第34話 俺についてこい②
渋谷ダンジョンの入口から南へ真っすぐ歩き続けると、断崖絶壁に当たる。ここがこのフロアの端っこになる。
この崖を登り先に行こうとすると、景色は続いているのだが見えない壁があるかのように先に進めなくなっているらしい。このような場所をフロアの端と定義つけ、入口を中心としてここまでの距離でフロアの規模を測っているそうだ。
そして一層の端となるこの断崖絶壁の根元に、小さな洞窟がある。この洞窟が渋谷ダンジョン一層における魔力スポット。通称〝ボス部屋〟と呼ばれる場所になる。まぁ今回は部屋じゃないが、イメージしやすいのでどこでもそう呼ばれている。
「見た目は普通の洞窟なんだな。何も変わったところはない」
「……いや、あの洞窟から魔力を強く感じるよ。なるほど、魔力スポットがあると言われれば納得できる。それぐらい明らかに空気が違う」
拍子抜けしたように言った川辺に、伊波はハッキリと否定した。
魔力の扱いに長じた者とそうでない者とで、全く反応が違う。ちなみに俺は伊波と同じタイプ。
なんというか、レベルアップを弱くした感じの感触がある。魔力スポットの存在を最初に確認した人も、これを感じ取ったんだろうな。
「それじゃあ、行こうか」
全員が頷いたのを確認し、洞窟に入る。
洞窟の中は地面や岩肌に埋まった青白く光る鉱石によって、明るく照らされていた。思わず見蕩れ、反射的に【鑑定】を発動する。
【鑑定】
名称:魔結晶
特性:魔力が結晶化したもの。魔力的性質を持つアイテム、装備を制作する材料に使える。
「これが魔結晶か。話には聞いていたけど、こんなにあるんだな」
「おかげで凄く明るいですね~。それに綺麗です!」
確かに自分で灯りを用意しなくてもいいのは助かる。一応ランタンを持ってきているけど、その分手が塞がるからな。それがないだけ戦いやすい。
「本当に綺麗ですね。少しくらいなら持って帰ってもいいかしら?」
「実際ここに来た人は集めて持って帰る人も多いらしいよ。便利な素材だし、それなりに高く売れるらしいから。俺も少しは集めたい」
買うには高いから手を出さなかったけど、自前で持って帰る分にはタダだ。これで作れるアイテムも増えるし、出来る限り持って帰りたい。まぁ、その余裕が残っていたらだけど。
生き物の気配のない洞窟を道なりに進んでいく。すると天井の高い広い場所に出た。
ドーム状に広がったその場所は、これまで以上に魔結晶があちこちに埋まっており、通ってきた道よりもさらに明るい。
その広場の奥に、壁面に亀裂が入った場所がある。直感的に、そこから濃い魔力が漏れ出ていることが感じ取れた。
そう認識した瞬間――一気にその魔力が膨れ上がった。
「いきなりかっ!」
「上等! 最初からその気なんだ、ビビることはねぇ!」
川辺は俺を守るように前に立ち、武器を構える。その頼もしさに感化され、全員が戦意に溢れた目で前を睨みつける。
亀裂の前の空間が歪む。その歪みをこじ開けるように、ボスが出現した。
シルエットは四つ足の獣。ただしその体には一切の毛は無く、所々筋肉がブクブクと膨れ上がっており不格好だ。長い蛇の尻尾に、頭は犬のようだが、体のあちこちに猿や猫のような頭や手足が半端に生えているように見える。
獣のパーツを無理やり一纏めにしたグロテスクな見た目。特徴的な姿に見覚えがありすぎる。
【魔物鑑定】
名称:下等合成獣
性別:無性
レベル:13
「ハズレだこれ! レッサーキメラ! 渋谷での出現情報はなし!」
「ちょ、ちょっと怖いですね!」
「流石にあれは……」
女性陣は少々怖気付いている様子。恐怖というより嫌悪感だろう。あの見た目では無理もない。でも、そこまで恐れる必要はない。
「大丈夫! スペックはこのフロアの魔物と同じくらい! 見た目通り体が歪だから動きはむしろ鈍い! でもしぶといのと麻痺毒のブレスがあるらしいからそこは気をつけて!」
「了解! それだけ分かれば十分だ!」
「【魔術】が効かない相手でもない。十分にやれるね」
情報が全くないわけじゃない。レベルが若干高めなのが不安だが、今の俺達ならやれる!
それだけの経験を俺達は積んできた!!
「そらよっ!」
「――クシュ!? グルルル……グシュッ!?」
まずはいつも通り〈鈍化薬〉を投げつける。キメラに効くのかは分からんが、やっておいて損はない。
意外にも意表をついたのか、レッサーキメラはくしゃみをして体を震わせていた。これで稼げるのはほんの数秒だろう。だが、その数秒で絶対的なアドバンテージをこっちは取れる。
「~~~~♪ ~~♪ ~~~~♪」
七緒ちゃんの歌と踊りが、俺達に力を与える。歌だけのバフとは比べ物にならない強化率。今この瞬間、俺たちのステータスは一層のレベルを超えている。
気力と力が漲った今、川辺が鉄壁の戦士と化す。
「こいや化け物!!」
「グルォオオオオオ……!!」
川辺の【挑発】が決まり、レッサーキメラが唸り声のような咆哮を上げて突っ込んでくる。醜悪な見た目の巨大な獣が突進してくるだけで、常人なら逃げたくなる光景だろう。だが、もはや川辺はそれで怯むような男ではない。
「――オラァ!!」
七緒ちゃんのバフが入った強靭な肉体で、逆にレッサーキメラの体をかち上げるシールドバッシュ。浮いたその一瞬を逃さずメイスを叩き込む。
一層の魔物なら致命傷になる一撃。しかし頭部に強烈な打撃を受けたキメラはたたらを踏むが、すぐに反撃してきた。
以前の川辺なら、盾を構えて受けることを優先していただろう。しかし今の川辺は防御を固めるだけではない。
「オォオオオオ!!!」
捌けると見るや盾やメイスを使って受け流し、一瞬の隙を逃さずキメラを打ちのめす。いくら敵が強かろうと、一対一であれば今の川辺はここまで出来る。もはや一人前の戦士だ。
「――ヴォオオオオ……!」
「こいつ、マジでタフだな?!」
だが敵もさるもの。幾度となく川辺のメイスを頭部に受けているというのに、少し怯むだけでキメラは川辺を攻撃し続ける。
打撃に耐性があるのかもしれないが、それにしたって尋常じゃない頑丈さだ。しぶといと協会のデータベースに載せられるだけのことはある。
しかし、俺たちにはそれを破る武器がある。
「――アイスランス!!」
伊波によって放たれた氷の槍が、キメラの胴体に突き刺さる。貫通こそはしないものの、深々と刺さったそれは確実なダメージになっている。
「グルォオオオオオ……!」
「テメェの相手は俺だ!」
脅威と判断したのか、キメラは次の【魔術】の準備に入った伊波に体を向けたが、川辺の【挑発】が再び決まる。
先に川辺を倒さなければいけないと理解したのだろう。ぼこり、とキメラの身体が一瞬膨れると、胸元から新たな腕が川辺に襲いかかった。
「げっ!? やばっ――」
咄嗟に大楯を構えた川辺に、数本の腕と牙が振るわれる。流石にこうまで攻められては川辺も防戦一方だ。
だがある意味、この状況こそ川辺の真骨頂と言える。
「――ウォオオオン!!」
「――はぁっ!!」
新たな腕も全て使って川辺に攻撃するということは、他に回す余力もないということだ。川辺に集中し切っているキメラを、マルと七緒ちゃんが横から襲いかかる。
マルは普段からは想像も出来ない獰猛な表情で、強靭な顎と牙で肉を食い千切り。
七緒ちゃんは優雅でありながら激しい剣舞で、キメラの腕を切り落とす。
もう前で戦えるのは川辺だけではない。川辺が引きつければ、他の二人が輝く。それによってキメラが傷付けば動きも鈍くなり、川辺も反撃出来るようになる。
そうすれば、時間稼ぎも楽になる。
「――アイスランス!!」
再び伊波の【魔術】が刺さる。これまで以上のダメージに、流石にタフなレッサーキメラも明確に動きが鈍った。
「凄いな……」
戦闘中だというのに、思わず呟いてしまう。
七緒ちゃんのバフから始まり、川辺が引きつけ、伊波が深手を与える。全員の動きが連動して、パーティーとしてより強い力になっている。
これを一緒に作り上げて来たのかと誇らしく思うと同時に、この戦いが終われば、もう見れなくなるのかと未練が湧く。
もっと見ていたい。ずっとこの時間が続いてほしいと、バカな考えが浮かんでくる。だが、俺の願いとは関係なく、終わりは近づいている。
「――ヴォオオオオォォ……!!」
苦しげな、まるで救いを求めているかのような声を上げ、レッサーキメラは川辺を睨みつけた。その次の瞬間、尻尾の蛇が天井に向かって伸びこちらを見下ろす。
「川辺から離れろ!!」
咄嗟の叫びに反応し、皆が射線から外れる。川辺だけは覚悟を決め、大盾に体を隠した。そんな川辺に向かい、蛇は黄色い霧を吐き出した。
麻痺毒のブレスだ。吸い込めばたちまち身体が痺れて動けなくなるだろう。それを察し川辺も息を止めているが、身体中に浴びているだけでも効果は出る。
「ピーちゃん!!」
「ピィイイイイイイイイイイイ!!!!」
チヨちゃんの声に応え、ピーちゃんの【飛鳥】が炸裂する。自滅の危険を伴うその一撃は、蛇の頭を貫きブレスを止めた。
「ぬっ……がっ……ッ!」
しかし、ブレスの効果はすでに出ていたらしい。川辺は前に動こうとしたが、一歩も進めることができない。
【挑発】はまだ効いている。この時ばかりはそれが裏目に出てしまった。あのままでは川辺が無防備に攻撃を受けてしまう。誰かが止めなければならない。
伊波は間に合いそうにない。七緒ちゃん達では攻撃が軽い。誰も止められない。
そして他に動けるのは、俺しかいない。
「用意しておいて良かった……!」
俺はステータスが低い。戦える職でもない。だが、成長してなかったわけでもない。
【錬金術】で得た経済力。すなわち金の力こそ俺の成長の証。思った成長とは違ったけど、それでも確かな力だ。
高価な素材を使ったとっておきのアイテム。その分、攻撃力はお墨付き。探索を始めたばかりの俺では作ることすら出来ず、今まで使う機会が無かった切り札。ここが使い時だ。
見せてやる。これが俺の、これまでの集大成だ!!
胸元に仕込んだ試験管を取り出し、魔力を込める。すると中の赤い液体に光が灯った。それをしっかりと目にし、俺はキメラに向かって投げつけた。
試験管はキメラの頭部に当たって割れる。ガラスの破片が飛び散り、中の液体は空気に触れて、カッとさらにその光を強めた。
――ボンッ!!!!
キメラの眼前で小規模な爆発が起きる。だがそれは、キメラの顔面を破壊するのに十分な威力があった。
「ヴォオオオオ……!!」
鼻が吹き飛び、目が完全に塞がり、表皮が焼かれ肉が露出する。
攻略が難しいとされる火山フロアに群生する〈火炎草〉。それを主材料とした〈爆破剤〉。魔力を込め空気に触れることで、一気に爆発を引き起こす。試験管程度の少量でもその威力は見ての通り。
レッサーキメラは呻き声を上げ、その場で蹲っている。痛みに悶える姿は思わず同情してしまいそうだ。
しかし、それは俺にとってチャンスでしかない。
俺の最後になるであろう冒険、探索。だったら、全てを出し切る!!
「全部持ってけやぁあああああああ!!!!」
――ボンッ!! ボンッ!! ボンッ!! ボンッ!! ボンッ!! ボンッ!! ボンッ!! ボンッ!! ボンッ!!
「おっ、おぉ。これは……!」
「すごっ……!」
懐に備えた爆破剤を順次手に取り、休まずに投げ続ける。一つ爆発するたびに、キメラの身体のどこかが弾け飛ぶ。全て投げ終えた頃にはキメラの身体に無事な箇所は無く、全身に火傷の後を作りピクリとも動かなくなった。
カッ、と。身体に激しい熱が走る。うっすらと痛みすら走るそれが、逆に心地よい。
レベル10に至るレベルアップが、レッサーキメラの死を俺達に教えてくれた。
「終わったか。しぶとくて厄介な奴だったな……」
「がっ……あっ……ああっ……!」
「あっ、ごめんごめん。今解毒するから」
トドメを投げることに夢中になって、すっかり川辺のことを忘れていた。
俺は解毒薬を固まっている川辺に飲ませる。僅か一分ほどで川辺は体の自由を取り戻し、ドン引きした顔を俺に向けた。
「お前怖っ!」
「えぇ……。なんなのいきなり。助けてやったのに」
自分を持ち上げる気はないけど、俺がやらなきゃたぶん大怪我してたぞ。
抗議の声を上げると、伊波も若干青い顔で言った。
「いや、流石にオーバーキルすぎるだろう。川辺がつい言ってしまうのも無理はないよ」
「それは……確かにそうかも。その、最後だからって思うと力が入っちゃってな」
レッサーキメラの死体を見て、今更ながらその惨状に青ざめる。
正直言うと、途中から投げること自体が目的になってたわ。投げるたびに派手な爆発で、その音と衝撃になんか楽しくなってた。トリガーハッピーの気持ちがちょっと分かった気がする。
「倒せたし良いじゃないですか! それにほら、まだ最後だと決まったわけじゃないですよ!」
「そうね。でも、あれじゃあ素材は……」
チヨちゃんは取り成そうとしてくれるが、七緒ちゃんの呟きで現実に引き戻される。
だけど、そこはちゃんと分かってのことだ。
「オーブが出るのは、装備品として身につけている魔物か、魔物が死亡時に結晶化するかのどちらからしいよ」
前者は上位のゴブリンやらオークやら。後者はどんな魔物でもありえるけど、精霊系統の魔物が多いらしい。というか、精霊系統以外の魔物がそうなる可能性がかなり低い。
「さらに言うと、レッサーキメラって一部の臓器は高く売れるけど、革とかはあんまり価値がないんだよ。だからいくら傷つけても大丈夫って分かってたんだ」
「そうなんですか。それであそこまで……でもそれだと」
「だから最初に言ったでしょ? ハズレだって」
そう、レッサーキメラが出た時点で、オーブによる可能性はほとんどなかったのだ。
苦笑いを浮かべて誤魔化すが、七緒ちゃんもチヨちゃんも残念そうに見える。
「レベルは上がったよな? どうだ? 新しいジョブは?」
だが、川辺と伊波はまだ真剣な表情で俺を見ていた。
なんだったら俺以上に真剣になっている。まるで自分のことのように考えている二人に、俺はつい笑いながら答えた。
「期待してるところ申し訳ないけど、駄目だったみたいだ。悪いな」
〈ジョブ〉――〈錬金術師〉〈鑑定士〉
レベルアップをして真っ先に確認したけど、三番目のジョブが目覚めることは無かった。
都合よく望んだ力が手に入ることなんかそうそうない。俺は主人公ではなかったということだ。
「……そうか。駄目だったか」
「……無念だね」
「そんな顔すんなよ。元々期待薄だったろ」
それに、今は結構満足してるんだよな。初めて自分で戦ったって実感があるからか。もしくは皆が惜しんでくれているからか。まぁ両方かな。
惜しまれて、最後に出し切って、全力で冒険した。それだけで俺は満足だ。
今なら未練を残さず、スッキリと引退出来る。いや、実際引退する訳じゃないけど、こいつらを送り出せる。だから、これでいい。
ああ。俺は満足だ――
「まったくダンジョンに入らなくなる訳じゃないし、最近は生産も楽しくなってきたしな。だから気にすんなよ」
金を稼げるというのももちろんだが、期待されて、頼りにされる。人に必要とされる。それをはっきりと感じることが出来る〈錬金術師〉はやりがいがある。
最初は何で俺が、と不満に思ったが、今ではこれで良かったと思ってる。
〈錬金術師〉
〈スキル〉――【錬金術】【生産量増加】【品質上昇】【人工生命体創造】
レベルが上がったことで生産スキルも増え、最近は生産量が増えたり、アイテムの品質が上がったりで益々調子が良かったからな。そうなればさらに【錬金術】が楽しくなった。
すでにこれで楽しく感じるんだから、やっぱり……ダンジョン潜らなくても――
【人工生命体創造】
「……えっ」
何が起きたのか理解できず、誰にも聞こえないほど小さい声が漏れた。
呆然としつつも、もう一度、自分の中に意識を向ける。
【人工生命体創造】
……間違いじゃないな。
新しいスキル? さっきのレベルアップでか? それで手に入れたのか?
っていうか……ホムンクルス? ――ホムンクルス!? えっ、待って。いや、ホムンクルスは当然知っている。でもこんなスキルを取得したなんて話、今まで聞いたことがない!!
あるんじゃないかという推測は、ネットで見た事がある。【錬金術】なんだから、むしろないとおかしいだろうと。ただしそれも結局は妄想の域を出なかった。
実際に本気で探った〈錬金術師〉も居たらしいが、その片鱗すら掴めなかったらしい。だからこそ、ネットでの評価は不遇生産職扱いだったんだ。
そんな夢のスキルを今、俺が取得できたのか? 一体なんで――いや、それはどうでもいい。
俺はすぐにそのスキルに意識を向けてみた。こうしてスキルを探ることで、感覚的にだがスキルの内容を朧げに掴む事ができる。
「あの、楓太さん。やっぱりこれからも一緒にダンジョンに潜りませんか? 一層ではなく、もっと深い層もです」
……マジだ。マジでホムンクルスを創造するスキルだ。このスキル、素材を消費して生命体を作れるんだ。
「もちろん、楓太さんが苦渋の末に下した判断だというのはよく分かっています。でも、やっぱり勿体無いと思うんです」
ベースとなる魔物素材に、他に使った素材の特徴を出すことも出来るっぽいな。犬をベースにすれば犬の外見になって、他の素材を混ぜればその特徴も出すことが出来る感じか。
「楓太さんならきっと、いつか本当に目的のジョブを手にすることも出来るんじゃないでしょうか? それに今回のようなアイテムを使えば、完全な足手纏いになることもないと思うんですよ」
そしてそれは魔物素材に限らない。例えば、狼系の魔物に鉄の素材を混ぜれば、鉄の身体をした狼を作り出すことが出来るっぽい。これだけで尋常じゃない頑丈さを持つ狼が作れるぞ。ああでもその分、体が重くなって動きが鈍くなるか?
「私もチヨも、皆さんには本当に助けられて……でも、まだ恩を返せたと思っていません。それに私自身、楓太さんとまだまだ一緒に探索したいと思っているんです。二人でやっていた時は生活するだけで精一杯でしたけど、皆さんと行動してから本当に毎日楽しくて」
使う素材によって様々な調整が出来そうだ。巨大な魔物素材を混ぜれば、小型の魔物をベースにして体を大きく、なんてことも出来そうだ。狼系の魔物を大きくして、人が乗れるようにしたらどうだ? これなら俺の移動力の問題が解決できる。二層以降もついていくことができるな。
「私はこの生活をずっと続けたいって思ってます。それにあなたは、もっと凄いことをやるんじゃないかって直感があるんです。私は貴方についていきたいと思ってます。私達に出来ることならなんだってします。だから、もう少しだけ頑張ってみませんか?」
「私もお姉ちゃんと同じ気持ちですっ! ねっ、楓太さん! これからも一緒に頑張りま――」
「うるさいから黙っててくれる?」
「――――」
いや、俺の移動能力の問題だけじゃない。物資の運搬問題も解決出来るぞ。力と体力を兼ね備えた魔物を作り出すだけで、〈運搬屋〉として扱えるんだ。なんだったら人よりも頑丈な分、有能だ。
ハッキリ言って、これが出来るだけでかなりの需要がある。物資をどれだけ運搬、回収できるかは上級下級問わず、どんな探索者でも抱えている問題だ。大量に荷物が運べるだけで、安全性も稼ぎも大きく変わってくる。間違いなくダンジョン探索の環境が変わるな。
チヨちゃんのような〈調教師〉が既に似たようなことをしていると話には聞いたことがある。チヨちゃんも今はともかく、昔は能力が足りなかったから出来なかったけど、もしそれが最初から出来たら引く手数多だったはずだ。
そうか、疑似的な〈調教師〉として活動できるようになるのか。それでいておそらくテイム制限が一切なく、自分で好きな魔物を操ることが出来るようになる。もちろんそういった生命体を作る手間は発生するが、些細な問題だ。強いていうなら、ホムンクルスがどれだけ言うことを聞いてくれるのか、というのが問題か。反逆されたら目も当てられないからな。
だがそれにしたってヤバい。ヤバいな。この能力、可能性がありすぎる。今は運搬のことに焦点を当てたけど、その気になれば自分の理想のパーティーを作ることが出来るんだ。
理想的なパーティーなんて、そう簡単に出来ることではない。必要なジョブ、人数、人の相性、信用、探索目的の合致――それが全て揃って初めて仲間となれる。ハッキリ言って俺らはその点、かなり恵まれている方だ。タケさんですら、普段はマホさんとアキラさんの三人だけで活動している。それくらい仲間を作るのは難しい。
だけど、ホムンクルスならそれが出来る。おそらくこのスキル、使う魔物素材を厳選することで狙った能力を取得させることができるぞ。そうでなくても、単純にマルのような狼系をベースにするだけで〈斥候〉役はこなせる。これだけでも〈斥候〉を必要としている人からは求められるだろう。
そして、なにもベースを魔物に寄らせることもないんだ。人型の魔物をベースにして装備を整えてやれば、戦えるし細かい作業も出来る人間と変わらない仲間になる。
リザードマンやオークをベースにすれば、戦闘で頼りになる戦士になるだろう。外見が人じゃないと嫌だと言うなら、それこそサキュバ――あ。
――その瞬間、頭の中で全てが繋がった。
俺がこれから目指すべきこと。俺が出来ること。俺が〈錬金術師〉を取得できた理由。その全てが。
「そうか。そういうことだったのか……ッ!」
最初から、望んでいた通りだったんだ。
ダンジョンは俺の望み通りに、俺を導いてくれていた。
今なら自信を持って言える。俺はなるべくして〈錬金術師〉になったのだと。
「こうしちゃいられないな」
考えることはいくらでもある。根回しも始めなくちゃいけない。
軽く考えただけで、確かめなければいけないことや乗り越えるべき障害が十は思いつく。
それを考えるだけで気が遠くなりそうだが、俺はむしろやる気に満ちていた。
俺の使命を自覚した今、そんなことで怯んでいる時間はない。
夢の叶える為に必要であるなら、どんな敵も薙ぎ倒してやる。
探索、冒険の終わり? とんでもない。
俺の夢への旅路は、今この瞬間から始まったんだ。
そうと決まれば、早い所ここから出よう。まずは二人に相談しないと――
「ふっ……うっ……うるさいって……黙ってろって……私だって、一緒に……やりたかっただけで……楽しかったから……好きだから……これからも、一緒に……それだけで……ッッ!!」
「うん、うん。さっきのは酷いわよね。でも楓太さんも辛いのよ。だから、分かってあげましょうね……」
「ヴゥルルルルルルルルルル……ッッ!!!!」
「ピィエエエエエエエエエエエエエエ!!!!」
「待て! お前らが怒るのは分かる! だけどアイツも傷ついてるんだ! だからつい乱暴な言葉が出ちゃっただけなんだよ! 許してやってくれ! なっ!?」
「僕からも頼むよ! ちゃんとあとで叱っておくし、謝らせるから! 頼むから止まってくれ! 君らが本気でかかったら死んでしまう!!」
泣きじゃくるチヨちゃんを慰めている七緒ちゃん。キレ散らかしているペット二匹を必死になって止めている川辺に伊波。
皆の方を見て見れば、そんなカオスとしか言えない光景が広がっていた。
ちょっと考え込んでいる間に何やってんだこいつら? 雑魚が寄ってこないとはいえ、ダンジョンの中だぞここは。ふざけてんのか?




