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アラサーからのダンジョン探索~英雄は目指さない。マイペースに遊びながら稼ぎます~  作者: 迷子
第三章 はじめましてマイ・フェア・レディ

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第107話 マル「御無礼」


 小鈴ちゃんの料理を食べて、元気いっぱいになった翌日。

 朝食も小鈴ちゃんの特製メニューで体力、気力も充実した皆は、より精力的に拠点開拓を進めている。


 本当に料理効果が凄まじい。昨日までも早いと思っていたのに、明らかに速度が違う。


 もはやドラッグとかドーピングの領域だろこれ。これで健全な料理だというのだから、〈料理人〉という生産職がどれだけ反則的なのかがよく分かる。


 そして俺もまた、小鈴ちゃんの料理で更なる強化をもくろんでいた。


「できました。小畑さん、どうぞ」

「うん、ありがとう」


 小鈴ちゃんが用意してくれたドリンクを受け取り、反射的に【鑑定】をかける。


【アイテム鑑定】

〈夜焙豆のカフェオレ風ドリンク☆3〉――【生産力向上(中)】【集中力(中)】【体力疲労軽減(中)】【精神疲労軽減(中)】


 またとんでもねぇスキルが付いてるな。

【調理】の工程は見ていたけど、おかしいな。使った素材にこんなスキルはついてなかったはずなんだが?


 もしかして、【調理】と【錬金術】で作られる料理のスキルって、ルールがそもそも違うのか?


【錬金術】は使った素材についているスキルをそのまま再現する感じだけど、【調理】は作った料理の種類にスキルが依存しているとか? もちろん、使った素材の影響もあるんだろうが。


 だとしたら本質的に、【調理】と【錬金術】は違うのかもしれん。いや、そりゃ別物ではあるけど。


 まぁそこはどうでもいいか。便利なスキルを使えるなら、過程がどうなろうと構わんだろ。

 俺が作るとしたら、どんな素材を使えばいいのかも分からんしな。使えるなら使えるでよしとしよう。


 一口含むと、ほろ苦さとやわらかな甘みが舌の上で溶け合い、鼻先をくすぐる焙煎豆の香ばしさがふわりと広がった。

 深い味わいなのに、心の奥がじんわりと穏やかになっていく。


 ――まさに朝食後の一服として相応しい一杯だ。


 俺の表情から、ドリンクの味を察したのだろう。

 チヨちゃんがポツリと小さな声を漏らす。


「いいなぁ。私も飲みたいです」

「私も。本気で羨ましいわね……」


「俺も。でも飲むわけにもいかねぇからなぁ」

「料理効果が上書きされるとなってはね。ちゃんとした理由がある以上、我儘を言うわけにもいかないし」


 七緒ちゃんと川辺、伊波も揃って、諦めたように溜息を吐く。

 

 そう、料理バフは新しく口に入れた物に上書きされてしまう。だから目的の効果を持続させたいなら、他の料理を食べてはいけない。


 これが数少ない〈料理人〉の弱点だな。いやまぁ、弱点っていうほどのもんでもないけど。というか、もし複数の料理効果を発揮させることができるとしたら反則すぎる。

 

 そしてこれはあくまで生産向けの料理。こいつらが飲む必要のないものだ。

 真面目に働かないといけないんだから、ただ味が知りたいから飲みたいなんて我儘は通用しないわなぁ!


「うん、本当に美味しいよ。小鈴ちゃん、ご馳走様」

「お粗末様です。気に入っていただけたら何よりですが、正直、☆3評価だったのが申し訳ないくらいで……」


「いやいや、初めて作った料理で☆3評価なら十分でしょ。これから朝食後はこれが飲みたいな。で、次に生産向け料理を食べる時なんだけどさ。俺、甘党だからデザート系のドリンクが飲みたいんだよね。チョコ系にホワイトクリームマシマシに乗ってるス〇バみたいなドリンク、作れる?」

「それもありですねっ! 少し考えてみましょうか!」


「ずっる!? 楓太さん! それはズルいです! 私も飲みたいですっ!」

「本当ですよ! さすがにそれを独占はなしでしょ!? 今だって我慢しているのに!」


「今聞き捨てならないことが聞こえてきたわね? 小鈴、その時は私の分も作ってちょうだいね? できれば栄養面も考えてくれると嬉しいわ」

「私も!」「あたしも!」「うちも――」


 デザートと聞いては、さすがに女性陣は我慢できなかったらしい。

 ミライさんだけではなく、他の作業をしていた女共がわらわらと寄ってきた。詰め寄られ散る小鈴ちゃんはたじたじだ。

 

 ……まぁ、べつに飲んでいいと思うけどな。拠点で開拓する程度なら、料理効果が必須なわけでもないし。晩飯で疲労回復料理食べていれば、翌朝には元気になれるし。


「さて、それじゃあやるかね」

「ん? なんだ、ホムンクルスじゃねぇのか?」


「ああ。生産に集中するんだったら、まずは本格的な生産装備を作ろうと思ってな」

「なるほど。とうとう生産装備に手をつけるか。ちょっとワクワクするね」


 無表情ながら楽し気にしている伊波に、俺も頷く。


 小鈴ちゃんの料理に、生産に特化した装備が揃えば完全な生産体制が整う。【錬金術】にかかる労力も、これまでとは比べ物にならないほど軽くなるはず。


 というか昨日の感触からして、今作っておかないとぶっ倒れることになりそうなんだよな。


 俺の過労死を避けるためにも、準備しておかなければ!


「生産スキルを付けたいところだけど、素材が見つかってないからな。ステータスの補強がメインか」


【生産系スキル補正】とか、【生産効率補正】とか、そういう感じのスキルがあればいいんだけどなぁ。こればかりは本当に何が持っているのか見当がつかん。


 まぁ生産スキルに関しては小鈴ちゃんの料理が補ってくれるし、ステータス特化でいいだろ。それに加えて【体力強化】系のスキルも足して、疲れを軽減する形で。


 こうして考えると、生産力に関わる【MP】、【DEX】、【INT】あたりも重要なんだけど、意外と【CON】とか【POW】も大事だよな。


 長時間の作業をし続けるなら、それに耐えうる【CON】と、それから集中力に関わるであろう【POW】は本当に大事だ。作ろうにも疲労しているようだと作業は続けられないもんな。


 いやでも、そもそも生産職がここまで体力を必要とするほど、生産をぶっ通しで行うという現状がおかしいのか?


 ……気づかなかったことにしてさっさと作ろう。立ち止まったら作れなくなる気がする。


 深層素材をボチャボチャつぎ込み、魔力を注いで【錬金術】を始める。


「――うぉ。マジか。これすっごいわ……」

「どうしたんだい? やっぱり深層素材だとまだキツイのかな?」

「いや、違う。むしろ逆。手応えが凄い軽くなってる」


 これ、明らかに小鈴ちゃんの料理の効果だよな。

 使った素材的には、昨日のホムンクルスと同等だ。にもかかわらず手応えがまるで違う。雑談を気軽にできる程度まで難易度が落ちている。


 生産を助けるスキルがここまでの力を持っているとは。これなら自分のレベルより上の素材でも扱えるようになるだろう。


 戦闘だけじゃない。生産にも料理バフが必須レベルになるだろうな。


 この段階で小鈴ちゃんを引き込んだミライさんは、間違いなく英断だった。


「――できた。って早っ!? まだ一時間くらいなのに!」


 生産の難易度が下がるだけじゃなく、生産時間まで短くなるのかよ。

 この調子ならホムンクルスの方も、昨日の半分くらいの時間で済みそうだ。

 単純に倍の速度で作れるようになるなら、拠点の守りも見えてきたな。


 そしてさらに、この装備でその速度はより加速する!


【アイテム鑑定】

〈錬金術師の白衣装備一式☆2〉――【体力補正】【器用さ補正】【精神力補正】【知力補正】【体力回復】


 黒いスラックスに、白シャツ。お洒落なベスト。その上に白衣。科学者寄りの〈錬金術師〉装備一式だ。


 バサァ、と白衣を着てはためかせてみる。


「――どうよ? この偉大なる〈錬金術師〉の姿は」

「うーん、正直かっけぇ。ちょっと羨ましい」

「でもモデルが悪い。せっかくの服装が台無し」


 ふっ、容赦のない意見だ。ちょっとくらいは褒めて欲しかったぜ……。

 密かに落ち込む俺だったが、七緒ちゃんはフフッと微笑ましそうに笑う。

 

「そんなことないですよ。ちゃんと似合ってますよ」

「うんっ。かっこいいですよー!」

「そう? ならいいかなっ」


「単純すぎんかお前。それでいいのか?」

「まぁ頑張ってくれるなら、なんだっていいんじゃないかな?」


 うるさいなお前ら。そもそも誰のせいで落ち込んでいると思っているんだ。

 しかし我ながらいいできだ。着心地は悪くないし、ステータスが狙い通り大幅に上がっている。


 非の打ち所がない完璧な作りだ。これなら生産も問題な――


「……いや、問題あったわ。ちょっとあっついわこの服装。あ、そうか。【耐暑】と【耐寒】が付いてないから」


 もうすっかり快適旅行装備で慣れちゃっていたから、気づかなかった。

 微妙に不快だ。【耐暑】がないだけでこんなに違うもんなんだな。


「どうしよう、もう脱ぎたくなってきた。夜になったら寒くなるだろうし……」

「生産のためだ。少しくらいは我慢しろ」

「余裕ができたら作り直せばいいだろ。まずは性能を確かめることが先決じゃないか?」


 それもそうだな。よし、それじゃあ早速ホムンクルスを作るとするか。

 ホムンクルス用の巨大〈錬金釜〉に、先日と同じ素材を投入。水もたっぷりと注いで、【錬金術】開始!


「おっ……おおっ!? わははは! すげぇ! めっちゃ楽になってる!」


 生産装備を作った時と同じ、いや、それ以上に手応えが軽い。

 バフと生産装備の相乗効果で、昨日よりも難易度がかなり下がっているようだ。


 四人と雑談をしながら生産をする余裕があり、気づけば一時間があっという間に過ぎて、【人工生命体創造】の作業は終わった。


「これも一時間か。本当に昨日の半分の時間でできちゃったよ。さすがに完成までの待機時間までは縮まらないみたいだけど」

「でもそれくらいで済むなら、休憩を入れても五体くらいは毎日作れそうだな? 結構な時短になってきたんじゃね?」


「とはいえ、十日かけてようやく五十体だ。やっぱり時間はかかるね」

「いや、もう少し早まると思う。ちょっと準備を手伝ってくれ」


 川辺と伊波に頼んで、次の【人工生命体創造】の準備をしてもらう。

 二つの巨大〈錬金釜〉に、纏めて素材を入れる。準備ができたところで、俺は両腕をのばし――同時に【錬金術】を発動した。


「おまっ、二つ同時!?」

「できるのかい? 今までそんなことやったことないだろう?」

「さっきの感覚だと、かなり余裕があったからな。片手で魔力を調整するくらいなら……」


 充分にやれる――その確信に間違いはなく、無事に二体同時の【人工生命体創造】が成功した。


 二体同時でも、かかった時間は同じく一時間ほど。難易度も雑談する程度の余裕はある。

 これなら失敗することなく、作り続けることができるだろう。


「時間的に、休憩を入れながらでも一日五回くらいはいける。つまり一日で十体だ。拠点造りの成功が見えてきたな。さすが俺!」


 我ながら、これはちょっと凄いんじゃないだろうか?

 いや、ちょっとどころじゃないわ。間違いなく〈錬金術師〉として最先端を行っている。


 自我自賛で内心鼻高々になる俺。しかし、川辺と伊波は珍しく、茶化すことなく頷いてきた。


「いや、マジで凄いと思うぜ。自慢しても良いと思う。さっきの様子だと、もう失敗する心配もないんだろ?」

「そうだな。この程度ならよそ見しながらでもできる!」


「同じ作業を繰り返すのは辛そうだけど、小鈴ちゃんの料理と生産装備でそこはカバーできているんだろう?」

「そうだな。体力的にも精神的にも、明らかに疲労が少ないわ。たぶん休みなしでもいける!」


「へぇ、それじゃあ休憩抜きで作り続けることになるな?」

「疲れずに休みも要らないんだから、そうなるね」


 ――あっ……。


 地獄への道を自ら舗装してしまったことに、俺は今更ながら気づいてしまった。


 ♦   ♦


 小鈴ちゃんの料理に、俺専用の生産装備。

 この完璧な組み合わせで生産を作り続け、早くも四日が経過した。遠征に出発してから、実に十三日目となる。


 その間、俺はひたすら【人工生命体創造】で狼を作り続けた。

 昼休憩を除き、本当に休みなく作り続けて、その数は初日に作った狼も合わせてなんと六十七体。


「いやー、増えたな。こうして見ると結構圧巻な光景だ」


 拠点を軽く見回すだけでも、あちこちにくつろいでいる狼たちがいる。

 これでも一部であって、大部分は拠点の外で守りを固めているのだから凄い。


 六十体以上もいれば、狼でもローテーションを組んで休む余裕がでてきている。だからこその光景だ。


「ここまでいるなら、俺もういいんじゃね? なぁ? ゴールしてもいいよね?」

「いや、目標まであともう少しじゃん。あと二、三日あればいけそうだし頑張れよ。そんなに疲れてないんだろ?」

「疲れてねぇよ!? 体も精神もノーダメだよ! でも同じ作業を延々と繰り返しているのに、疲れが一切感じないとか異常なんだよ! それが客観視できるから怖ぇんだよ!」


 明らかに鬱になってもおかしくない過密スケジュールで働いているのに、マジで行動にブレが無い。自分が機械になったかのような気になるのに、本当に心身共にノーダメ。これがどんなに恐怖を感じることか……ッ!


 伊波は同情的な目を向けてくるが、それでも言った。


「でも、そのおかげで皆助かっているし、喜んでいるよ。そう考えれば頑張った甲斐があると思わないかい?」

「それでも俺の苦労は変わらないんだが……まぁ確かに、作った甲斐はあったかな」


 狼の数が揃ってきたことで一番助かったのは、やはり護衛に回っていた人たちに余裕ができたことだ。


 その人たちも開拓に参加したことで、拠点の拡張、整備はすでに終わっている。今では余った時間でレベリングと暇つぶしを兼ねて狩りに出たり、拠点で休んでいる狼と戯れて癒されている人もいる。


 ちなみに、一番それを堪能しているのはアキラさんだ。


「はぁ~……幸せ~……!」

「ウォン!」


 胡坐をかいてその足の中にしまうように、おすわりをしている狼を抱きかかえ、さらに他の狼にも左右と後ろにピッタリ寄り添わせている。

 

 犬好きとは言っていたが、どんだけ満喫してるんだよ。というかなに接待させてんだ。キャバクラか? まぁ狼君たちも喜んでいるみたいだからいいけどさ。


 でも、この狼の群れ結構好評なんだよな。まさか動物セラピーにここまで需要があると思ってなかったわ。皆、癒しを求めていたんかな。


 俺以上に皆頑張っていたから、余暇を楽しむことができて良かったとは思う。本当にそう思うよ?

 

 しかしだな。悠々と遊ばれているとそれはそれでムカつくぞ。


 ジャラジャラと、すぐ傍で牌を掻きまわす耳心地の良い音が聞こえてくる。


 俺の目の前では、【土魔術】でテーブルと椅子を作り、麻雀に勤しむ奴らがいた。

 俺が作り出した暇な時間はその余裕のあまり、卓を囲む奴らが現れだしたのだ。


 いや、休んでくれていいんだけどさ……賭け事に走るのはやりすぎだろ! というか誰だ麻雀なんて持ってきた奴!


 ちなみに、そこで今麻雀を楽しんでいるのは、トシさんと天城さん。そして肩にピーちゃんを乗せたカコちゃんに、マルを抱えたチヨちゃんである。


 なんともインパクトのあるメンツだ……。


「ピッ!」

「お? これかい?」


「ワンッ」

「はいはい。こっちだね〜」


 まぁカコちゃんとチヨちゃんは、ピーちゃんとマルの代打ちだけどな。

 実際に指示を出しているのは二匹で、二人は言う通りに牌を動かしているだけ。


 実質、二匹とトシさん、天城さんとの勝負だ。

 動物と和気藹々としながら打っている元JK二人と、ヤクザと見紛うおっさん。経験豊富そうな老人との勝負。


 一見、女子高生がカモにしか見えないが、ところがどっこい。苦渋の表情に染まっているのは男二人の方である。


「ピッ。――チー!」

「おっ? チーだね! よしきた!」


「ぐぬぬっ……ッ! この鳴き党の小鳥が! 忌々しい……!」

「流れが……場の流れが乱されまくるンゴ……ッ!」


 ピーちゃんは鳴き党。とにかく鳴きまくって場を荒らし、早上がりを目指すタイプ。


 普通あそこまで鳴きまくったら逆に自分のペースを乱すと思うんだが、そんなことは一切なく、バンバン上がってリズムに乗っている。


 逆にトシさんと天城さんは、調子を崩されてじわじわ点棒を削られている。


 強いんだが、めっちゃ嫌がられそうな打ち方だな。現にトシさんと天城さんが殺さんばかりにピーちゃんを睨んでいる。


 それに怯えた様子を一切見せないのが、ピーちゃんの強さか。


「……ワン」

「えーっと、こっちね?」

 

 逆にマルは、ドシっと腰を据えて重い打ち回しをするタイプらしい。

 ピーちゃんがいくら鳴こうが表情ひとつ変えず、マイペースに打ち続けている。

 

 上がる回数こそ少ないが、息を潜めてじっと待ち、時折どでかい一撃を放ってくる。

 その姿には大物の貫禄すら感じた。お前何者だよ。


 そしてこのマルの姿があるからこそ、男二人の器の小ささが際立つ。


「ふざけろ……ッ! たかがメスガキと獣二匹、負けるわけには……ッ!」

「脱衣麻雀ゲームで磨いてきたこの腕……今こそ見せる時……ッ!」


 あー、痛いほど気持ちは分かるけど、侮っている時点でダメだわ。

 アイツらマジでテーブルゲームが強いからな。


 俺たちも遊びでいろんなゲームで戦っているけど、ろくに勝てた(ためし)がない。伊波でようやく互角といったところだ。


 初めてピーちゃんとオセロをやって、パーフェクトゲームを食らった時に俺は目を疑い。

 続くマルに三連戦で一枚差の接戦で負け続け、それが狙ってのものだと気づいた時、俺は心が折れた。


 あの二人も同じ目に遭うのかと思うと、ちょっと同情するわ。

 というか、天城さんに至ってはほとんど素人みたいなものじゃ?

 

 脱衣麻雀で磨けるのは性欲ぐらいのものだろ……。


「――入ったぜ! グハハハハッ! よくも調子に乗ってくれたな畜生ども! これで逆転よ!」


 あと一撃大きいのを食らえば箱。そこまで追い詰められて、ようやくトシさんに勝負手が入ったらしい。


 これまで良いようにやられ続けたせいか、その顔は邪悪に嬉しそうだ。

 

「逃げられるもんなら逃げてみなぁ! グハハハハハハ! リーチッ!!」

「――ワンッ!(ロンッ)」

「どーんっ!」

「え?」


 チヨちゃんの倒した牌を、トシさんは呆然と見ている。そしてワナワナと震え出した。


「バ、バカな……その配牌ならとっくに……ま、まさか俺を狙い撃ちに?」


 その事実に気づき、トシさんは動揺を隠せなかった。あまりのショックからか、グニャア、と周りの風景まで歪むような凄まじい表情だった。


 そんなトシさんに構わず、チヨちゃんとカコちゃんははしゃいだ声を上げる。


「わーいっ! これでトビですね!? トビですよね!? 私たちの勝ちですね!」

「イェーイ! 大勝利ー! 食券置いてけー!」

「ンゴゴ……くっ、負けは負けンゴ……」


 天城さんは懐からお手製の食券の束を取り出し、半分くらいを卓の上に。惜しそうにしていたが、潔い態度だ。


 しかし、トシさんは実に見苦しかった。


「まっ、待ってくれ。もう一勝負! もう一回だけ頼む! な!?」

「ええー、でもトシさんもう食券ないよねっ?」

「さすがに食券なしでは勝負は受けれないですねぇ〜」


「そんなこと言わずに頼む! 食券がなくても体で払うから!」

「気持ち悪いこと言ってんじゃねぇよ。おら、とっとと食券置いて下がれ」

「全てを失った負け犬に発言権はねぇんだよ」


「い――いやだ! 食券を奪われて明日から俺はどうすれば……ッ! こ、小鈴っ! 小鈴ぅ〜……ッ!」


 小鈴ぅ〜、じゃねぇのよ。そこで小鈴ちゃんの名前を叫ぶんじゃない。

 博打に負けて妻か娘を奪われたダメ亭主、みたいに見えちゃうでしょうが。

 小鈴ちゃんは皆のママだぞ!


 トシさんは情けない叫びを上げながら、有志の連中によって拠点の一角に引きずられていく。そこにはこの世の終わり、といったような顔をした連中が集まっている。


 麻雀の負けが込み、賭けの代金である小鈴ちゃんの料理食券を失った負け犬たちの群れである。その中には後で配給される食券まで賭け、全てを失った債務者もいる。


 そしてトシさんも容赦なくそこに捨てられ、無事に底辺の仲間入りとなってしまった。


 金ではなく食券を賭けて勝負するあたり、まぁ子供相手に麻雀をするには健全だとは思うが。料理を食べられなくなったくらいで、あそこまで落ち込んでいると考えると、かなりバカらしい。


 でも、小鈴ちゃんの料理だからな。自分だけ食べられないと分かれば俺だってああなるか。


 というか今の小鈴ちゃんの本気料理って、一食だけでも数十万……いや、数百万くらいの価値があるよな?


 その価値がある食券を賭けていたと考えると、実質数千万くらいの勝負だったんじゃ……あれ? 実はとんでもないレートの勝負が目の前で行われていた?


「キャッホー! 食券長者だーい! さすがピー様! 一生ついていくぜー!」

「ピッ、ピピーッ!」

「マルありがとー! ここにいる間は好きなだけ食べていいからねー!」

「ワオォオオオオオオン!」


 勝てば勝つほどそんな料理を食べられると分かれば、あの食欲に溢れた二匹が黙っている訳がない。積極的に参加するし、容赦なく叩き潰すだろう。そりゃ債務者の山が出来る訳だ。


 つうか、一番美味しいポジションにいるのは間違いなくチヨちゃんとカコちゃんだよな。手足になるだけで食券の二割の報酬が貰えて、負けても失うのはピーちゃんとマルの分だから、自分たちにダメージはないという。


 なんて計算高い子たちだ。美味い料理は簡単に人を悪の道に走らせるのか……。


「お嬢ちゃんたち、ちょっと調子に乗り過ぎだなぁ?」

「大人を舐めたらどうなるか、教えてやらんとな」


「おおっ? なんだー? やるかー? カコたちは温い勝負はしないぞー?」

「最低でも食券三食分からですよー? 弾はあるんですかー?」


 そして勝ち過ぎている奴らは目をつけられ、挑戦者が後を絶たない。

 本当の勝負を教えてやる、とばかりに卓に着くタケさんと兵藤さん。しかしJKたちは逆に挑発しかえす様だ。その姿は、またカモが来たと言っているかのよう。


 また犠牲者が増えるのか。というかこいつら楽しみすぎじゃなかろうか。


「いいなぁ。俺もちょっと混ざりたい」

「止めとけ。飯がかかったピーちゃんとマルだ。ケツの毛まで毟られるぞ」

「というか、君にそんな余裕はないだろう。遊ぶ暇があったらホムンクルスを作らないと」


 現実に戻してくるなよ。少しくらい夢を語ってもいいだろうが。

 ちょうど【人工生命体創造】が終わったタイミングで、はぁ、とため息を吐きながら〈錬金釜〉から手を離す。


「遊びたければ全部終わらせてからか。社会人は大変だな」

「それが大人ってもんだ。俺らは大人しくアニメ鑑賞で我慢しようぜ。んで、次はどれ見ながらやる?」


「ん~、そうだな。なろう系はちょっと飽きてきたから、ラブコメにしよう」

「激務だとか言いながら、なんだかんだこの状況を満喫しているよね」


 いや、そうは言っても辛いことは辛いぞ。

 アニメが無ければそれこそつまらな過ぎて逃げ出していたところだ。これくらいは許してほしい。


 視聴するタイトルを決め、いざホム作成の続きに入ろうとした、その時だった。


「――すっげぇな!? もうすっかり拠点ができあがってんじゃねえか!」

「本当に拠点ができるのね、今でも信じられない。それにこの狼の数……」

「こりゃ急いだ甲斐があったな。おーい、会長~! 待たせたなー!」

「いっぱい獲ってきたから、遠慮なく使ってねー!」


 リヤカーを引きながら、拠点に入ってきた小畑会のメンバーがいた。

 その人たちは拠点作成組ではなく、素材調達班として他のダンジョンを回っているはずの人たちだ。


 そう。待ち望んでいた素材が、とうとうこの場に届いたのだ。



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― 新着の感想 ―
> そう、料理バフは新しく口に入れた物に上書きされてしまう。 それってコース料理のときはどうなるの? デザートのバフだけが残ったら笑える。
作業の横で麻雀wピーちゃんの視力だと対面の人の瞳に映った牌が見えるんじゃ…まさかねw
スキル付き料理で錬金やらないのかな 感度3000倍ポーション作れそう
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