第21話 不穏な予感③
ピーちゃんの脅威的な成長を経て、いつも通り渋谷支部に戻って報告と会計を行う。
ホールの隅っこで順番待ちをしていると、七緒ちゃんがウキウキしながら言った。
「やっぱりこの時間が一番楽しいですよね。成果がお金になるこの瞬間が」
「って言っても、ポーションの売り上げに比べたら誤差みたいなものじゃない?」
「それはそうですけど、あれは楓太さんの成果じゃないですか。正直、申し訳なさの方が大きくて。素材売却だと私も頑張ったって気持ちになるんですよね」
まぁ分からんでもない。楽に手に入る数十万より、苦労して手に入った数万の方がずっと嬉しい……いや、やっぱり楽な方がいいわ。
そうやって五人で雑談を楽しんでいた、その時だった
「七緒ちゃん、チヨちゃん! ようやく会えたよ〜!」
テンションの高い男の声が聞こえ、そちらに顔を向ける。そこに居たのは、二十代前半の若い男だった。
頭を金髪に染め、鍛えているのか細身ながら体はゴツい。格好こそ俺達と同じ探索者セットだが、若者らしい私服ならば陽キャっぽい…………いや、違うな。
明るいというより、嫌な軽薄さを感じる。ぶっちゃけチャラいし、顔つきが強引そうでオラオラ系っぽい。何人も女を泣かせてそう。
んで、似たような雰囲気の男が他に五人居る。なんなのこのNTR漫画の竿役みたいな集まりは。
【人物鑑定】
名称:芹澤光
性別:男
年齢:二十一歳
やはり大学生か。ヤリサークズ確定。
「芹澤……」
七緒ちゃんがパーティーを組んだ当初の俺を見たとき以上の、凄く嫌そうな表情で呟く。
そんな七緒ちゃんの様子に気づいていないかのように、男は馴れ馴れしく距離を詰めてきた。
「いやー、同じ場所で活動してるのに中々会えないもんだな! ずっと探してたんだぜ! でもこうして会えて良かったよ! なぁ、また俺らとパーティー組もうぜ!」
「はぁ? あんなことしておいて、組むわけないでしょ。どういう神経してるんですか?」
「チヨちゃん、こいつら知り合い?」
「前に一緒にパーティーを組んでいた人達です……」
こっそりチヨちゃんに尋ねると、彼女には珍しく、嫌悪感を隠せない表情で呟いた。
ああ、つまり襲ってきた連中ってわけね。マジでゴミクズ野郎どもじゃねぇか。
しかし本人にその自覚はないのか、芹澤とか言う男はヘラヘラ笑いながら言う。
「誤解だってば。俺たちそんなつもりじゃなかったんだぜ? なのにあの女が勘違いして無駄に騒ぐから七緒ちゃん達まで誤解してさ、良い迷惑だぜ」
「人に薬を盛っておいてそれで誤魔化せると思ってるの? あの時は真帆さんが助けてくれなかったらどうなっていたか。どこまで人をバカにしたら気が済むわけ?」
盛ったのかよ。ただの犯罪者じゃねえか。
「だから本当に誤解なんだって。体調不良の二人を看病しようとしてただけなんだよ。せめて誤解を解くチャンスをくれよ。俺たち上手くやってたじゃん。なっ? もう一度俺たちとやろうぜ?」
誤解だと言いながら、それを解こうと必死な態度には見えない。バレても問題ないとヘラヘラ笑い、下心が丸見えの目だ。
肩に伸ばしてきた手を弾き、七緒ちゃんは吐き捨てるように言う。
「触らないで、気持ち悪い。そもそも、もうパーティーを組んでますので、あなた達とはどのみち一緒にやれません」
「はぁ? どこのどいつと……え? もしかしてそっちの三人?」
まるで今目に入りましたと言わんばかりに、そいつらは俺達を見る。そして鼻で笑って好き勝手言い始めた。
「マジで? こんなおっさん達と組んでんの?」
「七緒ちゃんもチヨちゃんもさ、いくら戦えないからってもうちょい仲間は選ぼうよ。本当に死んじゃうよ?」
「おっさん達さ〜。女に縁がなくて必死なのは分かるけど、鏡見ようぜ。若い子に手を出そうとするとかマジやばいっしょ!」
強引に女をものにしようとするテメェらの方がよっぽどヤバいわ。クソガキが。
「あれから俺たちも本気で探索者やってさ。ほらこいつ、七緒ちゃん達と別れてから仲間になったやつなんだけど、〈斥候〉のジョブ持ってるんだよ。おかげでガンガン戦えて強くなったんだ。今なら二人のことも守ってやれるよ?」
「そーそー。俺らもうレベル四だぜ? 始めて一ヶ月でこれって結構凄いんだよ。有望株って奴だ。俺達と一緒の方が絶対良いって!」
えっ。なにこいつら。たかがレベル四くらいでイキってんの? 俺らと同じじゃん。ていうかなんだったら、俺達は実質一日でレベル四になったぞ。お前ら今まで何をしてたの?
勘違いぶりに引いていただけだったのだが、何も言わない俺達をどう思ったのか、芹澤は優越感に浸った笑みを浮かべていた。
「まーそう言うわけで、これからは俺たちが二人を守るからさ、おっさん達は引っ込んでなよ。つぅか下心丸見えでキモいから。ほら、チヨちゃんもこっちおいでって」
あたかも相手の為に、という態度を装って手を伸ばすが、チヨちゃんはスッと後ろに下がって避けると、そのまま俺の背に隠れた。
「……なんだよ、照れないでも良いじゃん」
見下しているオッサンの方へ逃げられ、余裕を装っているが、頬をひくつかせて動揺を隠しきれていない。正直ウケるわ。でも本当にバカだなコイツ。
「照れてるんじゃなくてキモいから逃げてんだよ。どんだけ都合のいい脳みそしてんだ」
「はぁ? 何オッサン。喧嘩売ってんの?」
「さっきから全部おまゆうじゃねぇか。マジでこんな奴らいるんだな。さぞいい教育受けてきたんだろうな」
「はっ? 何だこのデブ。まじでキモいんだけど」
「やめておけ川辺。ヤることしか考えてない猿に皮肉が理解できるわけないだろ」
「はぁ!? 猿はテメェだろうが! つうか部外者は引っ込んでろよ!」
「いい加減にしなさいっ! 部外者はアンタ達でしょうが!」
よっぽど我慢の限界だったのだろう。俺達の前に、七海姉妹が揃って爆発した。
「さっきから聞いてれば何!? 下心丸出し!? 笑わせんなこのクズ! それは自分のことでしょうが!」
「そもそも守ってやるってなんですか! 無駄に張り切って死にかけた挙句、私達を盾にしようとしてた時があったじゃないですか! それで守るとかどの口で言ってんですか!」
「しかも守ってやったからとか言って無理やりポーション代を私に全額払わせたわよね!? 頼んでないしアンタが勝手に突っ込んだんだろうが! 自分の怪我くらい自分で面倒見なさいよこの甲斐性なし!」
「この人達は貴方達と違って本当に私達を守ってくれるし! ちゃんと私達を認めてくれるし! ポーション代なんか払わせないし稼がせてくれるし! 一緒に遊んで楽しいし美味しい物食べさせてくれるし! あなた達とは器が違います! それなのにわざわざそっちに行くわけないでしょ! 身の程を知れ!」
「そもそも許可してないのにちゃん付けで呼ぶんじゃないわよ気持ち悪い! 何? 自分たちがイケてるとか思ってんの!? 勘違いも大概にしろ!」
「あと何かにつけてボディタッチしてくるのなんなんですか! 香水臭いし触られて気持ち悪いんですよ! 役立たずな上に不快感しか与えないとか害でしかないんですけど!」
キモい。頼りにならない。ダサい。臭い。役立たず。キモい。自慢しか出来ない。面白くない。人の悪口ばかり。収入が少ない。ろくに戦えない。やっぱりキモい。
その後も出るわ出るわ罵倒の嵐。相当不満だったんだな……。
中には男が言われたら立ち直れなくなるような言葉もあった。後ろで聞いていた俺達の方も顔を青ざめるほどだ。
そして言われている張本人のダメージは、それ以上に深刻だ。
「こっ……ッ! おまっ……ふざけ――」
「そこまでです」
いつの間に近づいていたのか、職員さんが手を出そうとした芹澤を止めた。気づかなかったが、ホールに居た人達全員の視線が俺達に集まっていた。これだけ騒ぎを起こせばそりゃ止めにくるか。
「他の利用者の方もいらっしゃいますので、争いはそこまでにしてください。でなければ双方に罰則を与えることになります」
「はっ、はい。お騒がせしてしまい、申し訳ございません」
「すいませんでした……」
七緒ちゃんとチヨちゃんは、ホール全体の注目が集まっていると知り、顔を赤くしながら素直に頭を下げる。しかし、芹澤は舌打ちして目を逸らすだけだ。人間性が透けて見える。
「芹澤さん。あなた方には他の探索者からもクレームが出ています。七海様の件もこちらで把握しております。これ以上騒ぐのであれば、探索者の除名も考慮しなければなりませんがよろしいですか?」
「はぁ!? ふざけんなよ! なんで俺らばかり――」
「職員の言うことに逆らうのはダメよ、坊や」
職員に反抗しようとした芹澤に、柔らかく窘めるような声がかけられた。
その声の持ち主は、冷艶な美貌と雰囲気を持った女性だった。白いワンピースにストローハットを被っている。これだけだったら夏の淑女らしい姿と言える。ただ、デカい。身長は百八十を超えているか。俺どころか川辺よりデカい。ついでに胸も尻もデカい。ゆったりしたワンピースでも隠し切れない色気と迫力のあるお姉さんだった。
……こんな目立つ人の接近に何で気づかなかった? 職員さんとは訳が違うぞ? 明らかに高レベルの探索者。それもトップ層の人だ。何でそんな人がこんな支部に――あ、いや。
そういえば、最近はそういう人が来ても珍しくないですねぇ。……もしかして、そういうことか?
「その辺りにしておきなさい。それに、女を口説くのに暴力もよくないわ。口説くならもっとスマートにしなさいな」
「うっせぇんだよ! どこの誰だか知らんけど、おばさんは引っ込んでにゃ――っ!? ――ッ!?!?」
怒鳴り散らそうとした芹澤の口を、お姉さんは片手で両頬を寄せるように掴んで止めた。そのまま力を込めると、芹澤のうめき声がどんどん大きくなる。
愚かなやつだ。実力を見ないのもそうだが、あんな美女をおばさん呼ばわりとは。けっして若くないだろうが、おばさん扱いするような歳でもなかろうに。そりゃ怒らせて当たり前だ。
「お姉さんよ、坊や。言うことを聞けない悪い子はどうなるか、分かるわよね?」
「――――ッ!」
必死にコクコクと頷く芹澤を見て、お姉さんは手を放す。解放された芹澤は頬をさすり、不満そうに俺達を睨んだあと、仲間を引き連れてそのまま逃げていった。
その後ろ姿を眺め、お姉さんは小さく笑う。
「最近の新人は躾がなっていない子が増えたわね。あなた達も災難だったわね」
「はっ、はい。助けてくれてありがとうございました」
「お陰で助かりましたっ! ありがとうございます!」
七海姉妹に続き、職員さんも御礼を言う。
「私からも御礼を申し上げます、ミライ様。ご迷惑をおかけしてしまい、大変申し訳ございません」
「いいのよ。ただの気まぐれだから、気にしないで」
「そう言って頂けるとありがたいです。……ところで、今日は珍しい格好ですね?」
「ああ、これ? 似合ってないかしら?」
「いえ、とてもお似合いですよ。ただ、いつもとはだいぶ雰囲気が違いますので、正直なところ驚きました。何かあったんですか?」
軽い好奇心から聞く職員に、お姉さんはふっと笑う。
「前にタケに言われたのよね。渋谷支部に私が近づくと、新人に怖がられるって。失礼しちゃうわよね。でもこの格好ならどうかしら? ねぇ、あなたはどう思う?」
どっかで聞いたことある前振りだなぁ……。
【人物鑑定】
名称:中野三蕾
性別:女
年齢:四十一歳
「よん――ッッ!?!?!?!?」
思わず声に出そうになったところで、それよりも早く、ガシリと中野さんが俺の頬を掴んだ。
「あら。今何を言おうとしたのかしら? ――女の秘密をバラすと怖いわよ?」
「もぢろんでぃしゅ……いわにゃいでしゅ……」
俺の反応に満足そうに頷き、中野さんは手を離す。
マジで痛い。頬がちぎれるかと思った。手加減されてこれか。今更ながら、あの男に同情する。
「いいでしょう。ところで、あなたもしかして小畑君? タケから聞いていた風貌にそっくり」
「そうゆう貴方は中野さんですか? 俺もタケさんから話は聞いていました。特徴的なのですぐに分かりましたよ」
「あら、なんて聞かされたのかしら?」
「絶世の美女だから、見惚れないように気をつけろと」
「あら、褒めるのが御上手。それにしても奇遇だわー。まさかこんなに バッタリと出くわすなんてー(棒)」
「そうですねー。奇遇ですねー(棒)」
「あの、お二方。なぜそんなわざとらしい会話を?」
はい、ノルマ達成。これで職員さんにもバレないですね!
職員さんにはさりげなく誤魔化し、中野さんは伺うような目を向けてきた。
「最近、仲の良いお友達が増えているそうね。よければ私とも仲良くしてくれたら嬉しいのだけど」
「勿論ですよ。中野さんでしたら、こちらから是非」
「あら嬉しいわ。あと、中野じゃなくてミライと呼んでちょうだい。私、あまり自分の苗字が好きじゃないの。私も楓太くんと呼ばせてもらうから」
「そうですか? それじゃあミライさんと呼ばせて頂きますけど、ちなみになんで好きじゃないんです?」
「中野、なんて平凡な名前私に相応しくないでしょ? ミライは及第点だから、その点は親を褒めてあげてもいいけどね。いっそ苗字も別に用意して欲しかったわ」
ふっ、とかっこいい笑みを浮かべ、ミライさんはそう言い切った。
いや無茶言うな。できるわけねぇだろ。この人、ナルシストなんだろうか。
「ところで楓太君、最近トシの奴とポーションの取引しなかった?」
「え? はい、しましたけど」
トシさんのことを知っているのか? いや、タケさんの知り合いなら知っていてもおかしくないか。
俺の返事に、ミライさんはニィッと笑った。
「へぇ。ちなみにいくつくらい? 期限とか指定された?」
「えっと、数は――」
――いや待て待て待て!! 駄目だろ!!
「あら、どうしたの?」
「いや、どうしたのじゃないですよ。すいませんが、個人情報は吐けません」
「へぇ――脅されても?」
怪しげな、そして危うげな笑みを浮かべ、ミライさんはそう言った。
背中に寒気が走り、体が震える。だが――
「それでもです」
なけなしの勇気を振り絞り、毅然と言い放つ。
タケさんもトシさんも、俺を信用して取引をしてくれた。
俺は決して真面目な人間とは言えない。だが、信じてくれた人を裏切ることは出来ない。
人として、大人として。最低限の常識、誠意だ。
「そう。誠実なのね」
まるで子供を見るような優しい瞳で、ミライさんはそう呟いた。
プレッシャーが消え、俺もほっと息を吐く。その瞬間、ミライさんは距離を詰めてきた。
嘘だろ? まさか力づくで……本気か!? クソッ、完全に油断し――
――フワン。
…………ふえぇあ。柔らかぁい。あったかぁい。いい匂ぃ。
目の前が埋まっているから何も見えていないが、確かめないでも分かる。おっぱいだ。この女、そのでけぇ乳を当ててきやがった。
身長的に、ちょうど俺の顔あたりだからといって、本当に当ててくる奴が居るかよ。
落ち着け! 相手は四十のババアだぞ! 嬉しいどころか、むしろ気色悪い……なわけあるか! 普通に美女だもん! 年齢なんかどうでもいいわっ!
こんな……こんな手でこの俺が……だめだ、思考が止ま――くっ!
精神を振り絞り、俺は一歩下がり天国から逃げ出した。
――ザッ! スッ。フワン。
――ザッ! スッ。フワン。
――ザッ! ドンッ! スッ。むぎゅっ!
気力で退がり続けたが、とうとう壁際まで追い詰められてしまった。そして当てるどころか、押し込まれて胸に沈み込まされている。もう逃げられない、というか逃げたくない。
突き飛ばそうにも、女性を相手にそんな真似は出来ない。なんとか相手側に引っ張ろうとしたが、まるで俺が抱き着いたみたいになってしまった。
駄目だ。これは詰んだ。
「これでも、言えない?」
優しく囁くような声が、俺の耳をくすぐる。触覚に嗅覚、そして聴覚まで支配しようとしてくる。
「い、言えないです。個数や期限はっ……大事な情報です……ッ!」
「まぁまぁ、そう言わずに」
駄目だ、逆らえない! 言うことを聞きたくなってくる! でも、顧客情報をばらすなんて、そんなこと……そんなことは――ッッ!!
――いや、言わなければいいんじゃね?
「何をされても、俺からは具体的な数字は言えません!!」
「具体的な……なるほど。それじゃあ、五個くらいかしら?」
「いえ、それは違いますね」
「それじゃあ十個?」
「何を言われても俺は答えません!」
「なるほど。期限は二週間くらいかしら?」
「いえ、違いますね」
「それじゃあ一週間?」
「たとえ拷問されても、俺は答えません!」
「……なんて口の堅さかしら。私の負けね。素晴らしいわ」
やっと諦めたのか、ミライさんは離れると、ぶつぶつ呟き始めた。
「やっぱり同じ依頼を受けようとしてるわね。早く動かないと取られる。なら先に独占するか。楓太君、私もポーションの依頼を頼んでもいいかしら?」
「それはもちろん」
考えが纏まったのか、ミライさんはパッと明るい笑顔で尋ねてきた。
そんな顔をしてくれるなら、俺も嬉しいぜ!
「明日までに十、いえ、十五本用意できないかしら?」
――十五!? それも明日までに!? キッツ!
いくらミライお姉さんが相手でも、流石に無理だ。まさか俺がこんなブラック案件をお願いされる日が来ようとは。これはお断りしよう。
「無茶を言っている自覚はあるから、特急料金を払いましょう。一本十万で買うわ」
「お任せくださいレディ。すぐに揃えてみせましょう」
十万!! 全部合わせて百五十万!! 既に作り始めているトシさんとタケさんに回す分を使えば余裕でいける!! こんな美味しい仕事は他にないぜ!!
「ミライ様! 小畑さんのポーションは協会としても必要としておりまして――」
「駄目かしら?」
慌てて口を挟んだ女性職員さんに、ミライさんは顎クイをすると、スッと顔を近づける。
職員さんは顔を真っ赤にし、敗北した。
「だ、駄目じゃないですぅ……」
「そう。ならいいわね。ありがとう」
ミライさんは連絡先を交換すると、颯爽と帰っていった。
トシさんとの取引を聞いてからの動きと考えるとちょっと不安になるが……いや、俺は何も言ってないから問題ないな!
それよりもミライさんの取引だ。スケジュールはちょいとキツイが、かなり美味しい取引になりそうだ。帰ったらすぐに用意しないとな。今夜は徹夜になるかもしれん。
徹夜してまで仕事なんて……考えだったのにな。一気に大金が手に入るってなると、全く気にならないな。自分でこれだけの金を稼ぐって凄い楽しい。正直ワクワクしてきたぞ!
さて。タケさんの分を回しても、幾つか追加で作らないと足らないな。だけど確か、素材の在庫が足りない。となると――
「ごめん。勝手に決めて申し訳ないけど、ちょっと残業しなきゃならなくなった。俺は先に帰って生産をやってるから、悪いんだけど四人はダンジョンに戻ってポーションの素材を採集してくれないか? 俺抜きでも問題ないだろ?」
「おっ、おう。俺は全然構わないぜ。あれだけうまい取引も中々ないだろうしな」
「う、うむ。僕も問題ない。ただ……」
断られるとは思っていなかったけど、二人はなにやら緊張した様子だった。どうした?
二人の目配せに従い、視線を動かす。
七緒ちゃんとチヨちゃんが、冷えきった目で俺を見ていた。
「最っ低」
「楓太さん。最低です……」
「ちっ、違うっ。ちゃうねん」
い、いや! だってしょうがないじゃん!
乳当てられたら男だったらああなるよっ!
♦ ♦
【探索のヒント! その十三】
〈【飛鳥】〉
鳥系統の魔物が適性を持つスキル。鳥に属する魔物であれば、どんな魔物でも習得できる可能性がある。主にダンジョン中層以降に生息する〈ストライクビーク〉、〈メタルウィング〉などが習得している。
魔力を一気に燃焼し、身体能力以上の速度で敵に体当たりをしかける。言ってしまえばただそれだけの技。しかし、上記二体のように鋭い嘴、鋼鉄の身体を持った魔物がこれを使った場合、人間であれば体がバラバラに砕かれ、象のような大型動物であってもその身体を貫通することができる恐るべき技である。
ただし、それは技の威力に耐えられる体があっての話。大抵の鳥系魔物では技の威力に耐えられず、自傷ダメージを負う。場合によっては死ぬ。僅かな傷でさえも致命傷になりかねない鳥系統の魔物にとって決して有用とは言えず、適性はあるのだが覚える魔物の種類は意外と少ない。
ましてや〈シングバード〉のような鳥系統最弱と言ってもよい魔物が覚える技ではない。にも関わらず覚えられたとしたら、それは自らを省みないというよほどの覚悟を持つほどに、攻撃力を必要としたからであろう。
ピグマリオン二世
「俺は決して許されない罪を犯した。しかし後悔はない。同族とチヨ。そのどちらかを選択しなければならず、チヨを選んだ。ただそれだけのこと。
許されたいなどとは思わない。この痛みが罰だというのなら甘んじて受け入れよう。たとえこの身が朽ちようとも、チヨを守ることができるなら、俺はこの業を背負って生きていく。その覚悟が俺にはある。
――それはそれとして楓太はいつか必ず殺す」
ペットは家族! 大事にしようねっ!




