無理に追いかけて孤立するようなら、それこそぶち殺せばいい」
「全国の自衛隊に追われ続ける、と考えるといずれは負けますが、中隊から逃げ切るだけなら出来ますね」
常識的なマサ君ですら、それに同意した。
となれば、やはり勝算はあるな。
「流石にサトウ氏と同じことをやるのは難しい。ですが、今の段階ですら分隊相手なら勝てるし、中隊相手でも逃げ切ることも出来る。それなら、そんな皆さんがもう少しレベルを上げれば? そしてこれだけの数が居れば? 協力すれば、サトウ氏と同等の脅威として見られるのではないでしょうか? そうすれば、小畑会への干渉を防げるとは思いませんか?」
伊波の言葉に、皆がまた難しい顔で押し黙った。
そんな中、東さんが口を開く。
「中々面白い意見だと思います。ですが不可能ですね。一番重要な問題――そもそもそんな簡単にレベルを上げられたら苦労しません」
それは尤もな意見だが……なんだろうな。
東さんがなんか嬉しそうに見えるのは気のせいか?
「高レベルになればなるほど、本当にレベルは上がり辛くなる。今の小畑さん達では想像できないかもしれませんが、その壁は本当に高いですよ。20半ばの僕でさえそうなのですから、タケさん達のような一流レベルとなるとね」
「んん……まぁ、これは東が正しいな。自画自賛になるが、俺ら以上にダンジョンで戦い続けている奴らはそういない。そんな俺らでも今では滅多に上がらなくなっているしな」
「私達より上にはサトウや林華が居るけど、ハッキリ言うとアイツらは壊れているのと、イカれているだけだから。ようは狂人よ。同じ真似をしろと言われると私達では厳しいわね」
すげぇ言われようだな。同じ変人枠であるミライさんに言われるなんて、どういう人たちなんだ?
っていうか、林華って森山さんのことだよな? あのエルフさんが狂人枠なの? ショックなんだが……。
ある意味ここ最近で一番の衝撃を受けていると、残念そうなトシさんの声が聞こえた。
「さすがにちょいとムリがあるな。根回しの妥協ではなく、リスクは有ってもよりリターンの大きい反抗を選ぶのは俺好みではあるんだが。いや、マジで惜しいなこれ」
「ですが、どんな理想も可能性が無ければ絵にかいた餅。大言壮語の夢物語です。ゼロにいくらかけようが、ゼロであることには変わりありません。もう少し現実的な計画を立てなければ」
ふふふふっ、と笑っている東さん。
マジであの人どうしたんだろう。俺の味方の筈だよね? 完全に敵側の反応なんだけど。なにかあったん?
俺は東さんに若干の心配を覚えたが、伊波は気にした様子もなく頷いた。
「皆さんの意見は御尤もです。ですがそれは、あくまでも常識的な探索者の話。僕らには偉大なる会長、楓太の力があります」
「小畑さんの……というと?」
「ああ、はい。実は俺【魔物鑑定】で魔物の経験値を。【人物鑑定】で次のレベルまでの必要経験値を見ることが出来るようになったんですよ」
「へぇ、経験値が……え――」
『――はぁ!?!?!?!?』
再び会議が荒れた。




