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第7話 情報を集めるべし

いつもお読み頂きありがとうございます!

 玉座の間に入ると、玉座の隣に美しい大きなデスクが置かれていた。使用した素材は忘れてしまったのは残念なのだが。意匠を凝らして作られている玉座とは比べものにならないが、洗練された美しさが感じられる。


「マグナ様、おはようございます。現在も情報の引き出しは継続中ですが、明らかになったものがこちらにまとめてあります。どうぞご覧下さい」


 華麗で優雅な礼をしたのは戦闘執事バトラーのジルベルトである。

 彼は人工魂を持つヒューマノイドなので疲れを知らないのだろう。

 他の守護者ガルディアンたちの姿は見当たらない。


「これは執務用に急遽ご用意致しましたので、どうぞお使い下さい」

「ああ、おはようジルベルト。良いデスクだ。早速試させてもらおうか」


 そう言って腰を落ち着けるが、想像以上に座り心地が良い。

 レックスはこんなアイテムもあったのかと場違いなことを考えていると、ルシオラがおずおずと尋ねてきた。


「あの……陛下。この程度の情報しか引き出せず申し訳ございません。かくなる上は――」

「だぁぁぁ! 良い! 良いのだルシオラ! 少し違うことを考えていただけだ。貴様らの働きには満足しているぞ!」


 ルシオラが自決しようとするのを慌てて引き止めるレックス。

 この程度とは言うもののデスク上には膨大な枚数の用紙が束ねられているのだ。


「(ええ……どうやったらここまで情報が出てくるんだよ……今からコレ全部に目を通すのか……)」


 レックスは試しに1番手前にあった報告書を手に取ると、ページをめくって目を通す。


 サイクスに攻め込んだのがレギア同盟、ロヴェーナの方はゼキテ王国と言う国家であると書かれている。

 そのような国名などレックスの記憶にはない。

 国名だけでなく、拠点やギルド、クランなどにもそんな名前はなかったはずである。


「ルシオラ、もうこの報告書の中身は頭に入っているのか?」

「もちろんでございます。疑問があれば何でもお聞き下さい」


 何だ、天才か。

 彼女の戦闘力の高さは知っていたが頭もキレるとは反則級だなとレックスは考えながらも、それなら直接聞いた方が早いのでは?と思いつく。


「ではルシオラよ。重要度の高いものから口頭で説明せよ」

「承知致しました」


 レックスはレックスで報告書に目を通しながら聞くことにする。


「まずは我が国の南側に位置する国家、レギア同盟、サンドベルグ王国、ゼキテ王国、ラミレア王国、神聖ヴォルスンガ教国らが存在しておりますが、これらは皆、人間族の国家であるようです」


 最初に見た通り、攻めてきたのはレギア同盟とゼキテ王国である。

 それらについては知らないが、サンドベルグ王国とラミレア王国の名前に関しては当然記憶に存在していた。

 何故ならば過去に征服したことのある国家だからだ。


「神聖ヴォルスンガ教国は大国であり周辺国に強い影響力を持っているようで、特にヘスペリスと言う神を強く信仰しているようですが特に一神教と言う訳でもなく他にも4天神てんじんと呼ばれる存在も崇拝の対象です」


 また知らない国の名前が出てきたことで、レックスは『ティルナノグ』の世界が他の異世界に転移してしまったのかと考えた。


「これにつきましては、もしかするとその神々は()()()()()であったのではないかと推測することが出来ます」

「何!? お前はプレイヤーの存在を理解しているのか?」


 NPCであったはずのルシオラから、『プレイヤー』と言う言葉が出てくるなどとは思ってもみなかったため、レックスは大声で問い返してしまった。


「は、はい。陛下を含めた『黄昏の24将』の御方おんかたと同等の強さを誇る者と認識しております」

「(何故だ? 『黄昏の王城(トワイライト・タワー)』がプレイヤーに攻め込まれたことはないのだが……)」


 沈黙してしまったレックスにルシオラは、彼が聞こうとしていた質問の回答をもたらした。


「偉大なる御方おんかたたちが会話されていたのを記憶しておりましたので、そう推測したのですが……」


 これは貴重な情報である。

 ルシオラたちには元NPC時代の記憶を持っていると言うこと。

 となれば何処で何を聞かれていたのか気になるところだが、流石に全てを聞きとるのは無理であるし、下手をすれば猜疑心を生みかねないので触れない方が良いだろう。


「いや、良い。すまなかったな。続けてくれ」

「もしかしたら神になったのではなく、今も神で有り続けている可能性もございます。彼らは強大な魔法を行使し強力な武力を有していたとされていますので注意が必要かと存じます」


 一体どれだけのプレイヤーが転移させられたのかが問題だ。

 種族は300種類以上も存在している。

 幾ら、サービス終了間際だったとは言え、全盛期には3000万人ものプレイヤーがいたほどである。その数は予想もつかない。

 それに気になることもある。人間から現実に他の種族になったことで、精神的にも肉体的にも何らかの影響が出ないのか?と言うことだ。


「西側には北部にセル・リアン王国が、南部にカージナル帝國があり、覇権を巡って相争っているようです。カージナル帝國の南、神聖ヴォルスンガ教国の西にはカラデュラ獣魔国と言う亜人種の国家があり双方と対立しているようです」


 レックスは報告書に目を通す。

 今回のサイクスとロヴェーナへの侵攻は、突如として現れた無防備な都市を奪う目的があったようだ。何故、真夜中にそれが察知できたかと言うと、何かの重大事が起こる前触れに大地震が発生し、天が明滅する現象が見られるかららしい。これが起こると世界に福音か災厄のどちらかをもたらすと言われていると言う話だ。


「なるほどな……となると、もしかするとバラバラに転移させられた可能性もある訳か……」

「そう思われます。陛下が今ご覧になっているページに書かれているように、予兆の後に歴史が動くことが多いようです。それが彼らに幸をもたらすのか不幸をもたらすのかは分からないようですが」


 ルシオラの言葉に納得しつつ、レックスはページをめくる手を止めない。

 攻めてきた指揮官の位階レベルは14と12だそうであり、この世界にも位階レベルの概念があるのだと分かる。となれば同様に職業クラス技能スキルなども存在する可能性も考えた方が良いのかも知れない。と言うか、固有能力や剣技、魔法が使えた時点で存在すると考えるべきだろう。


「この世界で最強の敵となりそうな存在はいるか? いるとしたら位階レベルなどは分かるか?」


「やはりガトゥ族、ドラゴン族、巨人ジャイアント族が強大な力を持っているようです。神族の国家は確認できませんでしたが、竜族や巨人族の国家は存在するようです。しかも1体や2体ではなくそれなりの数がいるようで国家を形成している者もいるとのことですが、位階レベルに関しては不明です」


「(ん? 指揮官は職業クラスが判明しているのか……【従騎士スクワイアⅩ】と【騎士ナイトⅣ】か。まだ2つしか職業クラスはないが、『ティルナノグ』と同じ仕様の可能性が高いか……?)」


 『ティルナノグ』では職業クラスは幾つも持つことが可能だ。

 熟練度デグリーと言うパラメータがあり、それぞれⅠ~Ⅹまで上げられるのだが、この数字が位階レベルに直結する。


 10個の職業クラス熟練度デグリーMAXのⅩまで育てれば、位階レベルは100となる。

 ちなみに位階レベルの最大値は100だ。

 なので熟練度デグリーⅠの職業クラスを100個持ったキャラクタービルドにすることも可能であるが、弱いだろうと思われる。


 死んだ場合のペナルティは位階レベルが下がることと稀に装備品をドロップすることだが、その場合、熟練度デグリーは下がることはないし、ペナルティも装備などで回避できる。

 職業クラスは条件を満たせば上位の職業クラスに就けるので、ガチ勢は最上級の職業クラスを残して下位のものを削除している。

 その場合、削除した職業クラス由来の能力ファクタス技能スキルも消えて使用できなくなるのだが、課金によりある程度は解決することができる。


 ちなみにレックスはガチ勢だが、ロールプレイ重視のガチ勢である。

 最強ではないが、屈指の実力は持っていると言う自負は持っていた。

 元々、ゲーム内で覇王ムーブをしようとは考えていたのだが、実際に固有職業(クラス)である『覇王』を取れたのは単なる偶然である。


「現在のところ、他のプレイヤーの影は見つかっておりません」

「いる前提で動く。後は更なる情報収集が必要だ。魔法に関しては何か分かったか?」


「魔法の知識に乏しい者が多く、確度の高い情報は得られませんでした。申し訳ございません」


 まるで自分が悪いかのようにこうべを垂れるルシオラに、レックスが慌ててフォローを入れる。彼女にそんなことをされたら非常に落ち着かないし、恐らくそれは他の守護者ガルディアンたちでもそうだろう。


「な、何を謝る必要がある! ゴホン! お、お前が悪い訳ではないんだぞ!」

「ああ……何と寛大なお言葉……そのご慈悲に感謝致しますわ」

 

 胸に手を当てて潤んだ瞳で見つめてくるルシオラにレックスの胸が締め付けられる。彼女の言動を見ていれば、忠誠心に偽りなしと判断できるが、他の守護者などはどうなのか?


 心は痛いがどうしても聞き出さなければならないだろう。

 それが本音なのか虚言なのかまでは見抜けないが。

 他種族の者が基本的に脆弱な人間に隔意があるのか、お互いに相容れることが可能なのか。


 〈黄昏の帝國トワイライト・アルカディア〉の掲げる理想は『全族協和ぜんぞくきょうわ八紘一宇はっこういちう』である。

 この世界に暮らす全ての生き物が種族問わずに仲良く暮らし、世界平和を実現することなのだから。


「ルシオラ、守護者ガルディアンを全員呼び出してくれ。皆、大変だったろうから別に遅くなっても構わない。後は諜報員だな。入り込めない場所は隠密用の魔物を送り込むしかないが……いちいち召喚させるのもな……。まぁ守護者たちの眷属に任せるか」


「承知致しましたわ。それがよろしいかと」


 ルシオラはレックスの意見を肯定すると、指示を出すために側から離れていく。


「(それにしても今から守護者ガルディアンたちが、自分に抱いている印象を自分自身で聞かなきゃならないのか……何と言う羞恥プレイなんだ? 胃が痛い……)」


 レックスは守護者ガルディアンたちが集まるまで報告書に目を通しておこうと思い、ページを捲り続けるのであった。

ありがとうございました。

本日は後1回更新します。


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