第19話 不穏な予感①
生産作業の延長により翌日の休日が潰れて次の探索。
七海姉妹の加入を正式に決めてからの初探索は、前回同様に驚くほど順調だった。
「~~~~♪ ~~♪ ――」
遅咲きアイドル七緒ちゃんの唄を聞けば、あれだけ凶暴だった草狼もあら不思議!
まるで室内飼いのワンちゃんのように、野生を忘れてウトウトとします!
「おらっ!」
そこを川辺さんが頭をグチャリ! もはや作業だなこれ。
「いや~、無慈悲すぎる」
「お姉ちゃん凄~い! 無敵! よっ! 最強アイドル!」
「ふふっ! それほどでもあるかもね。でもチヨ、アイドルは止めなさい」
満更でもなさそうだが、釘を刺すことは忘れない七緒さん。もう認めちまえばいいのに。
伊波は顎に手をやりつつ唸る。
「実際、デバフとして強すぎるな。きっちり眠らなくても、眠気を与えるだけで十分だ。おかげで僕の出番もない。現実だと状態異常って洒落にならないね」
「ああ。流石に複数に囲まれたら別だが、二匹くらいならもう俺と七緒ちゃんだけでやれる。レベルも上がって俺の能力も上がってるしな。あとなんか武器と盾が上手くなった気がするわ」
ぶんぶんとメイスを素振りしている川辺を見て、確かにと思わず頷いてしまう。
新しいスキルを覚えたってことは無いらしいけど、傍から見ても川辺の身体能力が明らかに上がっている。草狼くらいならもうこいつ一人でも対応できそうだ。
七緒ちゃんのデバフ付きならより安全に戦えて、伊波の魔力は温存できる。不意打ちと索敵はチヨちゃんで対応する。正直パーティーとして順調すぎる。俺のやることが無いってことを除けばなぁ!
でも順調すぎて、いつか落とし穴にはまりそうで怖いんだよな。調子に乗らないよう、油断せずに検証は続けた方がいいか。
草狼の解体をしながら、俺は提案した。
「子守歌のデバフはだいたい分かったしさ、そろそろバフの方も試してみない?」
「バフ、ですか?」
「うん。なんでもいいけど、出来れば川辺が強化される奴がいいな」
筋力とか、速度とか、あるいは反射神経とか。身体能力を上げるのではなく、体に膜の防御が発現するタイプでも良い。
伊波の強化でも良いんだけど、今の火力で満足してるし、そもそも使用機会が少ない。それよりも常に戦う川辺の方がバフの利益が大きいだろ。
そう思っての提案だったが、七緒ちゃんは逃げるように目を逸らすだけだった。
「え、どうしたの? 何か問題でもある?」
「問題と言いますか。その、バフがかかる唄が何か知らなくて……」
「えっ? なんで?」
「いえ、その……今まで笑われたり役立たず扱いされるばかりでしたので、子守歌以外の唄を試したことがなくて」
あっ、ああ~。そういえばそんな扱い受けてたんだったか。
「そっか。じゃあこの際、いろいろと試してみようよ。丁度いい機会じゃん」
「うっ、ごめんなさい。もっと早く気づいていれば、こんなことには……」
自分の力も知らない羞恥からか、ブツブツと過去を振り返っている落ち込み始める七緒ちゃん。
気持ちは分からんでもないけど、その場合、俺らの仲間になることもないってことは分かってんのかな。
「ところで、川辺さんに対してのバフってどんな歌を歌えばいいんでしょうか?」
「あ~、単純に筋力が上がったりとかで良いと思うけど、選曲か。何か思いつく?」
他の三人に話を振ると、それぞれ意見を言い始めた。
「ん~。なんか熱い歌? 戦いの歌とか? アニソンとゲーソンからならいくつか思いつくけどな」
「ヒーローものの主題歌とかどうですかっ! 凄く力が出そう!」
「いくつかは思いつくが、そもそも効果の判定がどうやって決まるのかが分からないからな。歌のタイトルなのか、ジャンルなのか、歌詞なのか。あるいはその全部か。結局のところ、いろいろと試すしかないんじゃないか?」
そうか。最悪、狙った効果が出るまで探す必要があるのか。なら片っ端から歌わせたほうがいいか。
「あとだな。僕らが選ぶのではなく、なるべく七緒ちゃんの持ち歌から選んだほうが良いと思う」
「えっと、それは何故ですか? もちろん上手く歌えるとは限りませんけど、知ってる歌ならある程度は歌えると思いますけど」
「その上手く歌うっていうのが、子守歌では大事だっただろう? 技術はもちろん、歌のシチュエーション、歌詞の意味。その歌が伝わって初めて、【歌唱】スキルは発動するんじゃないか? そうなると、持ち歌レベルで理解がないと発動すらしないんじゃないか?」
ああ、そういえばそうだったな。
半端なクオリティじゃダメなんだ。そうなると人から提案されて、ああ知ってる、くらいの理解度じゃ絶対に足らんな。
「よく知ってる歌で、強そうな……ちょっと考えてみます」
ぶつぶつ呟きながら、七緒ちゃんは考え込んでいる。
そうしていると、チヨちゃんはピクリと反応し、空を軽く見上げて言った。
「草狼が二匹です。大丈夫ですか?」
「うん。それで行こうか。川辺、バフの性能を確かめるためにあえて薬は使わないからな。気をつけろ」
「確かにその方がいいな。分かった」
「久しぶりに僕の出番もありそうだな」
軽く作戦会議をして、ピーちゃんの元へ向かう。久しぶりに出番がありそうな伊波はもちろん、調子の良い川辺まで意気揚々と歩いて……いや速いわ!
「おっ、なんだ楓太。疲れたか」
「いや、まだ疲れてないけど、俺荷物持ってるからね?! さっきので皮が増えたから!」
「……ああ、そうだったな。済まない。もう少しゆっくり歩こうか」
そう言って伊波は俺に合わせ、川辺も文句なくそれに続く。
そのまま十分ほど歩き、ピーちゃんの元に辿り着いた。例によってその下あたりには、草狼が二匹。練習には丁度いい。
「では先生。お願いします」
「先生じゃないから」
七緒ちゃんはジト目で俺を睨んでから、すぅ、と息を吸う。そして、歌い出した。
「永遠に〜続く暗闇の中〜――」
歌い出した途端、草狼がぴくりと耳を動かして、こちらに反応する。そして、二匹共が走り始める。
「――おっしゃあ! こっちこい犬っころ!」
川辺の【挑発】の光に導かれるように、草狼はそのまま勢いを増して――サビに入る前に川辺に飛びかかった。
「――バフは!?」
「もうちょい待て! あとあんまり騒ぐな! 七緒ちゃんの歌が乱れる!」
「無茶言うなって危ねえ!?」
そうそう、そうやって前見て集中しなさい。危ないから。
いや、実際援護が来ると思ったのに来なくて、焦るのは分かるんだけどな。でもそれで妨害する方が本気でまずいしな。
しかし、そんな俺の心配は杞憂だった。
七緒ちゃんは自分の世界に入っているのか、周りが聞こえていないかのように歌に入り込んでいる。
凄まじい集中力だ。本当に凄い。凄いんだけど……目の前で川辺が戦ってるんだよな。それガン無視して歌い続けるって、相当図太くないか?
何も出来ずハラハラしているチヨちゃんこそ、正しい姿なんじゃなかろうか?
七緒ちゃんの狂人疑惑に頭を悩ませていると、とうとう歌はサビを迎えた。
「何度〜傷つこうとも〜立ち上がれ〜守るために〜――」
「お? ――おお!?」
一瞬だが、俺たち全員の体が白く光った気がする。これは発動したか?
「うん? うん……うん? う~ん……」
しかし、川辺はクビを傾げてばかりだった。
失敗はしてないと思う。俺も力が上がってる……ん? 上がってるかこれ? いやでも、川辺の動きが良くなっている気が……する、し……?
川辺はしばらく草狼の攻撃を受け続け、声を上げた。
「伊波! もういいぞ!」
「了解――アイスランス!」
氷の槍が草狼に深く突き刺さり、その一撃で絶命する。刺さるだけでなく、その周囲が凍って見える感じからして、明らかに前より威力が上がってるよな? やっぱり伊波も成長してるんだな。
「お疲れさん。それで、どうだった?」
「うーん、効果はあったと思うぞ。盾とメイスが軽くなった気がするし。ただ、正直そこまで上昇を感じなかったってのと、子守唄で動きを鈍らせた方が効果的だな」
「そうですか。やっぱり〈吟遊詩人〉のバフは弱いんですね」
あれだけの熱唱の効果が薄いことに、七緒さんは気落ちしているようだった。
「やっぱりっていうと、何か知っていたの?」
「実は前に、真帆さんたちから教えてもらっていたんです。〈吟遊詩人〉自体の数が少ないから確かなことは言えないけど、〈付与術師〉と比べると性能が低いと言われてるって」
「ああー、〈付与術師〉か」
七緒ちゃんの〈吟遊詩人〉のような変わり種でなく、伊波のようや魔術師系統でバフと得意とする、いわば王道のバッファーだ。
「〈付与術師〉のスキルだと、効果が目に見えて違うらしくて。その代わり一度に複数強化などは出来ないらしいんですけど、強化率が段違いだと。その点から、もしかしたら〈吟遊詩人〉はレイド戦専門のジョブかもしれないって」
レイド戦――強力なボスや、大軍の敵を他プレイヤーで協力して戦う形式。要するに、大勢の味方と共に戦うことだ。
歌の届く範囲の仲間を全て強化できるその性質上、確かに〈吟遊詩人〉はレイド向けのバッファーだと思う。たぶん、その予想は外れてないだろう。
しかしなぁ……。
「初期状態。低レベルでそんなに差があるものか?」
「ああ〜、言いたいことは分かるわ。同系統の能力でも差別化が出てくるのってもっとレベルが上がってからだよな」
「全部がそうって訳じゃないけど、初期は正直どれを使っても性能に差はないからね。レベルが上がってきてスキルが増えたりして、個性が強くなってからが本番だよね」
「なんか覚えがあるんだよなこの感覚。実は強かったのに、それに気づいてないだけってことはないだろうか」
「いえ、ゲームじゃないんだから流石にそれは……」
七緒ちゃんは遠慮がちに言ってくるが、実際俺らはそれで上手くいってるからな。
「いや、ゲーム的発想は意外と侮れないよ。特にソシャゲをやってると、今まで弱かったキャラが一気に化け――」
――あ。ああ! そうか、思い出したわ!
「そうだ。“先生"だ!」
「――ああ〜! なるほど! あり得るかもな!」
「正しいかは分からないけど、だとすると弱いと決めつけるのは早計だね」
川辺と伊波の二人はすぐに分かってくれた。
だが、七緒ちゃんとチヨちゃんは頭にハテナが浮かんだままだ。
「二人はソシャゲは詳しくないかな?」
「そうですね。私は全然触らないです」
「私はちょっとだけ遊んでますけど、先生っていうのは分からないです。何か有名なゲームのキャラですか? 口ぶりだと強いのかなって感じがしますけど」
「そうだね。強いことは強いんだけど、それよりもその化け具合が凄いキャラだったんだ。さっきも言いかけたけど、ソシャゲってアプデで強化されたら、昨日までの微妙キャラがとんでもない進化を見せることがあってさ」
「ああ~、ありますね~。それは私も覚えがあります」
多少経験があるチヨちゃんは、理解があるらしい。まぁ大なり小なり、どんなソシャゲでも調整はあるだろうからな。
正直そこは本題じゃないけど、語りたいから語ろうか――かの大先生の軌跡を。
――サービス開始から既に七年経っているとあるソシャゲに、先生と呼ばれて親しまれているキャラが居る。七年も続いていることからこのゲームがどれだけ売れているかは察せられるだろう。
このメガヒットタイトルのリリース当初から、当時の最高レアかつ唯一のバッファー役として、この先生は存在していた。
もともと有名なゲームのメディアミックス展開からリリースされたソシャゲゆえ、この先生は原作ファンからも人気のあるキャラだった。
一体どれだけ強いのかと、ファンたちがワクワクしていたことは想像に難くない。
しかし、手に入れたプレイヤー達の評判は散々なものだった。
――え、弱っ。え!? 弱っ!! クソ雑魚じゃねぇかこいつ!!
――は? 何これ? これで最高レア!? どこが!?
――全然味方が強くなってないんだけど! お前何を強化してんだよ!
――バッファーのくせに強化できない! 本人も弱い! ただの産廃やんけ!
――最高レアの面汚し。ゴミだよゴミ。
「なんだか凄い言われようですね……」
「なまじ人気があったことが災いとなったね。だからこそ、弱いことが許せなかった奴らが多かったんだよ。実際、俺も弱っ! って思ってた」
あまりの弱さに。そしてリリース当初は他のキャラ育成に必要なアイテムの入手するために、最高レアにも関わらず肥やしにしていた奴も居たほどだ。
ところがリリースから少し経ち、メインストーリーの二章くらいから風向きが変わり始めた。
――ちょっと敵が強いわ。どうすっかな。
――一応育てておいたし、先生で強化してみっか。仮にもバッファーだしな。
――ん? あれ? え? なんか戦いやすくなってんな?
――あれ? ……もしかして、先生って強い? いや、強くはねぇな。うぅん?
「えっ? 強かったんですか? あ、調整が入ったとか?」
「いや、この時はまだ入ってなかった。実は先生は弱いことは弱いんだけど、正確に言うと、先生含めて全員が弱かったんだよ」
先生のバフっていうのは、ステータスの加算じゃなくて倍率の強化だった。
加算だったら、弱い時期でも多少の恩恵は感じられたと思う。
だけど倍率強化だと、強化対象が弱いと強化されたところでたかが知れてる。
極端な例だが、例えば二割増しの強化ができるとする。
百の二割増しは、百二十だ。
十の二割増しは、十二だ。
同じ強化なのに、強化の幅がまるで違う。ちなみに先生は初期状態で一割増だった。やっぱり弱かったんだよな……。
「リリース当初だと、持ちキャラ全員が弱いから強化しても弱かったんだよ。で、ストーリーの初めも敵が弱いから、高スペックのキャラで殴るってのが一番強かったんだ。そもそもバッファーの出番がまだなかったんだよ。で、敵も味方も強くなってようやく――」
「その強さが分かり始めたと」
まぁ、それでも一部だけが気づいて、まだその時は騒ぎにならなかったけどね。
――ほう。なんだ。完全な無能ってわけじゃなかったのか。それでも弱いけど、まぁええわ。少しは認めてやる。
こんな程度だ。俺だけはこいつの強さを知っている、みたいな奴らが居たくらいじゃないか? その強さを主張すると、使うほどじゃねぇだろってツッコミが入ってバカにされたりしたからな。
ちなみに俺も、この時はその強さを理解していなかった側だった。
ところがこの後。あんまりにもユーザーが弱い弱い言い続けたせいか、運営がこれなら文句ないだるぉ? と言わんばかりのヤケクソ強化をしやがった。
その結果、ユーザーの掌はドリルとなった。
――先生TUEEEEEE! 明らかに人権ですわ!
――いくらなんでも運営やりすぎだろ!
――ざけんなぁあああああ! 肥やしにしちまったろうがぁああああ!
――まじでふざけんな金返せよクソ運営!!
――え? 先生を肥やしにした奴がおるとかマ?
――バカすぎて草。こんな人権を自分から捨てるとかありえないから。
――そもそも先生と呼ばれる人が弱いはずがない。見る目無さすぎ。
先生はレアリティ詐欺の最底辺から一転、一気に人権キャラに様変わりした。
それまでの無能ぶりはまさに伏龍。その出世ぶりは魚を超えて登り龍。
俺の知っている限り他のゲームと比べても、後にも先にもこれほど評価が変わったキャラは居なかったな。
あの時は運営に罵詈雑言を飛ばす奴らと、そいつらを煽りまくって楽しむ奴らとで実に混沌としてた。
「あれは正直楽しかったな。懐かしい」
「え? 楽しかったんですか?」
「なんというか、あの当時ソシャゲのバランスもまだ未成熟な部分があって。そんな環境だからこそ起きた混沌だったんだよね」
「だな。環境とキャラ性能が悪い方向に重なったというか。たぶん二度とないだろうなあんな経験」
「もう味わえないと思うと、混沌すら愛おしくなるのだ」
「そんなものでしょうか……」
「私は正直楽しそうだと思ったよ!」
チヨちゃんは素質あるね。こっちおいで。
まぁ、脱線しまくったけど要するにだ。
「川辺にいくらスキル使っても、ゴミには変わらないってこと。だからあまり気にしないでいいよ」
「お? ケンカか?」
バカやめろ。ガチの喧嘩は俺じゃもう勝てないだろうが!
じゃれ合う俺と川辺をよそに、真面目に考察していた伊波は言った。
「あと考えられるのは、選んだ歌自体の効果が弱かった、とかだね。もしかしたら他にすごいバフのある歌があるかもしれない」
「狙い通りの効果が出ていたから、そこは惜しかったけどな。ところであれなんの歌? 聞いたことないやつだったけど」
「え? あっ! いや、えっと、その……」
好奇心で聞いただけなんだが、思った以上に答えづらいものなのか、七緒ちゃんは狼狽えていた。
不思議がる俺達に、チヨちゃんはあー、と気の抜けた声を漏らし答える。
「あれはお姉ちゃんが好きなゲームの歌ですね〜。女主人公がイケメンを口説くタイプの。確かタイトルは――“聖剣の乙女~円卓の騎士に導かれ~”」
「チヨォオオオオ!!!!」
顔を真っ赤にして七緒ちゃんは叫んだ。が、しっかりと俺たちは聞いてしまった。
確実に乙女ゲーじゃん。ああ、なるほど。ふ~ん。そういうね?
「七緒ちゃん。そこまで男嫌いを拗らせて……でも、ゲームのようなイケメンは現実に存在しないんだよ?」
「うっさいわね! 分かってるわよそんなの! 別にそんなんじゃないし! ただ面白いからやってるだけだから!」
必死に否定するあたりがもうね。でも大丈夫。俺らは理解ある男性君だから。
まぁでも、ついニタニタと笑ってしまうことは許して頂きたい。
「なにそのバカにした目! っていうかアンタらに私をバカにする資格ないでしょ! どうせギャルゲーとかやったことあるでしょ!? それと何が違うの!」
「残念ながら、俺達はギャルゲーはやったことないんだな。硬派だから」
「嘘吐き! 絶対に嘘……えっ? 本当にやったことないの? オタクのくせに?」
俺達の余裕の表情に、それが事実だと分かったらしい。七緒ちゃんは愕然として俺達を見ていた。
あいにくと事実なんだ。なぜか機会がなかったから、ギャルゲーはやってないんだよ君と違って。
まぁ、その代わりエロゲーはめっちゃやってたけどな。嘘は吐いてないよ、嘘は。
「デバフは俺のアイテム。バフは七緒ちゃんのスキル。しばらくはこれでやっていこうか。その中でいろんな歌を歌ってみて、いろいろと検証してみよう」
「私がこの人達以下……? いえ、違う……私はそんなオタクじゃない……」
「お姉ちゃん。それは楓太さん達をバカにし過ぎだと思うよ」
聞いてねぇなこの女。そんなにショックだったのか。というか、チヨちゃんの言う通り本当に失礼だなコイツ。
まぁいいわ。落ち込んでいる間に解体しちゃおう。終わるころには立ち直ってるだろ。
一人で解体を始める俺だったが、チヨちゃんがじっと見つめてくるので、手を止める。
「どうしたの? 何か気になることでもある?」
「いえ、前に楓太さんに解体を任せろと言われましたけど、それは何でなのかなと思って。やっぱり私が手伝った方が良くないですか? もちろん、その方がいいならやりませんけど」
「ああ、そういえば教えてなかったっけ。それはね――」
まぁこの子達ならいいだろ。差し障りのない範囲。【鑑定】以外の理由について、二人に教える。
するとやはり知らない情報だったのか、二人は感心の声を上げた。
「なるほど。意志と行動で能力が。そんな法則があったんで――…………アイドルに未練とかないから!!」
あっ、気づいたか。
頭良いな~。自分に当てはめてすぐに正解に辿りつくとは。
「何か生暖かい目で見られることが多いと思った! 内心バカにしてたんでしょ!? 言っときますけど、勘違いですから!」
「残念ながら、ジョブが証明してるんだよなぁ」
「だったらこの説の方が間違っています! 見当違いも甚だしいです!」
「そんなことないと思うけどな。いっそのこと踊りもやってみない? 本当に歌って踊れるアイドル目指そうよ」
「やらないわよ! というかアイドルじゃない!」
諦めた夢を叶えるチャンスをあげようというのに、強情だな。それに七緒ちゃんの場合、真面目に踊りを取り組むのは意味があるんだよな。
俺の援護をするかのように、伊波が補足した。
「冗談はさておき、踊りに取り組むのは将来を見据えるとありだよ。もし歌と踊りで二重にバフ、デバフを掛けられるようになるとしたら、補助役のスペシャリストになれる。まだ見ぬジョブを手に入れる可能性があるよ」
「それに、踊りって結構武術に通じるところがあるらしいぞ。踊りの中に武術の動きを隠して伝承した、なんてエピソードをどっかで聞いたことある。七緒ちゃんてダンスできるくらい運動神経もいいんだろ? 〈踊り子〉なんてジョブがあったとしてさ、それに近接の補正があったら味方を補助しながら自分も戦えるようになれんじゃね? 実際そういうゲームあるし」
「うっ、ぐっ、ぎっ……ッ!」
よっぽど嫌なのだろうが、伊波に引き続き川辺の意見に一理あると理性が納得しているのだろう。相反する感情でとんでもない顔になってる。
そんな姉とは反対に、チヨちゃんは静かに悩んでいた。
「私も、楓太さんみたいに他のジョブを狙ったほうがいいんでしょうか? 今のままだと、あまり役に立っている気がしないです……」
「いや、めちゃくちゃ役に立ってるけどね。でも気持ちは分かる。ん~、チヨちゃんって運動神経は良い方?」
「田舎育ちですから、体力はあると思いますけど、運動神経と言われると自信はないです。悪いわけじゃないんですけど」
要するに人並みってことか。だったら特に必要ないかもしれないな。
「チヨちゃんの場合、そのままで良い気がするんだよな。特化したからこその強さってのもあると思うんだよ」
強いて言えば、前衛がもう一人。あるいはヒーラーが居ればって気はするけど。前衛はチヨちゃんがテイム枠を増やせれば解決するし、ヒーラーだって俺のアイテムで代用できるからな。
それを無理にチヨちゃんにやらせる必要があるのかって気はするんだよな。もちろん、取れたらそれはそれで便利だろうけど。
「変にテコ入れするより、チヨちゃんは〈調教師〉一本で行った方がとんでもない進化をしそうな気がするんだよな。何か必要になったら、その時改めて考えればいいんじゃない? というか俺がその姿を見たいわ」
もしレベルアップした力の全てを〈調教師〉に注いだとして。そしてその力で育てられた魔物がどんな成長を見せるのか。育成ゲームの経験があるなら分かるだろう。男の子としてワクワクが止まらない。
「分かる。正直、俺も見たい」
「僕も〈調教師〉だったらたぶんそうする」
「ああ~、そう言われると私も分かるかも。それならこのまま頑張ってみようかな?」
「うん。チヨちゃんはそのままでいいと思うよ。むしろ――テコ入れするならあいつだ」
そう言って、俺は空を見上げる。
俺に釣られて皆が見た先には、パタパタと小さな鳥が浮かんでいた。




