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2度目の人生はゲーム世界で~NPCと共に国家ごと転移したので覇王ムーブから逃げられません~  作者: 波 七海
第一章 大混乱編

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第26話 迷宮都市攻略開始

いつもお読み頂きありがとうございます!

 セル・リアン王国北部、デロリアン地方の領都デロ・リアンから東に3kmほど。


 そこに目的の迷宮都市が存在した。

 レックスが考えていたよりも大きくザロムスの街と同程度のように感じられる。

 城塞都市だったのか20mほどの城壁が街全体を囲んでおり、中央にそびえ立つ城も天を衝かんばかりの高さだ。

 とは言え、『黄昏の王城(トワイライト・タワー)』とは比べものにはならない。

 誇りと自負がレックスの胸に湧き上がってくる。

 自慢の本拠地なのだから当然の話だ。


「この都市はセル・リアン王国成立以前に建てられたようです。この地より北には超古代文明があったとか」


 巨大な鉄城門の前で眺めていたところ、エルミナが急に淡々と説明を始めた。

 すごい探求者っぽい!

 一瞬、戸惑ったレックスだったが、すぐに感心に変わり感嘆のため息が漏れる。


「エルミナ、調べてくれたのか? よく知っていたな」

「はい。昨日の街に寄った際にギルドで耳にした程度ですが」


 謙虚な言葉を吐きながらも嬉しそうにはにかむ姿を見せる。

 レックスも部下が自主的に動いてくれたことが嬉しくて、思わず表情が綻んだ。


「探求者が板についてきたようだな。偉いぞ!」

「いえ……そのようなことは……」


 偉大な御方おんかたからの褒め言葉に頬を染めて喜んでいるエルミナ。

 それを見て面白くないのがブリジットだ。


「ぶー! そんな情報がなくってもミノタウロスの3体くらいぶっ飛ばすッスよー!!」


 大きな十字架を両手に持つと、鉄城門へと力の限り振り下ろした。

 凄まじいまでの轟音を立てて城門はへしゃげてしまう。


「力こそパワー!!ッス!」


 自慢げに背後を振り返りレックスたちに向かって、ない胸を張るブリジット。

 ドヤ顔をしながらサムズアップしている。

 本人とってはキメポーズなのか――何だろう、何故かイラッとくる。


「いや、普通に開くから壊す必要はなかったんだが……」

「むしろ攻略している探求者が後で困りますわ」

「がびーん!!」


 レックスとエルミナが呆れながらジト目で突っ込みを入れると、ブリジットはあまりに昭和的なリアクションを取る。


 そう言えば7人の聖女(アトラス)を作りたいと言い出したのは、結構なおじさんだったな。

 確かあれは――『社畜闘士Σ』さんだったはず。

 レックスはぼんやりと仲間たちのことを思い出す。


 創造主が書き込んだ設定だけがNPCの思考、行動原理、個性などになると考えていた。だが、もしかしたら作った人の性格や心が反映されている可能性も否定できない。例えば仲の良い2人のプレイヤーがそれぞれ創造したNPC同士の仲が良くなるような感じ。


「もしそうなら僕は誰かに嫌われている可能性もあるってことだ……となると元NPCの中にも僕のことを毛嫌いしている者がいたって不思議じゃないな」


 ボソッとレックスの口から小さな呟きが漏れた。

 あくまで可能性に過ぎないが、想定しておいて損はない。

 創造されたキャラクターたちを信じられないのはとても嫌なことだし、何より大切な仲間たちを信じていないようでレックスは少し自己嫌悪に陥る。 


「レガリア様? 大丈夫でしょうか?」


 控えめに声を掛けてくるエルミナのお陰で我に返ったレックスは気を取り直して先を急ぐことにした。

 エルミナは人の心の機微に敏感なのかも知れない。

 フルフェイスの兜で表情が見えないはずなのに大したものだ。


 そう感心しながらレックスたち3人は城門を潜り迷宮内部へと足を踏み入れた。


「すまないな。さっさと依頼を達成するとしよう。一応、都市内の地図は入手したが……」


 レックスが取り出したのは、羊皮紙に描かれた雑な迷宮都市のマッピング図である。

 はっきり言って精度が悪いし見にくくてしょうがない。

 だが、ここはマッピングの魔法を試してみる良い機会でもあるだろう。


「エルミナ、探るのだ」

「はッ!」


 威勢よく返事したエルミナが魔法を行使した。


地形把握マッピング


 迷路のように入り組んだ通路に彼女の声だけが響き渡る。

 ゲームならボードが浮かび上がりマップが表示されるはずなのだが特にそのような現象は起こらないし、兆候も見られない。


「エルミナ、何か分かったか?」

「はい。目の前に迷宮のマップが浮かんでおります」

「ふむ。俺には見えないから分かるのは術者だけと言う訳か……少々不便だが手書きの地図よりはマシか」

「では道案内を致します」


 そう言ってエルミナが先頭に立って歩き出すが、レックスからしたら迂闊な行動だ。

 すぐに彼女の隣に並んで歩き出した。

 あまり極端に感情を表情に出さない彼女の顔が驚きに染まっていく。


「あ、あのレックス様……私が先導いたしますので!」


 呼び方も変わっているが彼女は気が付いていないようだ。


「お前は前衛向きではない。それでも現地の魔物には勝てるだろうが、基本的には前衛は俺とブリジットが務めた方が良い。想定外の事態が起こらんとも限らんからな。今回は通路も狭いし俺がお前を護る! ブリジットは最後尾を警戒しておけ」

「はいッス!! 後ろから来た野郎共は全員地獄に叩き落としてやるッス!!」


 ブリジットが中指をおっ立てて、とても聖女とは思えない発言をしているが大丈夫だろうかとレックスは心配になった。

 これが聖女で大丈夫か?と言いたいところだ。


「俺がお前を護る……俺がお前を護る……俺がお前を護る……俺がお前を護る……」


「ん?」


 ブリジットは無視するとしてエルミナの様子がおかしい。

 何やらぶつぶつと呟いているようだし、顔も何処か赤く火照っているような感じだ。


「おい、エルミナ? ひょっとして気分が悪いのか……? 何かのバッドステータス!? 罠か?」


 慌ててレックスは周囲を窺うが特に魔物がいるようでもないし、罠にかかったようにも思えない。レックスもブリジットにも変化が見られない。


「だ、大丈夫ですわ、レックス様……何だか心が温かいのです」

「そうか? 特に体に変化はないのだな?(おかしいよな。エルミナも耐性を持っているし装備も良い物に変えたんだし……)」

「申し訳ございません。大丈夫ですわ」


 エルミナがそう言い張るのだから、これ以上追及するのもなと思いレックスは口を噤んだ。


 その後もエルミナの先導で進んでいくが、特に魔物に遭遇することもなく攻略は順調そのもの。ミノタウロスがいるらしい場所までは、他の探求者が魔物を狩り尽くしたのかも知れない。

 そう考えていると、通路の先で剣撃の音が聞こえてきた。

 明らかに戦いの音。


「行くぞ! ブリジット! エルミナ!」

「はいッス!!」

「承知!」


 恐らく探求者が魔物と戦っているだけかも知れないが、万が一と言うこともある。レックスはすぐに駆けつけることに決めて、走り出した。


 現場にたどり着くのに時間は掛からない。

 ブリジットとエルミナは違うが、位階レベル100ともなれば軽く走るだけで、この世界で着いて来れる者などいないだろう。長距離も全く問題なく高速で走り続けられるに違いない。


 レックスの目に飛び込んできたのは、オーガ5体とギガラットの群れ。

 それと戦うのは5名からなる探求者パーティーであった。

 見たところ戦士系2人、魔導士系1人、回復系1人、後衛攻撃系1人と言った感じで、明らかに前衛が足りておらず苦戦している。

 まだ魔物がどの程度の位階レベルなのかは予想できていないので、実戦で確かめる良い機会である。


「助けるぞ! ブリジット!」

「ウィッス!!」


 レックスが背中の大剣を抜き放ち、ブリジットは担いでいた巨大な十字架を持って魔物の群れに襲い掛かる。


「はァッ!!」

「うりゃッス!!」


 オーガに囲まれかけてすり潰されそうになっていた戦士たちの脇を一瞬で駆け抜けたレックスは、気合一閃、オーガを力任せに斬り伏せる。

 大剣は右肩から入って見事に左脇腹に抜け、オーガの体は分割されるがレックスの流れるような動きは止まらない。

 勢いそのままにもう1体を一刀両断。

 レックスの桁外れな膂力によって、分厚い体躯を持つオーガの体が斬り裂かれ別れを告げる。


 まさに瞬殺――2体のオーガが大きな地響きを立てて大地に体を横たえた。


 ブリジットは大きくジャンプして、十字架をオーガの顔面に振り下ろしたかと思うと、次の瞬間には頭部が柘榴ざくろのように弾け飛んだ。

 後に残るは頭のないオーガの巨躯のみ。


 突然の闖入者に探求者たちは動きを止めて、レックスたちの素早い攻撃に見入っていた。


二重化ダブレット亜極雷陣アンペール


 エルミナは広域雷撃魔法の強化バージョンで動き回るギガラットを一網打尽にしている。

 バチバチバチと言う激しい音と共に広範囲で雷撃が荒れ狂う。

 魔物の苦痛の叫び声すら掻き消すほどの大音量。

 通常なら全身麻痺程度の威力しかないが、それを二重化することで攻撃力を上げているため、ほとんどのギガラットは動きを止めている。


 レックスは残りの2体のオーガにも斬りかかる。

 転移直後に試した鬼武蔵とは比べるべくもない、圧倒的にトロい攻撃動作。

 まるで止まっているかのように見える。

 そんなものはフィクションの中でしかお目に掛かれないと思っていた。


 だが――現実だ。


 レックスが大剣を1振りするだけで、命が1つ刈り取られる。

 1体は頭を叩き割られた挙句、一気に体が左右に断ち斬られた。

 最後の1体は横薙ぎの一閃で、上半身と下半身に斬り離されて千切れ飛ぶ。


 全ては一瞬の出来事。


 レックスはしっかりと動けたことに手応えを覚えて満足感を得た。

 ブリジットも自分の攻撃力にご満悦の表情だ。


 探求者たちの刻は未だ止まったまま。


「大丈夫ですか?」


 しばらくキメポーズを取っていたレックスたちであったが反応がないので仕方なく声を掛けた。それでもポカンとしたまま固まっているので、ブリジットも煽りを含んだ言葉を吐く。


「もしもーし? 生きてらっしゃるッスかぁ?」


「……ッ!? あ、貴方たちは……?」


 ようやく我に返った金髪の戦士風の男――マッシュが戸惑いを感じさせる声で尋ねてくる。

 レックスが探求者タグに視線を向けると首にはゴールド級の証が掛けられていた。

 その他の者はシルバー級のようだ。

 となればそれなりの実力は持っている探求者だと言うことである。


「良かった。大丈夫なようですね。我々はこの先のミノタウロス退治に来た者です」


 安堵したような声で話すレックス。

 特に心配した訳でもなかったが、ここは気に掛けている振りくらいはしておくべきところだろう。


「助かりました……まさかこんな大軍に襲われるとは思いもよらず……」

「本当ですよ……危うく全滅するところでした。ありがとうございます」


 マッシュは素直に感謝の意を示している。

 空色の髪の少女――リリアンも御礼の言葉を口にしつつ、レックスたちの戦い振りに驚いている様子だ。


「いえいえ、人として当然のことをしたまでです。探求者仲間とあれば放ってはおけませんからね」

「そッス。そッス。当然ッスよ」

「皆様、ご無事なようで何よりですわ」


 ブリジットは若干怪しいが、2人共しっかり心配する様子を見せている。

 それに何より安心するレックス。


 話を聞けば、彼らは〈黄金の狼(ゴルディ・ファング)〉と言う5人のパーティーらしく迷宮都市の攻略のために訪れたと言う。お互いに自己紹介を終えると、彼らもまた、まずミノタウロスを討伐するのが目的らしい。

 あわよくばそのまま迷宮都市を攻略しようとも考えていたようだ。

 だがレックスの判断では、彼らの腕では到底攻略可能とは思えなかった。

 この地の最終ボスがどんな魔物なのかは分からないが、恐らくミノタウロス相手でもきついだろう。


「それにしても凄まじい剣の腕でしたね! あのオーガを一撃とは……」

「真、その通り」

「エルミナさんの魔法もとんでもない威力でしたよ……あんな魔法は見たこともありません」


 前衛を担当していたマッシュとガルドからすれば、オーガは強敵なようである。

 魔導士のリリアンも見たことがない魔法らしいので現地人が使いこなせるレベルではないのかも知れない。


 彼らの素直な褒め言葉に、ブリジットもエルミナも満更でもない表情を浮かべている。

 意外とチョロイのかも知れない。

 少しばかり不安になるレックス。


「あの……よろしければご一緒しませんか? えっと別に手柄を奪おうと言う訳じゃないんです。今の戦いで実力差は理解しましたし、きっとレガリアさんたちならミノタウロスも簡単に倒せるんじゃないかと思います。私たちも強くなりたいので皆さんの戦い振りをもっと目に焼き付けたいな、と思いまして……」


 殊勝なことを言い出すマッシュにレックスは好感を抱いた。

 人間的にも好ましい人物のように思えるし、特に問題はない。


「分かりました。それでは一緒に行きましょうか……」

「一緒に行くッスか!?」

「承知致しましたわ」


 ブリジットだけ少し嫌そうな表情をするが、マッシュは気にしていないようで、レックスたちはミノタウロスの討伐、あわよくば迷宮攻略へ向けて同道することとなった。


「おお! ありがとうございます! 魔鋼ミスリル級の方と共に戦えるとは……」


 マッシュたちは皆、一様に喜色を湛えた表情をして嬉しそうだ。

 そんな彼らの姿に、かつての仲間たちが重なってレックスは何処か感傷を覚えるのだった。

ありがとうございました!

次回、引き続き迷宮都市をゆくレックス一行。

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