第43話 小畑会壊滅!?①
小畑会の結成が決まった翌朝。俺の自宅にて。
俺達はまた、二日酔いで苦しんでいた。
「流石に短いスパンでの飲みはキツイ……」
「とはいえ、景気づけが必要な場で断れねぇだろ。まだその程度の社交性は残ってるわ……」
「つくづく僕らはもう若くはないんだね……」
レベルを上げてから明らかに身体の衰えは解消されているんだけどな。節々の鈍りとか痛みは消えて、むしろ動きが鋭くなってるし。
それでも二日酔いは一向になくならんな。もっと高レベルになれば違うのだろうか。
「とはいえ、なんか腹に入れたい――おい楓太。冷蔵庫に何もねぇんだが」
「ああ〜、ちょうど買い出しに行こうとしていたタイミングだったしな。コンビニでも行こうぜ。伊波はどうする? 歩けないならなんか買ってくるか?」
「……いや、僕も行く。体を動かした方が楽になりそうだ」
三人でよろよろと動き出し、コンビニに向かう。そして歩き出して数分も経たないうちに、俺たちは後悔し始めていた。
「暑すぎて死にそうなんだが……」
「言うな。余計に辛くなるだろ。そんなに暑いんだったらその脂肪を脱げば良いだろ」
「猟奇的すぎやしないか……ダメだね。怠すぎてツッコミのキレがない」
季節は八月も半ば。外に出るだけで死人が出る時期だ。そりゃこうなる。
特に暑さに弱い川辺は、恨めしそうに空を見上げている。
「照り続ける太陽が憎たらしくて仕方ない」
「暑さに参るという意味では同意だけど、俺は今なら許せるな。見ろあの太陽の輝きを。まるで俺たちの未来を祝福しているようではないか」
「何をバカなことを言ってるんだか」
呆れつつも、理解を示すように伊波は苦笑する。
だが昨日の決起集会はこの上ない成功だったのだから、少々浮かれるのも許して欲しい。
「タケさんが上手いこと俺たちの評判を上げてくれていたのもあって、勝算は高かったとはいえ、無事に全員が仲間になってくれたんだ。浮かれるのも仕方ないだろ」
いきなりだが、俺たちの計画の最初の関門がここだった。そこを無事にクリア出来たんだからな。そりゃ舞い上がる。
茹だるような暑さだが、空を見上げれば燦々と輝く太陽が、まるで俺達の栄光を約束しているような――
「おはようございます。皆さん」
「おはようございまーす!」
……聞きたくなかった。今は一番聞きたくなかったなぁ。
まさか出待ちされていたとは。そこまでするかよ。
まぁいい、小畑会結成により俺たちの決意はさらに固まった。断固として拒否して見せる。
「おはよう、二人とも。休みの日にわざわざご苦労さ――ま゛っ!?」
皮肉の一言でも飛ばしてやろうと思ったが、思わず口が閉ざされる。
ニコニコしている七緒ちゃんと、ピーちゃん付きのチヨちゃん。ここまでは良い。だが、なんで――ッ!!
「なんで真帆さんとアキラさんが居るんですか……?」
「おはよう。楓太さん」
「おはよ〜……楓太く〜ん……」
ニコニコと笑っている二人が、今は何より恐ろしい。確実に俺の味方ではないからだ。
そして何より俺たちは今、後ろめたさを抱えている。
隣の二人に目をやれば、俺と同じように動揺している。頼りになりそうにはない。
落ち着け。心を鎮めろ。ここはなんとしても乗り切るんだ。
「七緒ちゃん達に、小畑さん達との間を取り持って欲しいってお願いされたのよ。二人に頼まれたら断り辛くてね」
「お願いしちゃいましたっ!」
「しちゃいました~!」
……このクソ女どもがよぉ!!
わざとらしい照れ笑いなんかしやがって! さてはムリヤリ部屋を追い出されて根に持ってやがるな!? 絶対に勝てない助っ人を頼むとは汚い奴らだ! 見損なったよ!
「パーティー内のことだし、口を出すのもマナー違反かと思ったんだけどね」
「今回は〜……ちょっと不可解だったからね〜……楓太君たちの為にも~……もう少し話し合わせた方がいいかなーって〜……」
余計な真似をしやがってよぉ。実際、特に理由もなく解散を突きつけただけに反論しづらいんだぞこっちは。
だが、だとしても突っぱねる! 小畑会の絆と決意は固い!
「お二人とも分かっているようですが、本当に余計なお世話ですね。パーティー内の問題は自分たちで片付けます。悪いですけど口を挟まないでくれますか?」
「それは……その通りね、ごめんなさい。紹介した立場として面倒を見ないといけないと思ったのだけど、所詮は部外者だものね。力になれるかと思ったけど、傲慢だったわ。反省します」
真帆さんは丁寧に頭を下げてくる。
おっ、おお。ありがたいことだが、ここまで下手に出られると、流石に気まず――
「だけど私たちも聞きたいことがあるのよね。ここ数日――タケと何をやってたの?」
――クソがッ! 油断させてきやがって! こっちが本命か!!
そんな俺の動揺を見逃さなかったのだろう。真帆さんは目を鋭くして続ける。
「珍しくタケが私たちに隠れて、コソコソと何かやってるからさ。この間は〝男同士の飲みだ! 楓太に探索者を続けることを提案してくる!〟って言ってたけど、どうなったのかと思って次の日に確認してみたら、何か誤魔化された感じがしたんだよね」
「楓太くんだったら〜……何か知ってるよね〜……? 教えて欲しいな〜って〜……」
「最初はただ相談しただけだったんですけど~。タケさんまで巻き込んでいるなら絶対に何か凄いことをやろうとしてるんだろうなって思ったんです~。これは何がなんでも話に入れてもらわないとって思って~」
「私達も仲間に入れてくださ~いっ」
ホンット腹立つこの姉妹! わざとらしい猫なで声で言いやがって! 勝ったつもりか!?
この二人ならいくらでも誤魔化せるが、流石に真帆さん達はムリか。とはいえ、ここで素直に喋るわけにはいかない。
少しでも遠ざかろうと、俺は反射的に後ろに下がった。
――フワッ。
下がったところで、後頭部に感じる覚えのある柔らかさ。そしてこの力が抜けてしまういい香りは……ッ!
一周回って冷静になり、一歩前に出て振り返る。
黒髪の美女が、俺を見下ろしていた。
「お久しぶり。楓太君」
「お、お久しぶりですミライさん。お元気そう――でっ!?」
とりあえず挨拶、と行きたいところだったが、ミライさんの格好に驚き、変な声をあげてしまった。
胸はしっかりと隠しているが、それ以外は丸見えとなっている水着のような恰好。下もピッチリとしたパンツで体の線が強調されている。
まるで露出狂一歩手前のような姿。しかし体型を際立たせる格好でもあると言えるか。日本ではなかなか見かけないが、アメリカとかだったら普通に居そうな服装だ。
「きょ、今日はまた随分と印象の違う服装ですねっ……」
「ふふっ、どちらかといえば初めて会った時の方がいつもと違うのよ。普段はこんな感じなの。こっちの方が私の美しさが伝わりやすいでしょ?」
ファサリと髪を靡かせるミライさん。その後ろではパーティーメンバーか、数人の女性がパチパチと手を叩いて賑やかしている。
確かに美しいのは認めるが……。
「その、恥ずかしくないですか? 露出的な意味で」
「私の身体に恥ずかしい部分なんか一切ないわ」
凄ぇ自信。この人やっぱりナルシストだな。
それに相応しい美貌が備わっているってのは素直に尊敬に値すると思うが。
「それでね楓太君。私も貴方に聞きたいことがあったのよ。そこでちょうど真帆から誘われたから、こうして一緒に会いにきたの」
「そ、そうなんですね。一体なんでしょう?」
「貴方。いえ、貴方達、何か私に隠してない?」
「隠してないかって……何をです? ミライさんに隠し事なんて、そんな畏れ多い――」
「女抜きで男だけで集まって、一体何を話し合っていたのかしら?」
「――――――」
俺は今日、ここで死ぬ。
ろくに修羅場を通ってない俺でも分かる直感だった。まぁ、あくまでそんな気分だって話だが。
「な、何でそれを……バレないように動いた筈……」
「完全に漏れないなんてムリな話だし、女の勘を舐めちゃダメよ。それに私、トモダチが多いのよ?」
妖しく微笑むミライさん。いつもなら見惚れているところだが、その色気が今は逆に怖い。
二人に助けを求めようと顔を逸らそうとしたところで、顎クイされてそれも許されない。
じっと覗き込むように目を見られ、恐怖からヒッと声が漏れる。魔物よりも怖い女が居ると、思い知らされた時だった。
「女が居たら言えない話を肴に男だけの飲み会。それだったら私も理解があるけどね。集まったメンバーを考えると、ちょっと見逃せないのよね。ここを逃したら絶対に後悔する。そんな予感がするのよ。だから……教えてくれるわよね?」
「それは……その、ムリです……」
「あら。私でも教えてくれないのね? ふふっ、楓太君のそういう義理堅いところ、好きよ。でも――私よりアイツらを取るのは気に入らないわ」
ゴキリッ、と空いた手を鳴らすミライさん。
ごめん、皆。俺、死にたくないっ。
「違います違います違いますっ! 俺がミライさんを裏切る訳ないじゃないっすか~! ただ、言えないのには事情がありましてっ!」
「へぇ? どんな?」
「実は、〈呪術師の契約書〉にサインしたので、情報漏洩を禁じられてまして」
「嘘ッ!? そこまでやったの!?」
「これは~……ちょっと予想外だね~……」
それを聞いた真帆さんは目を瞠り、アキラさんは真顔になった。まぁその気になれば命を左右出来る契約書を使ってまで秘密にしてるんだもんな。そらそうよ。
当然、ミライさんも似たような反応だ。ニィッ、と肉食獣みたいな笑みを浮かべている。
「これはいよいよ面白くなってきたわね。確かめない訳にはいかないけど、それじゃあ喋れないわね」
「そう! そうなんですよ! だから仕方なく――」
「それじゃあその集まりに参加した連中を集めましょうか。もちろん除け者にされた女も全員声をかけるわ。男共は楓太君が声を掛ければ全員集められるでしょ? 出来るわよね?」
「…………はい」
分かってはいたが、逃れられようもないか。まさか会長たる俺が足を引っ張ることになるとは。……とりあえずタケさんに命じて集めさせるか。ワンクッション挟んだ方が責められ辛いだろう。
「お前、少しは粘れよ」
「他の皆に申し訳ないと思わないのか」
「だったらお前らがミライさんを止めて見ろよ……ッ! っていうかお前らも同罪だからなっ?」
ビビって一言も発してない奴らに俺を責める権利はねぇんだよ!
「なんだか良く分からないですけど、凄いことになってますね~!」
「楓太さん。本当に何を隠しているんです? 今の内に謝っておいた方がいいんじゃないですか?」
「謝るようなことなんか何もしてないんだよ……ッ! っていうか何で何事もなかったかのようにしれっと話しかけてきてんのかな? 全部君らのせいだからね?」
お前らマジで許さんからなっ! なにがなんでもパーティー追放してやるっ!
わりと本気で睨み付けたというのに、七緒ちゃんは呆れたように鼻を鳴らす。
「なに言ってるんですか? 元はと言えば隠し事をして私達を仲間外れにする楓太さんが悪いんでしょ?」
「私も傷つきましたっ! 反省してくださ~い!」
「ピッピエー!」
チヨちゃんまでピーちゃんと一緒に楽しそうに煽ってきおる。
あんなにボロボロだったところ助けてやったのに、恩知らずな姉妹めがっ!
許さん、許さんぞっ! 追放出来ないなら絶対に屈辱のエロ装備を渡してやるからな!




