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18. 背筋の伸びた立ち姿


レオンさんと並んで市場を目指す。

白や金で輝く街は本当に綺麗。


道中、何度も露店の人に声を掛けられるレオンさん。


「騎士さん、可愛らしい子連れてるじゃねぇか!」


「おう、知り合いの子だ! 可愛いだろ!」


綺麗に着飾った女の人からも声が掛かる。


「まぁレオンさん……今日はその子なの?」


「ハハッ、また今度な!」


一体、どういう知り合いなんだろう……?


今日はいつもの何倍も人が多いから、レオンさんとはぐれないようにしなきゃ。


「おーいサクラ、こっちだ」


レオンさんはよそ見をしながらフラフラっと歩いているようで、実はわたしがはぐれないように見ていてくれている。


「あそこの噴水、デートで人気なんだぜ」

「その焼き菓子屋は女の子にはサービスしてくれるんだ」

「サクラさ、初めて見たときより少し髪伸びたよな」


静かに歩くグレンと違って、レオンさんは常に誰かと何かを話していて賑やか。


レオンさんオススメの場所をたくさん聞きながら、街の南側にやってきた。


この辺りは宿屋街らしい。

大きな荷物を持った人たちがたくさんいる。


宿屋街の真ん中を抜ける通りの一角に、見慣れた大きい影を見つけた。


「ほら、あそこだ。サクラ、こっち来てみ?」


ニシシ、と笑うレオンさんと一緒に、なぜか通りを一本挟んだ植え込みの影から覗う。


グレンと少し離れたところに立つリカルドさんは、先程から何度も道を尋ねられているみたい。

道行く人からよく声を掛けられている。


グレンには……誰も声を掛けない。

それどころか、グレンの周りだけ妙にガランとしてすらいる。


大きくて、分厚くて、眉根を寄せて……。

うん、話しかけにくい。

グレンを知らない人なら、特に。


その様子をニヤニヤと見るレオンさん。


「ハハッ、ほんと相変わらずだな」


でもあれでいいんだ、とレオンさんが続ける。


警備をしているのが優しそうな騎士ばかりだと、悪いことを考えたり羽目を外したりする人が、騒ぎを起こすことがあるらしい。

グレンみたいに“見た目が怖そう”な騎士が黙って立っているだけで、犯罪の抑止力になるんだって。


そろそろ行くか、とレオンさんがわたしの頭にぽんと手を乗せる。


ただ立ってるだけのようだったけど、切れ長の目は行き交う人たちを鋭く観察していた。


グレンはグレンのやり方で、この街とお祭りの安全を守ってるんだね。


「グレン!」


今まで見たことがない仕事中のグレン。

嬉しいし誇らしいし……なんだか、むず痒い。


それを誤魔化すように、勢いよく走る。


本当にちゃんと仕事してるか確かめなきゃ、なんてイタズラ心も、少しだけ添えて。


カシャン──……。


鎧が軽く鳴る。

渾身の力を込めて飛びついたはずなのに、グレンは難なく受け止める。

よろけそうにすらならない。


「ハァ……お前な……」


「何で驚かないの!?」


澄んだ琥珀色が、じとりとわたしを見る。


「……覗き見するなら、もっとうまく隠れろ」


しかもバレてた!

いつから気付かれてたんだろう……。


それより、と続けるグレン。


「お前、まさか一人で来たのか?」


「え?」


レオンさんと一緒に、と言いかけて後ろを振り返って、次に周りを見渡す。


……いない!


「ハァ……アイツはいつもこうだ」


さっきまで一緒にいたはずなのに……。

レオンさん、こうやって姿をくらませてるんだ……。


話を聞いていたリカルドさんが、苦笑しながら通りの反対側を指差す。


あ、レオンさん、いた。

綺麗な女の人たちに囲まれて、何か話してる。


わたしたちの視線に気付いたレオンさんは女の人たちに手を軽く振りながら何か言うと、小走りで戻ってきた。


「悪りぃ悪りぃ」


これはきっと、ううん、確実に、悪いなんてちっとも思っていない。


「いやぁ、カワイ子ちゃんたちが、どうしても俺と話したいって言うからさ、ハハハッ」


「レオン、程々にしとけよ?」


リカルドさんの言葉も響いてなさそう。

掴みどころのない、ふわふわした雲みたい。



夕方の鐘が鳴って、四人で詰め所に戻る。


わたしの隣は、自然にグレンが歩く。


レオンさんはリカルドさんと並んで、わたしたちの前を歩いている。


広場に出ると、仲の良さそうな男女が噴水の縁に座っているのが目に入った。


「ねぇグレン、でーと、って何?」


ん゛……と少しむせたような声が隣から聞こえた。

次いで、わたしの視線を追って噴水の方へ目が動く。


「……ガキは知らなくていいことだ」


「もう子どもじゃないもん! 教えてよケチ!」


「何とでも言え」


「もういいもん……レオンさ「アイツには聞くな」」


ロクなこと言わねぇ、と小さく付け足された。


「どうせレオンに何か言われたんだろ」


「いろいろ教えてくれたよ、どのお店がいいとか」


「……そりゃ良かったな」


絡むことのない視線。

でも真っ直ぐ前を向く琥珀色は、どこか柔らかい。


傾いた夕陽に照らされた影が長く伸びる。

見上げると、険しくて、でも優しい顔が橙色に染まっていた。


来たときとは違って、口数の少ない帰り道。


まだまだ賑やかなお祭りの音が背景に溶け込む。


この静かな感じが、なんだか心地良かった。



翌日、わたしはガルドさんから握らされた小銭を持って、グレンと街へ向かった。


「いつも手伝ってくれてるからな、祭り楽しんでこい!」


バシッと背中を叩かれて変な声が出たけど、頑張りを認めて貰えたのはすごく嬉しい。


お小遣いのお礼を言うと、グレンの手を引っ張りながら外へ。


昨日レオンさんに教えて貰った焼き菓子屋さん。

一口大の焼き菓子を二つ買うと、本当に一つオマケしてくれた。


白地に金の縁取りをした星形の髪飾り。

これはグレンが買ってくれて、すぐに髪につける。


昨日のお祭りで見たときから、可愛いって思ってたんだ。


グレンに聞いても「悪くねぇ」しか返ってこなかったけどね。


初めて食べる一角兎の串焼き。

柔らかくて美味しい……って、これ兎なの!?


「二角と違って、一角のヤツは気性が荒いんだ」


驚くわたしに店主のおじさんが教えてくれる。


角の生えた兎……想像がつかない……。


ルミの実のジュースは、さらっと爽やかな甘さ。

ねっとりした黄色なのに意外とあっさり。


夕方。

そろそろ本格的に足が疲れてきた。

目もしぱしぱする。


運良く空いていた噴水の縁に並んで座ると、頭の上から低い声が降ってくる。


「……もう少し起きてろ」


いつも「早く寝ろ」しか言わないグレンが、珍しいことを言う。


そのとき。


ぼんやり薄暗くなってきた街のいたるところから「わぁっ!」と声が上がり始めた。


ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

毎日寒いですね、星祭りの始まったエイルメーアに行きたいなぁなんて考えてしまいます。

冬になると夏が恋しくなるの、あるあるですよね。

ではまた次回、エイルメーアでお会いできますように。

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