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第6話 人間休みが必要

いつもお読み頂きありがとうございます!

 レックスは魔法と剣の実証実験を終えて玉座の間へと転移していた。


 鬼武蔵おにむさしとの模擬戦は為になることばかりで非常に有意義な時間となったことに喜びを感じる。だが戦闘による疲れはないものの、ずっとゲームをプレイしていたせいで眠気と疲労に襲われていた。


 とは言え、ここは異世界であり初動を間違うとクラン〈黄昏の帝國トワイライト・アルカディア〉が思わぬ損害を受けてしまう可能性もある。


 捕らえた者たちはすぐに拷問官送りにして情報を引き出すことにした。

 拷問官は『ティルナノグ』における立派な職業クラスの1つで、情報を引き出す能力ファクタスを持つスペシャリストだ。

 単に雰囲気作りで作成しただけのNPCだが、今回は大いに役立ってくれるだろうとレックスは考えている。ただ、彼らは2人だけなので大変だろうし、何より素性の知れない者とは言え人間に酷い拷問をしたくはないと思ったレックスは、魔法による精神操作や記憶操作ができる守護者ガルディアンや階層統括官(レガトス)にも手伝わせることにしたのだが、いざ命令を申し付けると皆嬉々として与えられた役目を果たそうとする姿勢に少々面食らった。


 流石に昨日からの肉体的、精神的な疲労で限界であったため朝まで睡眠を取ることにしたレックスは、守護者執政官インペラトルのルシオラにそのことを告げる。


「マグナ覇王陛下、後は私共わたくしどもにお任せ下さいませ。必ずやあの慮外者りょがいもの共から情報を引き出して見せましょう。何しろ陛下の国に攻め込むと言う愚行を犯したのですから死ぬほどの後悔を味わわせて……。陛下はどうかご安心してお休みください!」


「お、おう……す、すまないな。あまり酷いことはせずとも良いのだぞ? 情報を引き出せたら起こしてくれれば良い。それと並行して防衛計画の立案と周囲の地理、地形の把握も頼みたいのだが……」


「もちろんです! このルシオラにお任せ下さい! 適材適所に人材を割り振って完璧な計画と早急な事態の把握に努めさせて頂きますわ!」


「ああ、頼んだぞ。期待している」


 レックスがそう言った途端に表情をパァッと輝かせて、何故か頬を赤く染めながら承知したのであった。心なしか潤んだような瞳に吸い込まれそうになる。


「(これを絶世の美女と言うんだろうな……まぁ人間じゃないんだけどさ)」


 玉座の間の更に上層にレックスの私室が存在している。

 クランの盟主であり、レックスが覇王のロールプレイをしていることを知っていた仲間たちが特別に作ってくれたのだ。

 ゲームで特に眠る訳でもないが一応は横になるとHPなどの回復効果がある作りになっており、ログイン時の出現ポイントとしても設定していた部屋である。


 いつも室内を通っていたはずなのだが、これほどまでにアイテム類を置いていたかと思うほど部屋は物で溢れていた。別に汚部屋おべやではないのだが、ゲーム末期は普段素通りするだけの部屋となっていたため無造作に装備品やアイテムなどが置かれていたりする。


 片づけるのはまた後でいいかと思い、装備を外すとレックスはすぐにベッドに横になった。ゲームでもリアルな感覚は伝わっていたが、実際に仰向けに寝転んでみると非常に寝心地が良い。天蓋付きのところどころに金銀が散りばめられた、細部まで拘りが感じられる豪奢なベッドである。


「あーこれも書き下ろしてくれたんだっけ。ひぐらし丸さん。色々と外装のデザインをしてくれたんだよなぁ……」


 ひぐらし丸はイラストレーターの仕事をしていると言うプレイヤーの1人である。NPCから武器、防具などに至るまで多くの外装をデザインしてくれた、まさに立役者の1人と言える。


 特に()()()()()()()()()()レックスから比べたら、余程クランに貢献してくれたのは疑いようのない事実であった。


「(どうしても思い出してしまうな。本当に皆、凄い人たちばかりだった。僕だけだろう。頭も良くないし、いつも仲間の素晴らしい意見をまとめるだけの盟主だったからなぁ……僕はこの世界でやっていけるのだろうか?)」


 その後も色々と思い出すことが多かったが、疲労からかレックスはいつの間にか眠りに落ちていた。




 ◆ ◆ ◆




 何かかぐわしい良い匂いに包まれてレックスは目を覚ました。

 気が付けばいつもの現実の部屋である可能性も少しだけ考えたが、そんなことはなかったようだ。


 横向きで俯き加減で眠っていたようだったので顔を起こすと目の前には、隣に横たわり目を閉じているルシオラの妖艶な表情が存在した。


「(ん? 何だか柔らかいものが……って何やってんだ僕は!?)」


 レックスの右手がルシオラの豊かな双丘に添えられていたのである。

 慌ててガバッと起き上がるとそれに気付いた彼女も目を擦りながら上体を起こした。


「……んあ。あ、マグナ覇王陛下……起きられましたか? 疲れの方は取れましたでしょうか?」

「ん……ああ、も、問題ないな! 爽やかな朝だ! 新しい朝が来たぞ! 希望の朝だ! それよりルシオラはどうしてここにいるのだ?」


 まごつきながらも以前の覇王ムーブを思い出しつつ、動揺を悟られぬようにレックスはそう尋ねた。それに対してルシオラは申し訳なさそうな表情を作ると、しゅんと項垂れてしまう。


「申し訳ございません……陛下を起こしに参ったところ、ついついうっかりベッドに入ってしまったのです」

「(ついついうっかりって何だ……?)そ、そうなのか……それは態々すまなかったな。では報告を聞こうか」


「いえ、その前にお食事をご用意しております。どうぞお召し上がり下さい」


 ルシオラの言葉に自分が腹が減っていることに気付かされる。

 レックスはよく気が付くものだと感心してしまい、彼女に優秀な仲間たちの姿を重ねあわせた。


「すまないな。では頂こうか。あ、皆はちゃんと休息と食事は摂ったのか?」

「いえ、私共わたくしどもは陛下の忠実なるしもべでございます。そのようなことは大事の前には後回しにすべきと判断致しましたのでお気になさいませぬよう」


「い、いや……休憩や食事は大切だぞ? 集中力が切れてしまうからな」

「勿体ないお言葉です……ですが陛下のご命令より優先される物などございません。我々のことは手足のように使って頂ければと存じますわ」


 ベッドから起き出して隣の私室に向かうとすぐに食事が運ばれてくる。

 レックスの部屋は和室のような造りになっており、畳の床に腰を降ろすと早速料理に手を伸ばした。


 ご飯に味噌汁、卵焼き、鮭の塩焼き、納豆など完全な和食である。

 食べてみるとゲームの時と同様に、いやそれ以上に美味しいと感じられる。


「(やはりここは異世界だと言うことか……)」


 どうやって食材を調達しているのか、今後も調達できるのかも気になるところだ。異形種のような寝食が不要なキャラクターとは違い、人間族であるレックスとしても食事事情は懸案事項であるため、料理長たちやルシオラに確認しておく必要があるだろう。


 レックスは食事を摂りながら、『黄昏の王城(トワイライト・タワー)』や元NPCたちの情報を確認しておこうと思い立ち、コンソールを開くように頭の中で念じた。玉座の間で確認した時はこれで開けたので態々言葉にしなくても表示は可能だと考えたのだが、どう念じてもコンソールが表示されることはなく、それはステータス画面も同様であった。


「(やはり玉座の間でしか開けないのか? でもゲームが現実化した今、コンソールで情報を確認できるだけ良かったと考えるべきか……まぁ自分のステータスは覚えてるしな)」


 周囲の見渡すと部屋の扉付近にメイドが1人待機している。

 そして料理が並べらているテーブルの対面にはルシオラが正座してにこやかな笑みを浮かべてレックスの方を見ている。

 魔神デヴィルが畳の上で正座している光景は何処かシュールな感が否めないが、本人は全く気にしていない様子である。


 メイドは一応、クランのメンバーの数、24人分の専属メイドがおり、その下に一般メイドが37人存在して『黄昏の王城(トワイライト・タワー)』の10階~12階までの清掃などを行っているはずだ。

 数が中途半端なのは、イラスト担当のひぐらし丸が流石に多過ぎると投げ出したためで、レックスもロールプレイのためだけにメイドを量産するのも流石にやり過ぎだと思ったことを覚えている。


 食事を終えて専属メイドが食器類を下げるために一旦退出し、一般メイドにそれを渡すとまた部屋へと戻って待機しつつレックスの様子を窺っている。

 格付けなどの序列も決まっているのかも知れないなと思いながらレックスはいつもの完全装備に身を包んだ。


「陛下、もっとゆったりしたお召し物でも如何ですか?」


 専属メイドが何故かとても残念そうな顔をしてそう提案してくるが、レックスとしては元NPCたちの情報把握がまだであり自分に対する忠誠度が分からないため完全武装は必須であると考えていた。

 裏切られて殺されてしまう可能性も捨てきれないし、この世界で死んだ場合どうなるかが不明なため、しばらくは用心に用心を重ねるつもりである。


「すまないな。今は戦時なのだ。何が起こっても即応する必要がある」

「そうですか……ですが凄いです! 陛下はいつも備えていらっしゃるのですね!」


 沈んだ表情になったのも束の間、すぐに目を輝かせて尊敬の眼差しでレックスを見つめてくる専属メイドであるが、まさか死ぬのが怖いからなどと言える訳がない。若干、彼女の言動に戸惑いながらも愛想笑いで応えていると、隣にいたルシオラも興奮した様子で一気に捲し立ててきた。


「流石は覇王陛下ですわ! 常在戦場の心を持ち、それを私共わたくしどもにも示すべく行動なされるとは! このルシオラ、感服いたしました!」


「ま、まぁな……今だけだぞ、今だけだ……」


 やたらと嬉しそうな表情で喰い気味に話す彼女の姿に、昨日の清楚で落ち着いたイメージとのギャップを感じてレックスは思わず腰が引けてしまう。だが、レックスも嫌われていないようだと言うことは分かったので、多少の気休めにはなった感じだ。


 こんなことをしている場合ではない。

 早いところ、情報を確認したいし、せねばならないと思ったレックスはルシオラを連れて玉座の間へと急いだ。

ありがとうございました。

また読みにいらしてください。

明日は12時の1回更新です。


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