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2度目の人生はゲーム世界で~NPCと共に国家ごと転移したので覇王ムーブから逃げられません~  作者: 波 七海
第一章 大混乱編

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第43話 報復完了

いつもお読み頂きありがとうございます!

 ヘルグレン大公――マレーナ・ルスティ・ヘルグレンは、ゆっくりと近づいて来る漆黒の騎士から発せられる覇気に当てられて動けずにいた。


 ルスティライルの女傑と呼ばれた者が何と言う体たらくかと自分でも驚きを隠せない。


 まさかこんなことになるなんて思ってもみなかった。


 ゼパルから天使族を『堕天フォール・ダウン』させたことを聞いた時は、公国にとって良い戦力になるとほくそ笑んだものだ。しかも情報を引き出すと、ちまたで噂になっている〈黄昏の帝國トワイライト・アルカディア〉の所謂、『えぬぴーしー』らしい。


 名前はガブリエルと言い、天使族だったそうだ。

 ちなみにゼパルもそうらしいが、いまいち理解できていないしする必要もないように思った。


 ショウマは彼の国のことを知っていたようで、色々な悪評を教えてくれた。

 これでガブリエルを各地で暴れさせて〈黄昏の帝國トワイライト・アルカディア〉の仕業に見せかけることができれば、ルスティライル公国が盟主となって包囲網を作り出すのも容易に思われた。プレイヤー級の猛者が3人もいる上、大公たる私が国を率いている限り不安はないと考えていた。


 ショウマも勝てると断言していたのだ。

 彼からは私の力も聞き出すことができた。

 どうやら世界には位階レベル職業クラス能力ファクタス技能スキルなどと言う特殊な概念があるらしい。


 ショウマに調べさせた結果、私は【騎士Ⅹ】、【聖騎士Ⅹ】、【王者Ⅷ】、【弁論者Ⅹ】、【軍師Ⅶ】と言う職業クラスを修めており、強さを表すと言う位階レベルは45。

 試しに極秘任務で他国の戦力を調査したが、軒並み位階が低い者ばかりであった。


 ショウマは位階レベル100の【死霊騎士Ⅹ】が基本職業で、その他にも様々な種類のものを熟練度デグリーMAXまで修得していると言う。

 一方のゼパルは位階レベル90で【魔神Ⅹ】を始めとした漆黒力と言う力の扱いに長けた職業を取っているらしかった。

 職業と言うものはその数があまりにも多過ぎて、ショウマも把握しきれていないようであった。そもそも私はそのような概念があることすら知らなかったのだから、聞かされていたとしても修得できていたかも怪しい。


 ショウマが言うには、この『タカマガハラ』に暮らす者たちは、上手く職業クラスを選択していけないようでもったいないと言っていたことを覚えている。


 プレイヤーであれば正しく才能を伸ばして行けるかも知れないと聞いて、兵士たちの『育成』を始めた結果、兵士の位階レベルは上がった。もちろん私には位階など分からないが、確かに強くなっていることと風格や雰囲気を持つ者が増えたのだ。

 それに能力ファクタス技能スキルも使えるようになった者も出てきた。


 私の内に野心が顔を覗かせ始めた。

 いや、元からそうだった。

 周辺国家で共有されている〈黄昏の帝國トワイライト・アルカディア〉の情報を得たことで周辺国家よりも優位な立場に立てた。彼の国の脅威を更に強く認識させて我がルスティライル公国が盟主となり諸国連合を作り影響力を強め、最終的には北大陸を手中に収める。


 壮大な計画だけれど、私にできないことではないと考えていた。


 だが、今まさにそれも終わろうとしている。

 私の運命が決まろうとしている。

 死の足音が近づいてきている。

 既に風前の灯だ。



「何を恐れている? 貴様は天下の大公なのだろう? もっと堂々としていた方が良いのではないか?」



 気が付くと体が震えているのがはっきりと理解できた。

 いや、させられてしまった。

 位階レベル

 それはあくまで指標の1つであって実際に戦ってみなければ勝負の行方は分からない。


 そう本気で思っていた。


 だが違う。

 甘かった。

 いざ、対峙してみると良く分かる。

 格の違いを強烈なまでに頭の中に叩き込まれ、精神に刻み込まれる。

 圧倒的な位階の差、そして叩きつけられる圧倒的なまでの覇気。

 奴が部屋に侵入してきた時は全く感じなかったが、今ではそれまでが嘘だったかのように覇気を感じて恐怖し逃げ出したい気持ちになってしまった。

 体は硬直して動かず、鼓動が早鐘をくようになり、冷や汗が止まらない。



「あっあっ……」



 無意識の内に声から震え声が漏れる。


「抵抗しないのか? 強者の自負があったのだろう? ここが貴様の正念場だぞ?」


 漆黒の騎士の言葉には何処か煽りを含んでいるように感じられる。

 少しだけ、怒りにも似た感情が芽生えた気がした。



「お、おのれ……自負だって……!? 驕るな化物が……!」



 震えが言葉に乗り、自分でも虚勢を張っているだけなのが理解できる。


「化物か……失礼な奴だ……いや、そう言われると貴様には顔を見せていなかったな……俺は人間だぞ? 後は……そうだな。最後に名も教えておこうか」


 顔を見せようと兜に手を掛ける漆黒の騎士。



 しかし――



「陛下! 下賤の者にそのご尊顔をお見せになる必要はないかと!」


 金色の瞳を持つ魔神ルシオラが慌てたように叫ぶが、全く取り合おうとはしない。

 あっさりと兜を取ると、兜と同様の漆黒の黒髪。

 上げた前髪に銀色の髪がメッシュのように混じっている精悍な顔つきをした優男と言った印象だ。


「ふう……では自己紹介といこう。俺の名はレックス。レックス・オボロ・マグナだ。心にしっかりと刻み付けておけ」



 これが先程から私を追い詰めていた者――人間だったのか!



「うあああああああああああ!!」


 気が付くと私は叫んでいた。

 人間だと分かって安堵したせいなのか、それとも湧きあがる恐怖を必死で抑えるべく自然と出たのかは知らないが。


 常人では扱えない超大剣――聖剣『キースレッド』を抜き放ち、目の前のマグナと言う男に振り下ろす。

 鈍く紅に輝く聖剣は、攻撃を避けようともしないマグナに見事に命中し、その右肩から左脇腹へと抜ける。



 はずだった。



「え? は……?」


 間の抜けた声が漏れるが、これは私の声か? 

 斬り裂くはずの一撃はいとも簡単に、鎧に跳ね返されていた。



「なんだ……。力を感じる剣だと思ったんだがそんなものか。となると物理攻撃無効の判定か……? 位階の差か、攻撃力が低すぎるのか……判断できんな」



 全く動じなていない……。


 複雑な感情が胸に次々と去来するが――私の至った結論は――


 私など眼中にないと言うことか!

 急激に湧き出る怒りで体が動く!

 では喰らうがいい私の『剛技ごうぎ』を!



「はああああ! 『剛技』! 【覇王豪撃ダイナスト・ガッシュ】!!」



 超大剣が私の力を吸って更に巨大化し、紅が更なる真紅へと染まる。

 赤なる光が凶刃となってマグナへと迫ると、その強烈な豪打が体に直撃する。



 刹那――



「ふむ。こんなものか。しかし『ごうぎ』? 『豪技』……『剛技』か? 属性は火……でもないか。やはり異世界のことはまだまだ分からないな。早急に調査しないとな」



 完璧な一撃だったはずだ。

 それなのにどうだ……。

 目の前には何事もなかったかのようにマグナが平然と佇んでいた。



「な……あ……」


「喜べ。今のは少しダメージがあったみたいだぞ? 興味深いことを教えてくれた。同胞への憐れみもあるしこの国の未来は任せておけ」


「ああああああああああ! 何なの!? そ・の・技の名前はああああ!! よりにもよって()()だとおおおお!? 畏れ多いにもほどがある!!」


 一瞬だけ刻が止まったような気がした。


「お、落ち着くのだ、ルシオラ。キャラ崩壊してるぞ……」


 発狂したかのように叫び散らすルシオラなる魔神とそれを宥めるマグナ。

 だがそんなことはもうどうでもいいことだ。



 絶望――



 プレイヤーとはこれほどの……。


「まぁご苦労様と言っておきましょうかね。覇王陛下が仰られた通りこのルスティライル公国の行く末を心配する必要はありません。貴女は陛下の国〈黄昏の帝國トワイライト・アルカディア〉へ来て頂くとしましょう」


 細い切れ長の目を持つ黒髪の男。

 少し変わった感じのスーツを着ており体にフィットしてその引き締まった体が見て取れる。


 茫然とする私にそいつは何か語り掛けてくるが、耳に入って来ない。



「おやおや……同じ人間でも精神性に違いがあるんですかね。貴女の代わりは用意してあります。ご安心を……聞こえていませんか」



 何やら不気味なぬらりとした生き物らしき物体が歩いて来る。

 それが私に触れると呆気に取られてポカンと開けていた口から侵入してきた。

 喉の中にどんどん入ってきて息苦しい。

 何度も嘔吐えづくが吐き出すことができない。



 なんだこれは――



 完全に私の中に入ってしまった後には、体中に何かが広がっていく感覚が残る。

 まるで体内を侵食されてしまったかのよう。

 ああ、意識が……。

 消えて……ゆく……。




 ―――

 ――

 ―




 レックスの目の前には、見た目が全く同じの人物が2人存在していた。

 1人は聡明な顔付きの精悍な女性――ヘルグレン大公。

 もう1人は倒れ伏し、白目を剥いて口からは泡を吐き出して気絶している。



「お、出来たか。では後は任せたぞ。鬼武蔵。この国はたった今、我が国の友好国となった。友好国となれば親密な関係を築くのは当然だよなぁ……」


「御意にございます」


 レックスが何処か感慨深げに話すのを聞いて、鬼武蔵の表情がハッとしたものへと変わる。


 だがそれも一瞬のこと。

 すぐに元のにこやかな笑みに戻ると恭しく頭を下げた。



「ほなら、隣のカラデュラ獣魔国と聖クロサンドラ皇国はどうしはるんですの?」



 【転移門ゲート】を開こうとしていたレックスだったが、レジーナが思い出したかのように横から口を挟んできたので魔法を取り止めた。

 確かに周辺各国との関係も考える必要があるだろう。

 ルシオラやレジーナたちが聞き込みで得た情報だと言う話だが……。

 レックスとしてはいつも考えが及ばない自分に辟易してしまう。

 全く持って至らない点ばかりの覇王だと反省ばかりで成長していないのは大きな問題だ。



 それは十分に理解しているのだが――



「この国はカラデュラ獣魔国じゅうまこくと争っていると言う話だったな。であれば助けねばならんな。何せ()()()()()()だからな」


 虎狼族のウラーヌス帝國はともかく、ルスティライル公国は完全な親〈黄昏の帝國トワイライト・アルカディア〉国となるのだ。

 レックスとしては一気に事が解決して喜ばしいところであった。

 情けなさで沈んでいたレックスであったが、この点は嬉しさで思わず声が上ずってしまう。


 だがガブリエルのことに関しては不安感しかない。


 今回の件はルスティライル公国が問答無用で大切なガブリエルに襲い掛かって穢した上、弁解することもなく開き直ってレックスたちを攻撃してきたのが悪いのである。

 レックスは自分たちに非はないと考えていた。

 仲間たちの残した者たちに手を出されれば決して容赦するつもりはない。



「後はガブリエルだけだ。大丈夫だ……元気を出せ……」



 レックスは黙考していたのを中断して、たった1つの懸念を口にした。

 弱音を吐いては駄目だと思いながらも。

 『俺は〈黄昏の帝國トワイライト・アルカディア〉の全てを護る覇王なのだ』と言う自負がレックスを支えている。


 一方でルシオラと鬼武蔵はそんなレックスを心配げに見守っていた。


「陛下はやっぱり……」

「でしょうね。慈悲深き御方おんかたです。心配でさぞお心を痛めていらっしゃるのでしょう」


 聞こえないように囁き合っているが、レックスには聞こえていた。

 部下に心配されていては先が思いやられる。

 そう思いながらも、今度こそ【転移門ゲート】を開いて闇へ消えようとするレックス。


 だが、ふと立ち止まると言った。

 せっかく取った拠点について心配になったからだ。


「では俺は戻る。先程も言った通り、この国は鬼武蔵に任せる。後は獣魔国だが……お前たちなら()()()()()()と思うが……(頼むから必ず護り通してくれよ。負けはないと思うけど拠点に被害は出したくないからね)」



 その瞬間――ルシオラと鬼武蔵の明晰な頭脳に烈光が走った。



 ゆっくりとした足取りで闇へと消えていくレックス。


「鬼武蔵……これは……」

「ええ。分かっていますとも」


 レックスの知らないところで、ルシオラと鬼武蔵は目を合わせて頷き合った。

ありがとうございました!

次回、ガブリエルは……。そしてルシオラと鬼武蔵が動き出す。

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