第22話 ご機嫌レックス
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天津風に魔法を連発させてセル・リアン王国の攻撃で出た死者を生き返らせ、オーク全員を本拠地『黄昏の王城』へと転送した。
取り敢えず、ロクサーヌとその他数名に衣食住の世話を任せたレックスは玉座の間へ向かう。
一旦、玉座の間へと帰還したレックスに気付いた戦闘執事のジルベルトがすぐに近づいてきて礼をする。7人の聖女の指揮官であり、メイドたちを纏める者らしい洗練された所作には美しさすら感じられる。
「マグナ様、ご無事のご帰還、何よりでございます」
「ああ、ちょっと重大事があってな。一旦戻ることにした。ルシオラはいるか?」
「はて……先程まではそちらのデスクで打ち合わせをなさっておいででしたが……まさか重大事とは……把握しておらず大変申し訳ございません!」
「いや! いいのだジルベルト! しばらく玉座にて待つからッてオイ!」
全ては自分の責任だと言わんばかりの表情で、畏まって跪き謝罪の言葉を口にするジルベルトに、レックスは慌てて止めさせる。
が、彼はあっと言う間に玉座の間を出て走り去った。
「はぁ……まぁいいか……さて誰に城下町建設を任せるかな。やっぱりルシオラがいいのか……内政と外交、軍事とか適性があるのか?」
レックスは玉座でしか開けないコンソールを開くと元NPCの情報を確認していく。それにしてもよくもこれほどのキャラクターを作成したものだと今更ながらに感心する。〈黄昏の帝國〉がかなりの大勢力を誇っていた証左でもある
「魔法で地形を操り建築を任せられる人物。まずは都市計画を立てなきゃだめか……? その間はオークには仮の家に住んでもらうしかないかぁ」
守護者は少し物理に寄っている者が多いので、魔法を使える統括官の方が良いだろう。
頭ごなしに守護者配下の統括官を選ぶ訳にもいかない。
レックスは直属の統括官から選ぶことに決めた。
「となれば、リアリスか……現場は決まりだな。都市計画はやはり――」
「マグナ陛下!! お戻りになられたのですね! お出迎えもできず大変申し訳ございません!」
重厚なはずの玉座の間の扉を軽々と跳ね開けてルシオラが慌てて小走りで駆け寄ってくる。いつもの優雅な佇まいからは想像もできないほどの慌てっぷりだ。
「いや、気にしていない。落ち着くのだ、ルシオラ」
「は、はい……見っともないところをお見せ致しました……」
ルシオラが恥らっているが、速くザロムスに戻ってギルドマスターに報告する必要があるため、レックスはすぐに話を切り出した。
「それで話があるんだが……実はな『黄昏の王城』の城下に街を造りそこに豚人族を住まわせることにした」
「!? オークを……でございますか?」
「ああ、セル・リアン王国に襲われたオークの村の者たちを助けることになったのでな。せっかくだから――」
「私は反対でござます!!」
レックスの言葉を遮って、跪いていたルシオラが勢いよく立ち上がり声を荒げて叫ぶ。
予想外の言動に驚きを隠せないレックス。
自分が何をしたのかすぐに気が付いたのか、ルシオラが取り乱しながら謝罪する。
「あ、ああ……し、し、失礼しました。大変なご無礼を……」
「うわああああ。良い! 良い! 落ち着けって!」
今度はレックスが慌てる番であった。
自害しようとしたルシオラを何とか踏み止まらせる。
「ってお前らな……いちいち死んでお詫びとかするなよ……」
思わず素で呟いてしまうが、取り繕うのも面倒なほど疲れてしまうのも事実。
しゅんとしながら再び跪くと謝罪の言葉を述べるルシオラ。
「は、はい……申し訳ございません……」
「だからな? これは決定事項だ。〈黄昏の帝國〉の国是を忘れたとは言わせんぞ。それに理知的なオークたちだ。問題がない限り追い出すつもりはない」
断固とした口調からレックスの意思が揺るぎのないものだと理解したルシオラが頷いた。
「城下町の整備は統括官のリアリスにやらせることにした。そこでルシオラ、お前には都市整備の計画を立案して実行に移して欲しい」
「はッ……となれば今後も〈黄昏の帝國〉以外からの移住者が入って来ると言うことでございますか?」
「可能性は否定できんな」
「承知致しました。速やかに立案実行致します」
頭を下げるルシオラを見てようやくレックスが安堵のため息を吐いた。
「では余はザロムスに戻らねばならん。必要以上にへりくだる必要はもちろんない。だが、くれぐれもオークたちを蔑ろにするな。いいな?」
「はッ承知致しました」
ルシオラは頭を下げたままでその表情を窺うことはできない。
それに特に気にすることなく、レックスは立ち上がると【転移門】の魔法で生まれた闇へと消えた。
「ここは陛下の国家……愛しき御方……それがご意思ならば私は従いましょう……」
ルシオラの小さな呟きは誰にも届かない。
◆ ◆ ◆
神秘の森のオークの集落――その残骸に転移したレックスは、待機させていたブリジットとエルミナと合流した。
レックスはオークの集落を破壊し全て燃やした。
酷なことだとは思うが、彼らの執着の念を断つためであり、仕方のないことだ。
そうでもしなければ、動かない者もいたかも知れない。
「お帰りなさいませ。レックス様」
「今のところ周囲には誰もおりません」
取り敢えず、レックスはブリジットの両頬をつねっておいた。
「いふぁいいふぁいいふぁいッス!」
気が済んだレックスが指を離すと、ブリジットがすぐさま抗議の声を上げる。
「酷いッス! レックス様は鬼やー! ぐふぅ!!」
今度はエルミナに脇腹を殴られるブリジット。
ナイスだエルミナ。
レックスは取り敢えずサムズアップしておいた。
「ちょっとちょっとエルミナちゃんも何するッスか!」
返ってくるのは沈黙。
それが答えであった。
「はぁ……いいからさっさと行くぞ。疲れてきたし報告して寝る」
「はいッス……」
「承知致しました」
【飛行】で闇夜へと舞い上がると光の見える方向へ針路を取った。
既に真夜中をとっくに過ぎてしまっている。
思ったより犠牲者の数が多かったため蘇生に時間が掛かったのだ。
約束は約束。
レックスが決して違えることなどできようはずがない。
――必ず『ティルナノグ』に戻ってくる。
そう言って去って行き、2度と返ってこなかった仲間のことを思い出す。
事情はよく分かっているし、現実が大事なのは間違いない。
理解はできるが、心の何処かで納得がいっていないだけ。
「僕の我がままだってことは分かっているんだ……皆、止めたくて止めた訳じゃないはずなんだ」
唐突に思い出してしまったレックスは頭を振って納得できない思いを振り払った。
そうしないと仲間を恨んでしまいそうだから。
ブリジットとエルミナは横目でレックスの顔――と言っても兜ごしだが――を見つめていたが何も話し掛けることはなかった。
そんなことを考えている内にザロムスの街に到着し、閉じられている門を無視して直接探求者ギルドの前へと降り立った。
扉を開けて中へ入ると、レックスたちの帰還を待っていたようで、ホールにロイス都市長とギルドマスターのエルンスト、ギルド職員数名が何やら話しながら座っていた。
彼らは入ってきたレックスたちに気付くと一斉に立ち上がり出迎えた。
疲れもあるだろうに、ご苦労なことだ。
ただただ待ち続ける辛さはレックスがよく知っている。
「レガリア殿、ご苦労様と言いたいところだが、まずは報告を聞きたい」
「お疲れのところすまないながな……首尾はどうなったんだ?」
ロイスとエルンストが申し訳なさそうに尋ねてくる。
偉い立場の人間だが、人格者である。
他の現地人も彼らのようであって欲しいものだ。
「問題ない。オークは殲滅した後、火葬して集落は破壊して燃やし尽くした。もう村の人間に害が及ぶことはないだろう」
レックスが自信に溢れた態度で断言したので全員が安堵の声を漏らした。
ほっとして力が抜けたと言ったところだろう。
「しかし……よく倒せたな。どうやったんだ? 周辺に王国の斥候と探求者がいたんだが、魔物のせいで逃げ帰ったと聞いた。お陰で全く情報がないんだ」
「簡単なことだよ。私の剣と魔法ですり潰した。それだけだ」
オークたちと出会った周辺も戦いの跡に見える痕跡を残しておいたので問題はないはずだ。後は、街道沿いにオークの集落まで調査しながら向かえば依頼終了である。
「言ってくれるぜ。まぁ領都ベリーズにもここにもオークが来ることはなかったからな。レガリア殿の言う通りなんだろう。朝一番に調査に向かわせるから諸君らは休んでくれ」
レックスの余裕の態度に苦笑いで応えるエルンスト。
隣ではブリジットが偉そうに、ない胸を張って威張っている。
エルミナはいつも通りの微笑を浮かべたままだ。
こいつらの態度を見ればそう言う反応になるよな。
特にブリジット、お前のことだ。
そう言うとこだぞ!
やはり説教が必要なようだとレックスはしみじみと思った。
「ああ、疲れていたので助かる。ではそうさせてもらおうか。ところで――」
「心配しなくてもいい。依頼が達成されていればレガリア殿とお譲さんたちは魔鋼級に昇級だ」
レックスの言いたいことなどお見通しだ。
やはり有能な人間と言うのはこんな人のことを言うのだろうなとレックスはまたも優秀な仲間たちのことを思い出してしまう。
「それを聞いて安心した。頑張った甲斐があったと言うものだ。ではな」
「んじゃッスー」
「それでは」
ギルドの皆に見送られ宿へと帰還して部屋へ入るなり、レックスは大はしゃぎして歓喜を味わっていた。
態度には現さずに、だが。
覇王は辛いよ。
「(やったぁぁぁぁぁ!! やっと終わった! 疲れたよホント……でもこれで魔鋼級かぁ! 一気にジャンプアップだし計画通りに事は進んでいるぞ! 意外と僕もやるんじゃないか?)」
かなりの面倒事だったがやる価値はあったはず。
そのはずだ。
そうだよな?
レックスは自問自答しつつも達成感に包まれてとにかくご機嫌であった。
「レックス様、お疲れ様ッス! いやーでもオークなんかを住民にするなんて誰も考えつかないッスよ! マジパねーッス!」
「流石はレガリア様ですわ。オークなどにまでお慈悲を掛けるなど、まさに王者たる器を持つ存在ですわ」
ブリジットとエルミナにも言うべきことはあるが、まぁ今はいいだろう。
上手くいったのだから。
「お前たちもご苦労だった。よく休め。そ・れ・と・な? 俺はレガリアな? 様もいらんぞ? いい加減に覚えような? な?」
だが言うべきことだけは言っておいたレックスである。
一応はな。
一応だ。
レックス一行は仲間――設定は大事なのである。
ありがとうございました。
また読みにいらしてください。
次回、ウラーヌス帝國敗北を知った各国は。




