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アラサーからのダンジョン探索~英雄は目指さない。マイペースに遊びながら稼ぎます~  作者: 迷子
第一章 脱サラ探索者デビュー!

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第23話 大物②

「ブフッ……ブフー……」

「……はぁ。もう寝てろ」


 川辺は解体ナイフを使って、虫の息だったカームライノの首を斬る。もはやメイスを持ち上げる気力も湧かないのか、最後まで戦った強敵を痛めつけたくなかったのか。どちらもかもしれない。


 何度かナイフを当て、手こずりながらも頸動脈を掻き斬る。荒い呼吸を繰り返していたカームライノはピンと体を硬直させると、やがて動かなくなった。


 その瞬間、俺の身体がカッと熱くなったのを感じた。レベルアップだ。もともとそれなりの数の魔物を倒していたし、こんな強敵を仕留めたのだからそうなってもおかしくはない。


 いつもなら大喜びするところだが、そんな気力すらない。歌うのを止めた七緒ちゃんも、呆然と呟くだけだった。


「……勝った? 助かったんですか、私達?」

「そうだよっ! 倒せたんだよお姉ちゃん! 皆凄いよ!」

「ピィー!!」


 回復したピーちゃんと一緒に、チヨちゃんはピョンピョン跳ねて喜んでいる。元気だなぁ、若いって羨ましい。無邪気に喜ぶ子供は微笑ましく……っと、それどころじゃないか。


「川辺、お疲れ様。本当によくやってくれたな。ありがとう」

「おおっ。今回ばかりは自分を褒めてやりたいわ」


 いや、実際お前が一番頑張ったよ。援護していた俺や【魔術】に集中していた伊波のように、安全圏に居た奴らとは違う。こんなにボロボロになりながら、本当の意味で最後まで逃げずに戦い続けたんだから。本当に尊敬する。口にはしないけど。


「ポーションは要るか?」

「おおっ、くれっ。正直体のあちこちが痛い。……すまん、腕が上がらん。飲ませてくれ」


「ああ、分かっ――ごめん。先に腕にぶっかけるから、自分で飲んでくれるか? なんか飲ませるのとか気持ち悪いわ」

「MVPになんて言いぐさ……ッ! いや、いいけどっ! いいけどさぁ!」


 だって、汗だくのデブに手ずから飲ませるとか、気持ち悪いんだもん。

 そりゃ全く動けないってんなら俺がやるけどさぁ。七緒ちゃんとチヨちゃんにやらせるのも俺が嫌だし。


 腕にペットボトルポーションを丸ごとぶっかけて、さらにもう一本を渡す。なんとか腕を持ち上げてグビグビ飲み始めた川辺を確認して、伊波を見た。


「伊波、大丈夫か? お前もポーション要るか?」

「いや、僕の場合は魔力だから、体力回復は意味がない。しばらく休ませてくれ……」


「そうか。あんな威力の【魔術】ならそうなってもしょうがないか」

「おおっ! そうだよ! お前スゲェ【魔術】使ったな! っていうかあんなもんが使えるなら早く言えよ!」


 それは本当にそう。切り札は隠しているからかっこいい、じゃねぇんだわ。せめて仲間とは情報共有しろよ。


「で、実際のところアレはなんなの? スキルって言ってたよな?」

「【魔力補填(オーバーチューン)】と言うらしい。必要以上に魔力を注ぐことで、規格以上の威力を出すスキルだ。今回は持っている魔力を全部注いだ」


 ああ、なるほどね。よくあるスキルだわ。

 ――って全部!? 魔力全部注いだの!? いや、納得の威力だったけどさ!


「お前外したらどうするつもりだったんだよ!? 詰みじゃねぇか!」

「その時は諦めるしかないだろう。どの道、今の【魔術】だと体力を削り切れない。あれで威力を高めない限り、殺し切れなかっただろう。あれ以外に勝ち筋はなかったから、間違っていないと思う」


 いや、その通りではあるんだが……。

 理屈は正しいとはいえ、それを実行できるかは全く別の話なんだよな。こいつクソ度胸にも程がある。やっぱりイカレてやがる。


 まぁともかく、伊波にも問題がないようで何よりだ。


 全員が窮地を切り抜けたことを理解し、ほっと息を吐く。

 なんだかおかしい気持ちになって、俺は思わず笑ってしまった。


「なんていうか、初めて死闘っていうのを経験したな」

「冗談抜きに俺は死ぬかと思ったけどな。でも、最近作業的になっていたから終わってみれば充実感が……いや、すまん。正直もう二度とやりたくないわ」


「とはいえ、上を目指すならある程度慣れないといけないんだろうね。特に川辺は。タンクがいちいちビビっていたらまともに戦うなんて無理だ」

「あれに慣れないといけないのか……」


 伊波の指摘に、川辺はげんなりとした顔を見せる。


 川辺の気持ちは分かる。正直同じことが出来るかって言われると俺にはムリ、って感じだし。


 かといって、川辺が居ないと俺達は先には進めないからな。無理強いさせるのも違うし、上に進むかどうかは川辺次第だろうな。元々俺達はエンジョイ勢だし、川辺が嫌だというならそれでも全然構わない。今でも暮らしていくのは余裕っぽいしな。


 まぁ、その問題で悩むのはもう少し先だろう。


「皆本当に凄かったですっ! ピーちゃんも頑張ってくれて……私だけ何にもしてなくて、なんだか申し訳ないです」

「いや、ピーちゃんの成果はチヨちゃんの成果だから、落ち込む要素なんか一つもないよ」


「ピピッ! ピィイイ!」

「ほら、ピーちゃんもそう言ってる」


 実際、ピーちゃんが片眼を奪わなかったらどうなっていたか分からない。十分に働いたと言ってもいいだろう。


「ピーちゃん、楓太さんは褒めてくれたんだから、そんなこと言っちゃ駄目だよ」

「待って。えっ、返事してくれたんじゃないの? コイツ何て言ったの?」


「チヨもピーちゃんもそうだし、皆頑張ってたわよ。迷惑をかけたのは私だけ。本当にごめんなさい。まさか私の歌であんな奴を引き寄せてしまうなんて」


 七緒ちゃんは泣きそうな顔をしながら、俺達に頭を下げた。助かったとはいえ、全員死んでもおかしくなかったのだから、責任を感じるのは分かる。


 だけど、たぶんそれは違うんだよな。


「七緒ちゃん。頭を下げるのは早いかもだ。ピーちゃんさ、ちょっと悪いんだけど、カームライノが走ってきた方角を見てくれない? あっちの方。何かない?」

「ピィ? ――ピピッ!」


 ピーちゃんは首を傾げると、しゃあねぇなとばかりにその場から飛び立った。


 七緒ちゃんの歌で引き寄せられた。最初はそう考えたけど、本当にそうか?

 もちろんその可能性がなくはないけど、それだったらもっと前に同じことが起きてるんじゃないか?


 カームライノは基本的に大人しい魔物だ。それがあんな遠くから歌を聞きつけて襲いにかかってくることあるか?


 その答えは、ピーちゃんによってあっさり暴かれる。


「――ピゲピアァアアアアアアアア!!!!」

「えっ!?」


 ピーちゃんのマジ切れした声に、チヨちゃんは驚いた声を上げる。


「ピーちゃん。なんだって?」

「えっと、芹澤って……」

「――はぁ!?」


 その名前が出た瞬間、今度は七緒ちゃんが表情を一変させた。


「芹澤って……えっ? どういうこと!? まさかこの状況ってアイツのせいなの!?」

「……人為的にカームライノはこっちに誘導されたという事かい? 芹澤によって」

「は? マジで? だとしたら流石に俺も許せねぇんだが」


 まぁ、川辺は特に死にかけてるからな。当然の怒りだわ。というか全員キレるわこんなん。

 苛立ちを抑えながら、伊波は言う。


「仮に芹澤達がやったとして、どうやってだ? あんな奴らにコントロールできるとは思えないんだが」

「たぶんだけど、マジックアイテムだろうな。確か、魔物が嫌がる成分を発する薬があったはず」


 これが魔物にとって結構苦痛な物だそうで、低層の魔物程度なら逃げてくれるそうだ。それなりに値が張るが、いざという時の緊急手段として有効なアイテムだ。実を言うと、俺もそのうち作ろうとは思っていた。


 本来は身を守るための道具だが、それを使ってこっちに逃げるように誘導することはあのゴミクズ程度でも出来る筈だ。


「えっ? もしかして私達がパーティーを断って喧嘩したから? その腹いせで殺そうと?」

「私達のせいで、楓太さん達を巻き込んじゃったんですか?」


 あまりの短慮に七緒ちゃんは怒り、チヨちゃんは泣きそうな顔になった。

 まぁ、あれだけボロクソに言いまくったからな。その線が無いとは言わんけど……。


「うーん、殺そうとしたと思う?」

「俺達の事はそうなってもいいと思ってたんじゃないか? でもあのバカさ加減を考えると……」

「自作自演の救助活動からの、七緒ちゃん、チヨちゃん確保の可能性が高いような……」


「自作自演の救助活動……えっ? もしかしてそれで私達があいつらに惚れるとか思われてるってこと!?」

「こんな都合よく助けてくれるわけないじゃないですか! 真っ先に疑うに決まってるでしょ! バカなんですか!?」


 バカなんだよなぁ……。

 いや、わりかしシンプルで良い手段だと思うけどな。命の恩人ってそれだけ大きいよ。実際それで本当に惚れる子もいると思う。


 ただ、それ以上にやらかしてるからな。引っかかる前のマイナス点がデカすぎて、今更助けられても疑いの目しか持てないんだよ。

 そこを分かってないから、やっぱりバカなんだよなぁ。


 でも、そういうことを考えずガンガン行けるからこそモテに繋がるのも事実なんだよなと、モテない男の悟りを呟いてみたり。


「真相はどうあれ、一線を超えてるよな、これ」


 ここまでやったら普通に殺し合いだろ。


 なんだろうな、これ。怒っているからかな。

 視界が急に広くなった気がする。そのせいか、頭がスッと軽くなった。


 怒っているのに頭は冷たく冴えてる、っていう矛盾した感覚だが、なんだか心地よい。


 そしてその効果は単純な視力にも及んだのか、ピーちゃんが見ている方向に、豆粒ほどの大きさの二足歩行の生き物の姿が複数見えた。


 逃げているのか、その姿は小さくなっている気がする。だが、バレてないなんて思うなよ、クソガキ共が。

 特に芹澤。お前だけは絶対に許さん。俺はおっさんだが、ここまでやられて黙っていられるほどできた大人じゃねぇぞ。


【人物鑑定】

 名称:芹澤 光

 性別:男 

 年齢:二十一歳 

 レベル:4


 俺の怒りに反応したのか、【人物鑑定】が情報を齎してくれる。まさかこの距離で発動してくれるとは思わなかった。

 だけど、やっぱり芹澤だったか。確信できた以上、俺の決意は固まった。


 あいつだけは何があっても絶対に許さ……許さ……?


 ………………レベル4?


「――おおおおおおお!?」

「きゃ!? びっくりした!」

「楓太さん? どうしたんですか急に」


 七緒ちゃんが可愛い声を上げ、チヨちゃんが不思議そうに見てくる。でもごめん。それどころじゃない!


「おい、本当にどうした急に――あっ。もしかして何か見えたか?」


 そう言ってくる川辺に、俺はすかさず鑑定した。


【人物鑑定】

 名称:川辺 健斗 

 性別:男 

 年齢:三十二歳 

 レベル:5(次のレベルまで残り232)


 次のレベルまでの必要経験値!? マジで!? ここまで見えるの!?

 こ、これはデカい! 次の成長までどれだけかかるのかが把握できれば、より計画的にレベル上げが出来る!! ヤバいぞマジで!!


 いや、待てよ? 魔物は!? 魔物はどうだ!?


 俺はあたりを見廻し、目に入った影に【魔物鑑定】を発動させる。そして、容易く発動した。


【魔物鑑定】

 名称:シングバード 

 性別:オス

 年齢:生後二ヶ月

 レベル:3(保有魔力値50)


 ……見えた。見えちゃったよ!!


 保有魔力。たぶんこれがレベルに必要な魔力だろうな。言うなれば経験値だ。


 これがパーティー人数で等分されるのか、一人分なのかは分からないけど、そんなものは後で確かめればいい!


 経験値――いや、魔力値の数値化。これが出来るなら……!!


「おい、急にニヤニヤしてんじゃねぇよ」

「そうだぞ。正直気持ち悪いぞ」

「んふふっ、悪い悪い。でも聞いて驚け。レベルと次に必要な経験値が見えるようになった」

「――はぁ!? えっ、おまっ、マジで!? というか次の経験値って、そこまで見えるタイプだったのか!」

「それはっ! それは本当に凄いぞっ! 凄まじいアドバンテージだ!」


「レベル? 経験値?」

「見えるって……楓太さん〈錬金術師〉じゃなかったんですか?」


 おっと。そういえば二人にはまだ隠していたんだった。興奮して何も考えずに伝えてしまった。


 だがまぁいい。二人は信用できそうだし、手に入れた物のことを思えば些細な事だ。この重大さに比べれば、他の全てがどうでもいい。やるべきことはいくらでもある。


 とりあえず、次の探索に備えて色々と準備をしないとな!


 ♦   ♦


「……嘘だろ? 勝ちやがった」


 双眼鏡で七海姉妹のパーティーとカームライノとの戦いを覗いていた芹澤は、呆然と呟いた。


「はぁ? マジかよ? 七緒ちゃん達、戦えるようになったの?」

「いや、チヨちゃんは何もしてねぇし、七緒ちゃんもあのろくに効きもしねえ歌を歌っていただけだぞ」


「何かでかい氷を出してだよな。〈魔術師〉か?」

「あとあのデブ。一人だけ狙われ続けてたぞ。もしかして【挑発】持ってんじゃね?」


「マジで? 何でそんな無駄に良スキル持ってるんだよ。もしかして意外と強いのか? もう一人のおっさんはアイテムを投げてただけだけど」


 思っていなかった結果に、仲間たちも次々に口を開いた。


「はぁー、せっかく上手く誘導出来たってのによぉ。高い金払ってこれとかまじ萎えるわ〜」

「ホントそれな! なに勝ってんだよ。そこは死んどけよな〜も〜!」


 そして、楓太達の推測は当たっていた。七緒達が襲われたところを助け、好感度を稼ぐ。仮にそれが無理でも、邪魔なオッサンが死ねばそれでよし。


 その為にこちらも危険を犯して強い魔物を選んだと言うのに、結果はまさかの全員生存で勝利。大した怪我もしておらず、こちらは貴重なアイテムと金だけを失う羽目となった。


「どうするよセリ。あのオッサン共けっこうやるみたいだし、諦める?」

「ふざけろ。諦めるわけねぇだろ」


 あれだけ人前で恥をかかされて、黙りっぱなしで我慢できる訳がない。それに、そんじょそこらの女とは訳が違う。姉妹揃って極上の女だ。手に入った時のことを思えば、諦めるには惜し過ぎる。


 何より、自分達でも手が出せないのに、あんなオッサン共にやるわけにはいかない。


「どんな手を使っても物にしてやるんだよ……」


 そう呟く芹澤の目は、剣呑な色に染まっていた。


 ♦   ♦


【探索のヒント! その十四】

魔力補填(オーバーチューン)

 規格以上の魔力を注ぐことにより、【魔術】の威力を引き上げるスキル。

 魔力の補填量に限界はない為、理論上は魔力の在る限り、どこまでも威力を上げることが出来る。

 ただ、下位の【魔術】を強化するよりも、素直に上位の【魔術】を放ったほうが威力は高いので、コスパが良いとは言えない。

 未だ上位の【魔術】に届かない者が、現状のままより高い威力を求める場合。あるいは【魔術】の最大ダメージを追求したい時に需要があるスキル。

 その性質から、ただひたすらに火力を求めるような、いわゆるロマン砲主義者に発現しやすいスキルである。

 


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