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2度目の人生はゲーム世界で~NPCと共に国家ごと転移したので覇王ムーブから逃げられません~  作者: 波 七海
第二章 移ろいゆく感情編

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第1話 カラデュラ獣魔国へ

いつもお読み頂きありがとうございます!

更新が遅くなり申し訳ございません。

 ルスティライル公国の西側に存在し、周囲の人間国家にとって脅威となっている国がある。


 その名前をカラデュラ獣魔国と言った。


 獣魔王ノゲラシヴァが治める、人間レベルの高度な文明を持つ国家である。


 今ここに鬼武蔵が単身で乗り込んでいた。

 殴り込みと言っても良いかも知れない。


 ―――


「いやはや、この国は好戦的なようですね。聞いていた通りです。素晴らしい!」


 もう何度目になるかも分からない襲撃を容易く撃退し終えた鬼武蔵は、珍しくもその細い目を大きく見開いて顔を輝かせていた。とは言え、黒スーツに腰に佩いた愛刀『人間無骨』といつものスタイルを崩すことはない。



『人間ちゅうもんはスーツが正装と言っても良い。と言うかベストじゃ。もうそれだけで良き』



 創造主である『宮本夢幻斉』が言っていたことを鬼武蔵は覚えていた。

 鬼武蔵が偉大なる御方おんかたのことを思い出し、感慨に耽っていると背後からしゃがれた声が聞こえる。

 せっかくの想い出を邪魔されて少し苛立ちつつも、背後に目を向けた鬼武蔵は体中を斬り裂かれ、血塗れになっている獣魔族の姿を見た。


「なんだい。人がせっかく素晴らしい気分に浸っていたと言うのに……無粋な真似はやめてくれませんかね?」


「お前は何もんだ……人間がこんなに強い訳がねぇ……どこから来た……?」

 

 不機嫌な声が漏れそうになりながらも、感情を抑えて答えた鬼武蔵に、これまた何度目か分からない質問が飛ぶ。


「ですから先に言った通りです。私はルスティライル公国から来たと言ったでしょう」


「あの国にも確かに猛者はいたが、お前ほどじゃねぇ……」


「だからその事情を話すべく様々な街の要人を訪ねたと言うのに……。何処へ行っても貴方たちが一方的に襲ってきた」


「何だと……? と言うことは本当に王に会いに来たのか……?」


 あまりにも間抜けな質問に、鬼武蔵はやれやれとばかりに両の掌を上げて肩を竦ませる。

 鬼武蔵としてもいきなり王都の獣魔国王の前に姿を現してもよかったのだが、一応は手順を踏んで顔を立ててやろうと配慮して行動したのだ。

 少しばかり力を見せるのも必要かとも考えてはいたが、どの獣魔族も同じ行動を取ってきたので結局は片っ端からコレと言う訳だ。


「王都で貴方たちの王へ用事がありましてね。まぁここまで好戦的とは知らず。やはり事前調査の重要さを再認識させられましたよ」


「そうか……他でもこんなことが起こったのか……」


 表情は読めないが、当惑している感情だけは伝わってくる。


 獣魔族は『ティルナノグ』で言う獅子族に似ているが獣人タイプではなく、人間よりも獅子に近い。

 尾からは毒蛇が生えており、口からは魔の咆哮を吐き出す。

 ちなみに『ティルナノグ』には同様の種族はいない。


「理解したようですね。それでは私はこれで。少しばかり時間を掛けてしまいました。直接王都へ乗り込むとしましょうか」


「ちょ待っ! 王陛下をどうするつもりだ! しいす気なのか!?」


 鬼武蔵の口から出た冷たく突き放す言い方に慌てたのか、獣魔族の男は焦ったように早口で捲し立ててくる。


「やれやれ……本当にこのような簡単なことも理解できないとは……我が主に比べて……いやその考えは不敬と言うものか」


 それを聞いて更に呆れた声を漏らす鬼武蔵だが、獣魔族程度をレックスと比べてしまい右手で頭を押さえて俯いた。

 あまりにも有り得ない妄想に、思わず自己嫌悪に陥っているのだ。


「いや、すまなかった……! 俺はこう見えてこの都市の武団長なんだ。是非、俺から王陛下に取り次ぎさせてくれないか? お願いだ!」


 ようやく少しは話せる者がいた。

 その程度の認識で、鬼武蔵はその提案――懇願に乗ることに決めた。


 そして2人は王都へ向かう空の旅を楽しんだ。

 獣魔族の気持ちは分からないが。


 ―――


 あの武団長の獣魔族は、それなりの立場にいた者だったらしい。

 王都にある巨城に到着して、それほど間もないと言うのに謁見の許可が下りたのだ。


 しかも帯刀したままで構わないらしい。

 鬼武蔵は感嘆の声を漏らして、獣魔王ノゲラシヴァの評価を少しばかり引き上げる。感心したと言っても雀の涙程度のものだが。


 やがて侍従が鬼武蔵の入室を横柄な態度で許可すると、早速足を踏み入れた鬼武蔵が小声で呟きながら全体を俯瞰するように眺める。

 顔を一切動かすこともなく、謁見の間の全体像が頭の中に鮮明に入ってくる。

 キョロキョロしていては舐められるだけだ。



「こんなものかな。所詮は獣。『黄昏の王城(トワイライト・タワー)』に並び立つものを創れるはずもない」



 綺麗に切り出され滑らかに研磨された石を積み上げて造られたであろう王城。

 人間にも負けないほどの技術は持っているようだが、継ぎ目すらない壁に、天を衝かんばかりの高い天井、国家の象徴たる紋章が入った旗、敷いてあるカーペット、置かれている調度品などありとあらゆる物が『黄昏の王城(トワイライト・タワー)』には存在している。比べることが間違いと言うもの。

 比べることすら烏滸がましいと思えるレベル。


 胸を張った堂々たる態度で玉座の前まできた鬼武蔵を見て、周囲からどよめきの声が湧き起こった。

 王を前にしても鬼武蔵は平伏することはない。

 頭を下げるのはレックスのみだと決めているし、それが当然だと考えている。

 むしろ、使者たる鬼武蔵にひれ伏すのは、目の前にいる獣魔族の王の方だろう。



「……それで余に話があるそうだな。あちこちで暴れたとか」


「これはこれは獣魔族の王よ。お初にお目にかかる。私の名は鬼武蔵……ルスティライル公国から参りました」



 興味深げに鬼武蔵をねめつけるように観察する獣魔王ノゲラシヴァ。

 かなりの巨躯を持つ、まさに獅子たる威圧感。

 眼光は鋭く見る者を射竦めるほどだろう。



「それで? ルスティライルは敵だと思っていたのだがな」



 なかなかどうして大したものだと鬼武蔵は感心していた。

 流石は3ヵ国を相手取って戦争し続けているだけのことはある。



「ええ、此度、公国のトップが()()()()()()のでね。提案に参ったと言うことです」



 態度は尊大。

 口調は対等。

 周囲に並ぶ獣魔族の面々からは罵倒の声が上がっており、謁見の間は厳かな雰囲気など吹き飛んで、かなり騒々しい。



「入れ替わった? 提案だと……? 申してみよ」


「貴国は精強なれど、たかだか3ヵ国を相手に攻めきれていないようだ。そこで提案です。カージナル帝國と同盟を結びなさい」



 周囲の声などまるで聞こえないかのように、獣魔王ノゲラシヴァが問い質す。

 鬼武蔵は予定通りのことを話して聞かせる。

 ちなみにカージナル帝國はカラデュラ獣魔国の北西にある人間族の国家。

 同じく人間が統治するセル・リアン王国と覇権を争っている上に、闇精霊ダークエルフ族の国ニーベンゲルムと敵対していると言う。

 〈黄昏の帝國トワイライト・アルカディア〉との和平には消極的である。



「同盟? 貴様は何を抜かしているのだ? 人間共は全てが敵よ」


「まぁ別にその考えは否定しませんがね。ここはまずルスティライル公国に攻勢をかけるべきでしょう」



 鬼武蔵が命令口調になっているのにもかかわらず、ノゲラシヴァに動じる気配がない辺り、度量が大きいのか、人間などどうでもよいのか。

 だが獣魔国に単身で乗り込んできた目の前にいる人間だ。

 そこに侮っている気配はない。



「貴様はそこの使者ではないのか?」


「使者ではないと言っておきましょうか。ルスティライル公国のプレイヤー……猛者は我々が討ち滅ぼしました。今なら攻め刻だと思いましてね」


「ぷれいやー? あの忌々しい者共のことか……? と言うことは貴様は内通者と言う訳か?」



 獣魔王ノゲラシヴァが困惑するが顔には出さない。

 もちろん鬼武蔵の言っていることが理解できなかったからに他ならない。

 獣魔族の表情の変化など人間には分からないが。



「まぁどう捉えて頂いても構いませんが、カージナル帝國には四魔貴族しまきぞく四武天王しぶてんおうなる仰々しい名の猛者がいるとか。まずは戦力が落ちた国から滅ぼしては?」


「……だがカージナルは仇敵ぞ。そう簡単に和議がなるとは思えん」


「カージナル帝國は北のセル・リアン王国と覇権を争っています。背後を貴国とニーベンゲルムに脅かされていては本腰を入れることも叶わないでしょう」


「ふむ。しかし彼奴きゃつらが余の言葉を信じるかだろうな」


「自信がないご様子ですね。でしたら――」



 鬼武蔵が煽り気味に言いつつ、新たな提案をしようとすると、声を遮ってまたもや周囲の獣魔族の者たちが叫び始めた。

 中には大剣で斬り掛からんとしている者までいる。

 仕方なく鬼武蔵も愛刀に手を掛けた。



「騒々しいぞ! 静まらぬか!」



 獣魔王ノゲラシヴァの一喝で一気に静まり返る獣魔族。



「なかなかの統率力をお持ちのようです。それで話を戻しますが、交渉が無理そうならば私の手の者に任せても構いませんが如何か?」



 口元に薄笑いを浮かべる鬼武蔵の細い目をジッと見つめていたノゲラシヴァは、目を反らして顎に手を添えると何やら考え始めた。

 彼の頭の中では目まぐるしい打算が働いていることだろう。


 沈黙が場に降り、誰もが固唾を飲んで王の決断を待っているようで、身じろぎ1つしない。



「よかろう。貴様の話は理解した。少し検討する」



 ようやく耳に届いた王の言葉に獣魔族の家臣団からどよめきが起こった。

 普段の獣魔王ノゲラシヴァであれば、検討などせずに自分の考えのみで即決する。



「分かりました。後日、我が手の者を送ります。連絡用として置いて頂ければと存じます。それでは」



 そう言い捨ててくるりと踵を返した鬼武蔵は、口元に小さな笑みを湛えながら小声で呟く。



「さてさて。どうなることやら。どう転ぼうと我々には影響はありませんがね……」



 当然の如く、礼などしていない。


 後には困惑する獣魔族たちだけが残された。

ありがとうございました!

次回、獣魔王の決断は。

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