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2度目の人生はゲーム世界で~NPCと共に国家ごと転移したので覇王ムーブから逃げられません~  作者: 波 七海
第一章 大混乱編

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第35話 敵の名は

いつもお読み頂きありがとうございます!

 レックス一行は神聖ヴォルスンガ教国の上空を避けて、西回りに迂回することに決めた。


 神聖ヴォルスンガ教国はヘスペリスや4天神と言う神を崇拝している。

 それらがプレイヤーである可能性を考えると、のうのうと国の上空を飛んでいては危険との判断である。サンドベルグ王国、カラデュラ獣魔国を通り、ガブリエルの行方が消えた位置座縹へ【飛行フライ】の魔法で向かう。


 それは休憩のために途中でサンドベルグ王国の南部にあるテュロイの街に立ち寄った時のことだった。大した規模の街ではないが、探求者ギルドの支部もあり、それなりに発展はしている様子だ。ちなみに検問時には衛兵に【魅了スピアス】の魔法を掛けて問題を起こすことなく通過した。


「陛下……何もこのような場所で召し上がらなくても……」


 あまりに人が雑多な食堂に入ったことが不満なのか、ルシオラが苦言を呈してくる。粗暴そうな男たちがわいわいと騒々しいだけではく、飛び交う言動が下品だと感じているのだろう。そんなことを言われても、そもそもこの街に高級料理店はなかったし、レックスは入る気もなかったので諦めて欲しいところだ。


「ルシオラ、今はそう呼ぶなと言っただろう。それに俺はどんな場所でも構わんし、こんな大衆食堂で思いもよらぬ情報を得ることだってある」

「さっすがやねぇ、レガリア様って探求者の時はこんな感じなんやね」


 レジーナは順応が速く、レックスの言った通りに接してくれるので大いに助かると言うものだ。この柔軟な態度が彼女の魅力でもあるだろう。


「はッ……!? エルミナとブリジットには砕けた態度で接していらっしゃると言うこと!?」

「当然だろ。探求者仲間と言う設定なんだからな。お前たちも気兼ねする必要はない」


 ようやく気付いたようで、ルシオラが羨ましそうな表情になるが、それも一瞬のこと。すぐにぷんぷんとオコの状態になってしまった。


「プギャー!!」


 その様子を見てレジーナとメフィストが指を差して、爆笑している。

 レックスは訳が分からなかったので、取り敢えずはスルーだ。

 周囲の声が聞こえないので、もう少し静かにして欲しいものだ。


「おい、くだらねーこと言ってねーでオメーらもとっとと喰えよ。喰うのが遅ぇな」


 ジークフリートが盛り上がっている女子トークを邪険に扱っているが、それは流石に悪手だろうとレックスは隣に座っている彼から少し距離を取った。


「なんやて? あんさん、ここは料理と酒と会話を楽しむ場っちゅーことを忘れたらあかんで?」

「ジーク、さいってー! 空気読みなさいよね! だからつまらないヤツって言われるのよ!」

「貴方、陛下のことがくだらないと……?」


 ほらやはり、女性陣からの集中砲火を喰らっている。

 レジーナは窘める程度だが、メフィストの話を聞く限りではジークフリートはつまらないヤツと認識されているらしい。

 ルシオラなど漆黒のオーラが体から滲み出ているほど。

 だから怖いのである。

 頼むから人間の擬態を解かないで頂きたいところだ。

 ちなみにロクサーヌだけは両者の間であわあわしているだけだ。


「ぐ……オ、オレはつまらねーヤツだったのか……?」


 意外とジークフリートにダメージが入っているようで声が少し震えている。

 仮面を付けているせいで表情は窺い知ることはできないが、一体どんな顔をしているのだろうな。


 一方のレックスは我関せずの姿勢で周囲から聞こえてくる会話に耳を潜めていた。


 もちろん、集中するのは重要そうな話題だけだ。



「そういや、最近あちこちの村が襲われてるってなぁ」


「あーん? あーそう言えばなんか聞いたな。商業ギルドで。だからついでに探求者ギルドにも確認に行ったんだ」


「ここもヤバいんじゃねぇのか?」


「いや、それがこの国はまだらしいぜ? 多くの国が被害にあってるらしい」


「それでギルド間で共有されてるって訳か?」


「魔物なのかよ。同時に複数の国で被害なんてでるもんか?」


「一応、探求者の目撃者がいるらしいぞ。空飛ぶ人間みたいな……亜人種か? 真っ黒な翼が背中から生えているってな」


「天使族なんじゃねぇのか? それ」


「天使ぃ? 天使様が人間を滅ぼそうってのかよ。俺らの味方じゃないのか?」


「アホ言え、魔神デヴィルだろ。まぁ天使だろうが何だろうが何を考えてるか分からねぇよ。異種族ってのは相容れないもんだろうが」


「そりゃそうだな。どれも俺たちの敵に決まってんだわ」


「んでギルドは何て言ってたんだよ?」


「少なくともセル・リアン王国、カージナル帝國、サンドベルグ王国、レギア同盟で被害が出てるらしい。北へ向かってるってな。村が消滅してるとこもありゃあ、虐殺されてるとこもあるみたいだ。そこそこの街も1か所やられたと聞いた」


「おお……今から行く聖クロサンドラ皇国は大丈夫なんだな。そいつは良かったな」



 偶然か否かはさて置いてこの食堂に来て良かったとレックスは思う。

 自らの考えが間違っていなかったとも。


「うっさいうっさい! ジークのばーかばーか!」

「あー? 今この時だってオレらは仕事中なんだよ!」

「あらまぁ、ええことゆーやんけ。うちらの仕事を忘れたらあかんねん。ガブに手を出したイカれ野郎なんか絶対に滅ぼしたるねん!」


 レックスが集中を解くと仲間たちの会話が耳に入ってくる。

 まだ罵りあいは続いていたようだ。


「お前ら。探求者ギルドへ向かう。残さずに食べてから、後で着いて来い」


 探求者の仕事で稼いだお金を置くと、すぐにレックスは立ち上がってギルドへ足を向けた。

 すぐに着いて来たのはロクサーヌだけであった。

 レックスの隣に並んで歩き出すと顔を見上げて、はにかんで笑う。


 統括官レガトスながらロクサーヌは頭も良いし戦闘はともかく、情報戦なら誰にも引けを取らないだろう。

 夜風に吹かれて彼女のさらさらな銀髪が揺らめき輝きを放つ。


「レガリア様はガブリエル様のことを大切に想ってらっしゃるんですね。羨ましいですわ」

「何を言っている。俺はロクサーヌのことも大切に想っている。それは間違いない」


 レックスの口から漏れたのはまごうことなき真実であった。

 それを聞いたロクサーヌは顔をゆでだこのように真っ赤にして俯いてしまう。

 その美しい銀髪で隠れてレックスからは見えなかったが。


 その後、無言で歩き続ける2人。

 レックスは別に人と話さないのが苦ではないので気にしていない。

 小さなロクサーヌは俯いて身を縮こまらせながら、ますます小さくなって歩いている。


 やがて街の小さな探求者ギルドに到着したレックスは早速、受付カウンターで先程耳にした件について質問する。

 守護者ガルディアンたちもレックスの周囲に集まっていた。


「その件でしたら今、問題になっておりまして頻繁に都市間で連絡を取り合っている状況です。何者による犯行なのかも分からず……唯一の情報は恐らく魔神デヴィルではないかと言うことだけです」

「最後に襲撃があった場所は分かるかな?」


「え、ええ……セル・リアン王国のテル・リアンの街ですね」

「街が滅ぼされたと?」


「はい……2万人ほどの規模らしいですが、ギルドでは恐らく〈黄昏の帝國トワイライト・アルカディア〉と言う転移国家の手の者ではないかと推測しております」


 クランの名前を出されたレックスの胸にドス黒い感情が去来する。

 カウンターの上に置いていた右腕には力が入り拳が固く握りしめられる。

 吐いて出た言葉は怒気を孕んでいた。


「ほう……何故そのような考えに至ったのか聞かせてもらいたいものだな」

「ひっ……あの、あのですね……〈黄昏の帝國トワイライト・アルカディア〉が様々な種族が集まった国家だと……後は魔神デヴィル族や天使族までいると言う情報が共有されておりまして……」


 レックスの迫力に押されて受付嬢が涙目になりながらも何とか説明した。


「情報の出どころは分かるのか……?」

「いえ、上から下りてくるのみでして……何処からかまでは存じ上げません……申し訳ございません!」


 受付嬢が何故か、目に涙を浮かべながら腰を直角に曲げて謝罪し始めてしまった。

 それを冷めた目で黙って見つめるレックス。

 兜のせいで表情は分からないが。

 凄まじい圧力を放つレックスにルシオラが呟くように懇願する。


「レガリア様、どうかお怒りをお沈め下さい……」


 隣にいたロクサーヌもカウンターに乗せられたままのガントレットにそっと手を添える。そのせいか、ふと冷静になれたレックスは彼女の頭を優しく撫でた。


 ―――


 レックスたちは安宿の一室で情報のすり合わせを始めた。

 狭い部屋に6人なので人口密度が半端ない。


 探求者ギルドで聞いた話をまとめると次のような感じである。



 被害を受けたのは全て人間族の村であり、どんどんと北上している。

 探求者の目撃情報から襲撃者は魔神族であると思われる。

 『タカマガハラ』の地上界テッラではほとんど魔神デヴィルの姿を見ることはない。

 魔神族のみならず、天使族などの様々な種族が共生している〈黄昏の帝國トワイライト・アルカディア〉が動き出したのではないかと思われる。

 ただし情報の出どころは不明である。



「やっぱりガブを『堕天フォール・ダウン』させたんがおる国が情報引き出したんちゃう?」


 レジーナが言ったことはレックスも考えていたことだ。

 恐らく何処かの国家の背後にプレイヤーとNPCがいる。


「当然その可能性はあるのだけど……我が国と同じ『ティルナノグ』から転移してきた国家はある程度の情報は知っているはずよ。となると周辺国ではサンドベルグ王国とラミレア王国になるわね」


 そう言ったのはルシオラだが、〈黄昏の帝國トワイライト・アルカディア〉の強さを知っている両国が中心になって画策するとは思えない。それに例えプレイヤーがいたとしても、自ら喧嘩を売りに来るのは考えにくいだろう。

 両国はまだプレイヤーが大勢残っていると考えていてもおかしくない。


「ってことはどっちかにプレイヤーがいるってこと!?」

「NPCの可能性もあるだろうな。両方の可能性もあるが、大規模なギルドやクランがいるならこんな面倒なことはせん。となると背後にいるのは少数だろうがな。となればガブリエルを捕らえた国家は――」


 メフィストが短絡的に尋ねるので、レックスは今考えていることを口にした。

 だが、全て言い終わる前に再びメフィストが質問する。


「レガリア様! NPCって何ですか!」

「ん? ああ、お前達のような存在だな。プレイヤーに創造されし者のことだ」


 すぐに納得顔に変わるメフィスト。

 ジークフリートは相変わらず沈黙を貫いている。

 本当に普段から口数が少ない。

 鬼武蔵やヴィクトルとは比較的、会話をしているようだが……。


「あ、あの! やっぱりレガリア様の……我が国のことを知らない者による偶発的な事故のようなものじゃないかと思いますわ。ガブリエル様から情報を聞いても挑発行動を取る国、我が国の強さを知っていながらも踏み込んでくるのは周辺国のイニシアチブを取りたい国がやってるんじゃないかと思うんです。人間は目の前に共通の脅威があるのにもかかわらず、愚かなほどに人間同士で争い続ける存在だと思いますわ」


 守護者ガルディアンたちの会話に割り込むことに申し訳なさそうに、ロクサーヌがつらつらと私見を述べた。


「なるほど! 流石は陛下! 先程言い掛けていたのはこのことだったのですね! このルシオラ、感服致しました!」


 何を言っているんだ、お前は。

 勝手に納得して、勝手に盛り上がって、勝手に締めくくるな!

 言うなら最後まで説明してくれ……。

 ルシオラならもう何処の国の犯行か理解してるだろ。

 レックスはそんなことを思いながらも、未だかつてないほどに脳みそをフル回転させる。


「(本当に勘弁して欲しいよ……頼むから全員、そんなキラキラした目で僕を見ないでくれよなぁ……。でも何だ? 考えろ。ヤバいヤバいヤバい……。ロクサーヌの言ったことは確かだ。人間の愚かな本質を突いている。周辺国家……あッそうか! 我が国を共通の敵として周辺国の主導権を握りたい。そんな感じか! となるとガブリエルの攻撃を受けていない場所、あれは……神聖ヴォルスンガ教国は恐らくプレイヤーがいる。その他は最初に攻め込んできたレギア同盟とゼキテ王国……ないな。魔神化させられたと考えてどうしてすぐに暴れ出さなかったのか? 支配下に置かれて命令によって動いている。つまりガブリエルの最後にいた場所であり、攻撃を受けていない国か!?)」


 全員の視線がレックスに集中している。

 次のレックスの発言を期待を込めて待っている。

 凄まじいまでの圧を感じて、レックスの胃は悲鳴を上げていた。


 ここでハズレを引く訳にはいかない。

 恐らく強制とは言え、ガブリエルは裏切ったのである。

 今後、忠誠心を失って裏切られる可能性はまだまだ否定できないのだ。

 レックスは覇王たり続けねばならない。


 故に――低い声でゆっくりと説明を始めるレックス。


「貴様らも既に分かっているだろうが、ガブリエルを魔神化させたのはすぐ南にある国――ルスティライル公国だ」


 全員から驚嘆の声が漏れる。

 その視線が痛い痛い。


「なれば! 陛下はどうなされましょうか? 我々にご命じ下さい」


 ルシオラが打って変わって真剣な面持ちとなり、鋭く切り込む。

 途端に全員の体から圧倒的なまでの殺気がほとばしった。


 ここまで来れば答えは一択――


鏖殺おうさつだ!!」


 レックスの決断が下された瞬間であった。

ありがとうございました!

次回、殴り込み回。

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