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2度目の人生はゲーム世界で~NPCと共に国家ごと転移したので覇王ムーブから逃げられません~  作者: 波 七海


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第18話 戦後処理

いつもお読み頂きありがとうございます。

「こ、講和会議だと……?」


 ヴァイアルが言われた言葉の意味が理解できずに困惑した表情になる。


「ええ、私たちは別に貴方たちの国と戦争をしたかった訳ではないもの」

「そ、それでは我が国は貴国の友好国となるべきだ……いや! なりたいと思う!」


 ルシオラがそう言うと、急に湧いた希望に背中を押されてヴァイアルが上ずった声で答える。そこには哀れなほどの必死さが滲み出ていた。


「とは言うけれど、一旦交わした約定を破って攻めてくるのはどうかしら? 確か戦いは振りだけだったと思うのだけれど?」


 酷薄で冷徹な言葉に、一転して冷や水を浴びせられたように硬直するヴァイアル。


「そ、それについては心から謝罪申し上げる! 私は側近に唆されてついつい攻撃を指示してしまったのだ!」


「そんなこと私の知ったことではないわね。責任を取るのなら命令を下した者の首が必要よね?」


 他人のせいまでして必死の形相で弁明するも、返ってきたのは無慈悲な言葉。

 ぐうの音も出ない正論で殴られて絶句するヴァイアル。


「でも喜ぶことね。我が君、〈黄昏の帝國トワイライト・アルカディア〉の絶対者マグナ陛下のご慈悲は大海溝よりも深いわ。貴方の首如きで国家滅亡と言う重大事が避けられるのだから、安い代償だと思わない?」


「し、しかしな……私がいなくなればこの国をまとめる者がいなくなってしまう! 虎狼族は再び、貴国へと攻め入るだろう!」


 とにかく生にしがみ付きたくてヴァイアルは必死に足掻く。

 その目はルシオラにのみ向けられている。

 自分の命運を握っているのが目の前の女だと理解しているから。


 誰もが抵抗を試みる情けないウラーヌス帝國帝王の姿に集中する中、意外なところから声が上がった。


「そうはさせん。俺が残った虎狼族をまとめよう」


 虎狼族の者たちが声のした方へと振り返ると、そこには堂々たる態度のヴァルガスがいた。更に彼は言葉を続ける。


「元はと言えば、和平の使者殿に対して礼を欠いたのはこちらの方だ。流石に使者殿があれほどの強さを持つなど誰も考えてはいなかったが……。とにかく他国の王を侮辱しておいて先帝をしいされたからと攻め込んだ挙句に大敗したのだ。こちらが文句など付けられようか?」


 明らかにヴァルガスは虎狼族の生き残りたちに語り掛けている。

 彼は虎狼族が全滅することだけは避けねばならないと考えているのだ。

 それにこの世界は弱肉強食。

 2度の戦いでかなりの同胞が殲滅され、大いにその数を減らした虎狼族は今までは人間種を狩る側だった。


 それが逆に回る可能性が出てきたと言うことだ。


 正式に跡を継いだ訳ではないが、先帝の後継者ともくされていた者の発言は重い。

 虎狼族の者たちが話し始め、周囲が徐々に騒がしくなる。


「随分と弁えた発言だと思いますよ。ルシオラ。ですがそれで我が国に対する……いえ、マグナ覇王陛下に対する侮辱に釣り合っているとは思えませんね。ここは責任者たる帝王の首はもちろん、領土の割譲、宝物庫の全てと素材の供出を求めるのが落としどころだと考えますが? それに陛下の〈黄昏の帝國トワイライト・アルカディア〉にとって配下が増えるのは"とくてん"があると昔、御方々(おんかたがた)が仰っていたことを覚えております」


 今まで事の成り行きをジッと見守っていた鬼武蔵が講和条件に口を挟んできた。

 ルシオラとドラスティーナは彼から大筋のことを聞かされているため、ある意味、想定通りの流れと言える。


「そうね。本当のところ、私たちからしたら虎狼族がどうなろうと問題はないの。それは理解しているかしら?」


 流石に宝物まで奪われるとなると……と思ったヴァルガスであったが、今更、所有していて何の意味があるのか考えると、それほど痛くもないことに気付かされる。

 ウラーヌス帝國は貨幣で経済を回しているのではない。

 食料は自ら人間などを狩って生活していたし、人間のように文化的な生活には頓着していないのだ。

 そもそもこの王城すら人間から奪った物であり、虎狼族が建設した訳ではない。


「理解しております」

「な、何を勝手なことを――」


 長子のヴァルガスが丁寧で低姿勢な態度を取る中、自分の首が掛かっていると知って帝王ヴァイアルが喰って掛かろうとするが、すぐに取り押さえられて口に破いた布を詰め込まれてしまった。


「我が国――ウラーヌス帝國は貴国〈黄昏の帝國トワイライト・アルカディア〉の支配下に入り忠誠を誓いましょう」


 その場に跪いて頭を下げたヴァルガスが降る決断をし、それを言葉として示した。


 ルシオラとドラスティーナ、鬼武蔵が顔を見合わせる。


「分かったわ。その忠誠は偉大なる我が君、マグナ覇王陛下に捧げなさい。後は詳細を詰めるだけなのだけれど、これだけは言っておくわね。領土の割譲は他国に知られぬように隠蔽するものとし、表向きは我が国と対立しているように振る舞いなさい。以上よ」


「ははッ……」


 正直、後半部分の理由が分からなかったヴァルガスだったが、当然逆らうようなこと言動はしない。せっかくまとまろうとしているのに余計な口出しをして、ご破算になることだけは絶対に避けねばならないからだ。


「話は終わったな。では我は帰って寝る。ではな」


 ドラスティーナはようやく仕事から解放されたとばかりに大きく体を伸ばすと、直ぐに【転移門ゲート】の魔法を行使した。

 用は済んだとばかりに守護者ガルディアンたちは生み出された闇の中へと消えていく。


「こちらから統括官レガトスを送るわ。細かい内容は彼らと詰めなさい。後――覇王陛下がいらした時に侮辱した無礼を謝罪しなさい。それくらい分かっているわよね?」


「は、ははッ……もちろんです」


 もの凄い圧で念を押されてしまい、空気が凍ってしまったかのように感じて怯んでしまったヴァルガスであったが、何とか言葉を絞り出した。

 ルシオラはそれを聞くと、ヴァルガスに興味を失ったのか宝物などの接収を守護者ガルディアンたちに指示する。


「レジーナは【転移門ゲート】で宝物庫内の物を持ってきて欲しいの。ルリとルラは案内をお願いね?」


「分かったで。うちに任しときーな」

「りょ!」

「り、了解ですぅ!」


 仲間たちの頼もしい言葉に微笑みで返すと、ルシオラもの闇の中へと姿を消した。それを跪いたまま見送ったヴァルガスは、これから付き合い方を間違いないようにしなければと、心に深く刻み込む。凄まじいストレスによって寿命が縮んだ気がしながらも、残った同胞へ向けて真摯に告げる。


「生き残った虎狼族をまとめて立て直す。皆、協力してくれ」


 ここに〈黄昏の帝國トワイライト・アルカディア〉初の国家間戦争は幕を下ろした。


 〈黄昏の帝國トワイライト・アルカディア〉がウラーヌス帝國と戦って勝利したことは周辺国家に強い衝撃を与えることとなる。




 ◆ ◆ ◆




 王城に帰還した後、すぐにザロムスの宿に戻ったレックスはブリジットとエルミナを連れて、再び探求者ハンターギルドを訪れていた。


 依頼を受けるためなのだが、最初は何にすべきか迷っている状況だ。

 とは言え、選択肢がないと言うのも事実であり、同時に夕刻と言うこともあって依頼状自体が少ない。時間帯の問題なのだろうが、探求者の姿も疎らであった。


 文字が読めない問題は『ティルナノグ』の遺産級クレロスアイテムである『古代人の叡智』と言うネックレスを装備することで解決できた。

 『ティルナノグ』に存在する神代の言語(トゥルー・ラング)古代人の言語(ロンカ・ラング)を解読するためのアイテムだが、この世界でも効果を発揮してくれたことに正直、レックスは安堵していた。


「うーん。何を受けるか……」


 はっきり言って悩ましい問題だ。

 駆け出し探求者として受けられる仕事など、たかが知れているらしく周辺の雑魚魔物駆除――討伐ですらない――や薬草採取などばかりなのだ。


 『余が動くことに意味があるのだと知れ』


 などと偉そうにほざいてしまった自分を殴ってやりたい。

 こんな時には都合良く何かのイベントが起こるところだぞと内心で愚痴って何処かの誰かに責任転嫁をしつつ、レックスはひょっとして幸運値が上がれば何とかなるのでは?と思いついた。


 またまた実に短絡的な思考である。

 伝説級ヒストリエの装備品であるハッピーリングと言う指輪を試してみることにしたのだが、何度見てもヤバそうなネーミングセンスだ。


「仕方ないか……ここは地道にいくしかない……幸運と言ってもすぐに舞い込んでくる訳がないだろうし……」


 レックスは周囲に聞きとられない程度の小声で呟きを漏らす。

 その声は覇王にはあるまじき情けなさだ。

 ピンチの時にこそ素晴らしい考えが浮かんでくるのが有能な人間なのだろうと考えてしまう。


 だが浮かんでくるのは虚しさだけ。

 それを何とか頭を振って追い払うと、レックスは威厳を持った態度で堂々と言い放った。


「止むを得ん! 選択肢がない以上、魔物の駆除依頼を受けるしかないだろうな」


 だが予想していた通り、エルミナとブリジットが間髪入れずに反論する。

 そんなことなどとんでもない!と言うように。

 そうやってレックスへとにじり寄る2人の目が雄弁と語っている。


「レガリア様にはそのような情けないことなどさせられませんわ!」

「そうッスよ! なんでそんな物悲しい依頼を受けなきゃならないんスか!」


 その容赦ない言葉にレックスの心が抉られる。

 想像以上のダメージが辛すぎて心が叫びたがっているんだ!


「そ、そうだな……情けなくて物悲しい依頼はな……ちょっとな……そうだよな……」


 何とかして言葉を絞り出すが、その声は尻すぼみになって消える。

 元々が小心者なのに無自覚に文句を言われているようで心が締め付けられるように痛い。彼女たちに悪気が一切なさそうなのが、また何とも言えなくて心に刺さるのだ。


「そうッスよ。レッガリッア様、ここは無理やり強そうな魔物でも血祭りに上げないッスか?」


 何この聖女、血生臭いと思いつつ、レックスは思わずため息を吐いた。

 と言うかレッガリッア様って何だよと心の中で突っ込みを入れる。


「(うーん……無理やり実力を示すのってありか? ってそれはなしだろう。ギルドにはギルドのルールってものがあるだろうしな)」


 レックスが顎に手を当てて1人考えていると、背後から扉を乱暴に開く音と同時に大声が聞こえた。何事かと振り向いたレックスが見たのは、ギルドに飛び込んできて何やら騒ぎ立てている男であった。


 男は興奮状態ながらも、たどたどしい口調で説明を始める。


「たたた、大変だッ! 大変なんだよッ! セル・リアン王国が送った軍隊がオークの群れに敗れたらしい!! オークの軍が反撃を始めたって話だ!」


 彼は大いに慌てた様子で身振り手振りを交えて大声で説明していることから重大事なのだろう。駆けつけたギルド職員たちもそれを聞いて、閑散としていたギルド内が急に騒がしくなり始める。


「そんな馬鹿な!? 近くにそんな物など見当たらなかったはずだッ!!」

「ザロムスの都市長がすぐにいらっしゃるそうだ! 早急に対策せねば……すぐに探求者を集めるだけ集めるんだ!」


 レックスは事態をすぐに把握するが、同時に疑問も浮かんでくる。

 オークと言えば『ティルナノグ』ではそれほど強い魔物ではなかったはずで、位階レベルなど10~20と言ったところだった。

 ただ、プレイヤーは種族で豚人オーク族を選択することもできるため例外であり、オークと言っても油断できる相手ではない。


「(ええ……いきなり幸運発動か? 都合良過ぎぃ! こ、これは絶対に介入して成功させないとな……)」


 これは絶対に大事おおごと案件になる。

 解決して必ずや名を挙げて見せる!


 レックスはそんなことを目論みながら、フルフェイスの兜の中でニヤリと嗤った。

ひとまず虎狼族と戦争編は終了です。

次回、ザロムスの探求者ギルドに舞い戻ったレックスはオーク討伐へ……


ありがとうございました。

また読みにいらしてください。

明日は12時の1回更新です。


もし面白い、興味がある、続きが読みたいと思われた方は

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