第36話 結成秘話~全てはここから始まった~①
〈錬金術師〉の弱さという現実にぶち当たった俺は、探索者を引退し生産者に専念するという選択を突きつけられた。
しかし引退前の最後の戦いで、それまで確認された事のない【人工生命体創造】というスキルを手に入れた。
このスキルを使えば理想の嫁をいくらでも作れる。その可能性に至った俺は、これからも探索者を続けると決心した。
これまで以上の凶悪な敵がダンジョンで待ち構えているだろう。だか、俺には頼りになる同志が居る。この道の先には夢がある!
仲間と共に俺は戦う! ホムンクルスハーレム王に、俺はなる! ドン!
なんて新たな章の始まり的な挨拶はここまでにしておいて。
スキル取得祝いで一晩中飲み明かしていた俺達は、二日酔いに苦しんでいた。
「頭いてぇ……」
「流石にはしゃぎすぎたね……」
「仕方ねぇよ。あんなの聞いてはしゃがない方がおかしいだろ……」
そうだよな。理想の嫁が手に入るんだ。これで盛り上がらないとか嘘だろ。
「レベルが上がってから、酔いづらくなったと思ったんだけどな。気のせいだったか?」
「いや、気のせいではないよ。僕もそれは実感していた。ただ、だからこそ今回は加減が分からなかった訳で……」
「今更そんな話しても仕方ねぇだろ。順番にシャワーを浴びて片付けるぞ」
このままでは話もできん。最悪このまま解散かもしれんが、片付けだけはさせるぞ。片付けさせずに帰らせるなんて楽な真似させてたまるか。
各自シャワーを浴びてサッパリしたら、片付けに入る。すっかり綺麗になって休憩がてら水を飲んだ頃には、皆少しはマシな顔になっていた。
「さて、一息ついたところで、これからのことについて話し合いたいと思う」
「おう」
「うん」
二人は文句も言わずに頷く。まだ体調が万全でないのに、真剣度がこれまでとは段違い。
まぁそれも当然と言える。ここからが俺達の本当の探索の始まりみたいなものだからな。
「まず大前提として、完璧な嫁を作る為に俺達はより深いところに潜って強くならなければならない。そのために必要な協力者への根回し、装備の充実、情報収集、ダンジョン探索の計画。まぁやるべきことは色々とあるんだが、片付けなければならない緊急の問題がある。――七海姉妹の対応だ」
「ああ、うん……」
「まぁ、そうなるよね……」
予想はしていたのだろう。二人は神妙な表情で、苦しげに呟く。
「すげぇ良い子たちだよな」
「うん。さらに頼りになる子達でもあった」
「それは俺も認める。あの子達が居なかったらここまですんなりと進まなかったし、正直一緒にやってて楽しかったよ」
今ならハッキリ言える。最初の印象はどうあれ、あの二人も俺たちの仲間だ。
「でもぶっちゃけもう要らんよな? パーティーはここまでってことでいいよな?」
「お前は……本当に……」
「君、腹を括ると容赦ないよね……」
二人は責めるように俺を見てくる。ふざけんなよクソが! こいつら、俺が何の呵責もなくこんな酷いことを言ってると思ってんのか!?
「じゃあ聞くけどさぁ!? お前ら俺らの最終的な目標をあの子らに言えんの!?」
「「…………」」
ほら見ろ。その沈黙が答えだよ。
分かりきった答えなのに責めやがってよぉ。この偽善者どもがっ。
川辺は頭を抱えてぼやくように言った。
「好き勝手セクハラ出来る嫁を作るために探索します、なんて言える訳ねぇわな。しかも女の子に」
「さらに言うと僕と楓太はまだしも、君の場合、性癖が酷いからね。本当にブタを見るような目で見られるよ」
「ブヒィ……」
伊波の指摘にブタは黙り込んだ。さもありなん。自覚があるだけマシだ。
「ハッキリ言ってあの子らが抜けるのは戦力的に痛い。が、ホムンクルスでそこは解消できる。だとしたら、あの子達がこのままパーティーに居続ける事による摩擦の方が俺は嫌だ。想像してみろ。あの子達に俺らの目標を伝えたとして、どんな反応になるか」
容易にその場面が目に浮かぶ。
『最低。人としてクズですよ』
『信じてたのに……見損ないましたっ!』
――きっつぅ!!
「お前らは耐えられるか? 俺は無理だ。特にチヨちゃんは耐えられない」
「俺もだ。七緒ちゃんは別にどうでもいいんだが……」
「右に同じく。流石の僕もこれは……」
七緒ちゃんは良いんだよ。普段から言いそうだし。でもチヨちゃんみたいな良い子に蔑みの目で見られたら、俺は耐えられないっ!
「だから離れるんだ。本当に残念だけど、俺の心を守るために仕方のない事なんだ。あと嫁とイチャイチャする度にそんな事言われたら流石に俺もブチギレそうだし」
「それが本音じゃねえか。まぁ俺もたぶんそうなるけど」
「でも良いのかい? いくら僕らにはホムンクルスの嫁が待っているとはいえ、おそらく人間の嫁が出来るとしたらこれが最後だよ? ハッキリ言うけど、あの子達は楓太の好みど真ん中だろ」
そうだな、恥ずかしいけど認めるよ。あんな巨乳の美人、美少女を手放すのは正直惜しいよ。
歳の差とかあるから、俺の方から口説くとかは考えなかったけどさぁ。ワンチャン向こうのほうから惚れてくれねぇかなぁ〜って薄い期待はしてたよ。
――でもさぁ!!
「手の届かない巨乳より、手の届く爆乳だろ」
「最低すぎるんだよなぁ」
「でも理解できてしまう」
だって考えてみろよ。仮に人間の嫁ができたとするじゃん? でも好き勝手セクハラ出来るかって言われるとそうじゃねえだろ? むしろ好きだからこそ、嫌われたくないから細心の注意を払うだろ?
体調とか気遣って、ご機嫌を伺って、時と場所を選んでムード作ってようやくじゃん? はぁ~、めんどくさっ。
その点ホムンクルス嫁はすげぇんだぜ? 暇だからって理由でおっぱいとかお尻とか触れるんだもん。
しかもだ、飽きないように色んなタイプの女を好きなだけ用意できるんだぜ?
ヒトメスが勝てる訳ないんだよなぁ!!
「それにほら、七緒ちゃんとかチヨちゃんにどうしても未練が残ったらさ、二人に似せたホムンクルスを作れば良いだけじゃん。固執する理由がねぇんだよなやっぱり」
「本気で最低すぎる……ッ!」
「でも理解できてしまう……ッ!」
何とでも言うがよい。罪悪感やら倫理観など、性欲の前では些細なことよ。でも本当にそれを実行したら、俺は間違いなく殺されるだろうな。やらないように我慢しよ。
「俺達の目的は、彼女達を不快にさせてしまう。だから彼女達とはここでさよならだ。お互いのその方が幸せになれる」
「お為ごかしでしかねぇよ。反対する気はねぇけどよ」
「しかし本当に追い出せるかい? あの子達も結構強かだからね。楓太の価値も分かってるし、今となってはそう簡単に離れたがるとは思えないけど」
「舐めんな。いざとなったら怒鳴りつけてでも追い出してやるわい。心の準備さえできればそれくらいなら出来る――」
――ピンポーン。
それは、今は聞きたくない音だった。
「……なんかあの子ら最近不意打ち多くない?」
「その方が本音を聞けそうだからじゃねぇか? たぶん昨日のお前の様子を心配して来たんだろ」
「大丈夫。君なら上手く出来るよ。いざとなったら怒鳴りつけるんだろう?」
ははっ、このメガネ。煽りよるわ。
舐めるなよ。有言実行ってもんを見せてやる。
「――良かったです。思ったより元気そうで」
予想通り、訪ねて来たのは七緒ちゃんとチヨちゃん、おまけのピーちゃんだった。
中に招き入れ座らせた矢先、ほっとした顔をして、七緒ちゃんがそう言った。
それに同意するように、チヨちゃんもうんうんと頷く。
「昨日の楓太さん、様子がおかしかったから本当に心配してたんですよっ。でも、元気になってくれたみたいで良かったです」
「昨日は迷惑かけたね。これで終わりかと思うと、やっぱり悔しくなっちゃってさ。特にチヨちゃんには酷いことを言った。本当にごめん」
「あはははっ、大丈夫ですよ~。全然気にしてませんからっ」
「私達の方こそ、気遣いが足りず申し訳ありませんでした」
そう言って、改めて七緒ちゃんは頭を下げる。
止めてくれっ。非があるのは完全に俺だからっ! 謝られるとやり辛い!
「大丈夫そうなので、昨日言ったことを改めて聞きますね。楓太さん、これからも一緒に探索しませんか? やっぱり楓太さんなら出来ると思うんですよ。私に出来ることならなんでも手伝いますから」
「私も同じ気持ちですっ! 迷惑をかけるとか考えないでくださいっ! むしろまだ恩返しが済んでないから、望むところですっ!」
「…………」
俺のことを信じてくれている。それだけで本当に嬉しい。この子達とパーティーを組めて、心から良かったと思う。
――だけどごめん、先には進むんだ。ただ君たちは連れて行かないだけで。
二人の期待に満ちた目に、誤魔化すようにして苦笑いを浮かべる。が、マジで胸が痛い。甘く見てたな。これ結構キツイかもしれない。
「ありがとう。そこまで言ってくれて俺も嬉しいよ。だけどごめん。もう決めたことだから」
「……もう決意は固いんですか?」
「うん。ここらが潮時だと思ってるんだ。期待に応えられなくてごめんね」
「そうでしたか。いえ、気にしないでください。そうなったらいいなと私達が勝手に思っていただけなので」
「ちょっとだけ寂しいですけど、我慢しますっ! 四人で凄い素材取ってきて、これからも役に立ちますね!」
残念そうではあるが、七緒ちゃんは慰めるような笑みを浮かべてくれる。そしてしんみりした空気を誤魔化すように、チヨちゃんは明るい声音を出した。
気遣ってくれて申し訳なく思う。だが、俺は君たちにとっては悪いニュースを告げなければならない。
「あ~、そのことなんだけどさ。川辺と伊波も、もうこれ以上深い層には行かないことにしたんだ」
「「えっ」」
俺の発言に姉妹は揃って固まると、他人事のようにこちらを眺めていた二人に目をやる。
すると、川辺は仕方ないなといわんばかりに苦笑した。
「正直先に進んでみたいって気持ちはあるし、楓太も気にするなって言ったんだけどさ。でも、やっぱり俺らだけ進むのはなんか違うよなってなったんだよ」
「僕らは友人だからね。楓太を置いていくなんて出来ない。僕らは三人揃ってこそだからさ」
川辺に続き、伊波も気障ったらしい仕草を付けながらそう続ける。
あたかも友情を優先するみたいな感じで言ってるけど、それ暗に俺のせいだって言ってるようなもんだからな。お前らだってお仲間だっていうのによ。演技とは分かっているが、鼻に突くな~こいつら。
ポカンとした顔で話を聞いていたが、七緒ちゃんはふっと気の抜けた笑みを浮かべると、どこかほっとした調子で言った。
「そうでしたか。やっぱり三人共仲が良いですね。分かりました。それじゃあこれからも一層で活動していくつもりでやりますね」
「それだったら楓太さんも一緒に行けますねっ! よかったですっ! やっぱり皆でお仕事した方が楽しいですもんねっ!」
「「「え」」」
「「え?」」
まさか……と固まる俺らと。きょとんとした顔の七海姉妹。
五人の視線が交差し、部屋に気まずい空気が流れた。
俺は恐る恐ると、七緒ちゃんに尋ねる。
「えっと……もしかして、二人共これからも俺達と一緒にやる感じ?」
「えっ? えっと、そのつもりですけど……え? もしかして駄目なんですか?」
「駄目っていうか、二人は先に進むべきじゃない?」
「はい。そのつもりでしたけど、川辺さんも伊波さんも居ないのに無理ですよ」
「いや、そこはほら、新しい仲間を見つければいいじゃん」
「今さら私達が皆さん以上の仲間を見つけれる訳ないじゃないですか」
「それは昔の話でしょ。今の二人なら引く手数多だって」
「そうかもしれませんけど、そもそもそこまでして先に進みたいと思ってないんですよ。ただ楓太さんの力になりたいなって考えただけで。今でさえ収入的には十分ですし、正直これからも一層だけで活動すると分かった時、私は逆に安心しました」
「いや、でも……そうだよっ! チヨちゃんは強くなりたいんだよねっ!? だったら先に進まなきゃダメじゃない!?」
「私は最低限の生き残る強さが欲しかっただけで、そういう意味ではもう手に入れてます。それよりも、今は皆でこのまま一緒に楽しくお仕事したいですっ」
そう言ってくれてありがとうよっ! ほんともう可愛いなぁ!
その可愛らしさが今は憎たらしいわっ! しかし引くわけにはいかんのだよ!
「そうなんだね。でもほら、もう二人共強くなったじゃん? 先に進まないにしても、一層なら二人だけでも戦えるし、人数が少ない分、収入だって増えるよ?」
「いえ、強くはなりましたけど、安全にとなるとまた話が違いますよ。今までの探索は川辺さんが居てこそですから」
――クソデブがっ!! お前のせいか!!
さりげなく川辺を睨み付けると、奴は焦りを隠した顔で汗を流していた。どうやら自覚したらしい。
今まで有能なところを見せすぎたな。そりゃ七緒ちゃんからしたら、探索に俺が抜けるのは許容出来ても、こんな良い囮を手放したくないわ。必死にもなるか。
というか今コイツの目を見て分かったわ! この女、惚けた振りして最初から自分達が追い出されるのをさりげなく回避していやがる! あえてこっちの気持ちに気づかない、鈍感なふりをしている押しの強いセールスの目をしている!
なんて忌々しい女だ! 本気で追い出したくなってきた!
「いやでもさ、怖いのは分かるけど、俺達のせいで二人が成長する機会を奪っちゃうのもどうかと思うんだよね。それが申し訳なく思うから、ここでいったん離れた方が――」
「あの、もしかしてなんですけど……」
ジワリと涙を浮かべながら、チヨちゃんは絞り出すような声で言った。
「私達を、追い出したいんでしょうか……? 私、何か気に障るようなことしちゃいましたか……? もしそうなら、謝りたいので……教えてくれたら……うれしいなって……ッ!」
――――もう無理ッ!!
「そんなことないよっ! 二人を追放したいなんて思ってないって!」
「ほんとですか……?」
「ホントホント! チヨちゃんを嫌いになるとかある訳ないじゃん!」
「じゃあ……これからも一緒でいいですか……?」
「それは……いや、そこはもうちょっと考えたほうがいいって。俺はあくまでね、二人の成長の為には先に進んだ方が良いと進めている訳で」
「あの、そもそもそこがおかしくないですか?」
とうとう泣き出したチヨちゃんに変わり、七緒ちゃんが口を挟んできた。証拠もないのに容疑者を詰めようとする刑事のような、鋭い視線だった。マジで失礼な目だった。
「三人共、いわゆるエンジョイ勢だって自覚がありますよね? 貪欲に上を目指すタイプじゃない。それならあえて一緒に一階層に留まりたいっていう私達の気持ちも分かりますよね?」
「それは……いや、その……」
「私は実の所、喜んで受け入れてくれると思っていたんですよ。なのにこうまで私達を先に進めて別れようとするのは、何かあるとしか思えません。一体何を隠してるんですか?」
「――別に何も隠してないから!」
駄目だ! 理詰めでは負ける! もうパッションで押し切るしかない!
「隠してるってなんだよ!? まるで俺が犯罪者みたいな言い方だな!? そんなに俺が怪しいかよ!?」
「怪しいから問いただしているんですけど……」
「はぁ!? パーティーメンバーを疑うとかやってられませんね! ガッカリですわ! これはもう解散ですな! 解散! はい解散! お疲れさんでした!」
「いや、あの……ちょっと!」
「ほらっ、出てけ出てけ! 人を信じられない奴は出てけ! 若いんだからもう少し自分の将来考えろよな! じゃ、今までお世話になりましたっ!」
――バタン。ガチャ。
川辺にも手伝わせて、外に追い出し鍵をかける。
待って! 話を聞いて! 聞けって言ってんだろ! 入れろこらー! なんて声と、ドンドンとドアを叩く音が聞こえるが、俺は耳を塞いで無視した。
ドア越しに気配が消えるのを感じてようやく、俺はほっと息を吐く。
「へっ、へへへっ。どうよ、追放してやったぜ」
「いや無理だろ。あれ絶対に納得してねぇし、何か隠し事があるのバレてるぞ」
「逆ギレして追い出しただけじゃね」
「しゃあねぇだろ! あんなのどうしろってんだよ!?」
貪欲と純真無垢のコンビだぞ!? 可愛い子を泣かしてメンタル削られた後に理詰めで詰められて俺はどうすれば良かったんだ!
「とりあえず部屋からは追い出したことだし、あの子達の対処は後日考えよう。案外諦めてくれるかもしれないし。それよりも、今はやるべきことをやらなくちゃ」
「先延ばしにしてるだけなんだよなぁ」
「希望的観測にしても儚すぎる」
二人の戯言を聞き流し、俺はアプリを開く。
連絡するのは当然、頼りになる俺らの兄貴分だ。
楓太:タケちゃん、タケちゃん! ちょっといいかな
タケ:なんだい楓ちゃん! 何の用だい!?
楓太:また相談に乗って欲しいだけど、いいかな!? 今度は三人で!
タケ:もちろんいいよ〜! 早い方がいいか!? 今夜なら空いてるぜ!
楓太:さすがタケちゃん、頼りになるぅ!
タケ:よせやいっ、これぐらいで! それじゃあ例の店でな!
楓太:ありがとう! ところでタケさん
タケ:何だ?
楓太:流石にキモいっすね
タケ:しばくぞお前
「タケさん、今夜なら空いてるらしい」
「幸先が良いね。あとは乗ってくれるかどうかだが」
「その点は問題なくね? お前だったら断るか?」
川辺の問いかけに、伊波は肩をすくめて愚問だったねと呟いた。
そう、全く問題ない。男である以上、俺の誘いからは逃れられない。
地獄だろうと付き合ってもらうぜっ! 実際に向かうのは天国だけどな!




