第36話 裏取り(念のため)
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サンドベルグ王国の街テュロイから南下したレックスたちは、ゴダセンと言う街へ到着した。
この街はガブリエルが残した最後の位置座標の地点である。
予想した通り、この街はルスティライル公国に属していると言う。
最初はレックスが直接、空から乗り込んでプレイヤーと思われる者を釣り出そうかとも考えたが、街で戦闘になる可能性を考慮して止めたのだ。
住民を巻き込むのは本意ではない。
レックスが怒りをぶつけたいのは、ガブリエルを『堕天』させた者なのだから。
「(まぁこの国が本当にガブリエルを捕らえた国なのか分からないんだけどな)」
とは言え、堂々と部下に宣言した手前、「ホントは間違いでしたー」とは言えない。
街中を歩いてみるが、何処にでもありそうな普通の街並みが広がっている。
行き交う人々は人間族だけではなく、多種族が共生しているのか狼人や豹人、猫人などの姿が見られる。
「精霊族か……? 古精霊族もいるとはな」
「人間だけの国家じゃないねんなぁ……結構色々おるやん」
「レジーナ? 国家の中枢は人間族のみと言う可能性もあるわよ?」
ルスティライル公国内に獣人族や精霊族が暮らしているだけで、国家運営には関わっていない可能性も十分考えられることだ。
レックスが考えていたよりも人通りが多い中で、窮屈そうにしている小柄なロクサーヌを庇いつつ進むが、恐らく魔法的に各都市は監視されているはず。
少なくとも『ティルナノグ』ではそうだった。
とは言え、ピンポイントで強者であったり怪しい者であったりを特定できるはずもない。よっぽど多くの観測員を張りつかせておくなら別だろうが。
取り敢えずは情報収集をするのが先決と判断したレックスは、二手に別れて聞き込みを行うことにした。何故聞き込みを行うのかと部下以外に聞かれたなら、レックスはこう答えるだおろう。
『間違いだったらマズいし証拠がない。僕は小心者なんだ!』
レックスとメフィストは探求者ギルド、残りは街の人々から街のこと、国のことを聞き出すために動き出す。ルシオラとレジーナから危険だと言われたが、探求者ギルドへ行く程度なら問題ないので拒否すると、この世の終わりのような顔をされてしまった。そこまで落ち込むことか?とは思ったものの、心配性は今に始まったことではないので仕方ない。
「皆にも探求者登録をさせた方がいいかも知れんな……いやそれはないな。顔がバレるのは危険だし目立ちすぎるか……」
探求者ギルドで確認するのは1点だけだ。
この街か、周辺で戦闘があったかどうか。
やがて目的地に到着したレックスは受付嬢に、その疑問をぶつけた。
すると街中で魔法が使われた形跡があり、原因は不明だが人も亡くなっていると言う。
ギルドマスターを呼んでもらい話を聞いたが、調査中ではあるが翼を持つ種族が2人戦っていたと言う目撃談があるそうだ。
これで確信に至ったレックスは、すぐにルシオラたちと合流することに決めてギルドを後にした。
それにしても魔鋼級のタグの効果は高いようだ。
普通に考えると、いきなりやってきた探求者がギルドマスターに会わせろと言っても「お前は阿呆か?」と一蹴されるだろう。更に上のアダマンタイト、オリハルコン級になるとどれだけの待遇になるのだろうか?
「陛下! これで決まりってことなんですよね!」
「ああ、ほぼ間違いないだろうな」
「さっすがです! 問答無用で滅ぼせばいいのに、わざわざ聞き込みするなんて! なんて慈悲深い!」
「慈悲深い訳ではない。単に恐れているだけだ」
メフィストはそれを聞いて一瞬、きょとんとした表情になった。
だがすぐに満面の笑みを浮かべて無邪気な声を上げる。
「そんな! 恐ろしいなんて……陛下もご冗談を言われるんですね! びっくりしました!」
それには答えずにレックスは別のことを考えていた。
メフィストが、思ったより落ち着いて行動でき、人間でも侮らない姿勢を持っていたことだ。
多少怒りっぽい部分はあるが、欠点など誰にでもある。
部下の知らない面を知れて嬉しい反面、もっと理解を深める必要があると感じさせられるレックスであった。
やがてルシオラたちと合流すると、聞き込みの成果を擦り合わせるためにオープンカフェで一息入れることにした。
人は多いが、秘密の話は案外、衆人環視の中で行った方が目立たない場合もある。
それに周囲に強者の気配はない。
「私共はそれほど大した情報は得られませんでした……不徳の致すところです。となれば――」
「自害はやめろよ?」
ルシオラの顔には「何故分かったのか?」と言う文字が浮かんでいる。
1人で驚愕しているが意外でも何でもないぞ。
「何故、私の思考が……はッ! 流石はレガリア様……やはり全てを見通す目をお持ちなのですね!」
「はいはい。俺の目に狂いはないと言うことだな」
目を輝かせて嬉しそうに言うルシオラに、レックスは超適当に答えておく。
全てを良い方向に解釈してくれるのは、果たして良いことなのか悪いことなのか。
そう考えるレックスであるが、答えは「悪い」だろう。
最終的な決定権が〈黄昏の帝國〉の盟主たるレックスにあるとしても、全員がYESマンでは困ると言うもの。
「まぁいい。俺たちはギルドで魔神らしき2人の戦闘の目撃情報を確認できた」
「やっぱりこの国は敵だよ! やっとガブの仇を取れるね、レジィ!」
「せやな……でも何でこんなに手間暇かけはるんですの? すぐにこの国の中枢を叩けばいいと思うねんけど」
メフィストが喜び勇んで話し掛けるが、レジーナにとっては早く親友を『堕天』させた者たちを制裁してやりたいのだろう。とは言え、そうさせられたこと自体がレックスたちの推測なのだが。
「ご慈悲に決まってるじゃないの。レジーナ。万が一を考えて念には念を入れて行動なさっているの」
ルシオラがフォローを入れると彼女も冷静になったようで納得顔になる。
注文した果実水を一気に呷り、テーブルに叩きつけるように置くと自分の頬を叩いて気合を入れた。
「レガリア様! うちは絶対にガブの復讐したるねん!」
「オレは取り敢えず相手をぶっ潰して、間違ってたら悪かった。それでいいと思うがな」
ジークフリートが物騒なことを言ったので、レックスは「お前は本当に神の眷属かよ」と突っ込みかけてしまった。
「バカじゃないの? ジークってホントに神の眷属なの?」
「せやな。うちも怒りで我を忘れとったから偉そうには言えんけど、陛下の国は平和を求める国家なんやで? ちょっと脳筋過ぎると思うわ」
「ジークフリート? 貴方の行動1つで我が国の印象が変わってしまうのよ。それを理解していて?」
女性陣からボロクソ言われたジークフリートが沈黙する。
仮面で表情は分からないが、心を抉られたのかテーブルの上の拳がぷるぷると震えている。
「はぁ……後はロクサーヌの魔法で都市の位置を確認したら乗り込むぞ。場所は公都ライハルだ」
「は、はいぃ! 私が全力で調べてみせます!」
街の中で情報収集の魔法を使用する訳にもいかない。
大規模な魔法もあるし、『ティルナノグ』の時と同様に各都市に監視魔法やら反撃魔法やらが仕掛けられている可能性も否定できない。
その場合はこちらも徹底的な防御魔法でカウンターを防ぐ必要がある。
「公都を覗こうとしたら反撃が来るか……? いや場所さえ分かれば覗く必要はないか。となると後は殴り込むだけ」
休憩兼、報告を終えた一行は、すぐにゴダセンの街を出た。
石畳で整備された街道から外れた草原に向かうと、ロクサーヌが魔法を行使する。
【拠点探知】
大地に魔法陣が描かれて、淡い赤色の光が同心円状に広がっていく。
時間が掛かることはない。
刹那――様々な方面から先程の光が天を衝いた。
レックスの想像通りの反応。
やはり『ティルナノグ』と同じ効果が期待できるだろう。
拠点の場所、位置情報を教えてくれる。
位置の割り出しだけなので、カウンターで魔法を喰らう心配もない。
「レガリア様、位置情報の取得に成功致しましたわ。ここから南西方向に200kmほどですわね」
「ご苦労、ロクサーヌ」
「私に与えられた仕事ですから当然ですわ」
レックスに労われたロクサーヌが照れながら謙遜している。
だが、その何処かドヤ顔の中に嬉しさを隠しながら、弾んでいる声を聞けば喜んでいることが良く分かる。
今後も部下の理解に努めるべきなんだ。
そう考えながらレックスはルシオラたちの顔を見回すと堂々たる態度で言い放った。
「では行くぞ! 殴り込みだ!!」
何もない草原に守護者たちの声が響いた。
ありがとうございました!
次回、すみません! 次こそ殴り込み回。




