第38話 小畑会結成①
協力者を一度、全員集めて欲しい。
――ただし男だけ。
そう伝えたタケさんの動きは早すぎた。なんと相談した二日後には、会合の準備が済んでいた。
流石に急すぎて全員を集めることはムリだったが、やはりタケさんも俺のスキルの重大さが分かっていたらしい。
現在ダンジョンに潜っている人達を除き全ての仲間に声をかけ、今こうして集合場所となる、都内の寂れた公民館の会議室へ集まり始めている。
「この人たち全員が俺らのために集まってくれてるって考えると、今更ながら震えてくるわ」
「同感だが、しっかりしろ。お前が始めた物語だろ」
「それともここでやっぱり止めるかい?」
ざけんな。止める訳ねぇだろ。俺の夢のためにはこの程度で怯んでられねぇんだ!
っていうか、ここで止めたらそれこそ集まったくれた人たちにぶん殴られるわ。
「よう楓太。元気そうだな」
「ああトシさん。お疲れ様です」
パーティーメンバーを引き連れ、トシさんは俺を見るなり近寄ってくる。
相変わらず、ちょっとワイルドな雰囲気があるものの、気の良いおじさんにしか見えない。これでダンジョン内では誰よりも凶暴に戦うというらしいから探索者は分からない。
「急に集まれっていうから驚いたぜ。俺もダンジョンに潜るつもりだったんだが、予定変更だよ」
「ああ〜、それは申し訳ないです。すいません」
「なに、お前からの呼びかけとなっちゃ来ないわけにはいかないだろ。むしろこの時を待っていた、って気分だ」
待っていた? 何を?
「――その通りだ」
トシさんの後ろからぬっと現れたのは、タケさんに引けを取らない禿頭の大男。年代はトシさんと同じ四十前半くらいか。デニムに紺シャツとシンプルな姿だが、はち切れんばかりの筋肉で今にもシャツが破けそうだ。
しかしながら何よりも特徴的なのはその顔。大きな鼻に小さすぎる目。角ばった顔つき。まるでオークのような、失礼ながら不細工な面構え。
体つきも加えて戦士としては迫力のある男。しかしながら、外見に反して優しい人だということを俺は知っている。
「世永さん、お疲れ様です。来てくれてありがとうございます」
「なに、気にしなくていい。トシの言う通り、ここで来れなかった方が後悔する話だからな」
「後悔ですか?」
もしかして、話が漏れているのか? 確かにホムンクルスの話はそのレベルの話だとは思うけど、タケさんは秘匿のために直接でしか話さないって言ってたんだけどな。
まぁ、今日ここに来る人達は全員信頼できるし、どうせ話す内容だし別にいいか。
「世永ぁ。やはり来たか」
「当たり前だ。悪いが譲る気はないぞ」
「そりゃこっちのセリフだなぁ……ッ!」
パーティーメンバーまで巻き込んで、ああ? おん? とチンピラみたいな睨み合いを始めるトシさんと世永さん。
仲が悪い訳じゃなく、ただのじゃれ合いのようだが、探索者は血の気が多いからな。ここからマジの喧嘩になることはしょっちゅうある。ただの生産職でしかない俺にはちょっと怖すぎる。
「二人とも、そこまでにしてくださいよ、みっともない。小畑さんが怖がってるじゃないですか」
さらにそんな二人を止める若い男が現れる。
二十代前半の若々しいイケメンだ。ただし、ホストのようなチャラチャラした空気は欠片もない。どちらかと言えばキラキラしていて、アイドルになってもおかしくない子だ。
「やぁ、マサくん。お疲れ様。ごめんね急に呼び出して」
「いえいえ、小畑さんの呼びかけなら優先しますよ。この間はアイテムをありがとうございました。おかげで二十階層まで潜れました」
そう言ってマサくんは頭を下げる。
この子はダンジョン発生当時、大学三年生だったのだが、就職活動もせずに探索者を始め、そのまま本業にした何とも行動力のある若者だ。
有名私立大学で成績もトップクラス。どんな進路も選べる優秀な子だったのに、面白そうだからと同級生の仲間と共にその道を選んだらしい。
そして今は探索者として成功しているのだから凄い。これだけの若さで結果を出していると天狗になってもおかしくないが、誰にでも誠実な対応をする。
顔よし、性格良し、能力よし。コミュニケーション能力も高い根明の住人。俺とは正反対の子だな。正直、こんな機会でもなければ一生縁がないタイプの子であることは間違いない。
「マサか。最近益々調子が良いみたいだな。とは言えそのせいか? 随分と生意気になったもんだ」
「まったくだ。散々目をかけてやったっていうのに、俺達を相手にみっともないときたか。あんまり調子に乗ると痛い目を見るぜ?」
「ふふ、案じてくれてありがとうございます。でも、いつまでも保護者気取りは勘弁してくれますか?」
「マジで調子に乗ってるみてぇだな。たかだか二十層程度しか進めないガキが」
「それは今の話ですよ。この会合で僕達はさらに伸びる。すぐにアンタらをぶち抜いてあげます。譲る気はありませんよ?」
「テメェには百年早ぇよ。自力で深層を潜れねぇ奴は大人しく低層で腕を磨いてな」
止めに入ったはずなのに、マサ君まで参入してしまった。良い子なんだけど、舐められたら終わりっていう探索者らしさにずいぶん染まってるからな。
よりヒートアップしていくかと思われた三パーティーの争いだが、それは突然終わりを迎えた。何やら重苦しい重圧を放つ存在が、会議室に入ってきたからだ。
それは小柄な老人だった。よれよれのシャツにチノパンとラフな格好。身長は俺よりも低いくらいで、結構な歳を召している。にも関わらず、背筋はピンと伸びて衰えを感じない。
一見すればただの健康的なお爺ちゃん。だが、その身から自然と溢れるプレッシャーは紛れもなく本物。ここに居る探索者全てを超えるほどの強さを身につけた人だった。
「天城さん。お疲れ様です」
「……おう」
俺が挨拶すると、老人――天城さんはそれだけ返事をして、すぐに用意された席の一つに着いた。
座って静かにしている天城さんに対する敬意か、トシさんも大人しくなっている。
「ちっ。じゃれ合いはここまでだ」
「ああ。そうするか」
「僕は好きで睨み合ってた訳じゃないですけどね」
「吐かせクソガキ。しかしまさか天城のジジイまで来るとは。よっぽど本気のようだな」
トシさんが席に着くなり、残りの二人もそれに続いた。
誰もが大なり小なり、天城さんを意識している。それだけの実力と実績があのお爺さんにはある。実力主義の探索者だからこそ、年齢は関係なしに強さが尊ばれる。
天城さんはソロで活動していながら、この中の誰よりもレベルが高い。あの年齢でそこまでの強さを得るに至ったからこそ、誰もが一定の敬意を払っており、そしてあの周囲に撒き散らすプレッシャーもあって一目置かれている。
タケさんですら、天城さんに声をかけるのは緊張すると言っていた。しかし俺たちは、あのお爺さんがどういう人なのかを知っている。
天城さんはスマホを取り出しいじりはじめた。その直後、ピコンと俺達のスマホが鳴る。
いつも使っているアプリにメッセージが入っていた。
コミュ障マタギ:誰か助けてクレメンス
コミュ障マタギ:何故か皆が俺を睨んできて怖いンゴ
チチガスキー:草
ロリガスキー:草
エルフモスキー:草
コミュ障マタギ:酷いンゴ
そう、これこそがコミュ障マタギこと天城さんの真の姿。彼はただコミュ障を拗らせた、めちゃくちゃ強いだけのネット民お爺ちゃんなのだ。
普段撒き散らしているプレッシャーは、人に話しかけられたらどうしようという緊張からくるものらしい。気持ちは分かるけども、力抜けるわ。
天城さんは地方の村でマタギをやっていた人だったそうだ。だが、とにかく人と話すのが苦手で、人付き合いが必須の田舎だと尚更生きづらかったそうな。だからこそネットこそが彼の居場所だったらしい。
まともに喋れないせいで小馬鹿にされ、村の者にこき使われる日々。それでも誰もやる人が居ないのと、一人で仕事が出来るし村に貢献出来るからとマタギをしていたそうだ。
そんな天城さんだからこそ、ダンジョン発生時に探索者となったのは必然だった。村の傍にダンジョンが現れ、押し付けられた形で探索者になったが、それまでの経験が活かされ一流の探索者となった。マタギだった頃は生活もままならない状態だったが、おかげで人並みの生活を送れるようになったらしい。
が、ここで田舎の悪いところが出た。今まで見下していた者が裕福になったことが気に入らなかったらしく、稼ぎのほとんどを村に還元しろと命令されたそうだ。
これには流石の天城さんもムカ着火ファイヤー。両親も鬼籍に入り独り身だったのもあり、あっさり村を見捨てて都会に一人出てきたらしい。
すぐに住むところも見つけた上、探索者のノウハウはどのダンジョンでも通じる。無駄な近所付き合いもなくネット環境も整っている都会は、天城さんにとって天国だった。
ちなみに、天城さんが消えた村は野生動物の対処も出来ず荒らされ、ダンジョンに手が回らず最後にはスタンピードが起きて廃村となったらしい。
その話を聞いた時、天城さんは清々したンゴと笑っていた。
俺も最初は天城さんを誤解して、気難しい喋らない人だと思っていた。会話が進まず詳細な話も聞けないのでこれはまずいと思い、いっそアプリで詳しく注文聞きます? と提案すれば即受諾。
そのやり取りの中で思わず身内ノリで返信してしまって青い顔をしていたが、まさかの同じノリの返事にこれはもしや……? とそのままプライベートな話をした結果、彼がネット民で俺ら寄りの陰キャだということが発覚した。
それ以来、仲良く友達感覚の付き合いとなっている。未だに直に会うのは緊張するらしいが、時々ゲームをやったりして一緒に遊んでいる。
本当は面白い爺さんだから、いつかその誤解を解いてやりたいが、難しいだろうな。本人もその気がないみたいだし。というかコミュ障に会話は難易度が高いわ。




