第37話 結成秘話~全てはここから始まった~②
「正直な、今日あたり連絡があるかもと思ってたんだよ」
七海姉妹襲来後、タケさんとの待ち合わせ。
例の店の奥の部屋に案内され、席につくなりタケさんはそう言った。
「もしかして、予想して休みを取ってました?」
「まぁな。お前のことだから、ボス部屋を攻略したら相談した俺には連絡をくれるだろうと思っていたんだ。それで、その様子だと倒せたんだろう? ジョブは手に入ったか?」
じっとタケさんは俺を見てくる。本当に面倒見がいいなこの人。何で俺以上に真剣になってるんだ。
人が良すぎるタケさんにおかしくなり、思わず笑ってしまった。
「いえ、残念ながら手に入りませんでした。でも――」
「そうか。手に入らなかったか」
スキルは手に入ったよと伝えようとしたが、ガックシと頭を落として息を吐くタケさんに遮られる。
改めて伝えようとする前に、タケさんは頭を上げて続けた。
「残念だったな。お前の失意も察する。辛かったろうな」
「そうですね。でも――」
「だがな、諦めるにはまだ早いぞ」
今度こそスキルは……と続けようとしたところで、それ以上は言わせまいとばかりにタケさんが声を張る。
「お前は冷静な判断が出来る男だ。だからこそ、ここで一歩引く決断をしたんだろう。だが、本当はまだまだ先に行きたい。そう思っているはずだ。違うか?」
「……まぁ、それはそうですね」
「だろ? だからな、俺達も話し合ってたんだよ」
うんうんと、タケさんは腕を組みながら満足そうに頷く。間が悪いと言うかなんというか、タケさんにしては珍しく自分の世界に入ってる感があるな。口を挟めない。
川辺と伊波がどうすんだと黙って俺に目で訴えてくるが、このまま喋らせよう。ちょっと面白いから。
「喜べ。仲間内で順番にお前らの護衛をして、レベル上げの手伝いをするということで話がついた。さらに〈調教師〉を雇って、お前の足を用意することも考えている。お前の思う探索とは違うかもしれんが、まだまだお前の可能性は閉ざされちゃいないぞ」
「護衛に足まで……えっ!? いつのまにかそんな話が!?」
流石にこれは驚いた。タケさんのような一流探索者にこんな介護してもらってのレベル上げなんて聞いたことがないぞ。
というか、ちょっと待てよ?
「あの仲間内って具体的には誰の事です?」
「お前と取引した奴ら全員だよ。俺はもちろんだが、トシにミライさん、天城の爺さんに、世永、マサ。その周辺の奴らに、そのほか個人で動いてる奴らもだな」
「そんなに!? 本当に皆じゃないですか!?」
全員が中堅以上の探索者だ。顔も知ってるし信頼できる。こんな大規模な護衛なんてどんな大物でもできないぞ。そのレベルのことを俺にするつもりなのか? 本気が伺えるな。
光栄だ。光栄なんだが……そもそもそれも要らなくなってんだよな。
「ありがたいですけど、でも――」
「お前の性格じゃあ、迷惑をかけるからって遠慮するだろうな。でもな、とりあえず最後まで俺の話を聞け」
皆まで言うな、とばかりにタケさんは掌を前に出して俺を止める。
その前に俺の話を聞けって感じなんだが……。
「俺らの間で、前々から話には出てたんだよ。いざとなったら持ち回りで楓太の手伝いをしても良いんじゃねぇかってな」
「そうなんですか? なんだってそんな話しが?」
「そりゃお前、お前にそれだけの可能性があるからだ」
当然とばかりに、タケさんは言った。
「ただでさえ珍しい生産職で、フリーの〈錬金術師〉。しかも生産のくせに探索もしてるせいで、低レベルのくせに〈鑑定士〉を取得して、【人物鑑定】や【魔物鑑定】まで習得しやがった。おまけに最近では効果を調整して、より俺たちに合わせたアイテムまで作りだす。こんなことが出来るやつはそうそう現れないだろう」
そうか? ぶっちゃけ前例が居なかっただけで、俺のやったことを知れば真似するやつも出てくると思うけどな。
「第三のジョブもな、あり得ない話じゃねぇし本当に取れるかもしれないって、全員が注目してたんだ。結局取れなかった訳だが、このまま引退させるのはどうなんだ? 勿体無くないか? それだったら介護してでも先に進ませた方がいいんじゃないか? アイツらにはその価値があるんじゃないかって密かに話し合ってたんだよ」
「そこまで期待されてたんですか。ちょっと照れますね。だけど俺らばかり得して、皆さんにメリットがあまり……」
「んなわけねぇだろ。お前が育てばより良いアイテムや情報が手に入るし、何より〈運搬屋〉なんてジョブが本当に見つかったら、俺らもそれ目当てに人材の育成に走れる。これは互いにメリットのあることなんだよ」
だから、とタケさんは続けた。
「ここで潔く諦めるなよ。お前だってまだまだ先を目指したいだろ? だったら俺らを利用してでも上を目指せ。足掻いてみろ。これは投資だ。お前たちの可能性に俺らも懸ける!」
情熱に満ちた目で、タケさんはじっとおれを見つめた。それは少し前だったら、思わず涙するほどの熱量だと感じただろう。
しかしそれに対して、俺達は微妙な顔で眺めることしかできなかった。
いや、凄いありがたいんだけど、そもそも前提がちがうというか……すれ違い感が凄くて、何と言えば良いのか分からんかった。
この温度差にタケさんも気づいたのだろう。小さく首を傾げると、戸惑った声を出す。
「ん? その、何だ。少しは喜んでくれると思ったんだが、どうした?」
「ああ〜、そもそも俺、今日はやっぱり引退を撤回して、探索者を続けようと伝えるつもりで来てまして」
「……あ、そうだったの?」
「はい。色々と状況が変わったので、挑戦するつもりです」
「そ、そうか。なんだよ、恥ずかしい所を見せちまったな。俺の勇み足だったか」
タケさんは誤魔化すように酒に口をつける。その顔は真っ赤になっていた。
「そうか。気が変わったのか。喜ばしいことだが、もしかして護衛とかも余計なお世話だったりする?」
「いや、余計なお世話ってことはないですね。むしろ手間が省けました。俺らのレベル上げに付き合わせるつもりはなかったんですけど、実は他に頼みたいことがあったので。そこまで協力してくれるなら、こっちもお願いしやすいです」
「頼み? お前の頼みなら大抵のことは聞いてやるつもりだが……お前がわざわざそんなことを言うとか、なんか怖いな〜」
「そんなことないですって。無理な願いじゃないですし、むしろタケさんの方から手伝わせてくれって言うと思いますよ〜。実はですね――」
はっはっはと笑い合ってから、俺はタケさんに【人工生命体創造】のスキルについて話した。
その結果――タケさんは恐怖すら感じるほど真剣な顔でテーブルを睨みつけることになった。
「期待はしていた。していたが……お前ホントに何なんだ? 予想外にも程があるぞ……マジか? マジで言ってんのか? 本当にそんなスキルがあったのか? これはバレたらとんでもないことになるぞ」
「やっぱりそうなりますか」
「ああ。【鑑定】なんか目じゃない。発表したら間違いなく大混乱が起こる」
だろうな。タケさんがそう言うなら、確信を持って良いだろう。
「理想の嫁が出来るってなったら、やっぱりそうなりますよね」
「そうだな。理想の――え? …………あ、そういうこと?」
怖い顔をしていたタケさんが、口をへの字にして俺を見つめてきた。
まるでバカを見ているような目に、思わずカチンとする。それは川辺と伊波も同じだった。
「なんすか? 俺の夢に何か文句でもあります?」
「いや、別にないけども……こう、もっと他の使い道を思いつかんか?」
「じゃあなんすか? タケさんは俺がロリ嫁を作ることなんかどうでも良いっていうんすか?」
「それはマジでどうでも良いけどよ……」
「エルフに獣人というリアルには居ない種族まで作れる力ですよ? これで何人の異種族コンプレックスの男が救われるか理解していますか? そもそも一男子として妻を貰い子を儲け家族を作るのは何よりも重要すべき責務といって過言ではなく、昨今の少子化問題を踏まえましてもやはりこれ以上の――」
「分かった! おれが悪かった! そうだな、確かに一番重要だよな!」
はぁ、このバカ。やっぱり理想の嫁を作るってことがどういうことか分かってないな。
「いいですか、タケさん。よく考えてみてください。外見が自分の好みを全て満たす女。まずこんな女が存在するかどうかを」
「なんだ急に。そりゃ中々見つからんとは思うが、居ない訳じゃないだろ?」
「本当に? 全てですよ? 限りなく近い女はいても、全てを完璧に満たす女がいると思いますか? どこかしら好みから外れていたり、あとちょっとこうならって不満を抱えたり」
「それは……まぁそうだけどよ。でもそんな高望みしてもキリがないだろ」
「ホムンクルスなら文字通り完璧な女を生み出せますよ」
「…………」
タケさんは難しい顔で黙り込んだ。
ようやく気付いたようだな。このスキルの規格外さが。
「そんな全て完璧な理想の女が、自分の事だけを考えて世話を焼いてくれて、何をしても文句一つ言わないどころか、むしろ喜んでくれる。どうですか?」
「………………欲しいな」
ボソリとタケさんは言った。
その言葉が全てだった。
「タケさんは、どんな女が好みですか?」
「……黒髪でセミロングの美人なんだけど……笑うと愛嬌があって……体はこう、スリムなんだけど出てるところは下品じゃない程度に出てて……まるで姉のような雰囲気で……劣情よりも、傍に居て安心感を感じるような……」
ははぁ、なるほど。体の繋がりよりも心の安寧を求めたいタイプね。
なんというかタケさんらしいな。だが今の厳しい時代、外見の好み以上に希少な女性だ。
しかし――
「俺ならその女性、作れますよ?」
「――――ッ!!!!」
タケさんは雷が落ちたかのように仰け反って天井を見上げると、テーブルに当たる寸前まで頭を降ろし、プルプルと震えた。
そして震えが収まり顔を上げた時には、歴戦の戦士のような覚悟を決めた表情になっていた。
「――俺に出来ることがあればなんでも言ってください。楓太さん」
「ふっ。タケ、これから忙しくなるぞ。頼りにしているからな」
「はっ!! ――店長! 楓太さんが馳走をご所望だ! 早く用意して!」
こちらが何かを言う前に、パンパン! と手を叩いてタケさんが催促する。
さっそく仲間を一人ゲットだ。この調子でどんどん同志を増やさないとな。
スッと襖を開け、店長が料理を運んでくる。テーブルの上に乗せられていく料理の数々に歓声を上げる。
いや、毎度のことながらここの料理はどれも旨そうだ。正直、相談以上にここの食事を楽しみにしている自分が居る。
「楓太さん。お尋ねしたいのですが」
「はい店長。なんですか?」
「盗み聞きしたようで申し訳ありません。ですがどうしても確かめたいのですが――金髪ロングの安産型の尻で居酒屋の仕事を喜んで手伝えるような女性、作れますか?」
「作れます」
二人目ゲット。
♦ ♦
【探索のヒント! その二十一】
〈戦士〉
文字通り戦士のジョブ。誰よりも勇猛に戦う者。
単純な自分の強化や、強力な物理攻撃。敵の注目を集める【挑発】のスキルを覚える。
探索者の中で最も多いであろう、基本となる戦闘系ジョブ。しかしあらゆる戦闘職の下地になるジョブであり、ここから派生し上位の職へ進化したり、これを基礎としつつ魔術職の併用も可能とする。
ありふれていて、決して特別な存在ではない。だがたとえ替えの効く人材であろうと、無下に扱っていい物ではない。
世界を変えるのはいつだって一握りの天才かもしれない。しかし、世界を支えるのは間違いなく、数多の普遍的な凡人達であるのだから。




