17. 星祭り
カラッと暑い日が続く。
王都の街は今、光珠を模した星の吊るし飾り、白や金色のリボンが煌めいて神秘的な雰囲気。
エイルメーアでは夏に「星祭り」があるらしい。
道を照らす星々に感謝する祭り。
旅人が迷わないようにという願いを込めて──。
お祭りのときは騎士団が中心になって街の警備に当たる。
勿論グレンも。
三日間続く星祭り、グレンの担当は初日と最終日。
中日は非番らしい。
わたしも行ってみたいなぁ……。
ぼんやりと窓の外を眺める。
月影国にも「星祭り」があった。
いつも過ごす小夜竹から少し離れた 夜鷹渓谷に祭壇があって……そこで、みんなで歌を……。
どんな歌だったっけ?
祭り、だけど……何をしてたんだっけ?
大切なところが抜け落ちたようで思い出せない。
ツキンと頭が痛む。
そういえば、渓谷には一羽だけ白い夜鷹がいた。
真っ白な羽に、金色の眼……。
何か思い出せそうな気がして光珠に目を向ける。
思い出すな、とでも言うように頭痛が強くなってきた。
心にモヤモヤしたものを抱えて、考えるのをやめる。
夕方の鐘が鳴って少しするとグレンが帰ってきた。
「……どうした」
「え?」
「何か考え事してただろ」
グレンは最近、わたしが何か考え事をしてるのをすぐに見抜いてしまう。
困ることは何もないからいいんだけどね。
夕食後、食堂でお茶を飲みながら星祭りに行ってみたいことを伝える。
「祭り? 珍しいモンはねぇぞ」
グレンにとっては毎年のこと。
でもわたしにとってはエイルメーアで初めてのお祭り。
「いいじゃねぇか、連れてってやりゃ。子どもにはいい思い出になる」
そう言ってわたしの頭に手を置くセオドアさん。
ぐ、とグレンが黙る。
セオドアさん頑張ってください!
あとひと押し!
「俺も子どもが小さいときは時間を作って連れてってやったぞ」
「…………ッス」
やった!
セオドアさんに感謝だ。
星祭りまであと五日。
早くお祭りの日にならないかな。
お祭りまでの間も、わたしは時間があれば魔術師塔へ行く。
アレンさんやガブリエルさんに、元の世界のことや戻り方を調べて貰うため。
わたしが覚えていることと、魔石に触ったりして二人が導いた答えを照らし合わせていく。
月影国の小夜竹から来て、夜鷹渓谷で儀式か何かをしていた。
その途中で生じた魔力の流れに飲まれて、飛ばされて、偶然エイルメーアに辿り着いた。
月影国への戻り方は、まだわからなかった。
ちょっとそんな気はしていたけど……。
ちなみに二人が読んだ文献に載っていた人も、わたしと同じ黒髪だったそう。
何か関係があるのかな?
夜、グレンにこのことを話すと「そうか」と小さく返ってきた。
「……帰りたいか?」
「……え、っと……」
すぐに答えられなかった。
わたしの心に引っ掛かっていた違和感。
やっとわかった。
わたし、帰りたいと思ってない。
その言葉が胸の奥で静かに、波紋のように広がる。
元いた世界のはずなのに「帰りたい」とか「帰らなきゃ」っていう気持ちにならない。
どうしてだろう?
グレンが怪訝な顔でわたしを見る。
それでもわたしは、答えを出せなかった。
星祭りの前夜。
グレンに声を掛けられて中庭へ出る。
日がようやく沈み、外は真っ暗。
何だろう?
グレンを見上げようとすると、足元がぼんやりと光り始めた。
わたしだけじゃない、グレンも、周りのみんなの足元も光っている。
よく見ると中庭に敷かれた石畳全体が光って、わたしたちを下から照らしていた。
空気がわずかに金色を帯びて、肌に触れるたびに温かかく感じる。
花壇の花も、可憐な花弁の中にちょんと蝋燭の火を灯したように光っている。
中庭全体が優しく光って、とっても幻想的。
「……祭りのときは城の中庭も一般公開される。足元が見えないと危ないからな」
「防犯の意味も兼ねているんですよ。それにこの国の魔法の力や権威を内外に示すいい機会でもあります」
付け加えるように話すのはアレンさん。
石畳に使われる石には魔石が含まれていて、そこに一定の魔力を流すと光るんだそう。
光る花は魔術師塔で研究して作ったんだって。
さすがメルセーリオさん、とアレンさんと同じローブを着た人たちが口にする。
これ、主にアレンさんが研究してたんだ。
困ったように微笑みながら謙遜するアレンさんの隣で何かが揺れる。
わたしが着ているワンピースをもっと分厚く、バサッと豪華にしたような服。
それを着た女の人が、うっとりとアレンさんを見上げていた。
わたしより背が高くて、可愛らしい人。
アレンさんも愛しそうに微笑んで、その人の細い肩を優しく抱く。
わたしが見ていることに気付いた女の人は、胸に手を当てて少しだけ膝を曲げニコリと笑いかけてくれた。
「あれはユーリ、アレンの妹だ」
部屋に戻る途中でグレンが教えてくれる。
さっきの石畳や花が光り始めたのは、星祭りの点灯式。
関係者のみ参加可能で、アレンさんは毎年ユーリさんを招待しているんだそう。
「グレンには兄弟とかいないの?」
「……さあな。ほら、さっさと寝ろ」
それ以上わたしが何か聞く前に、グレンは部屋へ入ってしまった。
聞かれたくなかったのかな。
星祭り当日。
王様の挨拶が終わると、いよいよお祭りの始まり。
初めて見るエイルメーアの王様は、おじいさんと呼ぶにはまだ早い人だった。
おそらく五十代……バルタザールさんより少し年上、かな。
グレンは南側の警備担当のようで、リカルドさんと一緒に詰め所を出て行く。
今日はいつもと違って訓練場から剣の音や掛け声がしない。
何だか変な感じ。
食堂の混み方もいつもと違う。
まばらに人が来てはサッと食べて、すぐに出ていく。
ガルドさんのお皿洗いを手伝っていると明るい声がわたしを呼んだ。
「サークラ! 星祭り、行くか?」
「レオンさん」
わたしの返事を聞く前にレオンさんはガルドさんに「サクラ貰ってくな」と声を掛けている。
「ええと……でもまだお皿が残ってるし……」
「今日は大した数じゃねぇから大丈夫だ、祭り行ってこい」
ガルドさんが肘の辺りまで泡まみれになりながら背中を押してくれる。
「ほらな、ガルドからのお許しも出たぞ!」
それに……とレオンさんがイタズラっぽく笑いながら、内緒話でもするように小さく続ける。
「グレンが仕事してるところ、見てみたくないか?」
「それは……見てみたい、ですけど……」
「決まりだな! おし、さっさと行くぞ!」
こうしてわたしはレオンさんに連れられて、星祭りへと向かった。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
サクラがエイルメーアに来て初めての大きなお祭りです。
お祭り、いいですよね。
個人的にはフェス系よりも昔ながら(?)のお祭りの方が好きだったりします。
いいですよね、お祭り。
ではまた次回、エイルメーアでお会いできますように。




