第40話 PvP ①
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ガブリエルを自らの手に掛けたレックス。
空中ではルシオラやレジーナ、ジークフリート、メフィストがプレイヤーと戦っている。
見た限りでは言いつけた通りに、付かず離れずの状態で戦り合っていたようだ。
取り敢えずはホッと胸を撫で下ろすレックス。
そして彼らのところまでゆっくりと歩いて行き大音声で告げる。
「プレイヤー大河内翔真よ!! ガブリエルは滅ぼした! 次はお前だ、一騎討ちを望む!!」
それを聞いたからか、ガブリエルとの戦闘の気配を感じ取ったのか、守護者たちはすぐにレックスの元へと降り立った。相変わらずメフィストはダメージを負っているようだが、他の者たちにそのような様子はない。
少し離れた場所に降りたプレイヤー大河内翔真も、あまり傷付いていないようだ。
と言うことは命令通りに牽制に徹したか――
「貴様は自分の仲間を殺しておいて心が痛まないのか? それともNPCだから関係ないと思っているのか?」
「決してそのようなことはない。お前のせいで大切な者を殺さざるを得なくなった俺の気持ちなど分からんだろ?」
「どの口がッ……よくもゼパルを殺したなぁぁぁ!! 殺してくれたなぁぁぁ!!」
「最初に手を出したお前らが悪いんだろ? 何故、ガブリエルを攻撃した? お前がゼパルを殺したようなものだぞ?」
「煩い煩い煩いッ!! 分かったような口を利くなッ!! 俺たちはこの国に助けられたんだッ!! その国を滅ぼそうとしたんだからお前らが悪いんだぞッ!!」
まるで子供が言うような安直な物言いだ。
確かに恩に報いようとするのは日本人として自然な行為だが――
「(何か違和感があるんだよな。こいつからは……)」
沈黙したレックスに苛立ったようでプレイヤーはどんどんと畳み掛けてくる。
罵詈雑言は酷くなる一方だ。
「大体、何が一騎討ちだッ! 俺とゼパルを一緒に戦わせなかったのは貴様だろッ! このアホがぁ!! 死ねぇ! 死ねぇぇぇ!!」
「一騎討ちが嫌なら、俺たち全員と戦るか? 不利になるのはお前だぞ?」
「くそッ! この卑怯者がぁッ!!」
「(何なんだこいつは……話が通じん。恐らくこれが違和感の正体なんだろうけど)」
「陛下、やはりお独りで戦うのは危険です。我々にお任せ下さい」
ルシオラが考え直すように懇願してくるが、そう言う訳にもいかないだろう。
仲間によって産み落とされたガブリエルが穢されたのだ。
それに相手は日本人。
となれば、如何に憎かろうがこの手で葬ってやりたい気持ちもある。
レックスには負ける気も死ぬ気も全くない。
戦って必ず勝てると断言できない以上、死の恐怖が付いて回る。
それでも誓ったのだ。
ガブリエルに。
かつての仲間たちに顔向けできないようなことはしたくない。
「せやで陛下……プレイヤーでもうちらが総出でかかれば何とかなると思うねん」
「そうですよ! あたしは戦いたいです!」
レジーナもメフィストもルシオラに賛成なようだ。
これだけは絶対に譲らないと言う気迫を感じる。
「ね! そうでしょ。ちょっと何とかいいなさいよ、ジーク!」
「……オレぁそうは思わないな。一対一で戦ってもらえませんかね?」
メフィストの怒鳴るような問い掛けにジークフリートがぶっきらぼうに答えた。
意外な答えが返ってきたせいでメフィストが目を見開いて、信じられないと言った表情になるが、それも一瞬のこと。
眉間に皺を寄せて威圧するような声を漏らす。
「は? 舐めてんの?」
「それはどう言う意味かしら? ジークフリート」
ルシオラの語気が強くなり声色には何処か怒りが混じっているように感じられる。
「何考えとんのや、ジークフリート……あんさんは陛下がお隠れになってもてもいいんゆーんか?」
「違ぇよ……陛下の力を疑っていないからこそ、示して頂きたいのさ。オレはよ。国の覇王としての純粋な力を」
ほう。敵意にも似た感情を感じるな。
これももしかしたら……創造主の意志か?
NPC時代の記憶の問題か?
それともゼパルとガブリエルに思ったよりも苦戦したせいなのか?
レックスが黙考する中、色々な考えが頭を過る。
ジークフリートはレックスに真っ向から向かい合っており、得も知れぬ圧力を感じる。
表情が読めないだけに尚更である。
全く持って見れば見るほど不気味な仮面だ。
黙り込むレックスを見て不安になったのか、ルシオラが頭を下げて、ジークフリートをキッと睨みつけると憤怒に声を震わせる。
「申し訳ございません、陛下! ジークフリート……私の命令が聞けないと言うの? しかも覇王陛下の手を煩わせようとは……これは謀叛の疑いありと見る必要がありそうね……貴様を滅ぼすわ! レジーナ! メフィスト!」
「了解や!」
「死ね! ジークフリート!」
完全に戦闘態勢に入った3人から凄まじいまでの圧力を掛けられながら、平然と佇むジークフリート。
ただいつでも攻撃できるように大剣に手を掛けている。
「何をごちゃごちゃ言っているッ! 俺を無視するなあッ!!」
割り込んできたのはプレイヤー。
痺れを切らしたのだろうが、こんなにぐだぐだやっていれば当然だろう。
レックスは目の前に立ち塞がっていたレジーナの肩に左手を置いて優しく退かすと、プレイヤ―の元へと歩み寄る。
「陛下!?」
背後から驚愕の声が聞こえてくるが、ジークフリートに言われるまでもなくレックスの気持ちは決まっている。
「待たせたな。さぁ戦ろうか。一騎討ちだ!!」
レックスはそう言い放つと【高速飛翔】の魔法を唱えて一気に距離を詰める。
向こうは二刀流。
手数では負けているが、気持ちで負ける気はない。
「陛下! ダメージがある状態では危険ですッ!」
背後からルシオラの心配する声が聞こえてくるが今は無視だ。
申し訳ないとは思うレックスでも、今回ばかりは退く訳にはいかないのだ。
これは誓いなのだから。
レックスはぐっと神器を持つ手に力を込めてプレイヤ―を見据える。
瞬時に相見えたレックスが上段から最大出力の攻撃を見舞うが、流石にそう都合良くいくはずがない。
両手の大剣を交差させて攻撃を防ぐと反撃に転じてくる。
剣の扱いが上手い――しかし――
それほど大きなプレイヤーではないし膂力もそれなりだが、攻撃速度はかなりのものだ。
レックスの斬撃にも難なく付いて来ているように見える。
澄んだ音が鳴り響いて、澄んだ空に吸い込まれていく。
「(見た感じは速攻系……【忍者Ⅹ】が基本か……? いや、攻撃が軽すぎる)」
両手同時に交差するように攻撃を繰り出すプレイヤー。
だがレックスは既に見切り始めており半歩移動して、あっさり躱すともう1本の大剣を下段から全力で払い上げた。
大きな衝撃を受けてプレイヤーの体が大きく仰け反る。
「クソがぁーーーッ!!」
「(やはり軽い。攻撃だけでなくこの体でこの軽さ……もしかして……)」
追撃を放ちながらもレックスはとにかく戦いながら考え続ける。
神器の一撃がプレイヤーの金色の鎧に傷を付けるが、ここでもやはり違和感。
となれば――
「【大爆轟】」
後方に跳んだレックスが即座に闇魔法を放つ。
音速すら超える速度でプレイヤーに迫る大火球。
大爆発と呼ぶのもヌルいほどの爆発が起こり衝撃波の影響が周囲にも及ぶ。
命中していれば爆圧と衝撃波で粉微塵になっているはず。
やがて風が土煙を吹き流して視界が晴れると、レックスは全てを理解した。
そこには悠然と佇むプレイヤー。
こいつは闇属性に完全耐性がある。
もしくは闇魔法を防ぐ手段を持っている。
だが闇魔法はかなり強力な魔法であり、ほとんどの種族にダメージを与えることが可能だ。
となれば考えられることは限られてくる。
最初は【魔人Ⅹ】でも取っているのかとも考えたが、この職業でも完全に闇魔法を防ぐことは不可能。
そう考えると職業でなく種族特性によって防いだ線が濃厚だ。
つまり――人外。
その中で強力な闇魔法を防げるとしたら漆黒力を持つ神族、魔神族、悪魔族、死霊族など。だが、気になるのはこれらの種族で二刀流の能力を習得できる【忍者Ⅹ】を取るのは不自然……と言うか効率が悪い。
いやそんなことはいい。
考えられる種族が判明した以上、俺の神器が特効なことは確実だ。
結局は今回対戦した3者共に漆黒系の力を根源とする種族だったと言うこと。
レックスはそう予想して兜の中でほくそ笑んだ。
「そんなものは俺には効かないぞ。無駄な攻撃だったな」
無機質な声色でプレイヤーが安い挑発をしてくるが、レックスもその程度で怒りを覚えるほど子供ではない。
それに改めて聞くと、やはり自分の考えが正しいことが確信できる。
「ほう……だが今の攻撃でお前の弱点を理解できたよ」
「はぁ? そんなはずがない。俺を騙そうとしても無駄だぞ」
「だが何故、【忍者】の職業など取ったんだ? なんだ? アレか? かっこいいからか?」
「な、何だと別にいいだろうが! 別に人間じゃないと忍者になれないなんて決まりはないッ!!」
語るに落ちたな――
「何にせよ、もうどうでもいいことだ。この勝負、俺の勝ちだ!!」
レックスは勝利を確信し握る神器に力を込めた。
ありがとうございました!
次回、レックスVsプレイヤーに決着!




