第33話 迷宮都市の最奥へ
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――迷宮都市
そう呼ばれているからと言って別に最初から都市が迷宮のように作られていた訳ではないようだ。
現在では打ち捨てられた城塞都市が突如として、迷宮化したと言う話である。
これはマッシュから聞いて知ったことだ。
レックスは色々と可能性を考えてみるが、攻撃されたのではないのならば、誰かが土系統の暗黒魔法を使用したのではないかとの結論に至った。
となると最奥には何者かが住みついていると考えるのが自然だ。
何故、魔物が出現するかまでは分からない。
『ティルナノグ』であれば、自動ポップの魔物だと割り切れるのだが、生憎とここは異世界である。迷宮には魔物が湧く仕組みがあるのかも知れない。
「でも漆黒の力を感じるんだよなぁ……」
考えながら通路を歩いていたレックスの口から無意識の内にボソッと呟きが漏れた。
「レ、ガリア様、何か仰いましたか?」
「ん? ああ、スマンな。少し考え事をしていた」
エルミナには聞こえていたようだが、彼女が分かろうはずもない。
だが、聞いていたのはエルミナだけではなかったようだ。
口を挟んできたのはマッシュ。
「レガリアさん、漆黒の力とは……? もしかしてこの世界を創造せし三柱神の力のことでしょうか?」
初耳の言葉にレックスの好奇心が刺激される。
慌てて喰いつこうとする自分を何とか押し留めたレックスは、いつもの覇王ムーブを思い出しながら落ち着いて尋ねる。
聞かないで恥をかくより、聞いて恥をかいた方が良い。
「マッシュさん、その三柱神と言うのは?」
「え? ご存知ではありませんでしたか……有名な話だと思うのですが……」
「え、ええ……あーっとそうですね。実は我々はずっと価値観の異なる世界で生きてきましたので……」
「……なるほど。それは申し訳ないことを聞いてしまいましたね。すみません」
言った直後に「もっと上手い誤魔化し方があったろ!」と自身を罵ったレックスであったが、マッシュは都合良く解釈してくれたようだ。
でもなんで謝ったのかな?
いや、この世界では天変地異で何者かが、あるいは国家が転移してくることは知っているはず。
普通に言っても良かったかもなぁ。
そんなことを思いながらレックスが反省していると、〈黄金の狼〉の面々も話を聞いていたようで、誰ともなしに説明を始める。
「三柱神とはこの世界『タカマガハラ』に降り立ち、天空界、地上界、地中界を創造したと言う神々のことなのだよ」
ガルドの言葉には知らない単語がズラリと並び、レックスの脳が一瞬落ちかける。
この世界は『タカマガハラ』と言うのか……。
日本神話っぽいな。
『ティルナノグ』は様々な神話を組み合わせて創られた世界だから関係があるのかも知れない。
それになんだよ、地上界はともかく天空界と地中界って。
普通は天界とか地獄とかじゃないのか?
あまりの情報量にレックスの思考回路はショート寸前だ。
何とか脳がそれらを処理し終えたレックスがようやく言葉を捻り出す。
「んんん? 天界を創ったとかではなくですか? それは私たちも行ける場所なのですか?」
「行けますよ! 私は行ったことはないですけど……。天空界には浮遊大陸が存在しているらしいですよ! 両翼人や古代人と争ったとされる機甲人が文明を築いていると言う話です」
「我々が普段いる世界が地上界なのだよ。地中界は土精霊族が多いらしいが魔物もまた多いらしいと聞くな」
「なるほど……(さっぱり分からん! 両翼人って天使族と違うのか? それに何だよ機甲人って……。まだまだ知らないことだらけだな、この世界は)」
思わず頭を抱えそうになるレックスであったが、何とか踏み止まる。
何度も言うがフルフェイスで良かったと、つくづく思うレックスであった。
「ちなみに天界におわすは絶対神様ですね。森羅万象の力を司るとされています」
「となるとガトゥが三柱神を創った訳なのですね?」
「ええ、天空神エアロゾーグ、地上神ヴァーステッラ、地中神ハデッサーヌと言います」
その後も延々と神様談義をされてしまった。
もう聞きたくないとレックスの脳がエマージェンシーを叫んでいたが、把握しておかないとマズいことになるかも知れないので頑張った。
そうレックスは頑張ったのだ。
「(いや、いいんだけどね? こんなに神様がいるとは思わなかったし、皆よく覚えてられるなと思っただけだし)」
聞けばどうやら他にも神とされる存在がいるようだ。
これはやはり複数の世界から様々な者が転移してきていることと関係がありそうである。
レックスの出身が南の大陸だと言った時は焦ったものだ。
魔大陸と言うものがあるらしく、そこには強大な魔の力を持つ神が封じられているのだが、何か知らないかと聞かれたのである。何とか誤魔化したが、考えてみると探求者ギルドで『南魔北技』と言う言葉を聞いたことを思い出す。
もしかしたらそれも何か影響しているのかも知れない。
「レガリア様、ここから先は大回廊になっております。かなり最奥部へ近づいているかと」
「ああ、分かった。魔物は出ないが警戒しないとな。ブリジット、頼むぞ」
「合点! 承知ッス!!」
もうしばらく魔物に出会っていないため、少し集中力を欠いている。
ここらで休憩でも挟むべきかとレックスが考えていると、マッシュが何かを見つけたようで慌てた感じの声を上げた。
「回廊の中央に何かいます!」
声がかなり真剣だったので、レックスもすぐにマッシュの元へ近づいて確認すると、確かに変な形をした物体が置かれている。
何処かで見たことがあるような気がするのだが――
あれは――魔導砲台?――となれば機械族か?
「敵だッ! 恐らくは機械族! エルミナ分かっているな? ブリジットはここを結界で護れッ!!」
「承知致しました」
「了解ッスぅ!!」
オメガ零式のような強者であれば、魔導砲を撃たれるだけでダメージが入る。
〈黄金の狼〉のメンバーが喰らえば、ひとたまりもないだろう。
「どっせい!!」
大剣を抜き放ったレックスが瞬間的に速度を跳ね上げて近づくと大上段から斬り下ろす。
だが――聞こえたのは澄んだ音のみ。
その物体にはほんの僅かな傷がついただけ。
あまりの硬さにレックスも唖然とするが、『ティルナノグ』にも似たような敵が出てきたことを思い出す。
守護神――ガーディアン。
機械族の中でも最高の硬度を誇る固定砲台のような敵。
動くことはないが、物理攻撃が通りにくく、遠距離から魔導砲やミサイルなどを撃ち続ける厄介な存在だ。
「チャージ88%」
案の定、ガーディアンからは機械音のような声が聞こえてくる。
となれば――
レックスが魔法を撃つべく神代の言語を発そうとした瞬間、エルミナが先に雷魔法を放った。
【二重化・集豪雷撃】
ガーディアンを中心に嵐のような電撃が荒れ狂い、レックスを巻き込んで威力を開放する。
凄まじいバチバチと言う音がレックスの耳をつんざいた。
ガーディアンには雷を。
それが定石。
「チャージ100%」
搭載されている3つの砲塔から緑色の魔導砲が発射される。
狙いはバラバラ。
レックスは至近距離であったが大剣で魔導砲を薙ぎ斬ると、収束していた光が拡散される。更に一筋の魔導砲はエルミナへ、もう一筋は〈黄金の狼〉へ。
『大聖域』
遠距離にもかかわらず、一瞬で魔導砲が肉薄するがブリジットの特殊能力がそれを防いだ。半円球の神聖なる結界に当たると四方八方に弾け飛ぶ。
【三重化・大雷落轟】
ここでレックスの暗黒魔法が解き放たれた。
天空から降り注いだ薄紫の烈光がガーディアンの体に直撃する。
そして――遅れてやってくる大轟音。
天を真っ二つに斬り裂かんばかりの雷が空を分かち、ガーディアンから大量の煙が噴き出した。
「これで終いだ!」
流石のガーディアンも第9位階の暗黒魔法を三重に掛け合わせられては耐えきれなかったようだ。
そしてトドメの大剣による横薙ぎの一閃。
雷撃で弱った体に覇王の攻撃力は耐えられなかったようで、ガーディアンは大きな音を立てながら脆くも崩れ去った。
レックスは大きなため息を吐くとガーディアンの残骸を調べてみた。
予想通りだが、ゲームとは違って何もドロップ品などはない。
強いて言えばガーディアンの体が素材としてどうにかできるかも知れないと考えたレックスは、アイテムボックスに全部しまっておくことに決める。
思ったよりも硬質な感じがしたので、あくまで念のためである。
作業を終えて、レックスがブリジットたちのところまで戻ると、〈黄金の狼〉の面々の顔色が蒼白になっていた。気持ちは分からんでもないので、取り敢えずマッシュの肩をポンポンと叩いておく。
「レ、レガリアさん……あれは一体……」
「あー恐らくですが、機械族の守護神かと」
ぷるぷると震えながら問い掛けるマッシュにレックスが正直に答えると、リリアンとガルドは知らなかったらしく訝しげな表情になる。
「機械族……? そんな種族がいるのですか?」
「聞いたことがないのだな」
こんな時は適当に誤魔化しておけば良い。
どうせ分からないだろうから。
「南大陸なんかではたまに見かけますよ。」
「そうなんですか? 物騒なところですね南大陸は……レガリアさんがいなければ死んでいましたよ……」
リリアンの言葉に聞き捨てならぬと突っ込んだのは、出しゃばり大好きブリジットである。
「おっとぉ! リリアンちゃんってば、誰かのことを忘れてないッスかー?」
「ブリジット、お止めなさいな」
「えッ……ああ! ブリジットさんの結界?も凄かったですよ!」
「そうッス、そうッス! はっはっはッス!」
取り敢えず人間相手に和んでくれたようで何よりだと安心しながら、レックスが休憩を提案しようとした――その刻。
繋がる――感覚。
【伝言】だ。
『マグナ覇王陛下、重大事です』
「何だ? ルシオラか……何があった? またトラブルか?」
皆から離れつつ状況を尋ねると、思いもよらない報告がレックスの耳に飛び込んできた。
『ガブリエルが消息を絶ちました。捜索に当たらせておりますが、目下のところ行方不明です』
「マジか」
思わず素で問い返してしまったレックスであった。
戦争の次は、仲間が行方不明?
また面倒事か?
ガブリエルのことだから何処かでお楽しみなんじゃないのかと思っていた頃がありました。
この時のレックスはまさか本当の重大事になるとは思いもよらないのであった。
ありがとうございました!
次回、レクス、報告を聞く。




