第24話 美味しい獲物
「よし。じゃあ行くぞ?」
振り返って確認する川辺に全員で頷く。皆がそれぞれ緊張している様子だ。
こうなるのも当然と言える。俺達はとうとう、草原エリアを抜け森に入る。
新たな【鑑定】の力を得たあの日から、もう一度草原エリアで探索をした結果、俺達は次のステップに進むべきと判断した。
渋谷ダンジョンの一階は広大な草原エリアと森のエリアに分かれる。低レベルでも比較的安全に戦える草原エリア。そして、危険になるが稼ぎがぐんと増えてくる森エリア。
この森で活動出来るかどうかが、探索者として生計を立てられるかの分水嶺になると言われている。
俺達の指導役だった東さんは、レベル5になってから森に行った方が良いといった。レベル的にも適正だし、俺たちの目的の為にも森に入るべきと判断したのだ。
「………………」
俺達は無言で森を進んでいく。いつものように軽い雑談をする余裕はない。初めての場所だからより慎重になっているのもそうだが、森という環境がそうさせる。
実を言うと、草原エリアと森エリアで、魔物の強さ自体は極端に変わらないらしい。では、何が違うのか?
――ガサッ!
草を掻き分ける音が聞こえ、全員が過敏とも言える反応でそちらに武器を構える。だが、数秒待っても魔物は現れなかった。緊張から一転、気の抜けた顔で川辺はほっと息を吐く。
「ふぅ、敵かと思ったわ……」
「どうやら風で揺れただけみたいだったね。それにしてもこれはキツイな。草原エリアとは疲労度がまるで違う」
言いながら、伊波は冷や汗を拭う。
そう。これが森というフィールドの厄介なところだ。
草原エリアは獲物の取り合いが多く、なかなか戦えない上に稼げない場所だった。しかしその分、見晴らしがよくて戦いやすく安全を確保出来る。
そして森エリアはその逆。視界が遮られている為、いつ敵が襲ってくるかも分からない。常に不意打ちを警戒し続けなければならないこの状況は、それだけで神経をすり減らす。精神的な疲労が草原とは段違いだ。
そして襲う側の魔物にとっては、これ以上ないほどに有利に働く。
――ガサッ!
「ピイ!!」
「――今度はマジか!!」
また肩透かしかと油断しかけた川辺は、ピーちゃんの警告によりなんとか持ち直した。その直後、茂みをかき分けて魔物が飛びかかってくる。
【魔物鑑定】
名称:森狼
性別:オス
レベル:3(保有魔力値43)
名前が変わっただけじゃねぇか! ――あっ、そうでもないな。毛の色は茶色っぽいし、体も一回り大きい。
だが、草狼と比べて戦闘力はそこまで変わらないようだ。十分に見慣れた速度。しかし、不意を突かれたせいで川辺の対応が遅れている。
襲ってきた狼は二匹。【挑発】こそ間に合ったものの、一匹が盾に体当たりをしかけ、もう一匹が川辺の足に噛みついた。
「ぐっ! 痛っ――」
先手を取られるということは、それだけでここまで不利に追い込まれる。それを防ぐ〈斥候〉の重要性がよく分かる。
だけど〈斥候〉が居ない分、こっちも充分な備えをしてきた。
「――たくねぇぞおらあ!!」
「ヴャオッ!?」
川辺は一瞬顔を歪めたが、すぐに強気な笑みを浮かべると、狼ごと足を振り切って吹き飛ばした。
狼は確かに深く嚙みついたが、その牙は肉まで刺さり切っていない。先日倒したカームライノの革を使った装備が、それを遮ったのだ。
生産スキルを通して作られた装備は、魔物素材の強度をさらに引き上げる。ただでさえ格上のカームライノの革だ。この程度の敵ならビクともしない。
胴部と腰、腕、足。革鎧の一式を揃えた今の川辺なら、不意打ちでも十分対応出来る。
「――オラァ!!」
「ギャンッ!?」
あっさりと振り解かれて動揺した狼二匹に、川辺はメイスを振り下ろす。一振りで確実に頭蓋を砕き、あっさりと二匹とも仕留めてしまった。
最初は狼どころかウサギでも相当苦戦していたんだけどな。いくら装備が優秀とはいえ、こうも簡単に一人で倒せるようになるとは。
あのデブが成長したもんだと、なんだか感慨深く――
「きゃあっ!!」
「チヨ?!」
終わったとほっとしていたら、後ろから聞こえた悲鳴で再び緊張に引き戻された。
振り返れば、チヨちゃんが頭を抑えてふらついていた。
顔が赤く……血が出ているのか!?
そう認識すると同時に、目の端で転がっていく石が見える。――投石か!!
チヨちゃんを背に庇い、盾になろうとしている七緒ちゃんの方角からあたりをつけ、俺は急いで【鑑定】を発動させる。
【魔物鑑定】
名称:ゴブリン
性別:オス
レベル:3(保有魔力25)
ゴブリンだ。ファンタジーをかじったものなら知らない奴は居ないだろうというくらいメジャーな魔物。
緑の肌に猫背、俺の腰元くらいしかない身長。弱そうな見た目だが、それに反するように目だけは欲望でぎらついている。
男なら甚振り、女は犯す。弱い者を虐げることに喜びを見出す残忍な害獣。
「伊波! あそこだ!」
「了解――アイスダガー!」
「ギヒヒッ――ゲッ!?」
伊波の【魔術】によって放たれた氷の刃が、ゴブリンの頭部に突き刺さる。当たり所が良かったのか、ゴブリンはその一撃であっさりと絶命した。
そして幸いにも、襲ってきたのは一匹だけだったらしい。
これならすぐに治療に入れる!
「チヨちゃん! 大丈夫!? 怪我は!?」
「うっ……だ、大丈夫です。ちょっと掠めただけなので。見た目ほど痛みはないです」
なるほど。表面が切れて派手なだけで、脳震盪とかはないか。それなら重い怪我にはならなそうだ。とはいえ、チヨちゃんみたいな子に傷が残るのは許されない! すぐにポーションだ!
「ごめんなさい。もっとしっかりと周りを警戒していれば、こんな事には――」
キュポッ。トプトプトプ――ビチャッ、ビチャ、ビチャッ。
遠慮なく頭からポーションをぶっかける。申し訳ないと思うけど、これが一番手っ取り早い。
ペットボトル一本分を使い切ると、チヨちゃんの頭はしっかり水を浴び、毛先からポタポタと雫が落ちていた。
その甲斐があってか、早くも傷は塞がり始めている。これなら傷が残ることもなさそうだ。
大丈夫だ。良かったね。そう声を掛けようとチヨちゃんの顔を見ると――チヨちゃんの目が潤み、小さく震えていた。
なぜ? とも思ったが、冷静に自分達の姿を考えてみる。……うん、残当だねっ。
「――いや、違うんだ! 急いで治さないと跡が残るから! ただそれだけで!」
「えっ、えへへっ……そっ、そうなんですね。良かった。てっきり嫌われたのかと……ちょっと泣きそうになっちゃいました」
「嫌う訳ないじゃん! むしろチヨちゃんのことは大好きだよ!」
「楓太、楓太。それはそれでまずい。パパ活になる」
しゃあねぇだろ! 誤解されるんだったらそっちのほうがまだマシだよ!
傷ついた女の子に有無を言わさず水責めする鬼畜になってんだぞ!
「だからお前さ、絵面が最悪なのよ。もう少し配慮をしろ。初回は結構傷つくんだぞ」
「分かってはいるんですけどね。でも楓太さんじゃなければ叩いてますよ。人の妹に何してんのって」
「ピエェエエエエエエ!!」
「痛いっ! ピーちゃんやめろ!」
「ピーちゃん! だめだよっ! めっ!」
「ピーちゃんが代わりに怒ってくれているので、そのあたりで。しかし、思った以上に森は難しいな」
ピーちゃんに小突かれる俺を見ながら、伊波は呟いた。
いや、結構痛いから助けてほしいんだが。こいつ一応魔物なんだぞ
「最初の戦いにしては早く反応できたと思う。だけど、結果はチヨちゃんがやられるところだった。【挑発】があれば初撃さえ防げばなんとかなると思ったが……」
「悪い。狼には効いていたみたいだが、ゴブリンには届いてなかったみたいだ」
「いや、それは仕方ないだろう。ゴブリンは後から乱入したのだから。とはいえ、それに対応出来ないという訳にもいかない」
それはそうだな。出来ないので諦めようというのが通る訳がない。
「楓太。やはり装備は全員揃えないか? 君の予想も正しいと思うが……」
「いや、俺が馬鹿だったよ。流石にリスクが高すぎる」
今回は川辺の装備だけを揃えたが、カームライノの素材は余っているから、その気になれば全員分の皮鎧を揃えることぐらいはできた。流石に川辺のように全身は無理だけどな。
でも、俺はそうしなかった。それは装備補正のようなスキルがあるんじゃないかと思ったからだ。
タケさん達の経験則でも、レベルが上がるにつれ同じ種類の装備を使っていると、扱いが格段に上手くなっている実感があるらしい。身体能力の向上とは別でだ。
そのことから、いわゆる装備補正系のスキルがあるんじゃないかと俺は思っている。川辺で言えば、槌系統強化とか、鎧系統強化とか。明確に存在が確認されてないのは……パッシブで動いているから分からない、とかじゃないかなぁ。
レベルによる成長がその補正系のスキルに使われているんだとしたら、将来的に使わなくなるかもしれない装備を身につけて、要らないスキルに成長を取られる可能性がある。それを考えると、全員に皮鎧を付けたいとは思わなかった。
〈魔術師〉である伊波なんか、絶対に鎧なんか要らなくなるだろ。もっと〈魔術師〉に向いた杖とかローブ補正があってもおかしくない。
「ただでさえ〈斥候〉が居ない、危険度が高い状況なんだ。命には代えられない。もっと慎重になるべきだった」
「ごめんなさい。ピーちゃんも頑張ってますけど、流石に森では勝手が違うって」
「ピィィ……」
「いや、いくらなんでも二人を責める気はないよ。今だってピーちゃんも攪乱は出来るし、気配だって俺達より敏感なんだから」
ピーちゃんの偵察は、広い場所であってこそだろう。種類が違うんだから、森で求めるのは無茶ぶりがすぎる。それでも敵の気配に気づけるんだから凄いくらいだ。そこは流石動物だよな。危険察知能力が俺達より高い。
「役に立たないっていう意味では、七緒ちゃんの方が深刻でしょ」
「うっ……!」
名前を呼ばれ、七緒ちゃんは呻き声を上げる。
自覚はあるんだろうな。こいつ、気配を消してやがった。
「や、役立たずでごめんなさい」
「いや、だから責める気はないって。というか、ここで七緒ちゃんが張り切る方がまずい」
「だな。四方八方から攻撃されたら俺でも対処できねぇし」
そう。七緒ちゃんが歌った場合、その声で魔物を集めてしまう場合がある。広範囲にバフが出来る〈吟遊詩人〉の長所が裏目に出てしまう形だ。
カームライノは渋谷のゴミクズのせいと分かってはいるけど、その可能性が思いついてしまった以上、考慮しない訳にはいかないからな。
その内検証はしたいと思うけど、今は出来ない。俺らじゃ大量の魔物を捌けないからな。
「……皆に聞こえる範囲で、静かに歌うとかはどうでしょう?」
「ありっちゃありだけど、耳の良い魔物には聞こえちゃうんじゃない? だから俺達も今、小声で話してる訳だし」
「うっ! で、でもっ。また役立たずに戻ってしまうのは……!」
必死だなぁ。いや、気持ちは分からんでもないけど。よっぽどトラウマになってるんだろうな。
「といっても〈吟遊詩人〉じゃどうしようもないでしょ。それこそあの計画を進めない限りは」
「ああ。あれか」
「確かにあれなら……」
「何かあるんですかっ?!」
「“アイドル七緒育成計画”――だよ」
「なる訳ないでしょ! 期待して損した!」
期待していた七緒ちゃんは一転、顔を真っ赤にして怒った。やれやれ、我儘なアイドルの扱いは難しい。
「真面目な話、〈踊り子〉みたいなジョブを発掘するくらいしかないんじゃない? 踊りなら声を出さずにバッファーができるよ。とりあえず次に戦う機会が在ったら踊ってみたら?」
「そんなことやる訳……えっ? 本気で?」
「可能性があるのにやらないの? また役立たずに戻る?」
「うっ……えっ、本当に……? でもやるしか……」
七緒ちゃんは苦悶の表情で悩み始めた。
まぁ、仲間が戦っているのに後ろで踊るとかバカみたいだもんな。少なくともそんなの見たら俺は笑う。
内心で笑っていると、伊波が聞いてきた。
「これからどうする? 戻るか?」
「ん~、あそこだけは確かめないか? どんな場所なのかだけは見ておきたい」
「それもそうだね。それじゃあ行こうか」
そうして、また俺達は警戒しつつ森を進む。
今回、俺達は森で明確な目的がある。それはレベリングに最適な場所と獲物を見つけることだ。
【人物鑑定】と【魔物鑑定】でレベルと経験値が見えるようになり、計画的なレベル上げが可能になった。となればまずやるべきは、レベリングに丁度いい敵と場所を見つけることだ。
一度草原エリアの探索をしたのは、もしかしたら草原エリアでもそれが可能な相手がいるかもしれないと考えたからだ。が、これは芳しくなかった。
草原エリアでは、連戦するという環境が難しかったからだ。
考えてみれば当たり前のことだが、レベリングをしたいなら回数をこなさなければならない。しかし取り合いが発生するような場所でそれが出来る訳がなかった。
いや、出来そうな相手が居るには居たんだ。ただその相手がそれこそカームライノだったんだよな。皆が戦うことを避けるようなコイツなら戦うに困らないし、強い分それなりに経験値が高い。
でも、決して効率の良い相手ではない。強すぎるからだ。
余力を残せない死闘になる相手と、連続して戦う? 俺達にそれが出来るか? まず無理だろう。体力が切れて怪我するのがオチだ。最悪死ぬ。
俺がしたいのはレベリングであって、血沸き肉躍るような戦いではない。なんというか、もっと作業的にしたいんだよな。それこそ片手間にやっても戦える、みたいな。
レベリングに必要な要素がいくつかあるが、最低でも次の条件を満たしていないとならない。
経験値が美味しい敵であること。周回しやすい敵であること。すぐに戦えること。そして戦いやすい場所であること。
これらを総合的に見て、最も効率の良い相手を探す必要がある。
弱めの敵を大量に倒すか、自分達よりも強い敵を頑張って倒すか。経験値の効率という意味では、結局このどちらかになる。が、安全志向な俺達にとって強い敵と戦うというのはありえない。自然と弱い敵を大量に倒す方向になる。
そうなると、戦いやすくて大量に狩れる相手を探さなければならない。だが、そんな相手は草原エリアには居なかった。
でもそれ以上に難しいのが、すぐに戦えるほど敵が居ることと、戦いやすい場所を確保することだ。
ゲームとは違い、敵とは戦いたい時に戦えるようなものではない。草原でもそうだったが、まず敵を探す必要がある。その必要がないくらい、すぐに見つかる敵。そしてさらに、自分達が有利に戦えるような場所でないと逆にやられる可能性もある。
これら全てを満たせる場所……改めて考えると、相当難易度が高いな。本当にそんなものが見つかるのか。
だけど、それを見つけることが出来るのは、現状俺だけだというのも事実だ。
現実にはありえない“レベリング”が出来るとしたら――狙うしかないだろ。
「見えたぜ。ついたみたいだ」
道中、二回ほど魔物に襲われながらもなんとか撃退し、先頭を歩いていた川辺が言った。
川辺の背から窺うように前を除くと、そこには沼があった。
そこまで大きなものではない。視界に収まる範囲の広さで、一番深い場所でも腰元まで沈むくらいだろう。
沼のおかげか、周りには木が少なく拓けている印象だ。少なくともここまで来た道のりに比べればよっぽど見やすい。
森の中で数少ない、視界を確保できる場所。それがこの沼である。森エリアの情報収集をして、ここは確認しなければと思っていた。
「なるほど。ここだったら戦いやすいかもな」
「水を求めて他の魔物も寄ってくる。連続して戦いたいならピッタリの場所だ」
「でも、あまりここに来る人は居ないんですよね? 何でですか?」
「それはね――あっ、ちょうどいい。アイツらが居るからだよ」
首を傾げるチヨちゃんに、俺は沼の方を指す。そこには沼から這うようにして地表に上がってくる不定形の魔物が居た。
アメーバがそのまま大きくなったようなその魔物は――〈スライム〉。ファンタジーには欠かせない魔物の一つだ。
ズリッ、ズリッと這うようにしてこちらに近づいてくるスライムに、七緒ちゃんは嫌そうな顔を向けた。
「……ネバネバウニョウニョと、結構気持ち悪いですね」
「そうかな? 頑張ってて可愛いと思うけど」
「チヨちゃんって、器でかいよね」
アレを可愛いと言い切るのは、そうとう容量がでかいというか、結構変わり者だよなこの子も。
「それで、あのスライムが問題なんですか? 強そうには見えないですけど」
「いや、そう見えるかもしれないけど、かなり厄介らしいんだよ」
ゴブリン同様、ファンタジーを題材にしたいろんな作品にスライムは出てくるけど、個人的に両極端な性能をしていると思う。
誰でもお手軽に倒せる初心者用の雑魚か。油断すればあっさり殺される厄介なタイプか。
そしてこのダンジョンにおけるスライムは、後者になる。
「斬撃、打撃の直接的な攻撃が効きづらい。そして捕まって体に張り付かれたら、そこから酸性の液体で消化しようとしてくる。動きが遅いからって油断して、顔面に張り付かれて顔を溶かされた挙句、自力で剝がせずにそのまま窒息死した人も居るらしい」
「……思った以上にえぐいですね」
さぁっと、七緒ちゃんの顔が青くなる。
分かる。正直、俺も狼に嚙み殺された方がまだマシと思った。いや、マシではないな。
「一番楽に倒せるのは、伊波の【魔術】みたいな攻撃だね。あとはほら、スライムの身体の中心に赤い核が見えるでしょ? 物理に強いのはあくまで液体部分だから、あれを武器で壊せば体が崩れて死ぬらしいよ」
「えっ? それなら冷静に戦えばむしろ楽な敵なんじゃ?」
「いや、アイツらの身体って酸性の液体だから、武器で攻撃すると傷むんだよ。正確に当てないと核も壊せないし、遅いとはいえスライムも動くから何度も武器を当てることになるでしょ? そうするとほら、メンテナンスで凄いお金がかかる」
「ああ、それは大問題ですね」
そうそう。生活が懸かってるからね。出費が増えるのは良くない。
「【魔術】で倒すのが楽とはいえ、数発は耐えるだけの耐性があるらしい。そうすると駆け出しの〈魔術師〉だとすぐに魔力切れになるんだってさ。武器が傷む。【魔術】でも倒しにくい。そのくせ頑張って倒しても得られる物が何もないってなると」
「相手にするだけ損をする、ということですか」
そういうことになる。
何か残してくれるなら別なんだけど、アイツらは倒すとチリになって何も残らないらしい。
稼がないといけないのに金になるどころか浪費になるだけなら、手を出す訳がない。
「水気のある場所にしか居ないから、そこだけ気を付ければいいってことと、動きが遅いから逃げるのは楽っていうのが救いかな。だけど、万が一捕まったらまずいから、警戒は外せない。スライムを警戒しながら他の魔物と戦うのは危険っていうことで……」
「結局、ここも人気がないってことですか。納得しました」
それに素材が良いんだよな、森は。
普通の探索者だったら今まで苦労した分、ここで稼ごうとする奴らばかりだから、なおさらこんなところに居たくない。今でも稼げている俺達が例外なんだよな。
となると、ここではなく他で稼ごうとする。つまりライバルが居ない。
だからここならと候補地の一つとして考えていたんだけど。
「それで、お前らはどう思う? やれると思うか?」
「戦いやすいっていうのは間違いないと思うぜ。此処より見やすい場所は他にない」
「僕の方は試してないからなんとも言えないが、避けた方がいいんじゃないかと思うね。あれを見たら」
そう言う伊波の視線を追っていくと、ゲッという声が漏れた。
見れば、沼からうじゃうじゃと大量のスライムが湧きだしていた
「うぉ……ッ! す、すまん。流石にアレに【挑発】はしたくねぇ」
「う~、流石にあの数は私もちょっと怖いですっ」
「はっ、早く逃げましょう! 追いつかれたら一溜りもないですよ」
「おそらく誰も寄りつかないせいで大量に増殖したんだろうな。これは支部に報告した方がいいんじゃないか?」
まさかここまでとは。甘かったな。人が寄り付かないというから、俺達にとってはこの上ない環境かと思ったんだけど。
「これじゃあ無理だな。帰ろう。また他の場所を探そう」
これだけ都合の良い場所が他に在るとは思えないから、惜しくはあるけど。命には代えられない。
腐れスライムがよぉ~。こいつらさえいなければ。
恨み節で俺はスライムを【鑑定】した。
【魔物鑑定】
名称:スライム
性別:無性
年齢:生後1年
レベル:8(保有魔力値1024)
「――はっ?」
魔力値一千超えだと? マジでか? これ、カームライノを超えるぞ!?
他のスライムも、レベルが低い奴でも三ケタ後半の経験値を持っている。これ、経験値的には凄まじく旨い魔物じゃないか!?
……見晴らしがよい。ライバルは居ない。動きが遅いから逃げやすい。遠くから戦えば比較的安全。経験値が凄く高い。水気の在る場所にたくさんいる。
「おい、楓太。何やってんだよ。早く行くぞ」
「――見つけた」
「あん? 何がだよ。げっ、マジでやばい! 早く来いって!!」
川辺に引っ張られながらも、俺はスライムから目を離さないでいた。
考えれば考えるほど、ここしか無いと思える。見つけた。本当に見つけたぞ!!
こいつらこそ、最高の獲物だ!!
♦ ♦
【探索のヒント! その十五】
〈スライム〉
ファンタジーの定番的魔物の一匹。
作品によって子供でも倒せる雑魚だったり、倒すことも難しい強敵であったりとばらつきがある。この世界においては後者。
種族的に斬撃、打撃の物理耐性を持ち、【魔術】に対してもある程度の耐性があるため、非常に倒しづらい。核という明確な弱点がなければ鉄壁に近い性能を持つ。
動きが遅い為逃げやすいが、もし張り付かれた場合、その酸性の液体でゆっくりと体を溶かされるという生き地獄を味わう羽目になるだろう。
倒しづらく、核を壊せばただの水になり残せる素材がない。旨味が無い魔物として嫌われている。だが、それはあくまでも金銭的な旨味という話。
スライムは魔力に満ちた核を中心として体が構成されている。言い換えれば、魔力の塊そのものと言っていい。つまり、一般的な魔物に比べ魔力保有値が高い、経験値的にお得な魔物である。
さらに言えば、スライムの核は魔力的素材として優秀であり、あらゆる素材の繋ぎとして使える。生産物の品質が上がるだけではなく、作れるアイテムの種類も増えるだろう。核を残したまま倒すというケースが珍しく、この事実はまだ知られていない。
スライムに旨味がないなんてとんでもない。経験値の高さ。核の素材の価値。どちらかだけでも知られれば、スライムの乱獲が始まりかねないほど美味しい魔物である。




