第15話 パーティークラッシャー姉妹②ー(1)
さて、不幸な行き違いはあったが、次は七緒さんの力を見せてもらおう。
どうせ今日だけの付き合いになると思うけど、珍しいジョブらしいからな。是非とも見ておきたい。
「あの、本当にやらなくちゃダメですか? 別に私の力なんて必要ないんじゃ……」
次の獲物を探しに行ったピーちゃんを待つ間。七緒さんは気まずそうにそう言った。
確かに今のままでもレベル上げに支障はない。でもそれってさぁ。
「どうしてもやりたくないなら別に良いけど、君は今、何の役にも立ってないって自覚ある?」
「ぐっ……!」
もうこいつに関しては遠慮しないと決めたからな。ハッキリと言わせてもらう。
「そもそも、何でやろうとしない訳? ずっと寄生して楽にレベルを上げるのが目的だったりする?」
「私はそんなんじゃ! ただ、その、恥ずかしくて……」
「恥ずかしいね。それは余裕のある人が言える台詞じゃない?」
「うっ! ぐっ、うぅ……!」
図星だったのだろう。小馬鹿にするように言うと、七緒さんは唸るばかりで何も言えなくなった。
「聞いた話だと、スキルの効果もそこまで強くないらしいね? でもさ、俺達とやればシナジーで戦術的な価値が生まれるかもしれないじゃん。そうすればもっとレベル上げが捗るかもしれない。それを恥ずかしいからって理由で確かめもせず何もしないとか、探索者としてどうな――」
「やります! やりますよ! やれば良いんでしょやれば!」
ネチネチと責めてると、七緒さんは顔を真っ赤にして逆ギレしてきた。怒りか羞恥心かは分からんが、ちょっとだけスッキリしたわ。
そうしていると、ちょうどピーちゃんからの連絡が入ったので、すぐに俺たちは現場に向かった。おあつらえ向きに、角ウサギが一匹。練習台としては丁度いい。
「それじゃあ七緒さん。よろしくお願いします」
「くっ、分かったわよ」
俺に憎々しげな眼を向けたあと、彼女は深呼吸して姿勢を正す。そして息を整え、歌い始めた。
「〜~♪ ――」
日本人なら誰もが一度は聞いたことがあるだろう子守唄。やや震えた彼女の唄声が流れた途端、角ウサギはウトウトとし始める。
それを見て、川辺はゆっくりと接近する。が、草を踏んだ音に反応し、ハッと目を開けたウサギは川辺に向かって突進した。
「よっ! ……うん? うーん……はっ!」
盾で受け止めていた川辺は首を傾げるが、隙を見てメイスを叩きつける。
その一撃で昏倒した角ウサギにもう一撃。もうすっかり角ウサギには慣れてきたのか。安心して見ていられる磐石さだ。
しかし、今回重要なのはそこじゃない。
「どうだった?」
「うーん、一応動きは鈍かったか? でも〈鈍化薬〉ほどじゃないと思う。眠気があって調子悪いな〜、みたいな?」
「そのままじゃねぇか。でもそれじゃあ効果が高いとは言えないな。ちゃんとスキルは発動してたの?」
「したわよ! 見ていたでしょう!」
七緒さんが憤慨するが、その効果を感じないから聞いてるんだよな。
彼女のジョブは〈吟遊詩人〉。歌を唄うことで、敵味方に影響を与えるバッファー兼デバッファーだ。
〈吟遊詩人〉は【歌唱】というスキルを持っており、歌に特殊な効果を付与する。歌は何でもいいのだが、歌の種類によって与える効果が変わってくるらしい。
今回だと子守唄なので、敵に睡眠を付与するはずだったのだが……。
怪訝な結果に俺は首を傾げるが、冷静に観察していた伊波は言う。
「一応眠気はあったみたいだし、効いてはいるんだろう。ただ、ほぼ効果がないだけで」
「正直、戦っている俺自身、何が変わったか分からなかったからな。あれじゃあ無いのと同じだわ」
「今までのパーティーでも同じことを言われていました。そのせいで、お姉ちゃんも拗ねちゃったところがあって……」
「別に拗ねてないから!!」
チヨちゃんのぼやきに、七緒さんは強く否定する。どう見ても拗ねてるんだよなぁ。
苛立ったように髪をいじり、七緒さんは続ける。
「別に拗ねてないけど……いい歳してアカペラで歌わせられて恥ずかしい思いをした挙げ句、無能だとかサボってるとか責められたら、こんな能力使いたくもなくなるでしょ。だから嫌だったのよ。最初にまともな戦闘職になっていればこんなことにならなかったのに」
気のせいかもしれないが、七緒さんの目の端に涙が滲んでいたように見えた。
よっぽど悔しい、あるいは嫌な思いをしてきたんだろうな。俺も戦闘職が欲しかった身だし、その気持ちは分かる。少しだけ同情するわ。
だからと言って今までの態度を許す訳ないけどな。それはそれ! これはこれ!
しかし、何でこの人が〈吟遊詩人〉なんだろうな?
戦う意思はあったみたいだから、それこそ〈戦士〉とかになってもおかしくないと思うんだが。
タケさんの説が正しいなら、ジョブやスキルは意思に応えるはず。なのにこれは全く違う。もちろん例外もあるだろうが。
〈吟遊詩人〉……歌、ねぇ……。
「七緒さんってさ、実は歌手だったりする? あるいはそっち関係に携わる仕事とか」
「はぁ? 何、急に。普通に元OLだけど?」
違うか。もしかしたらと思ったが、やっぱり例外。因果関係なしにジョブを取得したタイプなのかな。俺みたいに。
予想が外れて拍子抜けする俺だったが、ポンッ、と手を叩いてチヨちゃんは言った。
「あっ! でもでも、お姉ちゃんは昔アイドルを目指してましたよ! オーディションにいくつか受かって、一時期は事務所にも所属してました! なぜかすぐに辞めちゃいましたけど」
「ちょっ!? チヨ! やめなさい!」
アイドル……アイドル? ――アイドル!?
「アイドル!? 二十六のアイドル!?」
「えっ、なに? 地下アイドルってこと?」
「どれだけ年齢で鯖を読んでいたんだ?」
「昔の話!! 私が十五の時!! 中学から高校にかけての話!! もう十年も前の話だから!!」
あっ、ああ。そういうこと。若気の至りってことね。
いや、もしかしてこの人の場合、現実的に狙えたんじゃないか? 事務所に所属していたらしいし、ぶっちゃけビジュアル面が強すぎるし、夢ではないよな?
「で、何で辞めちゃったの? 本気で目指してたんでしょ? 聞いてあげるから言ってみ?」
「頼んでないわよ! 言うわけないでしょ!」
「チヨちゃん、実際のところ何でなの?」
「聞くな! チヨも答えなくていいからね!」
「それが、本当に知らないんですよね。私も何度か聞いたことあったんですけど、教えてくれなくて。歌も踊りも本当に上手かったから、きっとアイドルになれるって、私も楽しみにしてて……お姉ちゃん、実際のところ何でなの? 何か諦めるような理由があったの?」
チヨちゃんの悲しげな瞳に、うっ、と七緒さんは呻く。最愛の妹の無垢な視線には勝てなかったらしい。
それなりに長い沈黙の後、何度か苦い表情を繰り返して、絞り出すように七緒さんは答えた。
「胸が……大きかったから……」
「えっ? 胸?」
「胸が大きいせいで、事務所から何度も言われたのよ。君はピンでグラビアに行こう。そっちの方が絶対売れる。後から歌手転向もいけるからって。でも、あれは絶対そんな気なかったし……事務所を変えても同じこと言われるから、私にアイドルは無理なんだって……」
「あっ……。そ、そうだったんだね。ごめんねお姉ちゃん。私、全然知らなくて」
「いいわよ。もうとっくに吹っ切れたわ」
思ったより重い理由だったわ。気まずくてまともにこの人の顔が見れねぇ。
アイドル目指した思春期の女の子がそんなこと言われたら、そりゃ傷つくし夢を諦めるよな。しかし所属した事務所全部で同じこと言われるとか、この子も運がないな。
でもまぁ申し訳ないけど、その事務所の人達は英断だったと思う。俺がマネージャーでもたぶんそうするわ。
「その目。今、それはそうだろとか思ったでしょ」
「えっ? ……いや、思ってないですよ?」
「嘘っ! 絶対思ってた! 男って皆そうだから! だから嫌なのよ!」
何も言い返せねぇ。実際思ってたし。というか、この人もしかして元々男性不信気味なのでは? そんな人が性的なトラブルにあったらそりゃ反発も強くなるか。
ちょっとだけ申し訳ない。しかし、なるほどね。
「本当にアイドルになりたかったんだね……」
「なにその生暖かい目は! 昔の話よ! 今は関係ないでしょ!」
大アリなんだよなぁ。そのせいで〈吟遊詩人〉になってるし。
なんだかあれだけどうでも良いと思っていたのに、一周回って愛着が湧いてきたわ。意外と虐めたら輝くかもしれん。
しかし、〈吟遊詩人〉の理由には納得したけど、スキルの効果が低いのは問題だよな。角ウサギにすらほとんど効かないって、それスキルを使う意味あるのかって話だし。
だって渋谷ダンジョンでも最弱を争う魔物だぞ? こいつにすら効かないって問題外だろ。どんなに弱いジョブだろうと、ある程度の効いてもいいんじゃない? それなのにこれってなぁ?
……効かないってのがそもそもおかしい、って可能性はあるか? そうだよ。たとえばゲームだったら、状態異常って低レベルだろうと耐性がない限り効くだろ。
もちろん失敗して攻撃が通らないってことはあるかもだけど、そのうち成功して眠らせたりとか……そうか、失敗か。
もしかしたら、実はスキルに失敗してる可能性とかあるんじゃないか? そのせいで効果が薄くなってるとか。だから最弱のウサギにですらあの程度とか。
そうだとして、【歌唱】スキルが失敗する理由があるとすれば――
「歌が下手、とか?」
「はぁ!?」
つい漏らした言葉に、七緒さんは鬼のような形相を見せる。めっちゃ反応するじゃん。やっぱりこの人、未練たらたらなんじゃないの? そら〈吟遊詩人〉に目覚めるわ。
俺の発言から、伊波は察したらしい。
「なるほど。歌のスキルだから、歌の技量がそのまま効果に繋がるということか。ありえるな」
「ちょっと! 私は別に下手って訳じゃないわよ!」
「でも、声が震えてたじゃん」
うっ、と。七緒さんは口をつぐんだ。自覚はあったようで何よりだ。
「恥ずかしいのは分かるけどさ、そもそも七緒さんって真剣に歌おうとしてた?」
「と、当然でしょ。ちゃんと歌ったわよ」
「本当に? 気持ちを込めてちゃんと歌った?」
念入りに確かめると、気まずそうに眼を逸らす。確かめるまでもなく、やはりその自信はないらしい。
「技術云々の前にさ、恥ずかしいだとか意味がないだとか、そんな雑念ばかりでちゃんと気持ちを込めて歌ってないんじゃない?」
「気持ち……」
小っ恥ずかしいことを言っているとは思う。でも真面目な話、これは【歌唱】スキルにおいて重要なんじゃないかと思うんだよな。
「歌を通して発動するスキルなんだから、使用者が感情を乗せるって大事だと思うんだよ。ほら、芸術って感情表現みたいなところあるじゃん。歌なんか特にそういう部分があるんじゃない?」
歌に関しては素人だけど、そんな俺でもプロの唄声に何かを感じることはある。歌詞が良いとか、メロディが良いとかじゃなくて、その歌声に感じるパワーというか……上手く言えないけど確かにあるそれに感動して、いつの間にか涙を流したこともある。
歌には元々そういう力があるんだ。だったら、このスキルも大事なのはそこなんじゃないか?
「それは……いえ、確かにそうね。感情一つで声の色は変わる」
「でしょ? だからさ、一度本気で心を込めて歌ってみれば? 試す価値はあると思うけど」
「……分かったわ。やってみる。チヨ、次お願い」
悩んでいる様子だったが、吹っ切れたような表情になると、七緒さんはチヨちゃんにそう指示する。そして自分は発声練習をし始めた。
おお〜。よくわからんけどそれっぽい。今度こそ元プロ志望の本気の歌が聞けるんだな。
それが全力の子守唄なのはちょっとシュールだけど。
しかし、元アイドル志望が挫折から十年経っての本気の熱唱か。ちょっとドラマチックだな。
軽く川辺と伊波に視線を送る。二人が俺の視線に気づいた。なので、俺は厳かな声で切り出した。
「――かつて、大人の都合に振り回され、夢破れた少女が居た」
「――現実を受け入れた少女は社会に適応し、一人の大人となっていた。しかし彼女は、その夢を諦めきれてはいなかった」
「――そして今、十年の時を超え、ダンジョンというステージでその奇跡の歌声を響かせる。アイドル七緒、二十六歳、始まります」
「うるさいわよ!! 気が散るから黙ってなさい!!」
顔を真っ赤にして七緒さんが怒鳴ってくる。
ええ〜、と思わず俺たちは声を上げてしまった。即興の割にいいナレーションだと思ったのだが。
まぁ逆の立場なら俺でもキレるか。客観的に言われると恥ずかしくてしょうがないし。
「見つけましたけど、草狼が二匹です。どうしますか?」
「う〜ん、行ってみようか。ダメなら川辺が相手すればいいだけだし」
「草狼って……さすがにそれはちょっと」
「草狼だからってビビってもしょうがないでしょ。誰が相手でも歌を届けるって決めたんじゃないのか。しっかりしろ、お前はアイドルだろ!」
「違うわよ! 違うけど……いいわ、やってやろうじゃない!」
半ばやけになりながら、七緒さんはズンズンと歩き始める。こうまでしてやらないとやる気を出さないとは。世話が焼けるぜ。
しばし歩くと、草狼の姿が遠目に見えた。今度は隠れているわけじゃない。こちらに気づけばすぐにでも襲い掛かって来るだろう。
つまり、今なら先手を取れる。俺が目で促すと、七緒さんは一歩前に出て歌い出した。
「~~♪ ――」
その唄が流れた瞬間、おぉっ、と思わず声を漏らしてしまった。
大きいながらも、決してうるさいとは感じない絶妙な声量。先ほどと違い羞恥心からの震えはなく、技法としての震えがフレーズごとに余韻を感じさせる。
微妙な体の動きまで使い、声だけでなく全身で母親の愛情を表現して、聞いていると心が安らいでいく。
これから戦いになるというのに、そんなことも忘れて聞き入ってしまう、それ程の歌だった。なんだよ、全然恥ずかしくないじゃん。こんなに上手く歌える人、今まで会ったことないよ。
だが、それはあくまで人間の感性か。草狼は顔を上げこちらを見ると、二頭揃って駆け出してくる。
さっきとは次元が違う歌なのに、止まる気配がないってことは、歌の上手さは関係ないのか――いや、違う!
「七緒さん! そのまま続けて! 川辺!」
「オーケー! 任せろ!」
草狼のうち一匹が、半分ほど距離を詰めたところでヨタヨタとした足取りになり、ゆっくりとそこで横たわった。
もう一匹も止まりこそしないものの、明らかに動きが鈍い。何度も頭を振って何かを払おうとしているが、とうとう調子が戻らず川辺の間合いまで近づいてしまう。
「――おら!」
川辺の方からシールドバッシュを仕掛け、草狼が吹き飛ばされる。そして何度か飛びかかってくるがいつもの勢いはなく、川辺はしっかりと受け止め続けた。
「――アイスランス!」
そして横から伊波の【魔術】が決まり、まともに避けることも出来ずそのまま倒れる。
死んだのを見届け、川辺は横たわったもう一匹に近づく。にも関わらず、その草狼は動きを見せない。川辺は間近で様子を伺い、こちらに振り返って言った。
「……すげぇな。おい、完全に眠ってる! 全然起きねえ!」
「了解! じゃあ起きる前にトドメ刺しちゃって!」
「あいよ。――オラ!」
グチャ! と、寝てる狼の頭が潰れる。無防備なところを残酷ではあるが、そんなことを言ってられな――おっ!?
川辺が頭を潰した数秒後、カッと、身体が熱くなった。久しぶりのレベルアップだ。
そして、それは俺だけではなかったらしい。
「今の……やった! やったよお姉ちゃん! レベル四だよ!」
「うん、良かった……それに、私の歌もちゃんと……!」
チヨちゃんと七緒さんは、抱き合って泣くほど喜んでいた。
えっ、いや。嬉しいのはわかるけど、それほど?
「なんかめっちゃ喜んでるな」
「うん。あれを見たら自分のレベルアップがどうでもよくなるね。というか、僕らと同じレベルだったんだね」
あっ、やっぱりそう思うよな。
どうやら川辺と伊波も揃ってレベルアップしたが、俺と同様に姉妹の姿に若干引いているようだ。
そんな俺たちに気づいてか、七緒さんは涙を拭うと頭を下げた。
「ごめんなさい。ちょっと感極まっちゃって」
「ああ〜、うん。まぁ別にいいんだけど、ごめん。そこまで喜ぶこと?」
もちろんです! と、チヨちゃんが声を上げた。
「この一ヶ月、魔物と戦って逃げることもあったし、戦いやすい相手を探して倒しても、中々レベルアップが出来なかったので諦めかけてたんですっ! なのに今日はあっさり魔物を倒せちゃうし、レベルも簡単に上がったから感動しちゃって!」
「私に至ってはスキルの使い方まで教えてもらうことになっちゃって。本当になんとお礼を言っていいのか……あの、今までごめんなさい。失礼な態度でした。どうか許してください」
「えっ? あっ、ああ。いや、別に良いけど」
姉妹揃って頭を下げられ、居心地が悪くなる。急に態度を変えられると俺もどう対応すべきか。
でもそうか。この子達、俺が思っている以上に戦い続けていたのか。
今日は何匹も草狼を倒したけど、それでも中々上がらないなと思っていた。レベル四ならすぐに上がると思っていたのに。でもそれってたぶん、五人で経験値的なものを分散してたからだよな。
俺らは三人だったからすぐにレベル三まで上がった印象だけど、この二人はちゃんとパーティーを組んでいたんだ。ってことはその分さらに遅くなる。
んで、俺ら以外のパーティーは複数の敵と戦うってあんまりしないんだから、その分、経験値も少ない。
少ない経験値を多人数で割っていたら当然レベルも上がりづらい。結果、闘い続けても中々レベルが上がらないっていう焦りが生まれる。
頑張ってるのに成果が出ないってきついからな。そりゃ余裕もなくなるか。なるほどね。
「それじゃあ無事レベルも上がってキリが良いし、今日はこれで帰ろうか」
「おう、そうするか」
「分かった。無理はよくないからね」
「――えっ!?」
俺の言葉に、当然だとばかりに二人は頷く。しかし七緒さんは目を瞠って俺を見た。声こそ出さないが、チヨちゃんも同じ感じだ。
「えっと、もう少し続けませんか? ここまで順調にやれているならなおさら。私もスキルの練習がしたいですし、というかまだ皆さん、余力はあると思うんですけど……」
「うん。でも無理はよくないから。俺達はこれくらいやれたらもう帰るよ。他にやることもあるし、今日は成果も出たし」
「成果って……まっ、まだお昼ちょっと過ぎたくらいですよ?」
「うん。でも無理は良くないから」
何を言われても予定は変えません。
ノルマは守るが、無理もしないのがポリシーです。
七緒さんはパクパクと口を開けて何か言いたげにする。そんな姉を、チヨちゃんは弱弱しく咎めた。
「お姉ちゃん、もうやめよ。これ以上我儘を言うのは駄目だよ……」
「それは分かってるけど、でも我儘とかじゃなくて――!」
「俺らのペースに合わせるって言ったよな? レベルまで上がって何が不満なんだよ」
「不満とかじゃなくて!」
冷たく言う川辺に、七緒さんは怒り気味に言い返した。思ってもない反撃にちょっとびっくりした川辺が黙っている間に、七緒さんは続ける。
「レベルも上げてもらったことですし、そこは感謝しています。貴方達の方針に文句を言うつもりもありませんでした。しかしお言葉ですが、いくらレベルが上がっても生活が成り立たないのでは意味がないじゃないですか。ハッキリ言って、今は赤字ですよね? 無理はしないという主張は好ましく思いますが、それは生活が成り立つならの話でしょう? ましてや体力的にも時間的にもまだ余裕があるこの段階で帰宅するのは如何な物でしょうか?」
……おっ、おう。一気に捲し立てられて驚いたが、主張は実に真っ当だな。
我儘でレベル上げたいとかじゃなくて、採算が取れてないからって訴えだったか。うん。それは必死に説得するはずだよな。
でも、大前提から間違ってるんだよな。
「えっと、赤字じゃないです」
「――――えっ?」
「だから、赤字じゃないです」
「……赤字じゃない?」
「はい。むしろだいぶ黒字になるはずです」
「え、黒字? ……いえ、それはありえないでしょう? 小畑さんが使ったアイテム代の出費がありますよね? あれだけ使ってしまえば、いくら狩っても足りないのでは? 正直に言ってしまいますが、今の私達はアイテム代を負担する余裕がありません」
ああ~、そっか。なんか噛み合わんと思ったらそこの認識か。そこもちゃんと自分達も負担すると思い込んでいたから、ここまで必死なのね。
……もしかして、俺に当たりが強かったのってそのせいか? バカスカ遠慮なく高いアイテム使って儲けを減らしやがって、みたいな。
逆の立場なら俺だってキレるわ。でもこれって、パーティーの活動なら自分達も金銭的に負担するのが当たり前って常識があるからこそだよな?
つまり、パーティーを組むにあたって信用がおける人だってことだ。ん~、どうしよう。そうなるとかなり印象が変わるな。これだけでも俺の評価は良くなったぞ。
「あの、小畑さん?」
「ん? ああ、ごめんごめん」
しかしどうするかな。これは流石に説明せんと納得せんよな。
んん~。まぁ〈錬金術師〉であることくらいは喋ってもいいか。
「えっとね、俺のジョブ〈錬金術師〉でさ。さっき使ったアイテムも、全部自前で用意したものなんだよ。だから出費はないんだ。いや、厳密にいえば材料の採集や生産の時間的コストがあるけど」
「〈錬金術師〉……え? さっきのアイテムが全部? タダ?」
「まぁ、タダっちゃタダですね」
伝えると、七緒さんはフリーズした。
その横から恐る恐るとチヨちゃんが聞いてくる。
「えっと、もしかして小畑さん、ポーションとかも作れたりしますか?」
「作れるね。っていうか、それがメインで収入源だよね。だから小さくても怪我したら言ってね。いくらでも使っていいから」
「ポーションが使い放題……」
「ポーションが収入源……買う側じゃなくて、売る側……?」
「そうそう。でも作るのに常に材料は集めておかなくちゃいけなくて――あっ、ごめん。さっきは帰るって言ったけど、帰りながら採集もしないとだから時間かかるんだよ。だから早めに切り上げる必要があるんだよね。戦いたいってのも分かるけど、これから五人でやるならなおさら収入は増やさないとだし、納得してくれないかな?」
「……はい。承知いたしました」
「……はいっ! 私も採集頑張りますねっ!」
「うん、よろしくね」
納得してくれたならよし。これで予定通りできそうだな。
「ああ、終わった……もうムリか……」
「土台ムリな話だった……隠し通せるものじゃなかったんだ……」
そして、何故か川辺と伊波は肩を落として落ち込んでいた。
いや、なんでお前らがトラブってんのよ。




