表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/27

21. 厄介な拾いモノとの壁(グレン視点)


ったく……俺が何したってんだ……。

ここまでアイツのことがわからないと感じたのは初めてだ。



サクラを森で拾ってもうすぐ半年。

アイツは別の世界から来たことを受け入れて、エイルメーアに馴染もうと努力している。


サクラは騎士団寮の掃除以外に厨房でガルドの手伝いを始めた。

ガルドは今でこそ厨房の番人だが、昔は隊長の隣で剣を振るった元ベテラン騎士。

安心してサクラを任せられる。


それにアレンに字を習い始めて「いつかグレンの役に立つ」なんて、いっちょ前なこと抜かしてやがる。


ったく、どの口が言ってんだか。


インクで黒く汚れた手で差し出してきた手紙。

下手くそな字で、俺への礼と“けがしないでね”。


……誰が怪我なんかするかよ。

つーか、何で鼻や頬まで汚れてたんだ。


夜勤前にペンとインクを買ってやれば「何かお礼を」だと。

アイツ、どんだけ気ぃ遣ってんだよ。


次に手渡されたのも、また手紙。

そういやアイツ、“お守り”だとか言ってたが……何だそりゃ。

やけにしっかり折り畳まれたそれを開いたら、これも俺の無事を願うものだった。


サクラは俺がする何でもないことにも、いちいち礼を言う。

自分のことより俺や周りのことを優先することが多い。

……“元の世界”とやらではどんな生活してたんだかな。


何するのも一生懸命なくせに、何考えてんのか読めねぇ。

かと思えば、少し目を離すと突拍子もないことをしでかす。

少しは、可愛げのある……放っておけねぇガキ。


俺にとってサクラは、そういう存在だった。



だが最近……いや、ここ数日か?

本当にサクラのことがわからない。


アイツにとって初めての星祭り。

普段からああいうキラキラしたモンに興味があるらしいから、前夜祭の点灯式に連れて行ってやった。


王城の中庭がぼんやり光り始めると、サクラの目に驚きと感嘆が灯る。

ガキなんてのは、いつもこのくらい素直でいりゃいい。


次の日、星祭りが始まるとさっそくレオンがサクラを連れて来た。

アイツのことだ、どうせ下らねぇことでも考えてたんだろ。


ニヤついてるレオンは兎も角、サクラはあれでうまく隠れた気になってんのか……ったく。

目を輝かせて走ってきたのを受け止めれば、どこかくすぐったそうな、初めて見る顔で俺のことを見上げていた。


帰り道で「デートって何?」なんて聞かれたが……レオンの野郎、余計な言葉教えやがって……。

サクラは十三歳。

ガキはまだそんなこと知らなくていい。


悔しそうな顔で俺を見るコイツは、やっぱりまだ……いや、まだまだガキだ。


あー……もしかしてガキ扱いされたのが嫌だったのか……?


星祭り二日日は約束通り、星祭りに連れて行ってやった。

セオドア隊長はああ言ってたが……あの人が自分のガキを連れて行ってやったの、確かガキが四歳とか五歳とかのときのことだろ。

何で十三歳のサクラを同じように扱ってんだ……。


“あの事件”以来、初めて見るモンは一人で食わなくなったサクラ。

あれもこれも気になる顔してたから、とりあえず全部買ってやったが、一番驚いてたのは串焼き。

肉を落としそうになるくらい驚いて、一角兎の串焼きを見つめる。


……ンな珍しいもんか?

たかが串焼きくらいで。


夜、眠そうなサクラに何度も声を掛けては目を開けさせる。

コイツに見せてやりたいモンがあった。


還星式(かんせいしき)

王都の街から光珠が空に還るように昇っていく、星祭り最大の見せ場。

魔術師団のヤツらが毎年、威信をかけて緻密な光魔法を使ってるんだと。


揺れる光珠を眺めて言葉を失うサクラ。

連れてきてやって良かったと思ったのも束の間。

アイツの目から光が消えて、どこか遠くを、何か俺の知らねぇモンに触れたように、反応がなくなった。


肩を揺すりながら何度も呼び掛けて、ようやく戻ってきたが……あの辺りからだ、アイツが本格的におかしくなったのは。


星祭り三日目。

この日は酒場のすぐ近くの警備。

最終日だからとか何とか言って馬鹿な飲み方をした挙句、騒ぎを起こすヤツが毎年いるからな。


で、昼前から俺に絡んできた香水くせぇ女。

しかも明らかに酒に呑まれてて支離滅裂、話が通じねぇ。

離れろっつっても離れねーし、そもそも俺はテメェの男じゃねぇよ。

ハァ……最悪だ……。


そのとき、ふと目に入ったのはサクラの姿だった。


詰め所から勢いよく出てくる小さな影。

両手に何かを抱えて、楽しそうに、でも必死に前を見据えている。

その真剣な顔を見た瞬間、心の奥がチクリと痛む。


またこんな人混みに……。


心配と少しの苛立ちが入り混じる。

だが俺の気持ちを余所に、サクラが怒鳴るように言う。


「わたしは食べてきたから、それグレンにあげる!」


一息に言うとサクラは詰め所の方に行っちまった。

キョトンとしてたのは、たしか見習いのジェイ、だったか。

とりあえずソイツに追い掛けさせて、俺は仕事に気持ちを戻す。


夕方、一緒に警備に当たってたヤツらが「ありゃお前が悪いよ」なんて口々に言う。

何で俺が悪りぃんだよ。


ンっとに……何が何だかわかんねぇ……。


それでも。

この日を境に、サクラは俺とロクに目も合わせなくなった。


何か話し掛けても、最低限の返事しかしない。

青白い顔ようなでどこか具合が悪そうにも見えるが、それにも「何でもない」しか返ってこねぇ。


そこから何日経ってもサクラは変なままだった。

俺は何かアイツが抱えている小さな不安や、強がりを感じ取るだけ。


レオンもサクラの様子を見て何か感じたようだったが、「お年頃じゃね?」とか意味不明なことしか言わねぇ。

娘のいる団長に聞いても言葉を濁す。


ったく……何なんだよ、本当に……。


今朝もサクラを起こしたが、やはり覇気のない声をしていた。


落ち着くまで話し掛けない方がいいのか?

……いつ落ち着くかは知らねぇが。


そう思って訓練場へ向おうとしたとき、廊下から聞こえてきた、アイツの叫び声。


何か考えるより先に、俺はもと来た廊下を走っていた。


ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

久し振りのグレン視点でした。

星祭りでのサクラとグレンの感じ方、微妙にギャップがあったんですね。

いやぁ、すれ違いって恐ろしい。

ではまた次回、エイルメーアでお会いできますように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ