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アラサーからのダンジョン探索~英雄は目指さない。マイペースに遊びながら稼ぎます~  作者: 迷子
第一章 脱サラ探索者デビュー!

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第25話 創意工夫

「はぁ? スライム狩り? マジで言ってんの?」


 翌日の生産日。いつも通り俺の部屋に集まって作業をしながら、俺はスライムの件を伝えた。


 見つけた時はこれしか無いと興奮してたけど、支部に戻って冷静になったから、一晩考えてみたんだ。


 で、一人で考えた結果、やはりあいつらしか無いと思った。


「おおマジだ。アイツら経験値が高いんだよ。カームライノ並みにあるんだぞ?」

「そんなにあんの!? えっ、でもカームライノよりは弱いよな?」

「弱いかはともかく、逃げやすい相手ではある。ふむ、それが事実なら獲物として限りなく理想の近い条件ではあるな」


 経験値が美味しくて、見晴らしが良く戦いやすくて、数が多い。なによりライバルがいない。

 レベリングにこれ以上相応しい獲物はいないだろう。


「でも、倒すのが大変って言ってませんでしたか? 武器が傷んで修繕費が掛かるし」


 キッチンで今日の昼食を作ってくれている七緒ちゃんが、手を止めずに口を挟む。金で困った身としては、やはり受け入れ難い部分なのだろう。


 そういう金銭感覚に厳しいところはむしろ好ましい。でも、俺の場合そこは気にしなくても良いんだよな。


「修繕というか、いっそのこと入手しやすい魔物素材を使って武器の生産をしちゃえば良いと思うんだよね。防具も作り始めたし、武器にも手をつけたいと思ってたんだ」


 狼の骨とか牙とか、あと角ウサギのツノとか。この辺りなら雑に使い捨てても惜しくはない。


「武器の使い捨てなんて贅沢な。でも、それが出来るのも確かなんですよね。……今更なんですけど、〈錬金術師〉ってちょっと凄すぎませんか?」

「薬で敵を弱らせて、ポーションで怪我も治せて! 本当に凄いと思います!」


 七緒ちゃんの手伝いをしていたチヨちゃんが、キラキラとした目を俺に向けてくる。眩しすぎて直視できねぇ。


「いや、専門家には勝てないから。便利なだけだよ」


 だから過大評価は勘弁してくれ。

 チヨちゃんの好意もそうだが、七緒ちゃんの怖いくらい真剣な顔もムズムズしてくる。


「その利便性がパーティー活動において破格だという話だぞ。こんなに自由度が高いパーティーは他にないと思う」

「特化したアイテムなんてそれこそ最前線向けみたいなもんだし、俺らには無くても構わないだろ。生産職を一人入れるなら確実に〈錬金術師〉の方が役立つわ」


 ……まぁ、それはそうかもな。


 最近は〈錬金術師〉で良かったと思う事が多い。というか、固定パーティーで自分も探索もするならこれしかなかったよな。もしかしたら、それが理由で俺は取得できたのかもな。


「で、具体的にどうやってスライムを倒すつもりなんだ?」

「使い捨ての長物の武器を作って、川辺が遠くから引っ叩くのは?」

「それしかないか。でも俺、槍とか使えんのかな? なんか上手く扱える気がしないんだよな。かと言って近寄ってメイスで叩くのも嫌だし」


 使い慣れてない武器なら不安に感じるわな。

 かといって得意な武器とはいえ、近づくのも馬鹿馬鹿しいというのも分かる。


「一番妥当なのは伊波の【魔術】だな」

「それが確かに一番確実だが、数を狩れるかは分からないな。耐性持ちのスライムを僕の【魔術】で狩り切れるか? 同じように魔力切れになるんじゃないか?」

「その心配は無用だ。森に入ったからこそ、これを作れるようになっているんだから!」


 そう言って、丁度作り終えたアイテムを見せる。

 見よ! この緑色の体力ポーションとは違う、青き輝きを!


 これこそが〈低級魔力回復ポーション〉!!

 買取価格なんと――協会で五万!! 体力ポーションからプラス二万円!!


 森に入って儲けが増える大きな理由が、この魔力ポーションの材料である〈魔力草〉を採集できるからだ。


 魔力草は一箇所に多く生えることはないが、森のあちこちで見かけられる。森を歩き回れるならこれを採集できるだけで生計が成り立つ。


 だからこそ、初心者から抜け出そうと金欠気味の探索者は、こぞってこれを集めまくっているそうだ。おかげで俺たちも少量しか見つけられなかった。


「これがあれば魔力切れも問題ない! いくらでも飲めば良い!」

「確かにそれなら魔力の心配はないかもだが……それ、回復ポーションと同じで徐々に回復するタイプじゃなかったか? 回復量も比べると低いとか」


「ん。そうらしいね」

「あと、魔力ポーションは飲まないと効果が出ないんだろう? 回復するのに何本のポーションを飲むことになるんだ? 僕も最近は探索のおかげか食欲が増えた自覚はあるけど、お腹がタポタポになるほど飲むのは勘弁してほしいんだが」


 申し訳なさそうな顔で伊波は言った。

 確かにこいつは大食い出来るタイプじゃないから、無理強いも出来ないな。

 これが川辺だったら吐くまで飲ませたんだが。


「川辺にしろ伊波にしろ、どちらにしても問題ありか」

「別に気にすることはないんじゃねぇの? 両方とも試せば良いだけだろ」

「そうだね。僕と川辺。二人で交代しながらやれば体力的にも楽になるだろうし。取れる手段が複数あるのはむしろ良いことだ」


 それはそうなんだけど、こう、決め手に欠ける感じがするのが不満なんだよな。


 あのスライム、確かに厄介な性能してるんだけど、動きがトロいせいかな。何か工夫すれば楽に倒せる気がする。もっと他に何かないだろうか……。


「楓太さんのアイテムでどうにかならないんですか?」


 料理の手を止めずに、聞き耳を立てていたチヨちゃんが何気なく言った。


「アイテムには詳しくないですけど、【錬金術】ならスライムに有効なアイテムがあるんじゃないですか? それこそ、戦わなくてもアイテムだけで勝てちゃうような」

「アイテムだけで……」


 美味しい獲物を仕留めようという気が強くなりすぎていたせいか。倒そうと気が前のめりになりすぎていたのか。


 自分の力のことなのに、アイテムを使うことは全く考えてなかった。そうだよな。まずはそこを考えるべきだよな。


「でも、アイテムって言ってもな。カタログを見た限りそんな便利なアイテムなんかなかったし」

「ん~、良く分からないですけど、楓太さんって自分でアイテムを考えて作ったりはしないんですか?」


「……言われて見ればそうだね。協会のアイテムカタログを参考にして、頭に浮かんだレシピを使うか、分からなかったら資料に載ったレシピをそのまま使うから」

「【錬金術】ってそういうものなんですか? むしろ生産職なら、自分のアイデアを膨らませてオリジナルの作品を作るものじゃないんですか?」


 ……あれ? 本当にその通りなんじゃね?

 もしかして、俺は〈錬金術師〉の力をまるで引き出せていなかった?


「ち、ちなみになんだけどさ、チヨちゃんだったらどんなアイテムがあればスライムを倒せると思う?」


「え? そうですね~。干物みたいに乾燥させるアイテムとか? それならスライムも簡単倒せるんじゃないですか?」

「あるいは、吸水率の良い砂のような物でもいいかもしれませんね。ほら、パン粉や片栗粉を使って湿気を取ったりとかしますし。そうなればもっと動きが鈍くなるんじゃないですか?」

「火を使って水分を飛ばすのもありだよね。魔法のアイテムならそういうこともできそう!」


 チヨちゃんと七緒ちゃんは、料理を続けたまま盛り上がっている。

 たまたま料理をしていて、それに関連してただ思いついたものをそのまま口にしているだけなんだろうけど……。

 

 なんか次から次へと良いアイディアが出てきてないか? 本当にそんなアイテムがあるなら、スライムも倒せそうだ。問題は俺にそれが作れるかってこと――え?


「嘘だろ……」

「どうしたんだい? 急に変な顔して」

「いや、なんか急にレシピが頭の中に浮かんできて」


 えっ? もしかして、【錬金術】てこうやって使うのが本来の使い方?

 既にある物の作り方が分かるんじゃなくて、自分が作りたい物に必要なレシピが分かる能力なのか?


 だとしたら〈錬金術師〉ってなんでも作れるんじゃ。もしかしなくても、俺は今まで相当勿体無いことを……い、いや、忘れよう。これから挽回すればいいだけだ!


「――いくつか有効そうなアイテムが作れそうだ。これならスライムにも効くと思う」

「マジかよ。本当に凄ぇな。一気に希望が見えてきたぞ」


「本当に二人には感謝だな。ありがとう」

「いえいえ、気にしないでくださいっ! 思いついたことを言っただけなので!」

「ええ。役に立てたなら良かった――あっ」


 七緒ちゃんが間の抜けた声を上げる。


「いけない。ちょっとお醤油を切らしたみたい」

「そっか。じゃあ私が買ってくるよ。お姉ちゃんは料理を続けておいて」

「そう? それならお願……いえ、やっぱり二人で行きましょう。他にも買いたいものがあるし。すいません。ちょっとだけ出かけてきますね。すぐに戻りますので、このままにしておいてください」


「分かった。っていうか、俺らも行こうか?」

「ありがとうございます。でも大丈夫ですよ。そちらの作業の方が大事ですし、二人でいけば充分です」


 七緒ちゃんはにこやかに笑ってそう言うと、チヨちゃんを連れて部屋を出た。

 バタン、とドアが閉まる音を聞いて、川辺がのんびりとした口調で言う。


「いや~、至れり尽くせりって感じだな。なんか申し訳ないな~」

「でも、助かるのも事実だよね。正直、最近はQOLが上がっているのを常々感じるよ」

「分かる。面倒なところをやってくれて凄く助かる」


 自分達でやるのも、楽しいっちゃ楽しいんだけどね。

 煩わしいのも間違いないから、雑用その他全部やってくれるのは本気でありがたい。


「さて。二人が居なくなったなら、今の内に作っておこうかな」

「おっ? なんだ、やらしいものでも作るのか?」

「ちっげぇわ! そういう意味じゃねぇよ! っていうかそんなもん作れるか!」


 ……作れないよな? いや、でもさっき知ったばかりだしな。本気で考えたら作れるのかもしれない。

 興味は湧くけど止めておこうか。本当に作りたくなっちゃうし。


「ちょっと対人用のアイテムを作ろうと思っただけだよ。別に二人が居る所で作ってもいいんだけど、無駄に怯えさせるのもね」

「対人用……ああ、そういうことな」

「ふむ、なるほどね。いいんじゃないか? 近々必要になるだろうし、備えておくべきだ」


 多くを説明せずとも、二人は察したようだった。三人共作業の手を止めず、あえて世間話のような声音で話を続ける。


 とはいえ、微妙な緊張感は隠しきれない。ま、そういう話だからなぁ。


「やっぱりあると思う?」

「なかったらいいと思うけどね。まぁ、望み薄だろうね」

「あのバカさ加減を見た後だとなぁ。警戒しておくに越したことはないんじゃないか?」


 そうだよなぁ。

 何も準備せず、取り返しのつかないことになる方がまずいし。


「お前ら、もう覚悟は出来てるか?」

「……覚悟って言われると悩むけど、躊躇っちゃ駄目だとは思ってるぜ。自分達に被害が出るくらいなら、いっそな」

「僕はイメトレもバッチリだ。ハッキリ言うけど、躊躇しないよ」


 やはり川辺は倫理観が邪魔するか。なんだかんだ善人だからなコイツは。とはいえ、必要性が分かっているなら大丈夫そうだ。


 それに比べて伊波の頼もしさよ。ハッキリ言ってダンジョンに一番適応できるのはコイツだよな。一般的には大問題と言えるが。


「それに、一人で出かけることも出来ないのは可哀そうだろう。早いところケリをつけたほうが良いと思う」

「……ああ、そういうことか。少なくとも七緒ちゃんは警戒しているのか。俺、全然気づかなかったわ」

「俺も。でもそうか。二人にとってはそこまでする必要があるのか」


 だとしたら、なおさら放っておけないよな。

 むしろこっちから仕掛けてもいいかもしれない。


「あの二人もバカじゃない。なんだったら僕達より覚悟は出来ていると思う。だから、わざわざそれを作るのを隠す必要はないと思うよ。それよりも腹を割って話し合うべきじゃないか?」

「だな。殺し合いになる可能性があるなら、格好つけてる場合じゃないと思うぜ」

「……そうだな。子供扱いするのも違うか」


 二人が帰ってきたら、ちゃんと打ち合わせをしよう。


 ダンジョンでは、何が起きても自己責任。どんな理不尽な目に遭おうとも、気を付けなかった方が悪いとなる。


 俺達にとっても、そして――敵にとっても。


 ♦   ♦


【探索のヒント! その十六】

〈各種生産レシピ〉

〈錬金術師〉であれば【錬金術】。〈鍛冶師〉であれば【鍛冶】。〈薬師〉であれば【調合】。

 それぞれの生産スキルには、生産レシピスキルとでも言うべき力が内包されている。

 こういったアイテムを作りたい。そんな生産者の願望、思考に生産スキルが反応し、それに必要な素材と生産方法が自然と導き出される。

 探索者協会は判明したアイテムのレシピをデータ化し、それを参考にしている生産者が多い。それゆえに勘違いをしている者も多いが、同じアイテムを作るために、必ずしも決まった素材を使う必要はない。異なる材料でも、性質や特徴が適していれば同じ結果を得られることがある。

 ただしこの力は、自らが知る範疇でしか発動しない。

 実際に素材を観察したり、手に取って見たり、効能を確認したり。そうして素材を知り尽くして初めて生産スキルが反応する。

 そしてこれは素材に限らず、生産者の実体験にも関連する。

 例えば、生きた魔物の観察。素材を見ただけでは理解しきれぬ情報が生体にはある。そしてこれは、安全な場所に引きこもった者では決して得られぬ情報でもある。

 ダンジョン出現より二年。既に探索者協会では多種多様のアイテムのレシピが発見されている。だが、そのレシピは生産スキルの中の氷山の一角に過ぎない。


 生産スキルにはまだまだ、未曾有のレシピが眠っている。

 


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