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アラサーからのダンジョン探索~英雄は目指さない。マイペースに遊びながら稼ぎます~  作者: 迷子
第一章 脱サラ探索者デビュー!

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第18話 コンプラ②

「このクソデブがああああ! あっさり地雷を踏み抜きやがって!」

「考えなしの発言だこの豚め! 死ね! 貴様が死ね!」

「すまない! すまなかった! ――だけどいくらなんでもこれは無理だろ!?」


 罰ゲームのおふざけで部屋に置いてあるハリセンで、俺と伊波とで愚かな豚を徹底的にしばいた。

 川辺に泣きが入ったところで俺達は止め、真摯に頭を下げる。


「チヨちゃん、済まなかった。このデブの無神経な発言で傷つけてしまい」

「本当に気にしないでくださいっ! もう一年前のことなので!」


 一年!? たった一年前!?

 もう、じゃないよ! それはまだ最近だよ! 傷が癒えてなくてもおかしくない時期だよ!


「ほんとにやってくれたなお前」

「謝っても許されないよこれは」

「いや、本当にごめんって。でもまさか死んでるとは思わないじゃん」


「あの、私も立場は同じなんですけど……」

「えっ? あ、そうか。七緒ちゃんもごめんね」

「扱いが軽くないですか?」


 いや、悪いとは思ってるよ。

 でも、純粋なチヨちゃんと、腹黒い七緒ちゃんとじゃね。重みが違うよね。


 いかん、このままだと辛いことを語らせてしまいそうだ。というか、俺達もこれ以上追求したくない。話を逸らそう。


「何でチヨちゃんはそこまでして探索者を目指すの? よっぽどの理由があると思うんだけど」

「はい。お母さんたちが死んじゃったことと関係するんですけど」 


 戻っちゃったよ。

 違うんだ。戻したかったのはそっちじゃねぇんだ……。


「私とお姉ちゃんは地方の出身なんですけど、近くに小さいダンジョンがあったんですよ。それで大体一年くらい前に、スタンピードが起きちゃったんですよね」

「スタンピードか……」


 スタンピード――ダンジョンから魔物が溢れ出す現象。魔物の大量発生と言い換えてもいい。


 ダンジョン内の魔物は常に緩やかに増え続けているらしく、これが一定のラインを超えると途端に魔物が凶暴化し、一気にダンジョンの外に出ようとするんだとか。そしてダンジョンの外に出た魔物は目についた生物に襲い掛かる。


 定期的に探索者がダンジョンの中で魔物を間引いてやれば、この現象は起きることもない。が、全国に点在する大小様々なダンジョンの全てを把握しきることは難しく、特にダンジョン出現から最初のスタンピードが発生した時は、世界中で酷い被害が出た。


 今では自衛隊と依頼された探索者が定期的に間引きをして防いでいるが、それでも完全には被害が無くならない。時々ニュースになったりするくらいだ。


「それじゃあ、ご両親もその時に?」

「はい。お母さんもお父さんも、お爺ちゃんもお祖母ちゃんも。ご近所さんも、近くに住んでいた親戚も。それからコロも。皆死んで、村も無くなっちゃいました」


 ゴロゴロと一心に薬研を転がし、チヨちゃんは続ける。


「小規模なダンジョンだったから、備えが薄かったんですよ。それなのに突然魔物が溢れちゃって、対応が遅れちゃったそうです。担当の自衛隊さんも頑張ってくれたんですよ。ただ、私の家はダンジョンから近い所だったから……本当に、運が悪かったんですよね」


 手元の道具を見つめながらも、チヨちゃんはぼんやりとしたような目で、違う何かを見ているようだった。


「家族全員で私だけは守ろうとしてくれて、最後はコロまで魔物に飛び掛かって。そのおかげで自衛隊さんが間に合って、私だけ助かっちゃいました」


 それは……うん、しんどいな。自分がそうなったら、なんて想像すら出来ない。


 他人の俺からすれば、チヨちゃんだけでも助かったならいいことだ。でも、当事者からすれば、素直に喜べないか。サバイバーズ・ギルトだったか。気に病まないでほしいんだが。


「ところで、コロっていう子はペットだよね? 犬かな?」

「あっ。はい、そうですっ。秋田犬で私が小学生の時から一緒だったんですよ。大きくて頼りになる子だったんですけど、魔物が複数相手では流石に無茶でしたね。それでも一匹は道連れにして、私を最後まで守ってくれました。そして、私だけが生き残っちゃって……」


「そういうことを言うのは止めなさい。私にとっては、唯一生き残ってくれた家族なんだから」

「お姉ちゃん。うん、ごめんなさい」


 素直に七緒さんに謝ったチヨちゃんは、また明るい表情に戻った。


「故郷がスタンピードで無くなっちゃったので、私は上京していたお姉ちゃんにそのまま引き取られたんですよ。おかげで助かりました。人によっては、肩身の狭い思いをしている人も居るそうなので」


「ニュースで故郷の事を知った時は、本当に故郷がなくなっちゃったのか。家族が皆死んじゃったのかって、信じられませんでした。呆然としている所でチヨから連絡が来て、私が迎えに行って初めて、ああ、これは現実なんだって。

 私は田舎だった故郷に嫌気が差して外に出たんですけど、あの時ほど独り立ちしておいて良かったと思った時はありませんでしたね。こうして唯一生き残った家族を迎えることができたんですから」


「……本当に大変な目に合ったんだね」


 想像以上にキツイ話だ。


 なんの実感もないまま故郷と家族を失った七緒ちゃんもしんどいだろうが、チヨちゃんの辛さはそれ以上だろう。ぼかしてはいるが、目の前で魔物に家族を殺されているところ見ているはずだ。


 ってなると――


「もしかしてチヨちゃんは、ダンジョンや魔物に恨みがあるから、探索者になりたかったの?」

「それもちょっとはありますけど、違います。私が探索者になろうと決めたのは、単純に死にたくないからですよ。その為に強くなりたいんです」

「ああ、そういうことか」


 失ったからこそ、最低限の自衛できる暴力が欲しいと言う事か。


「よく“自衛隊がなんとかしてくれるから~”とか。“この場所はダンジョンがないから~”とか。他人事で暮らしている人が居ますけど、ハッキリ言ってバカだと思います。

 この日本……いえ、この世界は厳密に言えば、もう安全な場所なんか存在しないんですよ。自分のことは自分で守る。それが出来ないと絶対に後悔する時が来る。

 私はもう二度とそんな目に遭いたくないんです。だからせめて、自分と好きな人達を守れる力が欲しいんです」


 なるほどね。ある意味、この子は今の世界に適応できている。


 失ったからこそ、今何が必要なのかを理解している。七緒ちゃんもこの子の境遇を知り、その意見が正しいと認めたからこそ、止められなかったのか。


「もう大丈夫だってくらい強くなったら、昔みたいな広い庭のある一軒家でコロみたいな犬を飼いたいな~って思ってるんです! 探索者なら両方手に入りますからね。でも、〈調教師〉になれたので一つは夢が叶いそうで良かったです! 最初にテイム出来るのがピーちゃんだけだったのはちょっと残念でしたが……」

「ピッ――ッ!?」


 慌てて羽をばたつかせるピーちゃんに、チヨちゃんはころころと笑った。


「冗談だよ、冗談。ピーちゃんのおかげで寂しくないよ。それに、犬に似た魔物をテイムしたら、コロを思い出しちゃうから、この方が良かったかもしれないし……」


 ――なるほど。チヨちゃんも分りやすい。


 意識と行動で得られる力が変わるという説は、いよいよ正しそうだ。しかしそうだとすると、これはチヨちゃんが戦えるようになるには、先が長いかもしれないな。


 だけど、そっか~。七緒ちゃんにしろチヨちゃんにしろ、それだけの理由があったんだな。そりゃ真帆さんも親身になるわけだ。


 ――それに対し、大の大人である俺達はどうだ? 


 さりげなく、三人で視線を交える。おそらく、同じことを考えているはずだ。


 俺――ワクワクが止まらねぇんだ!

 川辺――仕事を辞めたかったんやで!

 伊波――ダンジョンに出会いを求めて!


 ――居たたまれねぇ……ッ!


「あっ。終わっちゃいました。川辺さん、次はどれを潰せばいいですか?」


「……いや、区切りが良いし、午前はこれで終わりにしようぜ。それよりいい時間だし、お昼にしよう。一緒にお弁当食べようぜ」

「え~、いいんですか? 皆さんの為に作った物ですけど……それじゃあ私も頂きますね」


「飲み物は僕が用意しようか。緑茶、ウーロン茶、アイスコーヒー、オレンジジュース、リンゴジュース、エナジードリンク、牛乳くらいしかないけど、チヨちゃんはどれがいい?」

「いっぱいありますね……。えっと、それじゃあウーロン茶を頂きますっ」


「チヨちゃん、冷房の温度は大丈夫? 川辺に合わせてるから低めなんだけど、寒くない? ちょっと温度上げようか」

「あっ、はい。その、実はちょっとだけ肌寒くて。お願いしてもいいですか?」


 快く了解し、俺達はいそいそとチヨちゃんのために動く。

 そんな俺に、七緒ちゃんが不服そうに言った。


「あの、ちょっとチヨに優しすぎませんか? というか、私と全然対応が……」

「当然だよ。チヨちゃんはもう、俺らの家族だから」


 守護(まも)らねば……!

 俺達が、あの子を……!


「家族!? チョロすぎませんか!? っていうか、たった一人の肉親なんですから奪わないでくださいっ! ――あ、だけど私もちゃん付けになったってことは、私もその一員ってことでよろしいですか?」

「いや、違う。お前は同じちゃん付けでも親愛じゃなくて、格下げ」

「格下げ!? というかお前って……!」


 さん付けで呼ぶ気遣いすら不要という妥当な判断だ。

 図に乗るな。お前はチヨちゃんとは違う。


「俺に色仕掛けしてきた汚い姉と、家族を失っても強く生きようとする健気な妹。ほら、比べ物にならないでしょ?」

「いや、そう言われたらそうですけど、私も私で必死に……」


「それにさ、これから一緒にやっていくのに畏まられすぎるのも嫌なんだよね。七緒ちゃんもこれくらい適当に扱った方が素でやれるでしょ?」

「それはまぁ。雑に扱われて私だけ丁寧に返すのも馬鹿らしい――私も一緒にやってくれるんですか?」


「最初に言ったけど、無理に追い出そうという気はないよ。あんな話を聞かされちゃ見捨てるのもね。アイツらだって七緒ちゃんはともかく、チヨちゃんを見捨てるのはもう無理――あっ、このお弁当なんだけど温めなおした方がいいかな?」

「そ、そうですね。そうした方が美味しいと思います」


「じゃあそうするか。そういう訳だから、ちょっと待ってて。温めるのと食器だすのでちょっと時間かかるわ」


 おー、と川辺が返事する。よっこいせと立ち上がり、テレビの前に移動し始めた。


「じゃあ俺達はゲームでもやろうか。“大乱争”やろうぜ」

「うん、短時間なら丁度いいだろう。チヨちゃんもやるかい?」

「わーい、やりまーすっ。久しぶりですが、負けませんよ~!」


「おっ。なんだ、経験ありか。もしかしてゲームは結構やる方だったりする?」

「田舎者を舐めないでくださいね~。……出かける場所がないからこそ、ゲームは重要な娯楽の一つですので」

「田舎の闇が伺えるな。いいだろう、都会人の強さを教えてあげようじゃないか」


 まじかよ。ゲーム大会すんの? いいなぁ、俺も混ざりてぇな。まぁ準備があるからな。

 ふと横に目をやると、七緒さんが嬉しそうにチヨちゃんを見ていた。


「どうしたの? なんか変?」

「いえ。チヨが楽しそうで本当に良かったと思っただけです。今でこそ元に戻ってきてますけど、再会したばかりのころはふさぎ込んでいて、見ていられなかったから」


「ああ、確かにそれは嬉しいね。オッサン二人に挟まれてるっていう絵面はどうかと思うけど」

「そ、それはまぁ、仕方ないものとして受け止めるわ。でも、仕事の邪魔になっていませんか? そっちに頭が回ってなくて、明日にすればよかったと後悔してるんですけど」


「いや、いつもこんな感じだから気にしないでいいよ。でも、悪いと思うなら午後からは二人も手伝ってくれるとありがたいかな。そうすれば今日中に全部終わるだろうし」

「それはもちろん。やれることがあるなら手伝います」


「じゃあよろしくね。終わるころにはたぶん夕飯時になるけど、二人も食べていくよね?」

「えっ? その、いいんですか? 流石にそこまで一緒にするのは図々しいんじゃ」


「いいよいいよ。仲間なんだから図々しいも何もないでしょ。それに、今日は二人のおかげで少し当てがある」


 当て? と、七緒さんは小首を傾げる。

 チャンスを作った本人は分からないか。まぁいい、成功するかも分からんし、とりあえずメニューを決めるところからだな。


「そこの三人さ~。今日の夕飯食べるなら何がいい? とりあえずなんでもいいから言ってみ」


「私が選ぶのも申し訳ないので、お二人に合わせまーす」

「…………なんでもいい。楓太に任せる」

「…………僕もだ。好きにしろ」


 なんでもいいか。それならこっちで決めるか。

 それにしても、チヨちゃんはともかく、なんだアイツら。ちょっと熱中しすぎだろ。

 まぁいいや、好きしていいならそうしよう。なるべく高い物にしようかな。


「七緒ちゃんは寿司と焼肉だったらどっちがいい。当然高級な店の話ね」

「えっ? 高級? えっと、それならお寿司を……いやでも、私達お財布に余裕がありませんよ!?」

「大丈夫、大丈夫。あくまで上手くいったらの話だから。もし失敗したら自腹で適当に済ませるし、安心して私に任せなさい」


 え~と、アプリ開いて~、部屋を作って――はいできた。


 ♦   ♦


〈偉大なる錬金術師とタケの仲間達〉


 楓太:真帆ちゃんさ~。ちょっと話があんですけど~?

 あきらん☆:えっ? 真帆ちゃん? なになに? 二人共いつの間に仲良くなったの?

 タケ:マジかよ。流石に意外だったわ。どっちから手を出したん?

 マホ:出してないから! 変なこと言うな!


 ♦   ♦


 おっ、ラッキー。返信が早い上に三人共釣れた。

 これは勝ち確ですわ。


♦   ♦


 あきらん☆:そんなに照れなくてもいいじゃーん! 

 あきらん☆:ここだけの話にしてあげるから、言ってみ? 私は口固いよ!


 タケ:ショックだわ。俺達にも話してくれないなんて

 タケ:もっと早く言ってくれれば、俺も配慮したのに……

 タケ:で、何をやったらちゃん付けで呼ばれる仲になるんだ?


 マホ:マジで!! 何も!! やってねぇわ!! 

 マホ:楓太さんも、そんなに怒ってないですけど悪ふざけはそこまでにねっ!

 マホ:でないとこのバカ共が悪ノリし続けますので! それで、どうしたんですか?


 楓太:いえ、人の住所を勝手にばらした件についてちょっとお尋ねしたくて


 あきらん☆:お前マジで何やってんの?

 タケ:お前マジで何やってんの?

 マホ:本当にすいませんでした! 


 マホ:私もどうかと思ったけど、七緒ちゃんが必死だったからつい!

 マホ:まず楓太さんに了解を取ってからだとは分かっていましたけど、よっぽど怒らせたって七緒ちゃんが言ってたので、聞いた時点で断られる可能性が高いと思いまして!

 マホ:それなら楓太さんの性格上、ごり押しした方が上手くいくと判断してしまいました! 反省しております! どうか許してください!


 あきらん☆:いや、普通にダメでしょ

 あきらん☆:相手の連絡先、しかも住所だよ? いくら顔馴染みだろうと教えるのは駄目って、社会人だったら常識でしょ

 あきらん☆:ましてや楓太さんはフリーの錬金術師だよ? どれだけの人間に狙われる情報か分かってんの? 本気でありえないんだけど


 ♦   ♦


「おお、アキラさんが思った以上に詰めてくれてるな。これは真帆さんにも効くだろうな」

「いや、ちょっ……! 私のせいで真帆さんが……!」


 俺のスマホを覗いて、七緒ちゃんがそれ以上に効いている。

 でもきつくなるのはここからだと思うよ?


 ♦   ♦


 タケ:これはアキラの言う通りだぞ

 タケ:ポーションを優先的に卸してくれる取引先がどれだけ重要か、お前も分かってるだろ?

 タケ:楓太ならしないと思うけど、これで臍を曲げて俺達と縁を切られたらお前どうするつもりだ? 流石に迂闊すぎるぞ

 タケ:絶対に搾取してはならん対等な、そして迷惑をかけちゃいけない相手だ! むしろこっちが下手に出ないといけない立場だぞ! お前そこのとこ本気で分かってんのか!


 楓太:あっ、そういえばこの前、トシさんに会いましたよ。引き渡しの指定がありましたけど、一本五万、計十本で買ってくれました


 タケ:おっ、そうかそうか! 会えたならよかった! うん、五万なら妥当だな

 タケ:期限があるかないかで取引の値段は変わって来るからな。直接交渉だと相場なんて関係ないから、そこのところを知っておかないと値切ってくるやつもいる。楓太も取引する際は言いなりになっちゃ駄目だぞ? しっかり自分で納得できる値段で交渉するようにな!

 タケ:ところで急なんだけど、来週までに十本用意できるか? 急ぎだから一本六万で買わせてもらうよ。どうだろう? 無理だったら期限は調整するが


 楓太:大丈夫ですよ~。それじゃあ来週までに用意しておきますね


 ♦   ♦


「儲けたぜ」

「アンタ……どういう神経してんの……」

「いや~、あっちとしても何らかの詫びの形を作ってあげた方が安心するでしょ」


 まぁ、俺も強気すぎるかなと思ったけど、トシさんの件で確信したんだよ。強気に行っていいって。


 といっても、アコギな商売をしていると嫌われるからな。タケさんには世話になってるし、こんな手は今回限りよ。


 ♦   ♦


 マホ:誠に! 誠に申し訳ございません!

 マホ:何を言われても仕方ないことをしました。私に出来ることならなんでも致しますので、どうかお許しください


 あきらん☆:楓太さん。マホはこちらでもキツく叱っておきますので、今回ばかりはどうかお許し頂けませんか?

 タケ:俺からも頼む。もう二度とこんなことさせないから、どうか許してやってくれ


 楓太:いいですよ~。真帆さんの事情も分かってますので、ただどう考えているのか確認を取っただけですから

 楓太:言うほど怒ってないので、気にしないでください


 マホ:楓太さん。本当にすみませんでした。ありがとうございます

 あきらん☆:本当にいいの? 何か希望があるなら叶えるよ?

 タケ:そうだな。何かしてほしいことはないか? 可能な限り便宜を図る


 楓太:いやいや、本当に気にしないでください

 楓太:あっ


 マホ:何!? 何かありました!? 何でも言ってね!


 楓太:いえ、大したことじゃないです

 楓太:ただ唐突に、今日の夕飯――寿司が食べたいなって

 楓太:なんか……回らない寿司が……食べてみたいな、って……


 マホ:あ~、うん。なるほど

 マホ:よければなんだけど、実は連れて行きたい良い店があって。今日の夕飯にでもどうかな? 当然私が驕るから

 マホ:もちろん、川辺さんと伊波さんも一緒にどうかな?


 楓太:おお、それは嬉しいです。あっ、でもあと二人追加していいですか?

 マホ:えっ、二人? 構わないけど、友達?

 楓太:いやいや、七緒ちゃんとチヨちゃんですよ。仲間外れは可哀そうでしょ?

 マホ:ああ、そういうことね! いいよいいよ! 仲間だもんね! 五人とも連れてくよ!


 楓太:あ、すいません。あと二人も追加でいいですか?

 マホ:えっ? いや、いいんだけど……誰!?

 楓太:いや、タケさんとアキラさんですけど

 マホ:ああ、そういうこと……うん。いいよいいよ、もう好きにして


 あきらん☆:楓太さん、ゴチになります

 タケ:楓太さん、ゴチになります

 楓太:かまへんかまへん! 気にすんなや!

 マホ:金を! 払うのは! 私だよ!


 ♦   ♦


「やったぜ」


 ――スパンッ!

 

 勝利の宣言をしたところで、頭をハリセンでひっぱたかれた。


「いった。何すんの!?」

「何すんのじゃなくて! やったぜ、でもなくて! アンタ何やってんの!? 私どの面下げて真帆さんと顔を合わせればいいのよ!」


「気にしなくて良いんじゃない? 真帆さんの自業自得だし」

「原因が私だって言ってんのよ! ああぁぁぁぁ……どうしよう、絶対に真帆さんに恨まれる。こいつ迷惑かけておいてご飯まで奢らせる気かって思われるわ」


 いやー、面倒見の良い人だから可愛がってる後輩に驕るのは喜んでやると思うけどな。


「じゃあ食べない? 回らない寿司だよ?」

「………………食べる」


 めっちゃ悩んだみたいだけど、だよね! 寿司だもんね! しかもタダ飯だもんね! 日本人だったら断れないよね!


「じゃあもう開き直っていこうぜ。その前にほら、昼飯食べよう。おーい、そこの三人、飯の準備出来たぞ〜」


「はーい。今行きまーす」

「やっ、待て。チヨちゃん頼む! もう一戦だけ!」

「このまま去るのは余りにもご無体でありまして……」


「えー、しょうがないですねー。後一回だけですよー?」


 ふふん、と勝ち誇っているチヨちゃんもまた可愛らしい、じゃなくて!


「いや、何やってんのよ。飯できたって言ってんだろ。お前らの方が聞き分けなくてどうすんだ」

「それどころじゃねぇ! このまま引き下がったら俺らの沽券に関わるんだよ!」


 はっ? 沽券って……え、嘘でしょ?


「え、お前ら負けてんの? うわダッサ。接待プレイがすぎるんじゃない?」

「ちっげぇよバカ! マジで強いんだよこの田舎娘!」

「楓太、君も混ざれ。この小娘を負けさせないとこのままでは引き下がれない」


「はぁ〜、しょうもな。田舎者相手に何やってんだか。しゃあねぇから参加してやるよ。おら、とっとと片付けて飯にするぞ」

「上等ですよ。田舎娘の実力を見せつけてあげます」


 即座に終わらせてちゃんと昼飯を食べるつもりだったのに、三対一で俺はあっさりとチヨちゃんに負けた。


 もしかして夢? と疑うレベルで、ちょっと信じられないくらい強かった。


 意地になった俺らは弁当をつまみつつゲームを続け、気づけば夕飯の時間までチヨちゃんに負け続けた。


 真帆さんに奢らせた寿司は美味しかったが、俺らは心に深い傷を負った。

 そして今日サボった分、翌日も生産で休日は潰れた。

 後悔してないとはいえ、ゲームのやりすぎは良くないねっ。


 ♦   ♦


【探索のヒント! その十二】

〈スタンピード〉

 ダンジョンにはそれぞれ魔力的容量があり、魔物はこの魔力容量に収まる限りはダンジョン内で生息している。しかしこれを超えてしまうと、ダンジョンが強制的に魔物を外へ排出する。これがスタンピードの正体である。

 長い年月をかけて内部に魔力を溜め込んだ地球は、今度は地球表面を魔力で覆いつくそうとしている。今この瞬間にもダンジョンからの魔力流出は進んでいるが、これを加速させる現象がこのスタンピードである。

 本来であれば、外に魔物が生息することで魔力適応は加速するはずだった。が、人間が生活圏を守るためにそれを定期的に間引きしているこの状況が、それを遅らせている。しかし、それも時間の問題である。いずれ止められなくなる時が必ず来る。

 人間にとってスタンピードは災害である。しかしそれはあくまで人間の主観に過ぎない。スタンピードもまた、地球の魔力適応の一環、自然の摂理にすぎないのだ。

 適応せよ。進化せよ。既に時代は変わった。

 戦わない者が安穏と過ごせるほど、甘い世界ではない。




ここまでで一章の半分、一区切りついたところですかね~。

面白いと思って頂けたら、大変励みになりますのでブクマ、☆評価で応援よろしくお願いします!

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