第44話 ガブリエル復活?
長くなったので分割しました。
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本拠地『黄昏の王城』へと帰還したレックスを待っていたのは守護者執政官のドラスティーナを含めた守護者たちであった。
玉座の前で待機していた彼らを見たレックスは、かなり驚いたものだ。
【転移門】から抜けた瞬間に全員が一斉に跪いたことにも同様に驚いたが。
取り敢えず玉座へ座ったレックスは特に取り繕うでもなく、兜だけを外すと自然に命令を下す。
「面を上げろ」
跪いたまま顔を上げた面々を代表してドラスティーナが口を開く。
「陛下……よろしいでしょうか?」
「ああ、どうした?」
「これからガブリエルを復活させるのですね?」
「そのつもりだ。ナノグ金貨を使用してな。この世界でも『ティルナノグ』の力を使うことができる。必ずやガブリエルの復活は成るだろう」
レックスとしては復活の神聖魔法、【魂魄再臨】を試してみたい気持ちもあったのだが、あれは恐らく肉体がないと効果はない。
本体が精神体である天使族のガブリエルには効果はないだろう。
「しかし陛下、ナノグ金貨は何処にあるのでしょうや? 今から調達を?」
「ちょっとドラスティーナ! 陛下が何も考えてらっしゃらない訳ないでしょ!」
ドラスティーナの問い掛けに反応したのはレックスではなく、悪魔族のメフィストであった。だが、その程度の言葉になどドラスティーナが耳を傾けるはずもなく、無言のままだ。
玉座の間にピリピリとした雰囲気が張りつめる。
「(ドラスティーナも僕のことをどう考えているやら……)」
「ソウ言えバ、虎狼族カラ取り上げタ宝物はドコにあるのデスか?」
普段はあまり主張しないオメガ零式も、困惑した様子で口を挟んできた。
表情には出ないが、声色からどんな感情かくらいは理解できる。
「ああ、お前たちは知らないのか。会ったことがあるかと思ったんだがな。まぁ心配することはない。連絡は付けてある」
それを聞いた守護者たちは様々な表情を見せている。
納得した表情をする者、ポカンとする者、理解していなさそうな者、興味がなさそうな者。
その時――玉座の間の大きな扉がゆっくりと開いた。
のそりと姿を現したのは、ルシオラと同じ漆黒なる12枚の翼を持つ魔神族の男。
彼は室内をぐるりと見渡した後、レックスに向かって歩いてゆく。
そのまま跪いている守護者たちの横を通り、更に前に進み出るとレックスの目の前で跪いた。
「(近い……まぁ僕が創ったんだけど……距離が近い……)」
「レックス様……お呼びにより馳せ参じました。このレグルスにご命令を」
レックスの顔をジッと見つめる魔神族のレグルスが神妙な表情で言った。
ちなみにレグルスとはラテン語で『小さな王』を意味する。
覇王の子供みたいなものだからこれでいいか!と名付けたのを今でも覚えている。
「よく来たな。レグルスよ。お前の力を見せてやれ。欲しいのはナノグ金貨1億枚だ」
NPC復活の対価にしては安いもの。
レックスが1人になってもお金を稼ぎ続けた甲斐があるというものだ。
レグルスは立ち上がると、レックスに背中を向けて、跪く守護者たちに向けて言い放った。
「お前ら、ちょっと退け」
一瞬でピシリと場が凍ったような空気に変わる。
「何だと貴様、我にでかい口を叩きおって……身のほどを弁えさせてやろうか」
まず最初にキレて立ち上がったのは、相変わらず流麗なドレスを纏ったドラスティーナ。今日は鮮血の如き真紅の色で非常に似合っており美しい。が、この場を鮮血で染めないで頂きたいところだ。
「おい、魔神ヤローが。急に現れて急に何言ってンだ。テメーはよ。ブチ殺がしてやろうか」
次はジークフリートが仮面を右手で押さえながらゆっくりと立ち上がる。
表情は見えないが、口調が荒々しく、キレ散らかしているのが丸分かりだ。
と言うか感情を抑える気さえないようだ。
「ちょいとあんさん、何偉そうな口利いてんねんか。何があんたを荒ぶらせとるんや?」
レジーナは怒りよりも呆れが先に来ている様子。
腰に手を当てて疲れたような顔をしている。
「あんた! 陛下をその御名で呼ぶなんて有り得ないと思うんだけど!」
今度はメフィストだ。
彼女は結構怒りっぽい方だと、これまでの付き合いで理解した。
次々と上がる批判と罵詈雑言の声。
不評だ。
全く持って不評である。
全く創ったのは一体誰だ!
俺だ!
レックスは心の中でセルフツッコミをして現実逃避していた。
「俺はレックス様に創られたんだが? 最後まで残られた絶対なる覇王陛下にな。理解できりゅ?」
凄まじいまでの煽りように守護者たちが沈黙する。
それを見たレグルスは更に調子に乗って畳み掛けた。
「効いてて草」
思わずレックスは頭を抱えた。
「(ヤバい……俺、こんな設定にしたっけ? これどこのネット民だよ マジ草生えるんだが)」
レックスの様子を見たのだろう。
普段は大人の会話に口を挟まない者の声が耳に届く。
ルリとルラだ。
「ちょっとー。いいからお金出しなよー」
「そ、そうですよ~。それにいい大人が何言ってるんですか~? ちょっと何言ってるか分かんない」
まさか子供に正論を突きつけられるとは思わなかった。
彼女たちの言葉は確実にレックスの心を抉る。
「レガリア! そんなことはどうでもいい! お前は守護者の1人な? もっと口の利き方に気を付けろよ? な? 俺が創ったとか関係なしに仲良くやってくれ。とにかくいいから金貨出せホラ!」
流石に子供にまで散々に言われてしまっては創造主たるレックスの沽券に関わる。それにNPCの性格が創造主のそれに影響されているのなら、尚更自己嫌悪ものだ。
レックスの性根が疑われる(自分に)。
「はッ! レガリアにお任せください……ナノグ金貨1億枚ですね」
急にキリッとした態度になったレガリアが口を大きく開ける。
「【出庫】」
レガリアには宝物庫の管理を任せており、職業の【金庫番Ⅹ】を取っている。
どうやって管理しているかと言うと――
「げろげろげろげろげろげろげろげろげろ」
レガリアの大口からまるで濁流のようにナノグ金貨が流れ落ちてゆく。
黄金色に輝く金貨が出ているからまだ良いものの、見た目は完全にゲロである。
見ていて気持ちの良いものではない。
何度でも言うが金貨のお陰で嫌悪感が和らいでいるようなものだ。
吐き出された金貨は山となり崩れ去り、玉座の間を埋め尽くす。
流石の守護者たちも引いているようで、金貨に触りたくない感じでとにかく逃げ回っていた。
「ふう……1億枚、ご確認ください」
「いや確認できねぇよ!?」
しれっと言われてしまったため、レックスは思わず大声で突っ込みを入れてしまった。
完全に無意識の行動だ。
心なしか守護者たちの視線が集中している気がする。
「ゴ、ゴホン……それではガブリエルの復活の儀を始めるぞ」
いつも以上に威厳を込めて言い放つと、コンソールを開き、更にNPCのページを開く。
NPC一覧が表示されているが、『ガブリエル』の名前だけ白くなっている。
名前がちゃんとあることに安堵したレックスは『ガブリエル』の項目を選択する。
『『ガブリエル』を復活させるには金貨1億枚が必要です →YES NO』
当然YESを選択するレックス。
するとナノグ金貨が更なる煌めきを放ち周囲は眩い光に包まれた。
とてつもない光量に目が眩んでしまいそうだ。
目を固く閉じて待つことしばし。
やがて光が治まると五芒星の魔法陣が床に描写され蒼銀の光を放った。
そして浮かび上がる1つの影。
「おっ! やったでぇ!」
レジーナはそれを見ると満面の笑みを浮かべて歓喜の声を上げた。
影は12枚の翼を持ち、頭の上には天使の輪が乗っている。
間違いない。
成功を確信するレックス。
守護者たちも初めて目にする光景にただただ見惚れている。
「やったぞ! 成功だ! 復活したぞ!」
影がガブリエルの姿に変わりゆく
そして完全な天使の姿で顕現した。
だが――
ガブリエルは一糸まとわぬ、生まれたままの姿。
問題は彼女がナイスバディだと言うこと。
レックスは思わず目を背けようとするが、紳士ならやるべきことがあるだろうと思いついて羽織っていたマントを掛けようとした。
「レックス様!!」
そんなことはお構いなしにレックスの胸に飛び込んでくるガブリエル。
裸のままでレックスの胸に顔を埋めると、上目遣いでその目を見つめながら大声で叫んだ。
「ありがとうございます! レックス様! あたしはレックス様が好き! 邪悪に堕ちたあたしを滅ぼしてくれてありがとうございます!」
その言葉に少し冷静になったレックスはマントで、ガブリエルの体を包み込んだ。豊かな胸が密着した状態なので、鼓動が伝わっていないか心配だが。
「ガブリエル、『堕天』の時の記憶があるんだな?」
「はい! あたしはあの時の気持ちも、レックス様の想いも覚えています!」
レックスは戦いのことを思い出して、あの日の誓いを再度、胸に強く焼き付ける。そしてガブリエルを強く抱きしめた。
「よく復活してくれた。すまなかったな……」
至近距離でお互いの視線が絡み合った。
ガブリエルの表情には陰などなく、あるのはいつもの満面の笑みのみ。
「そんな! あれであたしは何かに気が付いたような気がしたんです。それにレックス様が好きなことも」
魔神となっても残っていた想いがある。
やはり皆それぞれが個性を持ち、独自の考えを持ち、様々な感情を抱いていると言うこと。
レジーナやメフィストもガブリエルに抱きついてきた。
ドラスティーナはやれやれと言ったように微笑んで、その様子を見守っているし、ルリとルラはいつも通りの子供らしい笑顔だ。
いつも冷めた感じのインサニアも何処か表情は柔らかい。
戦闘執事のジルベルトも穏やかな温かい目でレックスたちを見ている。
ジークフリートやオメガ零式は分からないが。
彼らの今まで見せたことのない表情にレックスは感動を隠し切れない。
レックスは考える。
もう少し素直になろう。
忠誠心の問題もあるし急に覇王ムーブは止められないかも知れないが、愛しき部下たちにもっと歩み寄ろう。
「俺から1つめいれ……頼みがある……今日から俺のことはレックスと呼ぶように! 俺はお前たちと共にある! これは誓いだ!」
その大音声にレックスの覚悟を見たのか、守護者たちは反論もせずに畏まると一斉に跪いて頭を下げたのであった。
この日、〈黄昏の帝國〉の仲間たちの距離が1歩近づいた。
ありがとうございました!
次回、ルシオラと鬼武蔵が動き出す。




