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アラサーからのダンジョン探索~英雄は目指さない。マイペースに遊びながら稼ぎます~  作者: 迷子
第一章 脱サラ探索者デビュー!

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第10話 陰謀論②

 ――〈小池 哲也〉

 ――〈近藤 裕紀〉

 ――〈杉浦 里美〉

 ――〈高橋 メロン〉


 今美味しそうな名前があったな。


 ――〈松原 俊哉〉

 ――〈藤松レクス〉


 ハーフかな? どこの国由来だろ。


 ――〈怒谷正道〉

 ――〈二見谷魁竜〉

 ――〈木村 一角獣〉


「――んふっ!」


 いかん、思わず声が出てしまった。くそっ、不意打ちはずるいだろ。

 一角獣ってまさかユニコーン? もしかしてユニ君とか呼ばれているのか? 

 名づけってやっぱ大事だよなぁ。それ一つで子供の人生が確実に変わる。本当に罪深いよ。


「おい、急に笑うな。変に思われるだろ」

「ごめん。ちょっと我慢出来なくて」

「気を付けろよな。……あとで教えてくれ」


 俺がやっていることを察し、釣られて笑いそうになっている川辺に頷き、俺は【人物鑑定】での観察を続ける。


 俺が【人物鑑定】と【魔物鑑定】のスキルを手に入れてから二日後の探索。渋谷支部のロビーで伊波が帰還報告をしている間、こうして集まっている探索者を相手に【人物鑑定】のスキルを磨いていた。


 あの日、これからどうするかを俺達は真剣に話し合った。


 本当に秘匿されているのか? 秘匿されているとしたら誰が? 密かに使用している奴がいるのか? 俺が狙われることはあるか? 隠し続けることはできるか? 秘密裏に使用できるか? いっそ協会に報告してしまうか?


 三人がかりでネットの情報を調べ、ありとあらゆる考察をし、時に激論を交わし、酒を飲んで気を紛らわせ、そのままゲームしながら駄弁りだし――とにかく、俺達は話し合った。


 そして、こう結論をだした。――わっかんね☆


 考えても分んねぇし、かといって使える能力を使わないのもどうなんだ。目を付けられたらその時は素直に協会に頭下げて、服従すればよくね?


 それまではこっそり力を磨いて性能を上げよう。ぶっちゃけこの【鑑定】がどこまで伸びるのか見てみたい。


 という訳で、こうして今も【人物鑑定】を磨いている訳だ。結局最後はゲーム脳に負けてしまった、ということだな。


【魔物鑑定】は探索でしか磨けないからともかく、【人物鑑定】に関しては常に訓練できる。こうやって時間がある時はもちろん、すれ違った一般人相手にも使うようにして練習している。


 ただ、同じ探索者にはやらないように気を付けている。【鑑定】の存在がばれるのもそうだが、何かされたと気づかれたら殺し合いになる可能性があるからな。特に相手が自分より強い相手だったらいちゃもんを付けられるだけで死が確定する。あくまで明らかに一般人と分かる相手だけだ。


 ただしここに居る相手は別だ。渋谷ダンジョンに居る探索者はほとんど俺と同じ駆け出し。能力差もほとんどないだろう。それなら気づかれることもないはず。唯一気を付けるとすれば、警戒心の高そうな〈狩人〉のような斥候系のジョブの人。


 だが、それも装備を見ればだいたい当たりをつけられる。格上の人と斥候系の人は避けて、安全そうな奴だけ【鑑定】していくということだ。


 ゲーム的に考えれば、強い敵ほど経験値が多くもらえる。もしスキルにもレベルや熟練度的システムがあるなら、一般人よりも同じ探索者の方が貰える経験値が多くなる筈。


 だからこそ、同レベル帯が集まるここの探索者は美味しい相手になる。何もせず長時間居座れば怪しまれるから、こうした雑務の短い時間だけだらこそ、手を抜くわけにはいかない。


「終わったよ。じゃ、帰ろうか」

「おお、お疲れさん。今日はどうする? このまま打ち上げいくか?」


「うーん。前回やって少し疲れているから、今日は休んで明日の生産日に回さないか? それで明後日も休みにすれば疲労も取れると思う」

「ああ、それいいかもな。無理もよくねぇし、金に困ってる訳じゃないし。楓太もそれでいいか?」

「うん、良いぞ。急いで稼がなきゃって訳でもないし」


 生産日は労働でもアニメ見て雑談しながら気楽に働いて、その後には飲みながらゲーム大会、あるいは映像鑑賞会。そしてさらに望めば翌日も休みを取れる。


 改めて自分の生活見るとやべぇな。既にめっちゃ充実してるわ。しかも将来性もバッチリっていう。

 

 駆け出しは辛いって聞いてたんだけどなー(棒)すごく楽しいなー探索者(愉悦)なんで皆、探索者を目指さないんだろうなー(すっとぼけ)


 どうしよう。マジで理想的な生活すぎてもう上を目指さんでいっかと思い始めている自分が居る。いや、駄目だぞ? 妥協するにしてももう少し上だ。そこまでは努力せんと。


 という訳で、最後に【人物鑑定】して帰ろう。うーん、あの人でいっか。


【人物鑑定】――〈失敗。抵抗されました〉


「――あっ」

「――ん?」


 もう帰るところだったせいで、気が抜けていた。観察が足りずつい流れ作業でやってしまった。やべっ、と思った時にはもう遅かった。


【鑑定】をした人と、一瞬だが目が合う。怪訝に思われぬよう、すぐに視線を逸らした。どうよこの自然な態度。やらかしたが、リカバリーは完璧だったはず。どうだ? 上手いこと誤魔化せたか?


 チラリ、と目を戻してみる。なんでだろう、その人は俺の方をじっと見ていた。


 やっべ。全然誤魔化せて……い、いや、まだそうと決まった訳じゃない! このまま去ってくれる可能性もまだある!


 動じるな。変な態度をしたらますます怪しまれるぞ。自然な態度を心掛けろ。俺は赤の他人。見られて困る要素など何もないですぞ。 


「おい、楓太。お前まさか……?」

「君、もしかしなくてもやったね……?」


 俺の態度で理解したのか、俺だけに聞こえる声で二人が呟いた。察したのはさすが友人と言ってもいいが、口にするなよバカ共。まだ誤魔化せる可能性はあるんだぞ。それで気づかれたらどうす――


「おい。そこのお前、ちょっといいか?」


 気づけば、その人はすぐ目の前まで近づいてきていた。なるほど、二人は俺ではなく、この人の接近で察したのか。以心伝心なんて幻想だったな。


 年齢は三十台。同じか、俺より上かな? 身長は百八十を優に超える大男だ。格闘家のようにスマートではないが、川辺のようなたるんだ醜い体でもない。筋肉と脂肪を程よく備えた、横にも縦にもガッシリした体格の人。


 圧迫感がやべぇ。歴戦の戦士、といった感じだ。明らかに高レベルの探索者。なぜこの雰囲気に気づかなかったと思ったら、この人、使い込んではいるが装備が防刃ベストを初めとした初心者でも使うようなやつだ。


 はははっ、なるほど。この格好で俺は騙された訳か。

 なんでこんな人がこんな格好でこんなダンジョンに居るんだよ!? 小銭稼ぎでもしてたのか!? 相応の場所に行けよ!


 いや、落ち着け。まだだ。まだいける。

 確かに何かに感づいたかもしれないが、俺がやったと確信はないはず。ごり押しで惚ければなんとか――!

 

「お前、俺に何かしたよな? 何をやった?」


 確信を持っていらっしゃいましたか……。

 これはもう駄目かも分からんね。


「……えっ、私ですか? あの、すみませんが、急にそんなことを言われても分からな――」


「スキルの抵抗が上手くいくとな、その魔力を感じ取っているのか、なんとなくこいつがやったって分かんだよ。惚けるってんなら、それがどういう意味か分かってんだよな?」


 川辺。伊波。


 ――わりい。おれ死んだ。


「ちょ、ちょっと待ってくださいっ!」


 かっ、川辺? お前、どうするつもりだ?


 庇おうとしてくれるのは嬉しいが、明らかにこの人は気づいているぞ? この期に及んで誤魔化すとか、完全な敵対行為だ。ただでさえ非はこっちにあるのだから、ここは素直に謝った方が――


「すいませんっ! こいつ、男が好きなんですっ! たぶん、貴方に興味があって、不躾な視線を向けてしまったんだと思います! 本当にすいませんでした!」

「――――!?!?!?!?!?」


「そうなんですっ! 特にあなたみたいな人がタイプで! 僕も以前から止めろとは注意していたんですが……大変申し訳ありませんでした!」

「――――!?!?!?!?!?」


 川辺……伊波まで……お前ら正気か……?!

 いくら俺を助けるためとはいえ、もっと他にあるだろ!? 

 そんな嘘を誰が信じるんだ!?


「え、えぇ……そ、そうなのか……?」


 信じるのぉ……?

 引きつつも申し訳なさそうな顔をしている当たり、この人、実は結構いい人なんじゃ……。


 四角っぽくてゴツい顔つきだけど、よく見ると目は小さくて丸い。なんか森のくまさんって感じに見えてきたわ。


 いや、それよりも俺のことだよ。

 ホモだと認めろというのか? 俺が?

 いくら助かるためとはいえ……俺は乳が……尻が……好きで……くっ、くっぐぅぅうううっ!


「………………そうっ……でっ……すっ……!!」

「ああ~……そ、そうなのか。すまん。同性愛を否定するつもりはないが、俺、普通に女が好きだから」

「いっ、いえっ……! 気にしないで……ッ!」


 俺だって女の方が好きだわぁあああ! でも断ってくれてありがとう!


 俺が必死に演技したというのに、二人はなにやら怖い顔で俺を睨んでいる。


“せっかく誤魔化したのに、バレたらどうすんだぁ!”って感じか。怒りたいのは俺の方だ。ぶち殺すぞ貴様ら。


「タケ。何やってんの? またお節介?」

「ほどほどにして、早く帰ろ~……」


 支部の入口の方から二人、こちらに近付いてくる。片方は二十代後半くらいの、腰元まで髪を伸ばした女性。もう一人は俺でも見下ろせるほど背の低い……男だな。状況から察するに、この人の仲間なのだろう。


 その二人を見て、大男が呆れながら言う。


「お節介ってなんだよ。いや、なんかスキルを受けた気がしたからよ。ちょっと事情を聞いてたんだよ」

「――は?」


 長い髪の女性が一瞬で表情を変えると、俺の胸元に――ぐぇっ?!


「おい。テメェうちのタケに何しやがった?」

「くっ、苦しっ……何も……してなっ……!」


「おいおいっ、あんまり乱暴すんなよ。そいつは……ああ~、同性愛者らしくてな。なんでも俺に一目惚れしたらしく……」

「そんな訳ないだろこのバカ! テメェも誤魔化すならもっとましな嘘を吐けよ!」


 そりゃそうだよな。でも、その嘘を吐いたのは俺じゃないんです。そこで薄情にも俺を助けようとせず、あなたに怯えているそこのバカ二人なんです。


 女性は俺の胸倉を掴んだ手を、少しだけ緩めてくれた。が、ますます表情は険しくなる。マジで怖ぇ……視線だけで体が震えてくるんだけど。


「お前、無害だったからってスキルで攻撃してんなら、それは先制攻撃と変わりねぇんだよ。遊びでしたじゃ済まねぇんだ。それとも本当に喧嘩売ったのか? あ?」

「いえ、違いますっ。す、すいませんでしたっ。全面的にこちらに非があります。攻撃をした訳じゃなかったんです。どうか許してください」


 これ以上はマジで殺される。素直に謝るしかない。


 声が引き攣るのを堪えて、なんとか謝罪する。すると彼女は幾分か落ち着いたのか、俺から手を放し、その怒気を抑えてくれた。その途端、体に感じていた重圧が和らいだような気がした。


 これが高レベルの探索者か。まさか怒らせるだけで体が固まるとは。マジで死んでもおかしくない……いや、まだ分からないか。全面降伏だ。受け答えをしくじったら本気で殺されかねない。


「チッ! 分かってるならいい。でも、何をやったのかは答えてもらうぞ。アンタ、ジョブは何?」

「えっと……〈錬金術師〉です」

「はっ? 〈錬金術師〉? 嘘吐けよ。〈錬金術師〉に何が――」


「待った。〈錬金術師〉で三人組。でもって俺と同じくらいの年代ってことは……アンタもしかして小畑さん? んでそっちの二人が川辺さんに伊波さん?」


 女性を止め、大男が順番に指を差して言った。俺だけじゃなく、二人まで名前を呼ばれたことで、ぎょっとして固まる。


 なんで知ってる? えっ、何か目を付けられることした?


 内心の動揺を悟ってか、その人は笑って言った。


(あずま)から聞いた話と同じだったからな。俺と同じ年代の三人組で、信用できそうな人達だった。良かったら目をかけてやってくれってな」

「東さんから……!」

「この年代で探索者を始める奴も中々居ないし、俺も機会が在ったら話してみたいと思っていたんだよ。まさかそいつから何か仕掛けられるとは思わなかったが」


 あずまぁああああああ! よくやったぁあああああ! 若いくせに良く分かってるやつだ! 今度会ったらよしよししてやるぞぉおおお!


「まぁ知り合いからの紹介とはいえ、こっちも何かされた以上、黙っている訳にもいかないけどな。悪いようにはしないから話してくれよ。正直〈錬金術師〉に何をされたのか興味もある」


 どうなることかと思ったが、一命はとりとめたようだ。というか、この人やっぱりいい人なんじゃないか?

 東さんの紹介でもあるし、信用は出来る。なら、今の状況に助言してくれるんじゃ?


 俺は二人に目で聞いてみる。すると、二人も同じく感じたのか、小さく頷いた。


「不躾な真似をしてしまい、大変申し訳ありませんでした。全て説明させて頂きます。ですがその、場所を移してからでよろしいでしょうか? ここではちょっと……」

「なんだ、よっぽどのことか。本当に面白くなってきたな。よし、飯でも奢ってやるよ。ついてきな」


 こうして、俺達はこのタケと呼ばれる大男に連行されることになった。高レベル探索者なら、逆らっても無駄だろう。ご飯を食べさせてくれるようだし、諦めて大人しくするに限る。


 高レベルなら、かなり稼いでいるよな? ……味は期待してもいいですかね。


 情報を吐かせられる恐怖か、それとも未知なる料理に対する期待か。ドキドキが止まらなかった。


 ♦   ♦


【探索のヒント! その八】

〈他者へのスキル行使〉

 この場合、赤の他人への回復以外のスキル使用を指す。当然、完全な敵対行為。

 ダンジョン内という特殊空間では、電子機器の利用は出来るが、インターネット環境の構築は不可能となっている。つまり、地上に比べて証拠の隠滅が容易い。

 死人に口なし。物的証拠も消してしまえば、ダンジョン内での犯罪が明るみに出ることはない。魔物が生息するというその環境も、人を悪徳に走らせる要因になっている。ゆえにダンジョン内はほとんど無法地帯に近い。

 そのため、ダンジョン黎明期では様々な理由で人同士の争いが行われた。その経験により、たとえ無害に見えるスキルであろうと、致命的な状況に追い込まれる可能性があることを経験者は知っている。

 例えば〈呪術師〉の【呪術】によるデバフ。例えば斥候系のジョブによる【マーキング】。直接的に、あるいは間接的に。あらゆるスキルは死への布石になる。

 だからこそ、経験豊富な探索者ほど無断のスキル行使に対する警戒心は高い。もしそれがダンジョン内であれば、食らった時点で殺害の選択が出るほどに。

 レベル差があるとはいえ、スキルの攻撃を受けて許す者が居たとしたら、その者は相当なお人よしの可能性が高い。

 そうでなければ、そしてそこがダンジョン内であれば。

 仕掛けた者は、確実に無傷では終わらないだろう。


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