表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/19

第11話 レックス、探求者になる

お読み頂きありがとうございます。

 玉座の間には守護者ガルディアンたちが集まり跪いていた。

 いつもならルシオラだけなのだが、重大な発表と言うことで彼らも呼び出したのだ。


 もちろんクリスタル、アダマンタイト、ウルティマイトなどの稀少金属を使って作られた豪奢な玉座にはレックスが鎮座している。


「余は探求者ハンターになる」


 開口一番そう言うと、何処か困惑した空気が流れた気がする。

 ルシオラはすぐにいつも通りの柔和な口調で賛同の意を示したのだが、何かおかしなことでも口走ってしまったかとレックスは不安に駆られる。


「探求者とはどのようなものなのでしょうか?」

「この世界の未知の領域を踏破する者だそうだ。秘境や遺跡、ダンジョンなんかもあるらしいぞ。まぁ地味な仕事もあるようだがな……」


 インサニアが尋ねてきたので、レックスは興味を持ってくれたようだと喜んで質問に答えた。しかし何故か反応がかんばしくない。


「地味な仕事は護衛や魔物狩りなんかがそうだな……まぁとてつもなく強い魔物の討伐などもあるようだが……まぁ情報収集も兼ねてな」


 あまりにも反応が薄いので慌てて情報収集も目的だと付け加えると、流石に発言する者がいた。


 異議であったが。


「そのようなことは、うちらにお任せやで。陛下はこの場所でただご命令下さればええんやで?」

「レジーナの言う通りです。陛下。俺でよろしければひと暴れして参りますぜ?」


 レジーナはただレックスの身の安全を心配しているようだが、ヴィクトルは一体暴れてどうするつもりなのかと問いたいところだ。

 一体何処でどうやってひと暴れする気だお前は。

 鬼人族の彼は人間との関係をぶち壊しそうで怖くて聞けない。

 レックスとしても単純に周辺国からの印象が悪いのなら探求者になって善行を積めば、良い影響が出るのでは?と言う安易な発想からくる提案なので、特に壮大な戦略であるはずもなく。


「余が動くことに意味があるのだと知れ(直接現場を見て把握しておくのも大切だからなぁ……情報がないのは本当のことだし)」


 少し強めの口調になってしまったが、一応は自分の目で世界を見ておきたいと言うのは偽らざる本音の部分である。それに反応して守護者たちに緊張が走るが、ここで鬼武蔵が不敵な笑みを浮かべて口を開く。


「くくく……なるほど。そう言うことでしたか。流石はマグナ陛下……それならば是非、陛下に動いて頂くのがよろしいかと存じます」


「そ、そうだろう? 理解しているようで嬉しいぞ!(何言ってんだ鬼武蔵は……なるほどって何だ?)」


「ですが、流石に陛下だけと言うのには賛同できませんね。誰かを同道させるべきかと」


「そうか。誰が良いか……」


 ぐうの音も出ないほどの正論なので、レックスは鬼武蔵の提案を入れることに決める。

 だが、誰が適任かと言われると困ってしまうものだ。

 人間族の方が良いのか、亜人族でも良いのか。

 天使族や魔神族、悪魔族は人間に思うところが有りそうなので無理かも知れない。

 とは言え、彼らであれば強力な力を持っているし人間に擬態することも可能だ。

 レックスは色々と考えた後、ようやく口を開いた。


「ジルベルト。7人の聖女隊(アトラス)から1人、適任者を選び出せ」

「はッ」


 後は誰にしたものかと考える。

 レックスは【剣聖】と【魔人】の職業を取っているため、剣も魔法も使いこなせる。探求者としてのバランス――見た目の印象を考えると前衛、魔法、回復の3人が妥当なところかも知れない。


「レジーナ、貴様の眷属から攻撃魔法を使える者を選べ」

「承知致しましてん」


「陛下、何処で活動されるおつもりでしょう?」

「ああ、情報によればセル・リアン王国南部にあるザロムスと言う都市があってな。そこにしようと思っている。王国は探求者の数も多く、ザロムスは交易が盛んで人口も多いらしいからな」


 ルシオラの問いにレックスは、情報を元に作られた簡易な地図の一点を指差した。


「おお! それは重要な拠点ですね。そこに目を付けられるとはやはり陛下は神をもしのぐ目をお持ちだ! この鬼武蔵、感服致しました」

「お、おう(お前には一体何が見えてるんだよ……知らないんだよ……)」


 知らないところで勝手に株が上がっているような気がするレックスだが、あまり持ち上げ過ぎるのは止めて頂きたいところだ。後で何かやらかした場合、レックスの信用がストップ安を記録してしまうのは間違いないだろう。


 そうなった時に愛すべきクランが崩壊し終焉を迎えるに違いない。

 レックスはそんな未来を想像して怖気おじけが走る。


「他に何か新たな発見はあったか?」

「はい。我が国の北東にウラーヌス帝國なる国家を発見致しました。どうやら虎狼ころう族が治めている国のようです」


「人間ではないのか……そいつらは何を喰っている? 人間か? 人間と敵対しているのか? 全ての国家との関係性を探るのだ。他にも重大なことがある。我が〈黄昏の帝國トワイライト・アルカディア〉が多くの国家に囲まれた、言わば中央部に転移した訳だが我々が来る前はどうだったのか? どんな場所だったのか? 考えられること全てを調査せよ」


「はッ!!」


「とにかく地道に焦ることなく、決して侮ることなく和平の道を模索せよ!(頼むから問題だけは起こさないで……)」


 とにかく穏便に済ませたい小市民なレックスとしては、周辺国とはできるだけ波風を立てたくないと言うのが本音だ。強く命令しておけば聞いてくれると判断したレックスは内心では動揺しながらも貫禄たっぷりに言い放った。




 ◆ ◆ ◆




 レックスの仲間として同道することになったのはジルベルト配下の7聖女の1人、ブリジット・三星ミホ、もう1人はエルミナだ。


 ブリジットは人間族でジルベルト配下である7聖女の三女であり淡い青色の銀髪と瞳が美しい法衣を纏った元気なボクっ娘である。ビルドは【聖女Ⅹ】はもちろん神聖系の魔法と戦士ウォリアー系の職業クラスを併せ持つので、攻撃に回復にと活躍してくれるだろう。


 エルミナは悪魔デーモン族でレジーナの眷属である。しなやかな艶のある金髪をツーサイドアップにした妖艶な娘で漆黒の瞳は見る者全てを魅了する。装備は探求者の魔導士スタイルで身軽な革の鎧にマント、短剣と言ったところだ。とは言えクランに放置されていた装備品なので見た目とは裏腹に、防御性能はかなりのものを誇る。


 どの程度の強さを持つ者を同行させるかで意見が割れたのだが、今までに判明している人間の位階レベルから50~60と言ったところだと言う結論に至ったらしく彼女たちもその範囲内だ。


 レックスは通常の鎧――最高の神話級ロギアの『覇王』専用装備から、同じく神話級ロギアの白銀の鎧に装備を変更した。

 同様に大剣もヘルムも統一した。念には念を入れてである。


 出発の刻は盛大に見送られた上、守護者ガルディアン統括官レガトスの中には咽び泣く者までいたためレックスは若干引いていたが、それも好意の表れだと自身を納得させたほどである。


 ブリジットは暗黒魔法【飛行フライ】が付与されたアイテムの効果で、エルミナは悪魔族の力で、レックスは魔法で闇夜の空をゆく。

 月が大きく星々が燦然と輝く中、空中遊泳を楽しんだレックスは拠点ドリスを経由して無事目的地へと到着した。


 当然、直接ザロムスに降りることはせず、近隣の森に降りたった後に徒歩で向かい、朝一番に街へと入る。


「では次~。はい3人か……旅の目的は~?」


 明らかにやる気のなさそうな衛兵が立ち入りの警護と身辺改めを行っているが、何か提出する物が必要なのか緊張するレックス。彼は順番が迫ってくると、何もしていないのに胸の鼓動が高まってしまうタイプであった。


「初めてこの街に来た者だ。探求者になるためなんだが何か必要な物はあるか?」


「あ~そうなんか~。探求者になりに来たってことは身分証なんてねぇよな~。って、んじゃ関所はどうやって通ったんだ?」


「(関所だって? そんなもんあったか? 見落としたはずは……ヤバい)」


 無言を貫くレックスを不審に思ったのか、衛兵が詰め寄って来るがどう対処すべきか分からず固まってしまう。

 その時、近寄って来たもう1人の衛兵が口を挟む。


「おいおい。聞いてねぇのかよ。こないだの転移で関所ごと消えたって話だろうが」

「あ~そうだったな。それじゃ通行税3人でリアン銅貨15枚な」


 リアン銅貨と言うのはセル・リアン王国で流通している貨幣である。

 一応、レートが定められているらしいが、詳細が分かっていないため、レックスは取り敢えず『ティルナノグ』内で使用していたナノグ金貨1枚を指で弾いて渡す。

 サンドベルグ王国とラミレア王国がナノグ金貨を使用しているらしいので、使用できると判断しての行為である。


「こ、こりゃあ、ナノグ金貨じぇねぇかッ!! こんなのどれだけ返せばいいのか分からねぇよ!!」

「ナノグ金貨ぁ!? げえっ本物じゃねーか!!」


 何やら衛兵が驚愕で叫んでいる。

 どうやらナノグ金貨は相当な値打ちがついているのが衛兵たちの態度からも伝わってきた。調べさせたのだが質は確かに良いのだ。


「いらん。残りは取っておいてくれ」


 ここはケチっては駄目なところだ。

 そう判断したレックスはキメ顔でそう言った。

 ヘルムで見えないのだが。


「かっけぇッス!! レックス様、マジパねぇッス!!」

「流石だわ……愛しの御方……」


 レックスがせっかくクールに去ろうと言うのに、その後ろではブリジットが目を輝かせて鼻息荒く興奮している。

 エルミナも頬を染めてとろけて恍惚とした表情だ。


「行くぞ。宿探しだ」


 後ろでひたすら賛美されると言うのも恥ずかしいものだ。


 レックスはヘルムがあって本当に良かったと心の底から思った。

次回、探求者になったはいいが、いきなり不穏な事態に……


ありがとうございました。

また読みにいらしてください。

明日は12時の1回更新です。


面白い、興味がある、続きが読みたいと思われた方は

評価★★★★★、リアクション、ブックマークなどをして頂ければ嬉しいです。

感想やレビューもお待ちしております。

モチベーションのアップにも繋がりますのでよろしければ是非!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ