第42話 潜入!ルスティライル公国
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激闘は終わったが、やるべきことはまだ残っている。
王城の城壁で衛兵たちが戦闘を目撃していたが、レックスは特段何もする気はなかった。
問題はプレイヤーをこき使っていた大公なのだから。
それにもし衛兵や民が彼らの存在を認知していても然したる問題ではない。
それに激しい戦いだったせい……と言うかお陰と言うか、国の兵士が外に出てくることがなかったので、レックスたちはすぐに王城から飛び去った。
――真夜中
【転移門】を使って呼び出した守護者たちと共に王城へと空から近づく。
レックスに付き従うのはルシオラ、鬼武蔵、レジーナ、ルリ、ルラだけだ。
一応、無用な衝突を避けるために【不可視】の魔法を掛けてある。
まずはルリとルラを潜入させ大公マレーナ・ルスティ・ヘルグレンの周辺を調べてもらった。流石にプレイヤー大河内翔真が滅ぼされたことは伝わっていたらしく、かなり取り乱していた様子だったと言う話だ。
どうやら不可視の状態を見破れる者はいないらしく潜入は楽なもの。
見張りたちは全て意識だけ刈り取って、命までは取らなかった。
ガブリエルの件は一般の人間には関わりのないことだからだ。
何の障害もなく、ヘルグレン大公の寝所へと入り込んだ漆黒鎧の完全防備状態のレックスたちだったが――
「やはり来ましたか! ショウマの次はこの国を滅ぼさんとする訳かしら?」
部屋に入るなり、良く通る大音声が響き渡った。
完全武装で待ち構えていたのは1人の女傑。
予想していたようだが、それならそれで話は速い。
それに【不可視】を見抜けるとは大したものだ。
職業の能力によるものか、はたまた装備品によるものか……。
目の前にいる女が大公だと当たりを付けたレックスは、この国のトップたる女大公へと冷静に語り掛ける。
「いや滅ぼすつもりはない。だが、私の部下を傷つけた代償は大きい。それを受け取っておこうと思ってな」
「部下だって……? ゼパルが寝返らせた天使のことかな?」
「その通りだとも。貴様にも大切な仲間がいるだろう?」
「ふふふ……ショウマを倒したと聞いて、どんな者が来るかと思えば……とんだ甘ちゃんだったようね」
「そうか……貴様にはあいつらさえもただの駒に過ぎなかったと言う訳だな。よーく理解したよ」
レックスは失望を禁じ得なかった。
あのプレイヤー大河内翔真は死霊族。
きっとこの異世界へと飛ばされて苦労もしてきたことだろう。
ゼパルと2人きりで、同胞たる人間とも碌に触れあえなかったのではないか?
ガブリエルを『堕天』させたことに怒りはある。
だが思うのだ。
全ての元凶はこの女ではないか?と。
「なるほどなるほど……貴方たちが〈黄昏の帝國〉の者か。それでそこの黒い奴が王なのかしら?」
「く、黒――」
「私が! 私こそが覇王だ」
激昂し掛けたルシオラの言葉を遮ってレックスは堂々と宣言した。
だがヘルグレン大公も中々の胆力をしているようで、敵しかいない上に誰もやってこない状況で気丈に反論してくる。
「覇王ですって? ふん……結局は和平交渉など偽りだったと言うことね。そうやって油断させておいて周辺国家を滅ぼす気だったのでしょう?」
「本当に何も見えていないようで残念だよ。私がそこらの国を滅ぼそうとすれば、ほんの少しの力で事足りるのだ」
レックスの気持ちは既に決まっている。
だからこそ質問には正直に答えてやろうと考えて話していた。
「ふぅん……ならば何故、周囲を屈服させないのかしらね? 1番手っ取り速い方法ではないの?」
「やはり貴様は大公たる器ではないようだ。周囲を征服することしか考えが及ばないのか? 何故武力を用いないかだと? それは我が帝國が『全族協和・八紘一宇』を是としているからだ!」
仲間たちと作った掟。
『ティルナノグ』では誤解されがちであったが、〈黄昏の帝國〉は基本的に向こうから敵対してこない限り、戦争を起こさないクランであった。
ただし喧嘩を売られれば必ず応じるのもレックスたちが決めたルール。
プレイヤーギルドは基本的に好戦的なので、頻繁に戦争になることが多かった。
しかもかなりの強さを誇っていただけに始末が悪い。
そのせいもあって今の〈黄昏の帝國〉の悪いイメージが定着してしまった可能性も大きいのかも知れない。
世界には非戦闘の自律型一般NPCも大量に存在しており、現在〈黄昏の帝國〉が支配しているサイクスやヴェローナ、ドリスの街は多種族が平和的に暮らしている。
拠点を発展させると一般NPCも増えていく仕組みとなっており、繁栄と平和を実現することができれば、資金、資源、人口、NPC人材などが増加するのだ。
ギルドやクランの方針にもよるが、文明度を発展させて様々な社会形態を選択することができ、その形態によって恩恵や特典が異なってくる。
文明規模によって主義や政治形態を設定することが可能で、王政、帝政、中央集権、帝国主義、社会主義、民主主義などなんでもござれである。
ちなみに〈黄昏の帝國〉は立憲君主制を採用しており、レックスを盟主とした民主主義形態を取っていた。
別に内閣を組織する訳ではないが、支配している街には規模に応じて村長、町長、市長、領主などが存在し、時にはNPCを仲間にできる『抜擢』と言うシステムもあった。
拠点を取る際にも選択肢が用意されており、攻め落として奪ったり、平和的に交易したり、保護国にしたり、植民地化したりとプレイヤーの意志次第で何でもできる。もちろん、どの選択肢にも利点と欠点があるのだが。
「……? 何? それは? 全ての種族が協力する?と言うことなのかしら? そのようなことは夢物語に過ぎないと思うのだけれど?」
「実際、我が国では実現している。よかったら貴様もご招待して差し上げようか? そうだな……天使――ガブリエルの件を教えてもらえればな」
戸惑いの声を上げるヘルグレン大公であったが彼女の想像の埒外であったようだ。少し口を吊り上げてレックスを憐れんだような目で見ている。
「貴方はお馬鹿? 誰か好き好んで異形が蔓延る地へ行かねばならないと言うの? それに天使族ですって? 貴方の国の種族だって他国を見下しているのではないの? 所詮は貴女の忠実な単なる駒の1つなのでしょうし」
煽りを含んだ声でレックスを挑発するヘルグレン大公が口角を上げて嘲笑う。
「……! 黙れ貴様! 今すぐ最大限の苦痛を与えて殺してやろうか!! 駒だと!? 駒と言ったのか貴様ッ!!」
それを聞いたレックスは感情を爆発させて人が変わったかのように激昂し、早口で捲し立てた。フルフェイスの兜のせいで見えないが、その表情は怒りに歪み、憤怒の色に染まっているほどだ。
「陛下! どうかお気をお沈め下さい……私共は誰1人として陛下がそのようなお考えだとは思ってはおりません!」
慌ててルシオラが止めに入り、怒りのあまり歩を進めようとしていたレックスを思いとどまらせる。
彼女の悲しみに満ちた懇願は、レックスの頭を冷やすのには十分であった。
我に返ったレックスの胸に残ったもの――それは呆れのみ。
「……やれやれ。何事も決めつけは良くないと言うのに。国には国の事情がある。私が聞きたかったのは何故、攻撃もしていないガブリエルをわざわざ攻撃したのかだったんだが……どうやら碌な理由もないようだ。お話もここまでだな」
「お待ちなさい。ここで私を殺せば周辺国がすぐに動くわよ? 貴方たちを見張っている者がどれだけいると思っているのかしら。楽しみだわぁ……貴方とその国の化けの皮が剥がれるのがね」
どうやらこの女は何か重大な勘違いをしているようだ。
交渉術を駆使して事態をどうにか打開しようとしているようだが、ここまで来るとレックスとしても呆れを通り越して笑えてくる。
「貴様は馬鹿か?」
「は……?」
ヘルグレン大公の口から間の抜けた声が漏れた。
「貴様は馬鹿か?と言ったのだ。さっきの言葉を聞いていなかったのか? ほんの少しの力で事足りるとな。我が国が動けば瞬く間に勢力図は塗り替えられる。これは確定事項だ」
レックスが突きつけた現実が受け入れられないのか、ヘルグレン大公も反論するのを止めない。ただ、気丈に振る舞ってはいるものの、その声は上ずっている。
「そんな馬鹿なことがあると本気で思っているのかしら? だとしたら――」
「黙りなさい。貴女、理解していて? 頼みにしていたプレイヤーはもういないの。その見張りとやらもね。それに私たちは貴女が死ぬことを前提に動いているのが分かっていないようね」
ヘルグレン大公の言葉を有無を言わせぬ強い口調で遮ったのは――ルシオラ。
「ど、どう言うこと……」
ルシオラの黄金に輝く瞳に射すくめられて、初めてヘルグレン大公が怯んだ。
「残念だよ。私は和平の道を探るつもりだった。なるべくならな。だが貴様はガブリエルを穢した。私の大切な部下をな。我が国は売られた喧嘩は必ず買うと決まっているのだよ」
大きなため息を吐いたレックスは背中の大剣を淀みのない所作で抜き放つと、ヘルグレン大公に向かってゆっくりと歩き始める。
淡々と絶望の言葉を口にしながら。
「ああ……これだけは言っておこうか。貴様がこの国の未来を気にする必要はない。私に任せて死――いや我が国に連れて行ってガブリエルの味わった苦痛を味わわせてあげようじゃないか」
ありがとうございました!
次回、ルスティライル公国の行く末は……。




