第13話 パーティークラッシャー姉妹①ー(1)
タケさん達と知り合い、次の探索日。渋谷支部のロビーに約束の時間に集まった俺達は、真帆さんに新たな人材を紹介された。
「三人共、紹介するわね。こちらが今回お願いする二人で、七緒ちゃんと八千代ちゃん」
「妹の七海八千代です! よろしくお願いします!」
「ピピッ、ピー!」
「……姉の七海七緒です。よろしくお願いします」
肩に魔物の〈シングバード〉を乗せた女の子と、ブスッとしながらも挨拶をする大人の女性。
その二人は、講習会で見たあのおっぱい姉妹だった。
♦ ♦
――数日前のタケさん達との食事会にて。
面倒を見て欲しい子がいるのよと、真帆さんが切り出した。
「姉妹で礼儀正しくて、良い子達なんだけどね。ただ、お世辞にも最初のジョブが強いとは言えなくて。今のままだと能力的に探索者としてやっていくのがキツイの」
ふむ。はぁ、なるほど。
「それは引退した方がいいんでは?」
「あっさり言ってくれるわね……。そう言いたくなる気持ちもわかるけど、彼女達も理由があって探索者を始めたから、突き放すのも忍びなくて」
気に入った子に肩入れする気持ちは分からんでもないけど、そもそもやっていけないなら無理に続けさせるのもどうかと思うけどなぁ。命が掛かってんのやぞ?
「まったく役に立たない訳じゃないのよ? 戦闘以外の部分で他のパーティーで活躍していたしね」
「なら、なぜそのパーティーを抜ける羽目に?」
「それが……その子達、姉妹揃って凄く美人なのよ。何で探索者なんかやってるのって女の私でも思うレベルで」
ああ〜、なるほど? 何となーくオチが見えたわ。
「サポート能力はあるけど結局、最初に重要なのって戦闘力なのよね。だから普通、戦えない子なんて仲間に入れる余裕がないのよ。だけどあの子達は外見目当てで仲間に入れる奴らが多くて……」
やっぱりそういう類の話か。まぁ居るよなぁそういう奴も。遊び半分でダンジョンに入っている若い奴らなら猶更。
「だから最初はチヤホヤされるんだけど、足手纏いが二人居て、ろくに戦闘で貢献できない。そうなるとどうなるか、だいたい想像つくでしょ?」
「イケイケのバカな奴らは他の部分での要求しそうですね。守ってやるんだからヤらせろ、とか」
「そう。ただ口説かれるだけならまだマシで、性質の悪い奴らだとムリヤリことに及ぼうとするのよ。私達が知り合ったのも、その場面を見て助けたことが切っ掛けだったのよね」
その時のことを思い出してか、はぁと重いため息を吐く真帆さん。同じ女としては頭の痛い問題だよな。
「基本的に今の新人って、大学生くらいの若い子がほとんど。そんな若い男が、我慢なんて無理なのよ。ただでさえ殺し合いをしてると興奮するしね」
「同じ男としては分かる部分もありますが、手を出すのは論外ですね。とは言え、それはもう女同士で組ませるしかないのでは?」
「それが出来たら一番だけど、女性の探索者って少ないのよ。男女混合のパーティーを見つけても、後から入ってチヤホヤされる女を見たら他の女の子も面白くないでしょ? そのせいでこの一か月の間に、何度かパーティーを抜ける羽目になったり、酷いとパーティー自体が解散しちゃって」
完全にオタサーの姫状態じゃん。なんと傍迷惑な。
俺と同じことを思ってか、虚無顔で川辺は言う。
「つまり、究極のサークルクラッシャーってことですよね?」
「この場合はパーティークラッシャーというべきだが……いや、大学生相手なら実質サークルみたいなものか」
「そこはどうでもいいとして、それを聞いて俺たちが入れるとでも?」
だとして侮られすぎでは? 目に見えた地雷を踏むほど俺らは若くないしバカでもないぞ。
「原因は全部あの子達じゃなくて、相手側にあるのよ。その点、小畑さん達ならそういう下心を見せることはないでしょ?」
「いや、どうですかね。伊波と俺は大丈夫ですけど、楓太はちょっと……」
「そうですね。僕は紳士ですけど、楓太はわりと……」
「やかましいわこの変態共!」
お前らは性癖の関係で普通の人間に興味ないだけだろ!
俺はその点確かに危ういけど、若い子に手を出さない倫理観くらいあるわ!
「なんとなく分かるんだけど、そっちの二人は大丈夫だし、小畑さんもそうでしょ。たぶんだけど、手を出すこと自体怖いって思うタイプじゃない?」
「や〜い……根性なし~……」
失敬な。押し倒して見せようか? いや、出来んけどもさ。真面目な話、若い子に手を出して痴漢、パパ活扱いされることを考えるとね。
この歳で自分からそれをやる奴は、自分が客観視できてないただのアホなのよ。少なくとも俺は違うから、若い子に近づくことすら避けている。やるとしても見つからないように遠くから眺めて楽しむだけよ。
「ほんの少しレベルを上げてくれるだけでいいの。せめて五レベルまで上がれば、生活も少しは楽になるから。どうしてもだめならいつ辞めてもいいし、ね? お願いっ!」
「真帆さんのお願いですし聞きたいのは山々ですが、俺らも命が掛かってるわけですからね。というか、そこまで真帆さんが肩入れする理由ってなんですか? 言っちゃなんですけどたかが新人ですよね? 俺とは違くないですか?」
「おい、こいつとうとう天狗になり始めたぞ」
「ある意味良い傾向かもしれないけど、なんだかんだ僕は謙虚な楓太が好きだな」
本当にやかましいなお前ら! 言葉の綾だよ! いちいち突っ込むな!
しかし実際のところ、俺の意見は正しいと思う。俺には将来性という価値があるけど、聞く限りその子達に特異性はないだろう。
うーん、と唸りながら、真帆さんは難しい顔を見せる。
「プライベートだからあまり言えないんだけど、同じ女として気持ちは理解できるからね。だから出来るだけ応援してあげたいのよ。それに、本当に良い子達だからね」
また断りづらいことを。真帆さんが言うなら嘘はないんだろうしな。しかしなぁ……。
悩む俺に、タケさんは宥めるように言った。
「まぁ気になるのも分かるし、戦力になるとハッキリ言えないが、今のお前らに必要な物を持っているのも確かだ。他にあてが無いなら、お試し感覚でやってみてもいいんじゃないか? それこそ無理だったら組むのを辞めればいいんだし。気楽にやればいんだよ、気楽に」
それに、とタケさんは続ける。
「小畑さん達とあの二人が組んだら何が起きるのか、ちょっと見てみたいんだよな。また思いもよらぬことが起きるんじゃないかと、正直楽しみにしてる」
♦ ♦
で、初対面な訳だけど。
「…………」
お姉さんの方がなんかめっちゃ機嫌悪そうなんですが。
その予感は的中し、お姉さんは言い辛そうに真帆さんに告げる。
「あの、真帆さん。真帆さんにはお世話になってますけど、これはちょっと……」
「今回は大丈夫よ。この人たちは信頼できる人だから」
「いや、でも、やっぱり男の人は」
無理もないよなぁ。いままで男のトラブルに合ったらしいし。
それに見た目が完全に不審者だもんなこいつら。女性なら近寄らんだろう。
「失礼ですが、そういう人に見えないです。特にこっちの人は、今までと同じになると思います」
そう言って、彼女は嫌悪を隠しきれない目を向けてくる――俺に。
なるほど、原因は俺であったか……。
講習会の時の視線が原因かなぁ。でも仕方ないよ。あんなご立派な物を見るなって方が無理だよ。男として。
……そういう男が嫌だって話か。彼女にとっては。そりゃ不信感を持つわ。
仕方ないわな。真帆さんの頼みだ。短い間だし、俺が我慢すればいいだろ。
そう、俺は思っていたのだが。
「そっか。じゃあ今回の話は無かったってことで」
「えっ?」
「そうですね。それで問題ないでしょう。そちらが嫌だというようですし」
「えっ、あの……」
川辺と伊波はあっさりと言い放った。
ばっさり切られた経験がなかったのか、お姉さんはちょっとびっくりしている。妹さんもあわあわと慌てている。
「ちょっと待ってて! この子にはちゃんと言い聞かせるから!」
思った以上に冷たい反応の二人にまずいと思ったのか、真帆さんはお姉さんを引きずっていく。
張本人が居なくなったのならちょうどいい。俺もこっちを確かめてみるか。
「お前らどうしちゃったん? いくらなんでもばっさり行きすぎじゃない?」
「嫌がってんのは向こうじゃん。なんで俺らが配慮しないといかんのよ」
「いや、あの人が気にしてるのは俺だけだろ。なら、俺が少し我慢すればいいだけじゃん」
「それこそもっとあり得ないだろう。楓太に我慢させるくらいなら組まないよ。そもそも今回は真帆さんのお願いを受ける立場だ。もともと僕らは必須でもないんだし、なら拒否一択だろう」
おっ、お前ら……まさか俺の為を思って……?
「っていうかさ、俺らは分け前が減るのが分かって受け入れてあげようとしてたんだぜ? なのに俺らが悪者扱いとか意味分からんわ」
「まったくだ。へりくだれとは言わないが、せめて謙虚に態度で示してほしいものだ」
それが本音か貴様ら。結局金か。儚い友情だったな!
「――あっ、あの! お姉ちゃんがすいません! 私達、色々と嫌な目にあって、お姉ちゃんも私を守るために慎重になってるだけなんですっ! それがちょっといきすぎてるというか。でももう、他に行くところがなくて! だけど私、どうしても探索者を続けたくて……どうかお願いします。一緒にやらせてくださいっ!」
俺達の会話を聞いてまずいと思ったのだろう。妹さんが頭を下げて謝ってくる。
こうも堂々と頭を下げられては、強硬に断れなくなる。が、そんなことはどうでも良くなるところに俺は囚われていた。
それは防刃ベストを着てもなお隠せない大きな胸の盛り上がり――ではなく、まさしく彼女の格好だ。
講習会で見た時、この子はまだ身綺麗にしていたはず。だが今は髪や肌が荒れている。化粧で分かりにくかったが、目元のクマも隠しきれていない。明らかに疲労が溜まっていそうだ。思えば、お姉さんの方も似たような感じだったな。
それから装備がボロボロだ。俺達と同じ装備だと思うが、すでにくたびれている印象がある。同じ時期から活動していたのにこれということは、それだけ厳しい状況だったのだろう。
こんなになるまで頑張っているんだな。それでなお結果がついてこないのか。そう思うと、無下にするのもな。
「大目に見てやろうぜ。この子達も必死なんだよ」
「お前も結構お人よしだよな」
「まぁ君がいいなら良いけど」
「あっ、ありがとうござますっ! 私、頑張りますからっ!」
「ピィッ、ピイイイ!」
ひとまず同行を許されたというだけなのに、嬉しそうにしている。そこにわざとらしさは見えない。彼女の肩に止まって同じように返事をしている小鳥も合わさって、だいぶ微笑ましい。
ああ〜、なるほどね。演技ならたいしたもんだけど、これたぶん天然だわ。
なるほどなぁ。この子は悪くないんだけど、うん。確かに拗れるなぁ。
「ごめんね。お待たせ。ちゃんと小畑さん達のことは説明したから」
ひとりでに納得していると、真帆さんがお姉さんを連れてくる。ムスッとしているが、何も言わないあたり一応納得したのか?
「改めて、こちらが小畑さんに、川辺さん、そして伊波さんよ。年齢こそ離れているけど、三人とも期待の新人だから。きっと二人の力になってくれるわ。それじゃ、いつまでもわたしがいても邪魔だろうし、後は五人で協力してね」
「えっ!? ちょっ、真帆さ――」
そう言って、真帆さんは呼び止める俺の声が聞こえてないかのようにさっさと離れていった。
はぁん、さてはあれだな。俺に文句を言われる前に逃げやがったな?
逃げられてはどうしようもない。俺は諦めのため息を吐いて、改めてお姉さんと向き合った。
「小畑楓太です。どうぞ好きに呼んでください。えっと、七海さんでいいですか?」
「……七緒でいいです。七海だとどちらか分かりませんし」
「私はチヨって呼んでください! 昔から皆にそう呼ばれてるので!」
「分かった。七緒さんに、チヨちゃんね。今日からよろしく」
「名前で呼ぶよう言っただけで、いきなりちゃん付け?」
嫌っそうな顔で、七緒さんは俺を見てくる。
他意なく名前呼ぶだけでこの態度か。思った以上にイラッとくるな。そもそもお前はさん付けしたろうが。
これは今日だけの付き合いになるかもな……。
【人物鑑定】――〈七海七緒 女 二十六歳〉
〈七海八千代 女 十八歳〉
「あー、ごめんね。俺、三十二のおっさんでさ。二十六の女性と十八の子供なら、さん付けとちゃん付けが妥当かなって思っただけなんだよ。不愉快に思ったなら直すよ」
「全然いいですよ! 親戚のおじさんからはチヨちゃんって呼ばれてましたし! だけど子供じゃないです! もう成人ですから!」
チヨちゃんはまったく気にせずにそう言ってくれた。この子は本当に良い子だな。でも、十八はまだまだ子供だよ。
しかし、おじさん……おじさんか。自覚はあるといえ、若い子に改めてそう呼ばれると結構傷つくな。顔には見せないけど。
密かにダメージを食らっていると、七緒さんが怪訝な声を出す。
「あの、何で私達の年齢を知ってるんですか? 私もチヨもそこまで教えてないですよね?」
「前に真帆さんと話の流れでたまたま聞かされただけだけど? それ以外ないよね?」
「……真帆さんと年齢の話なんてしたっけ?」
君はしたんじゃない? ちなみに俺はしていません。
やべっ、これは俺のミスだわ。迂闊だった。というか細かいことに気づくなこいつ。警戒心バリバリかよ。
「おい。お前さっきからなんだよ。いちいち突っかかってんじゃねぇよ」
どうやって誤魔化そうかと考えていたら、川辺が不機嫌そうにそう言った。
川辺にしては珍しい。静かだが、明らかに怒りを感じる声だ。それを感じ取ってか、七緒さんも小さく身じろぎする。
「この際はっきり言うけどな、俺らは別にお前らなんかいらねぇんだよ。ただ真帆さんに頼まれて仕方なく受け入れてやってんだ。お前らがどんな目に遭ったかは話には聞いてるし、同情もするけど、何もしてねぇ内から敵意向けられてたまったもんじゃねぇよ。嫌なら帰れよ。その方がこっちもありがたいからよ」
「私は……そんなつもりじゃ……」
こうまではっきり言われたことはないんだろう。七緒さんは何も言い返せず、気まずそうに目線を逸らす。巻き添えを喰らったチヨちゃんなんか涙目になっていた。
「川辺、ちょっと言い過ぎだ。もう少し言葉選べよ」
「確かに言葉はキツイけど、内容は間違ってないよ。ここはハッキリと伝えてあげた方がいい」
ちょっ、伊波!? お前もか!?
「今回の件は元々不安要素の方が大きいんだ。受け入れる立場なんだから、最低限こっちの流儀に合わせてもらわないと。それどころか敵意を向けて和を乱すなんて、ハッキリ言って話にならない」
それは……まぁそうなんだけど。
お前ら本当にどうしたん? 今日はいつになく厳しくない?
「……大変申し訳ありませんでした。ここ最近、男性から被害を受け続けていまして。身を守ろうとするあまり皆さんに攻撃的になってしまいました。反省しますので、どうかお許しください」
「すっ、すいませんでしたっ……!」
七緒さんは粛々と頭を下げて、それに続きチヨちゃんまで涙をこぼしながら頭を下げる。
罪悪感がパねぇんだが。人の目も痛いし。
お前らホントに何してくれちゃってんの? 誰がここまでやれと言った!?
「もういいから、頭を上げて。謝ってくれたらそれでいいから。ほら、これからダンジョンに行くんだし、気持ち入れ替えよう。なっ、お前らもいいよな?」
「もしまたふざけた態度取るなら追い出すからな。ああ、追い出されたくなきゃ体を差し出せとかそういう意味じゃねぇから、マジで勘違いすんなよ?」
「あと、リーダーは楓太だから。楓太の言うことにはしっかり従うように」
お前らマジでどうしたの!?
特に川辺! お前そんな下衆なこと考えるやつ……かもしれないけど。口に出さないだけの分別はあったよな!? いや一応止める側の発言だけどさぁ!!
敵愾心を消しきれない姉と頑張って涙を止めようとする妹を慰めながら、俺達はダンジョンに入った。
面倒だと思ったら縁を切るつもりなのに、何で俺がフォローする側に回ってんだ?




