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2度目の人生はゲーム世界で~NPCと共に国家ごと転移したので覇王ムーブから逃げられません~  作者: 波 七海
第一章 大混乱編

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第28話 鬼人の国へ

いつもお読み頂きありがとうございます!

 南方へと向かったガブリエルと同時期に守護者のヴィクトルも北へ向けて出発していた。


 〈黄昏の帝國トワイライト・アルカディア〉の北にも国家が存在すると判明したのはごく最近のことである。何故かと言うと国家として上手くまとまっておらず、いくつかの部族に分かれて内戦状態にあったためであった。

 情報に寄れば鬼人族が覇権を賭けて争っているらしい。

 広大な地域で幾つもの小国に分かれているのであれば、干渉することは容易い。

 そう考えたルシオラはドラスティーナ、鬼武蔵と話し合い、北方にも手を伸ばすことに決定したのだ。


 全ては覇王たるレックスの理想を叶えんとするためだ。


 とは言え、鬼人族の位階レベルなどの情報は得られていなかったため、ルシオラたちは最初にレジーナを派遣しようと考えた。彼女は魔法で情報が抜ける上、攻撃魔法も操れる、飛行能力もあり、眷族たちを使役できる。それに頭も回る方だ。


 しかしその決定に異を唱えた者がいた。


 それが鬼人きじん族のヴィクトルであった。


 ―――

 ――

 ―


「だから何で俺じゃ駄目なんだよ!」


 ヴィクトルが全守護者(ガルディアン)が一同に会した大部屋の中で叫ぶ。

 怒りの表情を浮かべてルシオラを睨みつけるヴィクトルは、何度説得しても納得がいっている様子はない。


「だからね。ヴィクトル。あそこはちょっと特殊な土地なのよ。私たちの目的は北方地域を服属させて支配下に組み込むことなの。確かに貴方は肉弾戦ならトップレベルの強さを誇ることは理解しているわ? でも陛下のお言葉を思い出しなさい。まだまだ未知数なことが多過ぎる今は武力ではなく裏から乗っ取っていく時期なのよ」


 何度も同じことを言っているが、ヴィクトルの意志は一向に変わらないのでいい加減うんざりとしてきたルシオラの声からは疲れの色が見て取れる。

 それを鬼武蔵が引き継いで何をどうするべきかの説明を続ける。

 ヴィクトルの性格には向いていない仕事であるのは誰の目にも明らかなようで、彼を擁護する声はない。


「そうですよ。ヴィクトル。あそこは群雄割拠している戦国時代のような場所なのだよ。となれば大きな勢力に肩入れせずに、小さな勢力に我が国の力を貸して彼の地を統一させる必要がある。交渉なども行っていかなければならないだろうね。それは君が最も苦手としていることではないかな?」


「でもよ……鬼人族の国なんだろ……俺は行ってみてぇのよ」


 この世界に転移してから外に出る機会が増えたものの、最近は再び外に出ることが減った。

 理由はプレイヤーを始めとした強者の存在が懸念されるためである。

 お陰で『黄昏の王城(トワイライト・タワー)』の周囲に造り始めた城下町の見て回る程度しかすることがないのだ。

 それに行きたい理由は単に外を見てみたいからだけではない。

 ヴィクトルとしてはレックスのために、自身の武力を尽くして貢献したいと考えているのである。


「まぁ、うちとしては別に譲ってもかまへんのやけど……」


 心優しいレジーナとしては、仲間のこんな心の籠ったシャウトを聞いてしまっては別に自分が行かなくても、と考えてしまう。


「レジーナ? 貴女は黙っていてちょうだい。ヴィクトル、いずれ周辺国家と戦争になる刻が必ずやってくるわ。その時に精一杯、戦働きをすれば良いのではなくて?」


「俺は、俺は陛下御自(おんみずか)らが人間に混じってまで探求者とやらをやってるってぇのに、のうのうとしてる自分が情けねぇんだ。それに鬼武蔵の話じゃあ、陛下は転移した時に経験を喪失した可能性があるって言うじゃねぇか……覇王陛下が頑張っているのに何もできずにいる自分が許せねぇのさ!」


 ルシオラがレジーナを嗜めて、もう1度ヴィクトルに説得しようとするが、それを聞いて彼の感情が爆発した。上手く伝えられないもどかしさの中にも悔しさが滲み出た言葉に、全員が沈黙する。


 誰もが口を開かない中、それを破ったのはジークフリートであった。


「別にいいんじゃねーか? 相手は鬼人族。ヴィクトルも鬼人族だ。問題はねーと思うんだが? むしろそっちの方が警戒されなくていいだろ。オレはそう思うぜ?」


「ジーク……」


 ルシオラたちも鬼人族の彼が行ってくれるに越したことはないとは考えていた。

 だがそれ以上に脳筋のヴィクトルが暴走しないかの方が心配だったのである。


「はぁ……仕方ないわね……」

「ル、ルシオラ……!!」


 根負けしたルシオラが遂に折れる。

 鬼武蔵もやれやれと言った表情で首を振っており、文句はなさそうだ。

 彼らの言動から自分の意見が認められたことを感じ取りヴィクトルが嬉しさを大爆発させる。


「いやっっっっほうーーー!! おし! おし! やったるぜい!!」


 そう叫びながら椅子から飛び上がりてガッツポーズを繰り返している。


「俺は誓うぜ! 覇王陛下の偉大さをヤツらに知らしめるってなぁ!!」


「ま、まぁ、あまり表だって動かないようにするのよ?」

「目立たんようにな。裏で動くんやで? 分かっとる自分?」

「ヴィクトル、そこまで言うのです。期待していますよ?」


 ルシオラ、レジーナ、鬼武蔵が苦笑いを浮かべながらもヴィクトルに釘を差すのを忘れない。


「分かってんよ。俺に任せとけって!」


 ―――

 ――

 ―


 話し合いの場での出来事を思い出しながら、ヴィクトルは険しい道のりを踏破してゆく。とは言え、屈強な鬼人族な上、位階レベル100である彼の体力は底知れずである。軽快な動作であッと言う間に〈黄昏の帝國トワイライト・アルカディア〉北部の山岳地帯を突破していく。


「やっぱ外ってぇのはいいもんだな。鬼人か……この世界の奴らはどんなヤローたちなんだろうな」


 急峻な山々をあっさりと越えてヴィクトルはついに山麓の森林へ入り込む。

 森を抜ければ何処かに集落でもあるだろうと、彼は気楽に考えていた。

 ルシオラたちはこの点も考慮してレジーナに任せようとしていたのだが……。


 まだ太陽が高いはずなのに木々が生い茂る森の中は仄暗い。

 この世界には魔物が普通にうろついていると聞いているヴィクトルとしては、それらと戦ってみるのも楽しみの1つであった。


 周囲を軽く警戒しながらも、凄まじい速度で森の中を駆け抜けていくと気配を感じるヴィクトル。更に詳しく探るべく意識を集中させると東の方向に多くの気配が集まっていることに気付く。


「面倒事か? いや、まずは鬼人と接触しなけりゃ意味はねぇ。行ってみるか」


 即断したヴィクトルは方向を変え、更に速度を上げる。


 伝わってくるのは――殺気。


 明らかな戦いの気配だ。

 そして目の前が開けた。

 あったのは板塀に囲まれた集落。

 規模で言えば300人ほどの大きさだろうか。


 鬼人族が得意とする身体強化で目に力を集中させ周囲に視線を向けると、戦っているのは頭に角を持つ者――鬼人とゴブリンやオーク、オーガと言った魔物たちであった。


 攻め手が魔物の群れで、集落を守っているのが鬼人族だ。

 普通に考えれば鬼人の方が強いはずなのだが、如何せん魔物の数が圧倒的に多かった。数の暴力で押し込まれている状況。


「ここは恩を売っとくしかねぇだろ。おーし! 暴れたろ!」


 ヴィクトルは腰に佩いた愛刀『無頼専心ぶらいせんしん』を抜き放つと、洪水の如き魔物の集団の中へ単騎で突っ込んで行った。単独で戦うのもいいものだ。


「はぁッはぁ!! 死ねぇ! 魔物如きは皆殺しだぁぁぁ!!」


 突如として背後に出現した殺気の塊に、魔物たちが反応する。


 が――遅い。


 ヴィクトルが刀を振るう度に、魔物たちの体は薙ぎ斬られ、手足はバラバラになり、首が飛ぶ。いくらまともな装備など付けていない野生の魔物と言っても、この世界の人間目線で考えれば十分な脅威である。

 それをヴィクトルは悉く斬り伏せていくのだ。

 体が細切れになり、肉片が千切れ飛ぶ。


 群れを率いてた巨躯を持つオーガキングが大斧を振り上げて、ヴィクトルに叩きつける。斬ると言うより殴ると言った方が正しいかも知れない。


「しゃらくせぇ!って言えばいいのか? こう言う時はよ」


 自分の力を試すべく態と攻撃を受けてみたが、全くと言って良いほどに響かない。周囲の魔物たちはオーガキングとの戦いに巻き込まれることを恐れて、ただただ眺めているだけだ。


 ヴィクトルは右手1本でオーガキングを力任せに押し込んでゆく。


「オラオラ! てめぇがボスなんだろ? 自慢の力を見せてみやがれ! 楽しもうぜ!」


 あまりにも圧倒的な格差。

 力に開きがあり過ぎて相手にすらならない。

 これが位階レベル100と言う強さ。


 喜色満面のヴィクトルを見たオーガキングはすぐに戦意を喪失し、逃亡を図る。

 悟ったのだ。

 敵わないと。

 本能がそう告げたのだ。


「逃がすかよ! オーガ程度が鬼人を襲おうってぇのが気に入らねぇんだよ!」


 背中を見せるオーガキングに逃亡の第1歩を踏み出させることすらなく、ヴィクトルは袈裟斬りに斬って捨てた。

 刀が右肩から左脇腹へと抜けると、大地には2つに分かれた肉塊が転がるのみ。

 その光景を目の当たりにした魔物たちは統率を失って散り散りに四散。

 集落を守っていた鬼人たちは逃すまいと追撃に移っている。


「魔物つっても弱いもんだな。位階はどれほどだ? まぁ久々に暴れられたから良しとするか」


 体中を返り血で真っ赤にして愉悦に浸るヴィクトル。

 彼の心はかなりの高揚感に包まれていた。

 そんな彼に恐る恐ると言った感じで声を掛ける者がいた。


「あ、あの……何処の御方おかたか存じませんが、ご助力感謝致します」

「助かりました……感謝申し上げる」


 声の方へと振り向いたヴィクトルの前にいたのは鬼人族の男女。

 1人は美しいほどに艶やかな黒髪を持つ女性で頭部に2本の角があり純白の巫女服を着ている。もう1人も逆立った黒髪の野性的な男性で、こちらは3本の角を持ち当世具足とうせぐそくのような鎧を装備していた。


「俺の名前はヴィクトルだ。たまたま見かけたんでな。お節介を焼きにきたって訳だ」

「そのお節介のお陰で助かった。是非、もてなしたいのだが……」


 男の方が是非にと誘ってくる。

 女の方もこくこくと首を縦に振っていた。


「それは有り難いぜ。少しばかり疲れたんでな」


 嘘である。

 全くこれっぽっちも毛ほども疲れてなどいないが、せっかくの出会いなので色々聞き出したいところだ。


「(確か、幾つもの国に分かれて争ってんだったよな。全部聞き出さんとな! 大事な仕事だ。俺に任された仕事なんだからな!)」


 ヴィクトルは必ずやレックスの役に立って見せると誓いながら、促されるままに集落の中へと足を踏み入れた。

ありがとうございました!

次回、鬼人の国ディアヴァロスでヴィクトルが出会った部族は……。

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